NINJAの末裔がまかり通るようです。   作:Soul Pride

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突撃ロック

「君が、ノーヴェの言ってたやんちゃっ子だね」

 

 無人世界カルナージでのオフトレ兼合宿の出発前。高町家で参加者が集合する中に、彼もまたノーヴェに連れられてやって来た。

 袖なしパーカーにダメージ加工のデニムの半ズボン、両手両足には包帯を巻いている。目深に被ったフードの下には、変わらずサングラスをしているのだろう。

 荷物らしい荷物は、パーカーの裾下に隠れている飾り気のないウエストポーチだけ。

 そんなナッツ・ドライバーに興味を示したのは、ヴィヴィオの母──高町なのは。

 超一流、が冠詞に付く魔導師である彼女はすぐに察した。

 ……この少年は確かに、手を焼く子である。ノーヴェが手に負えずに己に頼るのも、納得がいった話だった。

 同時に、相当な金の卵だ。その才気は、教導官である彼女を疼かせる位には、育てたいと思わせた。

 

「高町なのはです。名前、教えてくれるかな?」

「……ナッツ・ドライバー」

「うん、よろしくね。ナッツ君」

 

 握手のために手を伸ばしたなのはを見て、ナッツはわざとらしく溜息を吐いた。

 

「おい、ナカジマ」

「何だ」

「この女が喧嘩相手の一人とか言わねえだろうな?」

「良く分かったな、そうだぞ」

「……そうかよ」

 

 ──期待外れだ。

 ナッツは、元より機嫌が最悪であった。

 強いヤツと戦える代わりに喧嘩から足を洗う。その条件でこの話に乗った。

 満足のいく喧嘩相手は確かに稀少で、本気で拳を振るってからかなり久しい。全力で戦えるだろう高ランク魔導師と喧嘩が出来ると聞いたからこそ、今日まで喧嘩はしてこなかった。

 ……だが、我慢の限界だ。

 

「──ここで全員ぶち殺す」

 

 ──完全にキレた。

 コンクリの地面が踏み砕けると同時に、ナッツの姿は掻き消えた。

 

「──“千鳥”!」

 

 なのはの背後──右手に一点に集中し、電気へと変換された魔力を纏った貫手を、心臓へ目がけて打ち込む──。

 

「……なるほど、中々速いね」

 

 しかし、なのはの心臓は穿たれず。紫電が走る貫手は背中に触れることなく止まっており……。

 ナッツの腕は、もう一人のヴィヴィオの母──フェイト・T・ハラオウンに止められていた。

 

「“千鳥流し”!」

 

 手に走っていた電気を、今度は全身に走らせる。

 全員ぶち殺す。であるならば、この女も例外ではない。

 この電流は致死域……ナッツに触れた人間はたちまち感電死は免れない。

 

「魔法の発動速度、魔力の変換効率も、十分に出来てる。……うん、凄く優秀だ」

 

 ……だが、相手が悪い。フェイトは魔力変換資質の持ち主であり、その属性は電気。

 電気の魔法を扱う以上、対電気の扱いはお手の物。流し込まれた電撃など、適度に魔力を散らせば流れて消える程度のものでしかない。

 

「クソがっ!」

 

 フェイトの掴んだ手を振り払い、一旦跳び去って距離を取った。

 ……その着地した地面には魔法陣が敷かれており、桃色の捕縛魔法(バインド)が幾重にもナッツを瞬時に縛り上げた。

 

「はい、オイタはそこまで」

「喧嘩、したいんでしょ?だったら、もう少し待とうか」

 

 ありありと、殺意に満ちた魔法を向けられたにも関わらず、彼女たちは揺らがない。

 この程度のことくらいは日常茶飯事である、と。ナッツをやんちゃした子供のように宥める態度をしてくる。

 

「……まるっきり雑魚ってワケではないらしいな」

 

 大きく深呼吸して、頭を冷やす。

 ナッツは評価を改める。甘い雰囲気に騙されたが、彼女らはいくつもの修羅場を潜った猛者だ。

 力では抜け出せない。身体操作による縄抜けも不可能。解析による解除も相当に時間がかかる。

 バインド一つで、実力の高さを証明していた。これだけの技量、確かに路上ではお目にかかれない。

 

「まあ、こんなの意味無いんだが」

「っ!」

 

 強固なバインドを、飴細工のように引きちぎる。

 時空管理局航空武装隊の、戦技教導官……つまり航空戦のスペシャリストの魔導師が集う部隊の一人であるなのはのバインドは、生半可な代物ではない。

 それを、軽く身じろぎしただけで千切った。

 それが如何に異質で異常であるのか……理解出来る者であるならば、戦慄するだろう。

 

「いいぜ。あと少しだけ、大人しくしてやる」

 

 中指を立てて、宣戦布告。

 人、場所、時間が揃った瞬間、彼女らを血祭りに上げる。

 滲み出る殺意を抑えつけ、頭の中では彼女たちをどう料理するかをシミュレートしている。

 

(…………これは、ちょっとまずいかな)

 

 フェイトはナッツ・ドライバーという少年を間近に見て、かつて似たようなやんちゃな子供と接した経験があった故に、危惧を感じ取った。

 そして服装、所作、身のこなし……それは執務官という職務の経験と勘から言っても、彼は相当に危ないという判断だ。

 

「ねえ、ナッツ君」

「誰が名前で呼べっつったよクソアマ」

「君は、魔法と武術をどこで習ったの?」

「言うバカがいるかよバーカ」

 

 返答を拒否。嘘を言わず、真実も言わず。

 徹底して間に壁を作り上げ、拒絶し、“お前らは敵だ”と白と黒をハッキリ分けている。

 何より情報を明かそうとしないのがまずい。

 言動だけでなく、その服装……徹底するように顔を隠し、目を隠すのはその魔眼という戦力をひた隠しているから。四肢を覆う包帯は、その下に魔法的処置をした何かを隠しているのかもしれないから。

 先程仕掛けたのもまた、一撃離脱の高速戦闘。一撃一殺、最小限の手札しか見せようとしない。

 こと、戦闘において情報というイニシアチブを取られまいとする。それを十一の少年が徹底して行っている。

 ──フェイトの経験においてそれは……少年兵、あるいは暗殺者の育成と大いに重なる所があったのだった。

 

「……じゃあ、何のために強くなるの?」

「黙れ」

 

 フェイトの金髪が、突風に煽られたかのように大きく靡く。

 彼女の鼻先には、ナッツの拳。拳の空圧で、風が巻き起こった。

 ()()()()()()()()()()()。隠す眼が、向けた拳が、そう訴えている。

 

「……フェイトちゃん」

「……うん、わかったよなのは」

 

 ナッツは既に、魔法でなければわかり合えない。

 力でなければ、伝わらないことがある。経験があるからこそ、強くは言えないのだ。

 

 

 

 

 

 無人世界カルナージ。一年を通して温暖な気候と豊かな自然が特色のこの世界。

 そこに住むアルピーノ家の経営する、ホテル・アルピーノの宿泊ロッジに、オフトレ兼合宿の参加メンバーは集まっていた。

 ホテル・アルピーノのオーナー、ルーテシア・アルピーノはミッドからやってきた客人を持て成そうとする。その社交性から新しく見えたリオとアインハルト、そして悪たれ小僧と銘打たれてるナッツに声を掛けた。

 

「ルーテシア・アルピーノです。よろしくね、ドライバー君」

「……」

「おーい、聞いてるー?」

「あー、悪いお嬢。今のソイツ、何も聞こえてねえよ」

 

 ビリビリと、ナッツの周囲だけが空気が緊張している。極度の集中状態に身を置いて、ルーテシアの声など耳に入っていない。

 その原因は、ナッツの両手……指先一つ一つに、小さい魔力の球を作ったり消したりを繰り返す動作にあった。

 ミッドからの次元航行船の中からずっと四時間以上……そればっかりを繰り返し続けている。

 途中で合流したスバル・ナカジマとティアナ・ランスターの二人の自己紹介も馬耳東風。彼女たちも喧嘩相手だと言っても、何の反応も示さなかった。

 

「……やっばいね、アレ」

「あ、ルールーもわかっちゃう?」

 

 傍から見れば、ただ魔力弾を作っては消す意味のない動きに見える。魔力の無駄遣いでしかなく、ペン回し等と同じような意味のない手慰みに近いだろう。

 しかし、それを良く見た時に一定以上の魔導師であればナッツのやっていることの異常さが理解できてしまう。

 

「アレって単純な魔力放出だけど、()()()()で魔力弾を作ってる。術式とか何にも介してないでアレって相当ヤバイことしてるよね」

「単純に、魔力制御能力がずば抜けてる。真似をしようとしても一朝一夕じゃ絶対に出来ない」

 

 単純な魔力放出によって球を作るなど、ナッツ以外に誰も出来はしない。そもそもそんなことをやろうとする発想に誰も辿りつけない。魔力弾を作りたければ術式を介して魔法を使えばいいのだから。

 だが、やろうとすれば想像を絶するほどに難しいことであった。真似をしようとしたヴィヴィオとスバルが、ただ魔力を垂れ流しただけの結果になったのが現実だった。

 それを同時に両手の指の数。魔力制御という一点において、頭一つどころではないレベルでナッツは優れている。

 

「────こんなものか」

 

 ふっと、ひりついた集中が切れる。

 目深に被ったフードとサングラスを外すと、目蓋を閉じる程に珠の汗を多く流す素顔を皆に見せる。

 緻密な技術を要するアレが、ナッツにしてみればウォーミングアップでしかないと……その事実を彼らは知ることとなる。

 

「……で、喧嘩の相手は誰だ?」

 

 肌をつんざくような、殺気。

 汗顔を拭い、手に持ったサングラスは握りつぶされ、魔眼“白眼”は見開かれる。

 雪のように白い眼に宿る殺意は、視界に入る者の全員が、背筋を震わせた。

 ……たかが、十一の小僧。たかが、喧嘩自慢の不良。ストライカーと呼ばれるまでに至った元機動六課の面々にしてみれば、額面通りであれば大したことのないはずの少年。

 ……どういう生き方をすれば、()()()()()()()()

 

「喧嘩も予定に入ってるけどその前に……荷物あるでしょ?ロッジに置いてきてからでも遅くはないよ」

「俺が、あそこに泊まる?」

「うん、そういう予定なんだけど──」

「愚昧極まってるなテメェ。(ブービートラップ)が待ってる所に何故行かなきゃならねえ?」

「…………っ!?」

 

 ルーテシアの、“コイツ何言ってるんだ”という絶句の表情に、彼女らは黙って首を横に振った。既に手遅れで、手の施しようなどないと諦めきっている。

 泊まる部屋には罠が仕掛けられ、用意された食事には毒が盛られているのが当たり前だと、当然のように言い切った。

 

「……じゃあ、どこに泊まるの?」

「ハッ」

 

 その疑問に鼻で笑い飛ばすと、ウエストポーチへと手を伸ばした。

 そこから取り出したのは、三本のクナイと巻物──刃物が見えた瞬間に大人たちが子供らを守ろうと前に出た。

 ナッツはロッジから二十メートルは離れた場所へとクナイを放ち、地面に突き刺さった三ヶ所の中心点となった所へ跳んで移動する。

 

「結界術・三錐結界」

 

 クナイが頂点となり、簡易的な三角錐の結界が出来上がる。丁度、キャンプに使われるテント程度の大きさだ。

 次に親指を噛んで、血の出た手で印を組む。その印の速さは目では追えず、手が消えたようにすら見えた。

 

「──口寄せの術」

 

 どろん、という音と煙と共に現れたのは……結界内で狭そうにナッツを完全に覆い隠してとぐろを巻く、大蛇。

 その大蛇はナッツを容易に一呑みにし……現れたのと同じように煙を立てて、消え去った。

 後に残ったのは結界と、その中にいる小さい蛇が一匹。

 その子蛇が連絡役と門番を兼ねているのだろう。召喚魔法の扱いの上手さに、誰もが驚いた。

 

「……召喚魔法に結界魔法まで……」

「この世界にあるものは水一滴まで信用ならないってワケね。そこまで筋金入りだと逆に感心するわ」

 

 引きつった笑顔を浮かべながらも、ルーテシアはナッツを評価せざるを得なかった。それは敵地に単身入った孤軍状態の兵、という前提においてであるし、彼の態度は決して褒められたものではないが。

 生存(サバイバル)、という一点において。恐らくはこの中で誰よりもナッツは秀でている。ナイフ一本で猛獣の棲む山脈で生き残れという条件でも、悠々と臆することはないだろう。

 このカルナージは、ナッツにとっては見知らぬ世界。喧嘩をしに来たと標榜してやってきたのだから、一切の油断を捨て去っている。

 事実、移動中でさえも彼女たちは()()()()()()感覚があった。不意を打とうとすれば、絶対に反応して返り討ちにする準備があった。

 常在戦場の心構え。言葉にすれば簡単なれど、実行し実現させることがどれだけ難しいか。

 

「……けど、悲しいよ」

 

 ヴィヴィオのポツリとこぼれた一言は、皆の総意であった。

 ナッツ・ドライバーの実力、才能は会ったばかりのルーテシアでさえも凄いと認めざるを得ない。そこに至るまでの血と汗と努力の量は、想像すらもつかない。

 その力の矛先は、喧嘩をするためだけに向けられている。他人を傷つけるためだけに使われている。

 己以外は全て敵。自分の力だけを信用し、周りにある全てを疑ってかかっている。戦争で、敵地に単身潜入しても絶対に生き残る……そういう意志が滲み出ており、使っている魔法の多様性と練度の高さがそれを証明してしまっている。

 それがただただ、悲しい。

 

「戦って、勝つだけじゃダメかもしれない」

 

 真にナッツの心を開くには、喧嘩で勝つという手段ではダメかもしれない。

 しかし、不用意に心の内に近づこうとしたら明確な殺意を以て殺しに来る。それを力で抑えつけようとしても、ナッツの心は折れることはないだろう。

 ……やはり、戦うしかないというのが一番度し難く、そして悲しいのだ。

 

「それでも、放っておけない」

 

 見なかったことにすることは簡単であっても、それは端から選択肢には上がらない。

 望む喧嘩を、存分にやってやろう。

 気が済むまでいくらでもやって、使える魔法を出し切って……。

 ──落ち着いたら、話をしよう。

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