NINJAの末裔がまかり通るようです。   作:Soul Pride

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 合宿三日目、最終日──ナッツとアインハルトは、ルーテシアの仲介でデバイス作成を頼む一家……八神家への顔合わせをした。

 アインハルトの希望──ヴィヴィオのセイクリッドハートと同じような補助・制御型のデバイスはスムーズに受け入れられた。

 そして次、ナッツの希望である額当ての補助型……デバイス作成そのものに否は無いという。

 ただ、それとは別に画面越しの通話相手──八神はやては、用があるという。

 

「──で、ナッツ君。デバイス作るのええんやけど、一つ聞かせて」

「はい」

「ご家族や学校のこと……ちゃんと自分でどうにか出来る?」

「家に関しては殆ど放任で心配する人なんていませんでしたし。学校自体は、学籍は残ってるんで明日からでも通えます」

 

 既に“喧嘩屋”ナッツは看板を下ろした。

 喧嘩から足を洗い、ただの初等科五年生としての学生生活を休みが明けたら過ごすことになる。

 

「……そっか。じゃあ、補助特化のデバイスって言ってたな。AIは……」

「すいません、いりません」

「え、インテリジェントデバイスやないん?」

「ストレージにしてください。俺の魔法──“忍術”が非殺傷設定になって大会規定を満たすんであれば、本当に必要最低限でいいんです。喋んなくていいです、はい」

「なんとまあ、作り甲斐のないデバイスやな……。まあ、それが男の子らしいんやろうけど」

 

 究極のシンプルイズベスト。無駄を、そして普通なら必要と思う機能すら贅肉として断じて、希望する要素だけが残る、徹底して削ぎ落としたものをナッツは所望している。

 持ち主の力に完全に依存した、補助以上の領分を侵さないデバイス。無骨で、男らしい……されど扱いが非常に難しいであろう、超上級者用のプロ仕様だ。

 そもそも、ナッツのデバイスに対する思い入れとは、道具以上のモノがない。替えの利かない相棒、という思い入れは一切ないのだ。

 

「ええよ。忍者の忍具。取り掛かったるわ」

「ありがとうございます」

 

 一礼。感謝を彼女へと述べる。

 

「あとな、シグナムが話があるん言うやけど……知り合いなん?」

「一年くらい前に喧嘩吹っ掛けて振られました」

「なるほどな。シグナム口説き落とすんは、もっとええ男にならんとあかんで」

 

 茶化しながらはやての隣に切れ長の美人──シグナムが席に座った。

 喧嘩に誘ったものと、断ったもの。所詮はその程度の仲でしかないが……ナッツもシグナムも、対峙した瞬間にお互いが強いと感じ取っていた。

 戦っていたらどうなっていたかわからない。二人の性格上、下手をすれば喧嘩の域を超えて殺し合いになっていたかもしれない。それがわかっていたからこそ、シグナムはナッツの誘いを袖にしたのだろう。

 

「……見違えたな。前に見た時は狂犬にしか見えなかったが。憑いていたものが落ちたな」

「お陰様で」

「高町たちと喧嘩をしたと聞いたが、とうとう負けたか」

「“喧嘩屋”を引退するには、悪くないと思ってね」

「贅沢者め。オーバーSランク二人に、ストライカー四人を相手にしてやっと満足したか」

「まあ、な。それでようやく止まりました」

「それでヴィヴィオの泣き落としで死ぬのもやめたと」

「……聞いたのか」

「聞かれないと思ったのか。知っているか?女の口は軽いんだ」

「恥ずかしいな、ったく……」

 

 その軽い口の張本人だろうルーテシアを一睨みすると、当の彼女はしれっと目を逸らす。

 

「……最悪、死ななければならない可能性もあるのか?」

「俺がこの眼を持っちまった今、身近な人間が死んだりすれば……“喧嘩屋”をやってた時以上に凶暴になるだろう。正気を保っていられる自信がない」

「……そうか」

「その上、可能性は低いが次元世界が一つ二つ滅ぶ程度じゃきかない災害に成り果てる場合もある。前例が存在する以上、可能性を完全にゼロにする気でいた」

 

 眼が変化し、紅と三つの勾玉──“写輪眼”を、シグナムへと見せた。

 映像越しとはいえ、ナッツの纏う雰囲気が一変するのをシグナムは感じ取った。

 ……この眼と一対一でやったら無事では済まない。眼の力を詳しく知らなくても、シグナムの歴戦の勘が警鐘を鳴らしている。

 その上で、更なる凶暴化の危険性がある。ナッツが死を望もうとするのも無理はないと、シグナムは思う。

 

「……わかった。学校を卒業したら局に来い。部下にしてやる」

「いや、話の脈絡がないんだが」

「局員になれば監視の目が届きやすい。それが理由だ。止める人材もいることだしな」

 

 現実的な対処法ではあるがバッサリと遠慮なく言ったシグナムに、他にもっと別の言い方があるだろうとルーテシアが少し怒るが、その前にナッツが制した。

 ここにいる彼らが優し過ぎるのだ。こういった、現実を見据えた対応の方がナッツは居心地がいい。

 

「その上、お前の実力は折り紙付きだ。一対一なら、高町にもテスタロッサにも負ける気はしないだろう?」

「月一の制限付きだがな」

 

 高町なのはとフェイト・T・ハラオウンを相手に、一対一で勝てる。ナッツにはその自信がある。

 ……ただし、“仙人化”と“門”を“四門”まで開かなければならないという前提の上であるが。

 そうでなければなのはの弾幕と砲撃に圧し潰され、フェイトの速さに追いつくことも出来ない。安定して出すことの出来ない、リミッター解除そのものだ。

 それを横で聞いたはやては、ぎょっとした。タイマンで、彼女たちに勝てる十一のガキ。そんな規格外が存在することに、驚いている。

 

「え、それマジな話?」

「大マジです、八神司令。一昨日の喧嘩で、副隊長を除いた元六課前線メンバーとナッツが戦ったんですが。結果はなのはさん以外が撃墜か戦線離脱、残ったなのはさんも結構ギリギリでした」

「うそん……映像データある?」

「“レイジングハート”が録ってくれてたんで、後で送りますよ」

 

 ルーテシアから裏を取れた以上、事実には違いない。この少年が、あのストライカーたちと渡り合った事実を認めなければならない。

 魔導の才に優れた人材は、はやては多く知っている。手前味噌であるが自分がそうであるし、自分の家族もそうだ。立場上、そういう部下にも恵まれている。

 ……だが、ナッツ・ドライバーは魔導の天才という範疇に収まるものではない。ただの天才であれば、ただ特異な力を持っているだけであれば、あの一騎当千の元六課メンバーを相手にどうすることも出来るはずもない。率いた自分が一番知っている。

 ──戦闘の天才。しかも、突き抜けた才能の持ち主。勝つ為に何をすればいいのか、どう動けばいいのか、意識無意識問わず勘づく、勝ちを嗅ぎ分ける嗅覚を、ナッツは持っている。

 

「ナッツ君!管理局は優秀な人材はいつでもウェルカムや!特に海!」

「は、はは……進路の一つとして考えておきますよ」

「そういえばなのはさんも、将来的に教導隊に欲しいって言ってましたよ。予測出来ない仮想敵(アグレッサー)だってすっごい褒めてました」

「は?聞いてねえぞソレ」

「言ってないもん」

「ナッツ君!士官学校のパンフ、興味あったら送るからな!」

「司令ー。青田買いも程々にして下さいよー」

 

 自分の将来が着々と決められていっている感覚を、ナッツは覚えている。早め早めに自分の意思を固めないと、どんどんと流されていく感じがした。

 通信を終えて、ナッツは考える。自分の将来、自分の未来、自分の……歩みたい道。

 

「……将来……ねえ」

「なに、不安?」

「一昨日まで、明日なんて要らないと思ってたしな。漠然とし過ぎてる」

「……そっか」

「……でも。明日が楽しみっていうのは、いい心地だ」

 

 

 

 

 

 ──場所は移り変わり……ミッドチルダ。

 八神家近くの砂浜で、ひたすら100メートルダッシュを繰り返す少年がいた。

 踏ん張りのききにくい砂浜で裸足、一本一本が全力ダッシュ。それを五本も続ければ誰であろうと息が上がる。

 だが少年は、100本以上続けているが疲れた様子はない。走る速度のペースが落ちているわけでもなく、全速力のままだ。

 ……目標値である150本目を終えた。距離にして15キロを全力で走りきったことになる。

 

「……次、プッシュアップ1500回。出来なかったら遠洋50キロ」

 

 休憩もなしに、腕立て伏せ──否、指を地面に立てている指立て伏せを始める。立てている指は片手の親指のみ。ペースは一秒に一回、機械染みた正確さで回数を刻んでいき……きっかり二十五分で、1500回の指立て伏せを終わらせた。

 それが終わると、背に置いた反対の手と組み替えて指立て伏せ。──“プッシュアップ1500回”とは、片手指立て伏せの一方の回数であり、実質3000回やるという意味であった。

 再び二十五分──ペースを崩さずやり遂げた少年は立ち上がり、次のメニューをこなそうと──。

 

「──休憩だ、アモン。明らかにオーバーワークだ」

「……何言ってるんですかザフィーラ師匠。僕、全然やれますよ」

 

 狼の守護獣ザフィーラにアモンと呼ばれたくすんだ金髪と碧眼の少年は、まだまだ足りないとさらなるトレーニングへと望もうとする。

 

「最初のストレッチの後に、縄跳び2000回、丸太蹴り3000回、正拳突き4000回、100メートルダッシュ150本、片手指立て伏せ3000回……その体で持つ訳がないだろう」

 

 ザフィーラが読み上げた、アモンが今日こなしたトレーニング量は、尋常ではない。

 それは最早トレーニングというより、拷問に近い荒行だ。

 ──アモン・マキナスは初等科五年生の11歳。未だ体は成長期だ。そんな体でそれだけのトレーニングは、こなそうとしてこなせるものではない。必ずどこかで無理が出ているはず。

 だというのに、彼は汗こそ大量に出ているもののそれ程疲れた様子を見せていない。

 

「ぶっ倒れるまでやるのが普通でしょ?モタついてたら一日なんざすぐ過ぎますって」

「それは普通とは言わん」

「人の普通は言い訳に過ぎません。僕、()()()()の知ってるでしょ。人の何百倍、何千倍やって初めて人並になれるんですから。止めないで下さい」

「誰もそうは……」

「どうしても止めたいなら……わかってますよね?」

 

 止めたいのなら、力づくで。アモンは構え、ザフィーラも構える。

 ストライクアーツ八神道場と、アモン・マキナスとの間に結んだ約束事──意見が割れたら組手で決める。

 歴戦のベルカの守護獣と、ストライクアーツが使える程度の喧嘩小僧。組手をすればどうなるか結果はわかりきっており……それでも負けられるかと最後まで抵抗し続けて、結局は()()()()()()()アモンが気絶するまで組手は続いた。

 またか、と。ザフィーラは気絶したアモンを抱えて、八神邸へと運ぶ。

 

「おう、ザフィーラ……って、またアモンやっちまったのかよ」

「アモン君、またですか!?」

 

 家へと戻ったザフィーラを迎えたヴィータと、休憩中の門下生であるミウラ・リナルディは、抱えられたアモンを見てそう言った。

 明らかなオーバーワークをし続け、それを止めようとする八神家とぶつかっては組手をし、気絶するまで止めない。それを毎日毎日、練習の日は欠かさずそうなっている。

 

「どうにかしたいとは思っているが……どうにもならん」

「アタシも何回ぶっ叩いた覚えてねえし……このままだとその内あっさり死ぬぞ、多分」

「怖いこと言わないで下さいよヴィータ師匠!?」

 

 気絶したアモンをリビングのソファに寝かせる。少なくとも、寝ている間は大人しいものだ。

 ヴィータの言ったことは、恐らく正しい。このままではアモンは死ぬだろう。

 ──人間にあるべきネジが何本も吹っ飛んだ少年、ブレーキの存在しない暴走列車、それがアモン・マキナスだ。

 オーバーワークを当然のようにこなし、文字通り倒れるまでやる。努力を通り越して苦行ばかりをする。……その行動の根底にある理由を、知っているからこそやりきれないのだ。

 

「……なんや、またアモン気絶するまでやったん?シャマルー!」

「はいはいはーい、まったくもう!」

 

 はやてとシャマル、シグナム、リインフォースⅡとアギトがリビングに入って、ソファに眠るアモンを見た。

 シャマルが医療魔法で手当てをするまでがいつもの八神家。……これがいつものことだと受け入れられるようになった今の事態が、異常であるとわかっていても。アモンを止める術を、誰も持っていないのが、問題であった。

 

「……問題児というヤツは、どこにでもいるものだな」

「そういえば、ナッツ君と同い年やったな。……あかん、会わせたら何起こるか想像できひん」

「だけど遅かれ早かれ会うんじゃないか?アモンもナッツもインターミドル出るし」

「顔合わせた瞬間に喧嘩か、それとも意気投合するか……全然予想できないです」

 

 ……むくり、と。ソファで寝ていたアモンが起き上がった。

 気絶してから三十分も経っていない。疲労の蓄積から半日は倒れていなければならないはずなのに、平気な顔で動いている。

 

「……休憩終わり。勝てなかったからランニング50キロ」

 

 そしてそのまま、しれっと外へと出ていこうとする。

 起きては止め、気絶。そして起きては止める……そんなことを繰り返し続けている。

 “ランニング50キロ”は、アモンにとっては休んだ体のアップ程度という認識だが……走るペースはほぼ全力疾走、体にかかる負担は尋常ではない。 

 さっさと出ていくアモンをはやてが止める。こんなこと続けてたら、冗談ではなく死んでしまう。

 

「待て待て待て。もうちょい休もうかアモン」

「何故ですか?時間は平等に流れてます。僕はまだ弱い」

「程度を考えようって気にならんの?」

「考えてます。倒れたら終わりにしてますから」

 

 ──それは考えているとは言わない。という総ツッコミにも、聞く耳持たず。

 仕方ない、と。はやては最終手段を取る。

 

「……ほーら、アモン。大好きなおっぱいやで~」

「はあっ!?いきなり何言っ…………!??!」

 

 アモンの頭を抱き抱え……そして自分の胸を押し付けた。

 小柄な体系であるはやてだが、スタイルそのものは非常に良好であり、出るところは出ている。

 小僧っ子の顔を挟んで埋めるくらいは、余裕で出来る。

 アモンの抵抗は弱弱しく……十秒経過した後に、再び意識は落ちた。

 

「ふう、このむっつりさんめ。あんまこういうことしたくはしたくはないんやけど」

 

 耳まで顔を真っ赤になったアモンを、再びソファに寝かす。

 こうして気絶させた方が長く寝ていることが多い。少なくとも三時間は寝たままだ。

 ──アモン・マキナスは超が付く上がり性……女性に対するそれが顕著だ。

 長く親しんだ八神家の面々であってもザフィーラ以外には頑なに目を合わせようとせず、スキンシップを取ろうとすれば逃げ出そうとする。先のように抱き着きなどすれば、あっさり気絶する。

 女性恐怖症、という程でもなく。会話も出来るし、怖がっているわけでもない。

 愛すべき個性で、弱点……という範疇に収まっている。

 

「……けど、どうにかしなけりゃいけねえのもマジなんだよな」

 

 アギトの言う、どうにかしなければならないこと……アモンのオーバーワークを止めないといけない。

 尋常ではないトレーニングを行うことの出来る体力と筋力。普通であれば、最初からあるものではない。最初からこんな無茶をしていたのかといえば、()()()()()()()()()()()()

 八神道場の最古参。入った時から誰よりも汗を流し、誰よりも無茶を重ねた。

 練習中に肉離れ、疲労骨折……靭帯をやった時もあった。……だが、それらの負傷はものの数秒で治ってしまう。

 ──アモンを突き動かす原因に、その体質……内包している無尽蔵と評す他ない魔力量がある。

 どれ程のモノであるといえば……数値的に、()()()()()()2()0()0()()である。

 しかもその魔力は、負傷やダメージをほぼオートで治す。まるで()()()()()()()()()()()()()()()

 普通であれば、魔導師の誰でも羨む才能だ。しかし、アモンは自分を()()()()と断じた。

 アモンは、()()()()()()()()()()()()()()()()()

 ……つまり、放出の一切が不可能であり。可能な魔法は身体強化魔法のみである。

 その上、()()()()というべきか……その魔力が現行の主流であるミッドチルダ式や近代ベルカ式術式に致命的な程に噛み合わず、バリアジャケットの展開すら不可能になっている。

 このままでは、大会参加すらも危うい現状。どうにかしたい、と焦りは増す一方である。

 

「…………会わせてみよっか。問題児と問題児」

 

 ぽつり、とこぼしたはやての提案。

 問題児と問題児……それがアモンとナッツのことを指すのは、皆がわかっている。

 

「あ、主はやて……こういうのも何ですが、恐らく顔を合わせたら喧嘩になるかと。ナッツは、超が付く天才肌です。アモンとは致命的に噛み合わないかと……」

 

 同じ、同い年の男の子。それでどちらも負けず劣らずの不良小僧だ。だが、一方は紛れもない天才で、もう一方は身を滅ぼす程の努力をする者。

 出会ったら何が起きるか。何を起こすか。混ぜるな危険の薬品同士を混ぜ合わせるように、反応が予測できない。

 

「うん。別に喧嘩になってもええと思っとるよ。あの年くらいの男の子はそれなりに喧嘩するべきやと思うし、私もフォローする。私が思い出したのは、ナッツ君って見えない魔力の通り道を見えるらしいやん」

「……“白眼”、そうか!」

「うん、それや。フェイトちゃんたちが魔力出力がワンランク上がったって言う程のものやし……私らに見えんモノが、彼には見えるかもしれへん」

 

 ナッツのデバイスは、作りは簡単故に数日で完成する。次の週の休みに、彼は八神家へとやってくる。

 その時に、ナッツとアモンを邂逅させる。どんな化学反応が起きるのかわかったものではないが、賭ける価値はある。

 

 ──運命は、近く交差する。

 それは、鮮烈に彩られた未来を暗示するか。血と涙に塗れた絶望の予兆であるのか。

 少年たちは、未だ知らない。

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