Fate/kaleid liner -mistake EMIYA- 作:だだだ
トンネルを抜けると、そこは雪国であった。
とかいう感じのノリで、俺はなぜか転生してしまった。名前は御剣健氏。とある剣術道場の師範代の息子として生まれた一般人だ。
意味が分からなかった。普通に自分のベッドで寝て起きたらそこは赤ん坊安置室だったのだ。もしかして今までの自分の経験、思い出はすべてゆめ幻で、こっちの俺が本当の姿だったのだろうか、などと胡蝶の夢の如き考えが頭に過り、アイデンティティが崩壊しかけた事もあったが俺は元気です。
アイデンティティの崩壊を、母親のお乳を飲みほしながら輪廻転生系おぎゃりティー願望を満たし、ふと『何してんだ俺・・・』と我に返り物悲しくなったおかげで冷静に受け止められるようになった後。俺はこの転生が一体全体どういったものなのか、そもそも本当に転生なのかどうかを探ることに決めた。
そんな決意を固め6年間考え続けた結果---俺は何もわからないということを理解した。
なぜこのようなことが起こったのか、そもそも俺が一体何者なのかも何一つとしてわからなかった。分かったことといえば今世の父親が剣に取りつかれた剣鬼の一人で、息子の俺に同じ道を歩むよう強要したがっていることと、人間の体って以外と丈夫にできているのだな、ということだけだった。
何が、「同じタイミングで剣筋が二つ飛んできたなら、すべて避けてカウンターを入れればいいだけの事」だ。「飛ぶ斬撃は目で追うんじゃない、第三の目で見るんだよ」「剣だけが武器ではない!おい、なぜ蹴られた瞬間後ろに飛んで衝撃を殺さなかった」「左側、斬撃薄いよ!何やってんだ!」も意味が分からない。それができるのは人間をやめた一部の基地外だけだろ。
それに突然縛られてドナドナされた後どこかも知らない山に放り投げられた事は恐らく一生忘れはしないだろう。なんだよ、山にこもってツバメを切って来いって。何度尋ねても「ツバメじゃない、ツバメだ!」って言って碌に教えてくれなかったし。言うとおりにしようとしたら2か月はかかったし。猪も妙に強かったしで俺の心はボドボドだ。
母さんも父親に悪い意味でべたぼれのようで、その愛情は実の息子の俺のそれよりもでかいみたいだ。俺が壁へ地面へ天井へと吹き飛ばされている間も笑顔で家事をこなし、食事の準備ができたら笑顔で出迎えに来てくれるのだ。
「健氏の才能は俺以上だ。8歳になるころには俺のすべての技術を習得しているだろうな」
「健氏はよく頑張れてて偉いわねぇ」
「うん!(死なないように懸命に自分の命を守ることを)もっと頑張るね!」
これが実の父親と母親との会話であった。正直日常があまりにも血みどろすぎて母さんも父さんも普通の家族とは到底思えないのが俺の本音だったが、きゅっと隠した。
そんなこんなで年月は経つ。小学校に入り4年生になったころ、同じタイミングで繰り出される剣戟をすべて避けてカウンターをしたり、遠くにあるリンゴを刀で直接触れずに切ったり、蹴られた瞬間に後ろに飛んでダメージをほぼ軽減したり、壁と見間違うような連撃をお見舞いしたりということが片手間にできるようになり始めたころ、事件は起こった。
父さんと母さんが死んだのだ。最初は意味が分からなかった。だけど本当のことだった。どうやら交通事故だったらしい。一人残された俺に痛ましそうに説明をする警察の言葉が右から左へと抜けるようだった。
父さんと母さんとの思い出がよみがえる。道場で血反吐を吐いたこと、道場で気絶したこと、道場で死にかけた事。道場で吹っ飛んで壁に激突してそのまま突き破ったこと。道場の天井を突き破って吹き飛ばされたこと。たくさんあります大切な
だけど、俺にとっては唯一の肉親だった。そのことに気が付いたのは、葬式が終わった直後のことだった。
悲しい、悔しい、寂しい。様々な思いがあった。俺は転生してきて、ここがどこか非現実的な世界だと決めつけて生きてきたが、どうやらいつの間にかこの世界で御剣健氏としてしっかりと生きていたらしい。
4年生になって、俺は初めてこの世界で、もっと胸を張って生きていこうと決意を固めたのだった。
◇
◇
◇
情景が、目に浮かぶ。そこは荒れ果てた荒野だった。灰にかすかに残った火のような夕焼けを、煤けた炭のような雲が流れていた。
荒野には所狭しと剣が突き立てられていた。一つ一つが、まるで死ぬ直前に、剣だけは折れぬと戦士が突き刺していったのではないか、というほど様になっていた。
そんな荒野の中、ひときわ小高い丘の上で、一人の男が背を向けて立っていた。その男はまるで擦り切れた枯木のようにくたびれていて、しかし同時に、一振りの剣のごとく力強くそこに立っていた。
「・・・エミヤシロウは、ようやく答えを見つけた。始まりはきっと、あの情景だったんだ」
男は良く通る芯の通った声で語りだした。自分の信じた正義。一度は亡くしたが、再度壊れた心に灯った失われた色彩。歩んできた人生の足跡一つ一つが熱を帯び、自分という一人の正義の味方を許す事の出来た男は、かつて見せていた仄暗い感情など一つも見せない。
一人の漢は、背中で語る。今の自分の在り方に、一切の悔いはないと。
「ふっ、この世界の貴様に語っても、身に覚えもないかもしれないな・・・だが、エミヤシロウよ。どの世界にっても、エミヤシロウはやはり正義の味方なのだ」
――――ただ、一つだけ、心残りがあった。男は―――いや、エミヤシロウはそう語る。
「全ての戦いが終わり、俺は答えを得た。だが一つだけやり残したことがある。しかし、私はもうそちらへはいけない――――
私の代わりに貴様に救ってほしい女の子が一人・・・いや、二人いる。片方は白い少女だ。ここまで言えばもう分かるのではないか?」
エミヤシロウは漫然と振り返り、ニヒルな笑みを浮かべた。
「ふっ、そうだ。その少女とは――――」
そして俺と目を合わせて、言葉を詰まらせた。
「―――いや、誰だ貴様は」
「いやあんたこそ誰だよ」
それが、俺とエミヤシロウの出会いだった。
◇
ベッドで寝て目が覚めたら正義の味方の固有結界の中でした。
ありえない、訳が分からない。ただでさえ先の一件でベッドで眠るのに若干トラウマがあるというのに、すわまた今までの人生は夢だったのかと絶望する所だった。
アイデンティティの崩壊はもうしたくない。やっとこの世界で生きていこうと決意を固めたのに、次の瞬間には転生とか自殺物だわ。
もう二度とベッドでは寝ない。
「で、君は誰だね?」
目の前の赤い外套を身に纏った男―――エミヤシロウが怪訝な目で俺を見る。
しかしそれは俺のセリフだった。
エミヤシロウ。また衛宮士郎。この男の事を俺は知っている。とはいっても一方的にだが。
前世の記憶でよく見ていたアニメの登場人物だ。正義の味方を志し、目の前の全員を救うという夢物語に手を伸ばし続け、最終的には世界と契約を交わし守護者となった男である。
しかしいまいち関連性がわかない。何故今ここでアニメのキャラクターがそこに実在しているのか。
いや―――。一つだけ可能性があるとすれば。
(・・・この世界はフェイトの世界だったのか・・・)
つまりはそういう事である。ショックだ。俺が今まで過ごしてきたこの世界は作り物の世界だったらしい。
いや、そうじゃない。確かに俺の世界では作り物だったが、今ここに広がっている世界では現実なのだ。父さんと母さんが死んだあの日、そのことに気づいたばかりじゃないか。
と、ここで俺はやっとエミヤが厳しい顔でこちらを伺っているのが見えた。どうやら熟考しすぎたようだ。
「あー・・・御剣健氏。ただの小学生です」
「なに?衛宮士郎ではないのか?」
「うん、全然違いますね、はい」
「なん・・・だと・・・?」
エミヤは気まずい顔で目をそらした。
「ふむ・・・どうやら私は夢見をさせる対象を間違えてしまったらしい。この私が衛宮士郎を見間違えるなど、ありえない話の筈なのだが・・・」
「つまり人違いってことですか?」
「そう、なるな・・・」
俺はなんとも言えない気分になった。
「あんなに演出頑張ってたのに・・・」
「・・・言わないでくれ」
お互い居たたまれない気分になって目を背けあう。俺はなんだか目の前の男に妙な親近感を覚えてしまう。エミヤぇ・・・。
「えっと、じゃあそういう事で。今度は間違えないといいです、ね?」
しかしそうはいっても気まずい初対面である。ここはやんわりとお帰り願った方がいいだろうと考えて背を向けると、
「待ってくれ」
がし、と肩をつかまれた。
「な、なんすか?」
「いや・・・実はもう完全に接続してしまったから、もう戻れないというかだな。世界をだまして過去に遡る機会なんて、もう今後は万に一つも訪れない訳だが」
「つまり?」
「頼む、衛宮士郎の代わりに正義の味方になってくれないか」
「こ と わ る」
ふざけるな。俺にエミヤシロウを張れというのか。死ぬわそんなもん。戦死的な意味でも侵食的な意味でも二重の意味で。
「大丈夫だ、君はどうやら衛宮士郎と見間違える程似た魂を持っているようだ。私の力も多少の変更はあるだろうが使えるだろう」
衛宮士郎に似た魂とか、喜んでいいのかどうか分からない。
「まって、無茶だそんな事。大体俺はただの小学生だぞ」
「しかし私には後がないんだ」
このエミヤどの世界戦のエミヤなんだ。エミヤってこんな無茶苦茶な性格だっけ?答えを得てぶっちゃけてませんか?
「私は救いたいのだ。最後の最後まで、私の大切なモノを。それに君の記憶を今覗かせてもらったが、どうやら君も無関係ではない様だぞ」
「は?どういうこと?」
「なに、君は忘れているだろうが、すぐに気付く」
俺は頭の上にはてなを浮かべながら、とりあえず落ち着くためにエミヤの腕を振り払った。
「えっと・・・ごめん、エミヤさん。どう考えても正義の味方は俺には荷が勝ちすぎてる」
「そんな事はない。言っただろう、君の記憶を見させてもらったと。ふむ、その証拠に・・・そうだな。君は一体どんな方法で
「なっ?それは・・・!?」
俺はびっくりしてエミヤの顔を仰ぎ見た。エミヤはニヒルな笑みを浮かべている。
「君は恐らく、この世界よりも上位・・・一つ上にシフトした高次元の世界から落ちてきたのだろう。どんなきっかけかは知らないが、そんな世界から渡ってきた君の事だ、魔術の才能はもちろん、正義の味方としても私よりもマシに務まるのではないか?」
「確かに、俺はこの世界に転生・・・って言っていいのか?まあ、外の世界からやってきた人間だけど。
どうして、俺が元いた世界が高次元で、この世界が低次元だと分かるんだ?」
「こと解析に置いて、私の右に出る者はそうはいまい・・・だが、そんな私をもってしても君が元の世界にいた記憶のほとんどを読み取ることが出来なかった。まるで高密度の結晶に手を差し入れて、中身を読み取るような気分だったよ」
お手上げ、ということだろうか。両手を上げて降参のポーズをとった。
「そう、なのか・・」
「逆にいうが、ここまでの差がある中、よくこの世界でここまで長く生きてこられたものだ。君にとってしてみれば、この世界の住人はほとんどが粘土人形の様に感じられる筈だがね」
思い当たる節はある。クラスメートで友達が出来ないのは、主にそれが原因だ。
なんて説明すればいいのだろうか。顔が細かく描かれていないのだ。声も平たんに聞こえる。酷い時はそこにいるという事にすら気づかない事も多い。
まあ、よく見てよく聞けば見分ける事は出来る。この世界でも人間は千差万別だ。
「それに、君は既に普通の人間とはかけ離れているだろう。小学4年生で恐らく世界でも屈指の実力を持つ剣士を相手に圧勝するその技量、身体能力。恐らく君の出生が神秘を内包させるに至っているのだろう。気づいていたかね?」
「えっ、知らないそんな事」
確かにちょっと成長が早すぎてあの父親ですら『剣鬼を超えた剣神』と俺の事を称した事もあったが、朗らかに笑いながら言っていたからてっきり冗談なのかとばかり。
「そんな訳なかろう。君はもしや少し鈍感なのか」
「妖怪天然女たらしにだけは言われたくない」
「待ちたまえ、何だねその不名誉すぎる称号は!」
悪い冗談だ。エミヤに鈍感だなどと。
「くっ・・・とにかくだ、君には私に代わってとある少女を救ってほしいんだ。もし応じてくれれば、私にできることは少ないが、出来る範囲であれば要望に応えよう。どうだね?」
「ごめんなさい、俺にはちょっと・・・」
「もし応じてくれれば、私に出来る事は少ないが、出来る範囲であれば要望に応えよう。どうだね?」
「いや、あn―――」
「もし応じてくれれば、私に出来る事は少ないが、出来る範囲であれば要望に応えよう。どうだね?」
「おいこれ無限るーp」
「もし応じてくれれば、私にd―――」
おいこの正義の味方さん小学生相手にガキみたいなことし始めたぞ!
「やればいいんだろやれば!」」
「なに?そうか、君ならよもやと思っていたが、本当に受けてくれるとは。深く感謝しよう、御剣健氏」
「なんなのこのひと・・」
なんかアニメで見たエミヤと別人に思えてきた。いや、だけどアニメと現実は違うし、やっぱり同じものと考えるのはやめておいた方がいいかもしれない。
「ふむ、その言葉を聞けただけで十分すぎる成果だ。そろそろ君の夢も終わる時間でね、ギリギリで間に合ってよかった」
エミヤはニヒルに笑って、俺の頭を撫でた。
「ではしばらくお別れだ。次に会うのは夢の中か戦いの最中か・・・しかし安心するといい。私は君の夢の中に居続ける。私の特殊な投影魔術も目が覚めれば使えるようになっているだろう。まあ、その在り方は多少は差異があるだろうが―――それでは、また。おっと、別れの挨拶は生憎だが言わないぞ」
「こいつ・・・まあいいや。一度受けちまったし、最後までやるよ。やってやるよ。それじゃあな、正義の味方さん」
俺がそう言い終わるか終わらないかのタイミングで、俺の意識がふわりと浮いて闇へと溶けだした。夢が終わるのだ。
景色が溶けだす中、一人残されたエミヤが、こちらを見て笑っていた。