Fate/kaleid liner -mistake EMIYA- 作:だだだ
朝目が覚める。日の出よりもずっと前、4時ほどのことである。
目が覚めたら俺はまず顔を洗い目を覚ます。そして寝間着から袴へと着替え、道場に向かった後は朝練の開始だ。
「ふっーーーー」
鋭い音とともに空気を切り裂く刃。何千何万と振ってきた刀の感触は、いつも通りの調子だ。昨日は変な夢も見たからな。
アニメキャラのエミヤが夢の中に出てきたどころか、衛宮士郎の代わりに人を救って来いとか・・・それなんて死亡フラグ?俺はまだランサーに心臓を貫かれたくはない。
まあ、妙にリアリティーのある夢だったが、まさか本当なわけがあるまい。
「ふっ、ふっ、ふっ・・・」
上段、下段、中段、突き、と基本的な型を意識しつつ刀を振るう。この時間は俺は結構好きだ。今では父さんが死んだことで道場も畳まれ、寂しくなったが、今でもあの日々の事を思い出すことができる。何度も殴られ、蹴られ、切られ、吹っ飛ばされを繰り返してーーーーあれ、思った以上に良い思い出がない。おかしいな。
「ふう・・・」
それにしても、やはり対戦相手がいないのは寂しい。心的な意味でも、腕的な意味でもだ。思えば俺と対等に渡り合えたのって父さんだけだったしなぁ。
と、俺はふと我に返って時計を見た。すでに6時は回ろうとしていた。
どうしよう、まだ練習を続けようか、などと汗をぬぐいながら思った瞬間、脳裏に浮かんだのは夢の事である。
「ふふっ・・・トレースオン!だったっけ?」
刀置きに刀を戻して、手をかざして唱えてみる。かっこいいよね、あの呪文。衛宮の事は嫌いだけど、能力と生き様は本当に漢らしくてかっこいい。
ーーーーばちっ!
「って、あれ?」
あっれれぇ、おかっしいぞぉ?俺の腕から紫電が飛び出しているではないか。何事だこれは!?
しかも腕に刺繍のごとく紫色の線が浮き出てくる。えっ、えっ、もしかしてこれって魔術回路ーーーー
「いてえええええ!」
痛い。とても痛い。本当に痛い。身体の奥底を電気で突き刺されたような痛みだ。なんなんだこれ。しかもこれ後に戻れないタイプの痛みだ。このまま途中で終わってしまったら中途半端に活性化された影響で変な事になるタイプだ。あかん。
っていうかあの夢現実だったのかよ!ふざけんな!
「くっ・・・ぐぅぅぅう・・・!」
俺は何とか痛みに耐えながら、震える両手を刀を握る形までもっていく。
するとなんということだろう。紫電が次第に集まりだして、刀を形作っていくではないか。
数十秒ーーーいや、もしかすれば10分は経っていたかもしれない。俺は痛みに最後まで耐え抜き、そして手のひらに確かに感じる柄の感触を握りしめた。
「・・・・刀だな、うん」
息も絶え絶え、汗だくだく状態の俺はそうつぶやいた。刀だ。何の装飾もない、柄も鍔も黒く、刃の部分もまるで墨汁で描かれたかのような黒。
「・・・『無銘・黒刀』って言ったところか」
黒い刀だし、製作者も刻印されていないから無銘・黒刀だ。
「それにしてもよわっちいなぁ」
なぜかわかるのだ。この刀の構成や骨密度なんかが。そしてこの刀は構成もボロボロ、骨密度もスカスカという見た目だけ立派な中身スカスカの刀ということがすぐにわかった。
「これがエミヤの能力・・・?なんかもっと難しい工程じゃなかったっけ?」
知らん。そもそも俺はエミヤじゃないんだ。
「・・・って、あれ?着てる服がなんか違う!?」
そこで俺は気が付いた。着ていた服が変わっていることに。慌てて道場から出て、洗面所へと向かって鏡で見てみた。
鏡の向こうには、美遊世界の兄エミヤが英霊化した時に着ていた外套ーーーの色違いのコスプレをしている自分の姿があった。白いマントに左腕をあらわにした青い外套。中には黒いインナーを着ている。頭には白いバンダナだ。
「うーん、似合わねー・・・」
フツメンの俺が着るには結構きつい服装である。正直全然似合っていなかった。服を着ているんじゃなく服に着られている感じだ。悲しい。むなしい。
「これって・・・やっぱり英霊化してるのか?」
たしか夢幻召喚といったか。正直あまり覚えていない。
「しかし、あの夢って現実だったのか・・・」
やると言ってしまったのだから、やるしかないのだろうが・・・。
二人の少女を助けてほしいと言っていた。それってたぶん、イリヤスフィールと美遊の事だろう。
この二人が登場する作品といえばプリヤだ。つまりこの世界はプリヤの世界なのだろう。
「ええー・・・まあ、他の世界よりはマシ・・・なのか・・・?」
魔術師がいるって時点でかなり危ないが。おそらく俺がエミヤの力を借りて英霊化している事がばれただけでもホルマリン漬けされること請け合いである。サツバツ!
「舞台は冬木だよな。俺、他の場所に住んでるんだけど」
日本に生まれはしたが、さすがに冬木に生まれるほど偶然が続くことはなかったようだ。そしてイリヤスフィールと美遊を助けるためには、冬木に赴かなければいけないという。
「いや、引っ越せってか。きついわ・・・」
そもそもプリヤの世界は原作通りにいけばイリヤスフィールも美遊も普通に助かりそうなものだ。そら何度か命の危機にさらされることもあったが・・・いや、しかし油断すれば死ぬというのも本当の事か。じゃあやっぱり行かなきゃいけないのか。
よく考えなくても俺は無関係のはずなのだが・・・転生者は原作にかかわらなければいけない呪いにでもかかっているのだろうか。
というか、そもそもイリヤスフィールと美遊が死ぬことでどんな影響が出る?イリヤスフィールは普通の女子小学生だから、いっちゃあれだけど悲しまれるだけだろうし、美遊は元いた世界が美遊兄エミヤもろとも終わるか、美遊自身が聖杯となって世界が救われるかの二択だけだ。どちらもこちらの世界にはそこまで関係ない。
「いたっ!」
考えていると、頭に頭痛が起こった。
(ふっ・・・一度交わした約束だ。男なら守ってもらおうか)
「エミヤ!わかった、わかったから頭痛起こすのやめい!」
くそっ、とはいえ受けちまったもんは仕方がないか。
パチモンエミヤの言葉にため息を吐き出しつつ、俺は折れることにした。
「とりあえず・・・転校手続きってどうすればいいんだろ」
まずは名ばかり保護者の親戚さんに電話を入れることから始めよう。なに、父さんが残していた莫大な遺産はすべて守り切って俺の懐にあるのだ。家を買う程度の多少の無理はできるだろう。
◇
◇
◆
転校手続きや引っ越し手続きは5年生に入る前に始めることで話し合いはついた。理由を聞かれたが、『一身上の都合で』で押し通した。父さんが残した遺産目当ての親戚だ、多少は冷たくしてもかまわないだろう。
そして俺はというと、まずはエミヤの力に慣れるために特訓特訓特訓の毎日である。
俺はパチモンエミヤを内に飼うことで衛宮式投影魔術に似たようなことができるわけだが、俺はエミヤじゃないのでやはり特性は変わっている。
俺は一振りしか投影することができない。エミヤのように『剣を無限に内包した世界』ではなく、『一振りの刀を内包した世界』を作り出すことが本質であるらしい。
そしてその一振りの刀とは俺の事であり、投影で作り出すことができる無銘・黒刀の事だ。
そのことに関しては思うことは一つもない。当然の帰結だった。幼いころより刀の扱い方だけを教わってきたのだ。俺には刀しかない。ほかの武器は扱えない。
究極の一を生み出すために、俺はただひたすら剣を打つのである。
久しぶりにYAMAGOMORIしてINOSHISHIやKITSUNEと刀を交える日々。この間で無銘・黒刀も大分鍛え上げられてきて、今なら多少切ったところで刃こぼれ一つしない程度には強靭な刀身となっている。
俺の中にいるエミヤーーーパチモンエミヤについてだが、あの日以来一度も夢に出てきていない・・・なんてことはなく。
毎日毎日当たり前のように夢の中に顔を出してくるのだ。そして修行と称して俺を弄ぶ。もちろん戦闘的な意味でだ。エミヤの固有結界の中では俺も英霊化できないらしく全戦全敗記録を更新し続けている。
さらには休憩中の俺に料理の何たるかを延々と語ってきたりと非常にウザったい。気障ったらしい皮肉屋な表情も今では憎らしい。たまに女の扱い方も語ってくるがそれでいいのか正義の味方。
「どれだけ剣を作ったところで、究極の一には届かないものだ。さて、ところで君は刀を一本しか作れないようだが、なぜ私に負けているのかね?ついてこれるか?んん?」
とはエミヤの言葉である。いつか地獄見せてやる。
まあ、おかげで刀の扱いと料理スキルがほんの少し向上し始めたのは喜んでいいものか。
とまあ、そんな風に俺の日常は続いている。