Fate/kaleid liner -mistake EMIYA- 作:だだだ
とある駅から出てきた俺は、長旅につかれて淀んでいた肺の空気を吐き出して、思いっきり息を吸い込んだ。
「ここが冬木市か」
そしてつぶやく。そう、ここは冬木市。諸事情によりこれから俺が住むことになる場所でありーーープリヤの舞台でもあった。
あれから半年以上が経っただろうか。俺は何の問題もなく冬木市まで越してくることができていた。すでに穂群原学園に転入する手続きも万全だ。
エミヤとの模擬戦や修行で、何とか様になる動きができるようになってきたし、おそらくそんじょそこらの英霊相手でも・・・まあ、死にはしないだろう。
「さて、それじゃあ行くか」
俺は実際にアニメに登場していた街を歩けることにかすかな感動を覚えつつ、新しい自分の住処となる住宅街へと足を運んだ。
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◇
◇
引っ越し作業も終わり、後は新学期を迎えるだけである。
ちなみに家は普通の家だ。二階建てで、一階は鍛錬するためのスペースを多くとっている。二階は俺の部屋と倉庫だ。
それよりも修行できる場所を探さないとな。このあたりに手ごろなYAMAなどはあるだろうか。ないのであれば少し遠出するまでだが、近くにあったほうが便利だ。
(修行中毒になっていないか君。少しは休みたまえ。いざというときになって力が出せないでは意味がないぞ)
「そりゃそうだけど・・・なんか動いてないと身体がうずくんだよな」
物心ついた瞬間から続けてきた習慣の所為なのだろうか。
(関係のない重荷を君に背負わせようとしていることは理解している。そんな私から言われても迷惑極まりないだけだろうが、多少は自愛したまえよ、健氏。なんて言ったって、君はまだ小学生なのだからな)
「そう思うなら夢の中で手加減してくれませんかね」
(夢ならば多少の無茶も問題あるまい)
「エミヤぇ・・・」
俺はエミヤとの会話を切り上げて、先んじて買っていたお土産品を取り出した。
ご近所付き合いは基本。古事記にもそう書いてある。
道場やってた頃なんか、大きな音とかけが人とかしょっちゅうだったから、ご近所づきあいはとても重要だった。その点でいえば母さんが一役買っていたんだっけか。母さんはコミュ障の化け物のような人だったからなぁ。
(ほう。そういう細かな気配りができることは良い事だ。良い母親を持ったな)
「まあね」
そういうことで早速隣の家へとあいさつ回りだ。
まあ、子どもに挨拶されても戸惑うだけだろうが。しかしそこら辺は大目に見てもらいたい。逆におかしなんかもらうこともあったが、まあ喜んでもらっておこう。
「さて、最後の家か・・・」
最後の家は向かいの家である。結構立派なつくりの家だ。
『はい、どちらさまでしょうか』
チャイムを鳴らすと、マイク越しに女性の声が返ってきた。
「初めまして、先日こちらに越してきた御剣と申します。ご挨拶に伺わせていただきました」
『ああ、向かいの。ええ、少々お待ちくださいね』
そうしてしばらく待つと、扉が開かれる。
「どうも、はじめまし・・・て・・・」
「ええ、初めまして。えっと・・・」
そしてお互い固まった。
出てきた女性は白い髪の毛と赤い瞳が特徴的な女性。そう、プリヤの登場人物セラだったのだ。
あっれ、おかしい。なんでいきなりこんなことにーーー俺がそう戸惑う暇もないまま、セラさんは首をかしげた。
「あなた一人だけですか?親御さんはどちらへ?」
「えっと、一人で来ました。これ、ささやかですが、ご挨拶のしるしにどうぞ」
「まあ、ありがとうございます」
とりあえず手土産を渡すことに成功する。
「先日はどうも、引っ越しに関する騒音などでご迷惑をおかけしました。これからもどうぞよろしくお願いします」
「ご丁寧にすみません。こちらこそよろしくお願いしますね」
ニコニコとそういうセラさん。声も姿かたちも同じだからすぐにわかったが、それ以上に他の人とは違って輪郭がしっかりしていて、普通の人間っぽい感じがする。登場人物だからだろうか。
「あれー、セラ?何してるの?」
と、ここで奥の方から少女がにょきっと顔を生やした。白髪で、恐らく俺と同い年のイリヤスフィールだ。
(彼女がイリヤだ。話には聞かせただろう?よもや越してきた先で隣人になるとは、私をもってしても想像できなかった。君は所謂『持っている』人間らしいな、健氏)
(うるさいエミヤ)
パチモンが煩かったので黙らせる。
っていうか、イリヤの家の向かいって確か・・・あっ(察し)。
(エミヤ、この新居とも数か月したらお別れだ・・・)
(なに?どういう意味かね?)
「あれっ、背が低くてみえな・・・じゃない、もしかして誰かとお話し中だった・・・?」
おい、今何を言いかけたか詳しく聞かせてもらおうじゃないか。
「い、イリヤさん・・・この方はお向かいに越してこられた御剣さんです。ご挨拶なさってくださいね」
「えっと、初めまして。イリヤスフィールって言います・・・」
(健氏。ファーストインパクトは大事だ。常に相手に好かれる自分を想像したまえ)
(ソレ続けてたから女たらしになったんですよね)
(おい・・・君とは後でゆっくりと話し合いをするべきだな)
「初めまして、御剣健氏って言います。今度穂群原学園に転校するんですけど、もしかして同じ学校ですか?」
「ええっ、そうなの・・・ですか?えっと、ちなみに何年生?」
「5年生です」
「すごーい、年も同じなんだ!私も5年生で、穂群原だよ」
(いいぞ、つかみはバッチリだ)
(黙れパチモン)
(ん?何か今凄く不名誉な言葉が飛んできた気が・・・)
「同じクラスになれるといいね!」
「あはは・・・そっすね」
そんな感じで唐突すぎるイリヤとの初接触は過ぎていったのだった。
(・・・どうしよう、エミヤ)
(ん?何かあったかね、健氏)
会話が終わり、お暇したあと。俺は自分の家に入って、玄関で俺は呆然とつぶやいた。
「俺、コミュ障かもしれん」
思えば俺は今まで人とあまり関わらない生活を続けていた。それは他の人が同じ人間に思えなかったからだが・・・・やはりこの世界では登場人物はくっきりと見える様で、イリヤスフィールの事も輪郭がはっきりと見えた。
イリヤ・・・うん、かわいいよね。正直舐めてた。周りが全部同じに見える生活を送ってきた俺にとって、セラさんやイリヤスフィールとの接触はかなり・・・いや、めちゃくちゃ緊張した。
「あんなの初めてだ・・・!くそっ、なんてこった!碌に話せる気がしない!」
(落ち着きたまえ健氏。確かにイリヤがかわいいのは確かだし、それはセラも同じだ。しかし、彼女たちのレベルまではいかなくとも、この世界にはもっと多くの美女がいる。そんな幼い年からそのような事を言っていては、この先持たんぞ)
「それはお前の周りだけだろばーかばーか!」
(なんだとっ!?ま、待ちたまえ、何を根拠にそんな事!そのような認識、断固抗議するぞ!)
もうこれ以上エミヤと話す気になれなかった俺は、未だ片付いていない新居の片づけにおもむろに移るのだった。