「…きろ」
「‥ おきろ」
「起きろ!!」
「ひゃう!?」
サイトの大声にルイズは飛び起き、そのままベッドから転がり落ちた。
「いたたた、な、なによ!なにごと!」
「おはよう、マスター」
「ああ、おはよう…って誰よあんた!」
「どうも、平民の使い魔です。」
「ああ、使い魔ね。そうね、昨日召喚したんだっけ」
ルイズは起き上がり、あくびをした。そんなルイズを見てサイトは怪訝な顔を浮かべた。
「しっかりしてくれよ…。仮にも俺の主人って事なんだからよ。昨日も酔っ払ったお前さんを誰がここまで運んだと思ってんだ」
「よ、酔っ払った?」
ルイズは痛む頭を抑えながら、昨晩の学院長室での出来事を思い出す。ルイズはワインを飲みすぎてベロベロになり、途中から痺れを切らして戻ってきたロングビルとコルベールの案内で、サイトにおぶられながら、自室にはこばれてきたのだった。
「学院長が言ってたぜ、私が就任して百年以上経つが、学院長室で酔っ払った生徒はお前が初めてだってな」
ゲラゲラと笑うサイトを見て、ルイズは顔を真っ赤になった。そしてふと鏡を見ると、そこには裸にネグリジェ一枚の自分の姿が写っていた。瞬間、ルイズの脳裏に昨晩の出来事が再び蘇って来た。
昨晩ルイズはコルベール達と別れ自室に戻ると、徐に服を脱ぎだしそれを乱暴に籠に放り投げた。
「おいおいおい~。いくら何でも酔いすぎだろう。仮にも貴族だろうがみっともない」
サイトは呆れ返った。どうやら完全にできあがってしまったらしい。
「うっさいわね~。あんたはつかいまれひょ~?つかいまにみられらっれじぇんじぇんはずかひくないもんれ~」
ろれつの回らない口調でとんでもない屁理屈を言うルイズにサイトは頭を抱えた。そしてタンスからネグリジェを出せと言われ溜息をつきながら従った。
「これか?」
「着せて」
「はあ?」
「きせなさいよ!きぞくはね~。げぼくがいるときはじぶんで服なんかきないのよ」
ルイズの滅茶苦茶さにいい加減痺れを切らし、サイトは服をルイズに投げ捨て、寝るとだけ言い残して床に寝そべった。部屋の隅には、ルイズが使い魔用に用意した藁が敷いてあったが、彼女が説明しなかった為、使われることはなかった。
ルイズは二、三度目をぱちくりさせ、無言で服を着てそのままベッドに倒れ込んだ。
そして現在、事の顛末を思い出したルイズは、恥ずかしさのあまり両手で顔を覆って膝をつき、泣き出してしまった。
「う、う、もうお嫁に行けない」
「まあ、気にすんなよ。酔って全裸になるなんてよくあることじゃねえか」
「無いわよ!」
サイトのフォローになってないフォローに全力でツッコミを入れるルイズ。
するとその時コンコンとドアをノックする音が響いた。
「おはようございますミス・ヴァリエール、洗濯物をお預かりに来ました」
「シ、シエスタ!?ちょっと待…」
ルイズが言うをより早く失礼しますという声と共にドアが開き一人のメイドが入ってきた。
「今日も爽やかな朝ですね。ミス・ヴァリエ…」
シエスタと呼ばれた少女は言葉を失った。なぜならそこには薄いネグリジェ一枚のルイズに見知らぬ平民らしき男。この状況をシエスタは瞬時に分析し答えを導き出した。
「タイヘンシツレイイタシマシタ、ミス・ヴァリエール」
「待ちなさい、シエスタ」
カクカクとロボットのような動きで籠を取り、部屋から出ようとするシエスタの肩を掴み必死の弁明を試みるルイズ。
「貴方…。何か勘違いしてるでしょ?」
「わかってます。わかってますよ。年頃の女の子ですもんね…。大丈夫です。決して口外致しませんから。ただ、立場を考えると平民の男性は流石にまずいのではと…」
「絶対わかってないでしょおおおおお!」
「サイト!ぼさっとしてないであんたからも誤解だって言いなさい!」
ルイズが振り向くと、そこにはサイトの姿はなく、開いた窓と、吹き抜ける風がもの悲しげにカーテンをたなびかせているだけだった。
に、逃げやがった!あの男!てゆうかここ何階だと思ってんの!?
「次の仕事が控えてますので失礼します!すみませんでした!」
「待ちなさい!話はまだ終わってないわよ!」
ルイズの静止も聞かず、シエスタは脱兎の如く逃げ出した。ルイズはこの世の終りのような顔でへたりこんだ。
「終わったか?」
サイトが窓からひょっこりと顔を出した。どうやらこの男は飛び降りたのではなく指を引っ掛けぶら下がっていたようだ。そんなサイトを疲れきった目でルイズは一瞥した。既に怒る気力も無くなっているようだ。
「災難だったなマスター。まあ、あんな誤解すぐ解けるって気にすんなよ」
「何で逃げたのよ」
「いや~あの状況で下手に言い訳するほうが傷口広げるんじゃないかと思って」
「逃げる方がよっぽどまずいでしょ、全く…」
「そんなことよりよ。早く準備しないと遅刻すんじゃねえか?」
言われてルイズはハッと我に帰った。時計を見ると既に遅刻ギリギリの時間になっていた。
「もう!あんたのせいで遅刻するじゃない。早く着替えとって!」
「着せてやろうか?」
「殺すわよ…3秒以内に部屋から出なさい」
メラメラと怒りの炎を燃やすルイズにサイトは怖い怖いなどと言いながら部屋を出て行った。
はあ、何で朝からこんなに疲れなきゃなんないのよ…裸は見られるわ、シエスタには誤解されるわ、踏んだり蹴ったりだわ…というかそもそもなんであいつは私の裸見てあんなに平然としてんのよ!女として見られてない!?いや、そんなわけないわ、そうよ!きっとあいつ、ホ○なんだわ!間違いない!でもいけない、私としたことが、人間には様々な愛の形があるの、ホ○だからって差別するのは良くないわ。主として寛大な心で受け入れましょう。
とんでもない自己解決をして、着替えを終えたルイズは部屋を出た。廊下にはサイトが壁にもてられて、腕を組んで待っていた。
「行くわよホ○野郎」
「なんだいきなり!?」
「いいわ、みなまで言わなくて、私にはわかってるから、でも学院の男子に手をだしちゃだめよ」
「喧嘩売ってんのか!」
二人がそんなやりとりをしていると、隣の部屋のドアが空き、赤髪の美しい女性が出てきた。
「おはようルイズ、朝っぱらからうるさいわね」
彼女を見て、ルイズは嫌そうに挨拶を返した。
「おはよう、キュルケ」
「あなたの使い魔って、それ?」
それ呼ばわりされ、顔には出さないが、サイトは僅かに不機嫌になった。そしてサイトは、にっこりとわざとらしい作り笑いでキュルケの前に立ち、右手を差し出し、自己紹介した。
「初めまして、ミス・ヴァリエールの使い魔になりましたサイト=ヒラガと申します。以後、お見知りおきを」
「サイト=ヒラガ?変な名前、それに平民の分際で家名を持つなんて、おかしな奴ね、この手は何?平民が貴族に握手を求めるなんて、いい歳して常識がなってないわね。どうせ使い魔にするなら、こういうのがいいわよね~。フレイムー」
キュルケは名乗りもせずサイトを罵倒し、勝ち誇ったように自身の使い魔を呼んだ。キュルケの部屋の中からの熱気を放ちながら、真っ赤な巨大トカゲが現れた。
「ほう!サラマンダーですか!」
ハンターの血が騒いだのか、サイトの目が輝く
「あら、あなた知ってるの?そうよ、火トカゲよ。好事家に見せたら値段なんかつかないわよ?」
「へえ、そりゃ凄い。触ってもいいですか?
「いいわよ。ただし気性が荒いから気をつけることね。」
「サ、サイト、危ないわよ」
ルイズの静止を聞かず、サイトは恐れる様子もなく、フレイムを撫で始めた。
「お前、フレイムっていうのか。よろしくな、フレイム」
サイトに撫でられたフレイムは、気持ちよさそうに顎を上げ、終いにはゴロンと腹を見せ、仰向けになった。それを見たキュルケは、驚愕の表情を浮かべた。そんなキュルケの顔を見て、ルイズは悪戯っぽい笑みを見せながら、キュルケに近寄った。
「あらら~確か動物がお腹を見せるのって、服従の証よね。つまりフレイムちゃんは私の使い魔に屈したってことよね。それってつまり、私の使い魔の方が優秀ってことよね~」
「ぐぬぬ、ふん!もういいわ!行くわよフレイム」
キュルケは不機嫌そうにフレイムを呼ぶと食堂に向かった。ルイズは勝ち誇ったように胸を張り、サイトを賞賛した。
「やるじゃない、あんた。サラマンダーを服従させちゃうなんて、ちょっと見直したわ」
「別に大した事じゃない。要は恐れなきゃいいんだよ。恐れずにこっちが上だって事をわからせれば、あの程度の知能の動物なら簡単に懐く」
否、実際は人間サイズの獣をあやすなど、そう容易にできるものではない。しかしろくに動物を知らないルイズは、そんなものかと、特に疑問を抱く事もなく、二人は食堂に向かった。
食堂に着くと、ルイズは厳しい顔で指を立てた。
「いいこと?本当なら使い魔はこのアルヴィーズの食堂に入ることは許されないの。くれぐれも主である私に恥をかかせるような行動は取らないでね」
「ハイハイ、気をつけますよ。そんなことよりもう遅刻寸前なんだから早く入ろうぜ」
サイトのやる気のない返事に、ルイズは少しイラッとしながらも、なんとか堪え二人は食堂に入った。中はかなりの広さがあり、百人は優に座れるであろうテーブルが三つ並んでいた。学年別に分けられているらしく、二年生のルイズ達のテーブルは真ん中だった。すべてのテーブルには豪華な飾り付けが施されており、上にはワインに山盛りのフルーツ、巨大なローストチキンに、鱒の形をしたパイなど、およそ朝食とは思えないラインナップの料理が並んでいる。
「ごきげんな朝飯だ…」
「メシ…?なんの事かわかんないけど、トリステイン魔法学院で教えるのは、魔法だけじゃないのよ」
ポカンとするサイトにルイズは得意げに言った。
「『貴族は魔法をもってしてその精神をなす』のモットーのもと、貴族たるべき教育を存分に受けるのよ。だから食堂も、貴族の食卓にふさわしいものでなければならないのよ」
「そのモットーなら魔法だけ教えてりゃいいじゃん、豪華な食卓関係ないじゃん」
サイトのツッコミにルイズの怒りが爆発した。
「いちいち揚げ足とんじゃないわよ。この屁理屈男!食事抜くわよ。さっさと椅子を引いてちょうだい。気の利かない使い魔ね」
虎の尾を踏んだサイトは、しまったと思い、苦笑いをしながら椅子を引いた。そして自分もルイズの隣に座ると、ルイズがポンポンと肩を叩き、床を指差した。そこには一枚の皿が置いてある。皿には小さな肉のかけらが浮いたスープと、端っこに硬そうなパンが二切れぽつんと乗っていた。全てを察したサイトは、額から汗を流しながらルイズの顔を見て一言。
「マジ?」
「マジ」
ルイズの顔は真剣そのものだった。
「それが今のアンタの『価値』よ。アンタ、私に言ったわよね?なんでもできるって。だったら私に実力を示しなさい。そうしたらもっとまともな扱いをしてやるわ」
ルイズの言葉にサイトは笑みを浮かべて、どかりと床に胡座をかいた。
「確かに…俺はここに来て、まだ何もしちゃいなかったな。感謝するよ。今の俺には上等すぎるぐらいだ」
生徒達が始祖ブリミルに祈りを捧げる中、サイトは一人、両の手のひらを合わせ、『いただきます』と一言いい、目の前の料理を平らげた。
だいぶ投稿が遅くなりました。申し訳ありません。