ZERO×HUNTER   作:ゲロッパ

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第七話 決闘

 

 ヴェストリ広場

 

 魔法学院の敷地内『風』と『火』の塔の間にある中庭である。

 

 西側にある広場なので、日中でも日があまり差さない場所である。

 

 ルイズ達が着くと、そこは大勢のギャラリーで溢れかえっていた。ギーシュは中央に仁王立ちで立っていた。

 

 「よく来たな。ゼロのルイズ」

 「アンタが来いって言ったんでしょうが」 

 

 ルイズが気だるそうに言った。

 

 「君、自分の立場がわかってるのか?まさか、さっき自分がやった事をもう忘れたのか?」

 

 軽薄な態度を取るルイズに対し、ギーシュは前髪を指で持ち上げながら、嫌みたらしく言う。

 

 「その、みんなの使い魔を傷つけた事は謝罪するわ。本当にごめんなさい」

 

 ルイズは深々と頭を下げた。しかしそれを許さんとばかりに周りの生徒は彼女に容赦ない罵声を浴びせる。

 

 「ふざけるな!謝ったぐらいで許されるか!僕の使い魔はお前の爆発のせいで死んだんだぞ!」

 「そうよ!私の使い魔も怪我したのよ!」

 

 生徒たちは一様にルイズに恨みの言葉をぶつけた。ルイズは頭を下げたままじっと耐えた。

 

 「静粛に、みんな落ち着きたまえ!」

 

 ギーシュが両手を上げながら言うと周りは静まった。

 

 「わかったろうルイズ、君が謝った所でもう収拾はつかないんだよ」

 「だったらどうしろっていうのよ」

 「簡単な事だ。君にもみんなと同じ目にあってもらう、君の使い魔と僕とで決闘をしたい」

 

 ギーシュの申し出にルイズは猛反発した。

 

 「ふざけないで! なにが決闘よ! 体のいい甚振りじゃない! 大体決闘は校則で禁止されてるでしょ!」

 「それはあくまでも生徒同士の話だろう。使い魔と決闘してはならないという決まりはない」

 「そんなのただの屁理屈でしょ! とにかくそんな申し出は受けられないわ」

 「まあまあ、落ち着いてマスター」

 

 興奮するルイズの肩に手を置きサイトが前へ出る。

 

 「分かりました、決闘の申し出を受けましょう」

 「サイト!?」

 

 困惑するルイズにサイトは顔を向けると一瞬ニヤリと笑った。その顔を見たルイズも真剣な表情に変わり一瞬うなずく。

 実は二人にはこの展開は予想できていた。

 

 数分前、二人が広場へ向かう道中での事。

 

 「ねえサイト、これはあくまでも予想なんだけど、多分ギーシュの事だから広場に着いたらアンタに決闘を申し込んでくるわ」

 「決闘?俺と一対一で戦うってことか?」

 

 サイトの問いにルイズはええ…と呟いた

 

 「本来は学生同士の決闘は認められてないけど、相手が使い魔なら規則には違反していないわ。今回の問題を口実にして一方的に甚振る気ね、あいつはそういう奴なの。もっとも、アンタを広場に呼び出した時点でやる気満々だったみたいだけど」

 

 ルイズの考えにサイトはなるほどと思いながらあご髭をさすった。確かにあの少年は目立ちたがり屋のナルシストという感じがにじみ出ている。

 過去にルイズに恥をかかされた事もあるし、ここでサイトを叩きのめせば他の生徒から英雄視されるし、自分の恨みも晴らせて一石二鳥というわけだ。

 

 「で、そこまで予想できていてマスターは俺にどうして欲しいんだ?」

 

 サイトの問いにルイズは少し顔を伏せた。

 

 「何もしなくていいわ。この一件は私に責任があるわけだし、アンタが普通じゃないことはわかってるけどそれでも相手はメイジよ、軽い怪我じゃ済まないわ。逆にアンタに勝ってもらいたくもない、決闘自体が無意味なのよ。どんな形でも私が責任を取る」

 

 ルイズの決意に満ちた表情を見て、サイトはフッと少し笑いおもむろに彼女の頭を撫でた。

 

 「優しいんだな」

 

 急に頭を撫でられたルイズは顔を赤らめながらサイトの手を振り払った。

 

 「ちょ!何すんのよ! べ、別にアンタやギーシュなんか知ったこっちゃないわ! ただこれ以上問題を大きくしたくないだけよ!」

 

 顔を真っ赤にしながらルイズは全力で強がった。父親以外の男性に撫でられるのは初めてだった。

 

 「マスターが頭下げんのは一回でいい。決闘を申し込まれたら受けてやる」

 「あ、アンタ私の話聞いてたの?私は…」

 

 ルイズの言葉を遮るようにサイトが手をルイズの前に出した。

 

 「まあ聞けよ。これはいい機会なんだ、俺にとってもマスターにとっても」

 「どういう意味よ?」

 「殺意をもったメイジと戦えるなんて中々無いことだろ?俺はまだここに来て日が浅いんだ、本気のメイジが俺にとって驚異となり得るのか測れるチャンスなんだ。マスターだって念の力がどれ程かより知っておきたいだろ?」

 「それは…確かに知っておきたいけど…」

 「マスターの言いたいことはわかってるよ。安心しろ、アンタの心配する通りにはならねえからよ」

 

 そして現在

 

 ルイズの予想通りギーシュはサイトに決闘を挑んできた。そして手筈通りサイトは決闘を受けた、しかしルイズは不安だった。サイトはギーシュに手は出さないと言っていた。

 前に自分にやったようにオーラをぶつければ触れずに勝つことは可能だろう。でも、そのやり方じゃ不信感を抱かれるのは必至、一体サイトはどうしようというのか。

 本来、メイジに平民が勝つことは不可能だ。メイジ殺しと呼ばれる者も僅かにいるが、そのほとんどは入念に相手を調べ対策した上で、不意打ちや闇討ちといった奇襲で戦う。今のサイトのように準備もなく、決闘というやり方では勝機は無いに等しい。

 ここに来る前にギーシュの得意とする魔法、青銅のゴーレムであるワルキューレについて説明した。しかしルイズ自身もそれ程詳しくは無いし最大何体出せるかはわからなかった。しかしサイトはそれだけわかれば十分だと言った。

 

 そしてギーシュが声高に決闘の宣言する。

 

 「諸君! 決闘だ! 諸君らの使い魔たちの無念晴らす為、僕が君達に代わり、悪の使い魔に正義の鉄槌を下す! そして必ずや勝利し、亡き使い魔たちの墓前に花として添える事を誓おう!」

 

 相変わらず大仰な身振り手振りで、演劇の役者のような物言いのギーシュを見てルイズは呆れてため息をついた。

 何が、正義の鉄槌よ。単にこれまでの私やサイトに対するうさを晴らしたいだけじゃない。私のしたこととはいえ、皆の使い魔の死をダシに使うなんてとことん最低な男ね。やっぱりサイトには徹底的にぶちのめして貰えばよかったかしら…

 そんな事をルイズが考えていると、上着を脱いだサイトが声をかけてきた。

 

 「すまんマスター、上着を預かっていてくれ。こっちじゃ手に入らない逸品なんだ、汚したく無いんでな」

 「全く、どこの世界に主人に上着持ちさせる使い魔がいるのよ」

 

 悪態を付きながらもルイズはサイトのスカジャンを預かった。そしてTシャツ一枚のサイトの上半身を見て思わず息を飲んだ。

 白いシャツから伸びる腕はマルトー程の太さは無いが、まるで幾重にも結った縄のような筋肉にうっすら血管が浮き上がっている。何より目を見張るのがそのシャツ越しからでもわかる背筋だ。過去に力自慢の学生が上半身裸で腕相撲をしているのを見たことがある、彼らも凄い肉体をしていたがサイトのそれはまるで異質で、歪と表現していい程背筋が盛り上がり、見事な逆三角形を作り出していた。

 ルイズが知る由も無い事だが、この肉体こそ、サイトが気の遠くなるような鍛錬と数え切れない程の実戦重ねてきた結晶なのである。

 ルイズだけではない、先程まで罵声と歓声で沸き立っていたギャラリーも決闘の場に立つサイトを見て、彼の纏う得体の知れない雰囲気を感じ、皆押し黙った。

 ギーシュも僅かに動揺していたが、なんとか平静を保っていた。

 

 「な、中々いい肉体をしているな、多方体術に自信有りってとこかな? しかし悲しいかな、君たち平民がそんな涙ぐましい努力を重ねても我々メイジに勝つことは不可能だ。君の努力に敬意を評し特別に3体で相手してやろう!」

 

 ギーシュが手に持っていたバラの造花を模した杖を掲げると、3枚の花弁が地面に落ちる。それと同時に地面から青い粉塵が舞い、忽ち3体の女戦士の形をした鎧人形が現れた。3体の鎧人形の手には重厚なメイスが握られている。その様子にサイトは目を見開いて驚愕した。

 

 「驚いたかい?これが僕の『戦乙女ワルキューレ』だ! そして僕の二つ名は『青銅』青銅のギーシュだ。いくら君が強く肉体を鍛えても青銅の頑強さには遠く及ばない。さあゆけ! ワルキューレよ、目の前の木偶の坊を叩き潰せ!」

 

 ギーシュの命令と同時に、1体のワルキューレが素早い動きでサイトに迫った。残りの2体はサイトの背後に回り込んだ。どうやら3方向から攻撃を仕掛けるつもりらしい。

 

 正面のワルキューレ飛び上がり、サイトの脳天にめがけメイスを振り下ろした。だがそれを読んでいたようにサイトは身を躱しバックステップで距離取り、左の下段廻し蹴りを放った。ゴッ! と鈍い音が広場に響いた。

 

 速い・・!! その場にいた全ての人間がそう思った。サイトの蹴りがワルキューレに当たるまでその一連動作はルイズを含めギャラリーの誰一人捉える事ができなかった。 が

 

 「痛ってぇ~~~~!」

 

 蹴りを打ったサイトが脛を抑えて蹲りフゥーフゥーと息を吹きかけている。

 青銅の塊のワルキューレに生身で蹴り込んだのだから当然といえば当然の結果だろう。唖然としていたギャラリーから次第に笑い声が聞こえてきた。

 

 「はははは! なんだただのバカじゃないか!」

 「当たり前だよなあ?」

 

 その間抜けな姿にギーシュ腹を抱えて笑っている。

 

 「おいおい笑わせて隙を作ろうって作戦か? だとしたら少しは効果があったなあ、まあこうなるのは当然だ最初から君は負けてるんだよ!」

 

 ギーシュはワルキューレを操り体制を崩したサイトの顔面をメイスで思いきり殴った。

 

 「ぐはァッ!」

 

 うめき声を上げながらサイトは地面に転がった。

 間髪入れずに3体のワルキューレは一斉に飛びかかり、メイスで袋叩きにする。サイトはどうにか頭を抑え無様に蹲りながら防御の姿勢をとる。

 

 「もうやめてぇ!」

 

 ルイズが涙を流しながら叫んだ。しかし周りの歓声と混じり興奮するギーシュにはその声は届かなかった。

 やがてサイトのガードが下がり、顔面を滅多打ちにされる。

 そんな一方的にやられるサイトを見て、ギャラリーの一部からヒソヒソと不安気な声が漏れ出した。

 

 「ちょっとやばいんじゃないか?」

 「もう死んでるだろアレ」

 

 そんなギャラリーの声をよそにギーシュは止めと言わんばかりの全力の一撃を側頭部に叩き込み、サイトは力なく仰向けに地面に倒れた。

 それでも尚追撃しようとするギーシュにとうとう限界を迎えたルイズはギーシュに飛びかかり、押し倒した。

 

 「な、何をする!? 神聖な決闘に割ってはいるとはどういう了見だ!」

 「何が神聖よ! 倒れて動けなくなった相手に攻撃するなんて、もう決闘でも何でもないただの虐殺よ!」

 

 ルイズの言葉に我に返ったギーシュは、ワルキューレを止めサイトの方を向いた。

 サイトは完全にのびていて、ピクピクと痙攣していた。

 

 「あー…確かに、君の言う通りだな。すまなかった、僕も少々興奮しすぎていたらしい、ではこの決闘は僕の勝ちということでいいかな?」

 「聞くまでも無いでしょう…」

 「ふふ、そうか。諸君! この決闘は僕の勝利だ!」

 

 ギーシュが高々と杖を掲げると大きな歓声が上がりギーシュコールが巻き起こった。

 

 「ギーシュ!! ギーシュ!!」

 

 ギャラリー達の歓声にギーシュの高揚は最高潮に高まりうっとりと恍惚の表情を浮かべた。

 

 「諸君! ありがとう! 今夜は祝杯だ!」

 

 歓声がより一層大きくなり盛り上がりを見せるが、やがて皆帰り、広場にはルイズとサイトだけが残った。

 ルイズは倒れるサイトの元に駆け寄り、必死でサイトの名を呼び掛けた。

 

 「サイト! しっかりして! 目を開けて! サイト!」

 

 ルイズの言葉に反応するように、サイトの目がカッ! と見開いた

 

 「ヒャアァァァァ!?」

 

 サイトの突然の開眼にルイズは思わず大声を上げ、腰を抜かした。

 そんなルイズをよそに、サイトは大きなあくびを一つかいた。

 

 「ホアア…、なんだよ、目を開けて~とか言ってたのはそっちだろ? 全く…、耳元でうるさいんだよぉ、せっかく人が気分よく寝てたってのに」

 「あ、アンタ、生きてたの? その、何ともないの?」

 

 どうやら彼女は彼が本当に死んだと思っていたらしく、その余りの能天気な様子に困惑を隠せなかった。

 

 「全然平気、それより周りの連中はいなくなったか?」

 「え? ええ、皆帰ったわよ」

 「そうか、よっこらしょっと」

 

 サイトは何事もなかったかの様に起き上がり、コキコキと首を鳴らした。

 ルイズは改めてよく彼の顔や体を見る、派手に転がったせいで汚れてはいるものの、殴られた痕どころか血の一滴も流していない。

 

 「全部演技だったの?」

 「おうよ、中々上手かったろ?」

 

 ルイズの問いにサイトは笑顔で答えた。

 

 「アンタが無傷なのも、その…『念』の力なの?」

 「まあな、全身をオーラで覆って防御する念の基礎だ」

 

 サイトは落ちていた上着を拾い、パタパタと手で汚れを払いながら言った。

 

 「そう、すごい力なのねオーラって」

 

 基礎? メイジでいうところのコモンマジックみたいなものなのかしら。

 

 ルイズが考え込んでいると、広場の入り口の方からルイズとサイトの名を呼ぶ声が聞こえてきた。

 声の方を見ると、シエスタが薬箱を持って走ってきた。さらにその後ろには二人の少女、キュルケと青髪に眼鏡かけた少女が歩いてきた。

 

 「シエスタ!来てくれたのね、ありがとう。なんか余計な奴も来てるけど」

 

 ルイズが毒づくと、キュルケは意に介した風もなくフンと得意気に鼻を鳴らした。

 

 「アンタたちが派手にやられたって聞いてね~、慰めの言葉でもかけてやろうと思ったの」

 「よく言うわよ、馬鹿にしに来ただけのくせに…」

 「まあ本当は初めから観戦したかったんだけどね、タバサが興味無いなんて言うもんだから、やっと連れ出してきたのにもう決闘終わっちゃってるし」

 「それは残念だったわね。用が無いならさっさと帰ってくれないかしら」

 「言われなくても帰るわよ。ところでそこの使い魔の彼、しこたま殴られたって聞いたけど案外元気そうね?」

 

 キュルケが尋ねると二人はビクッと肩を震わせ、途端にサイトがわざとらしげに痛がった。

 

 「イタタタタタ、キュウニキズガイタミダシター、アーイテテテテ」

 「だ、大丈夫ですか!?サイトさん! 殴られた衝撃でおかしくなっちゃったんですね、早く治療しないと」

 

 サイトの超絶棒読み演技にシエスタは本気でサイトが頭をやられたと思ったらしく、さらっと酷い事を言いながら薬や包帯を取り出した。

 

 「アーダイジョブダイジョブ、トリアエズイムシツニイコウ」

 「そ、そうね、早く医務室で診てもらいましょう。そんなワケだから私たちは失礼するわ。じゃあねお二人さん」

 

 ルイズたちはいそいそとその場を後にした。

 

 「なんだったの?あいつら…」

 

 残されたキュルケはポカンと口を開け呟いた。

 しかしもう一人の少女、タバサは無表情ながら真剣な眼差しでじっとサイトを見ていた。

 

 

 


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