あと材木座の一人称を少し原作に準拠させて戴きました。
2年C組
そのクラスは総武高校でクラス編成が終わって一月程度で既に一番クラスが纏まっていて尚且つ団結していると教師陣の中では周知の事実だった。
クラス編成が決まってすぐにもう何度かクラス全員で休日にレクで花見を行ったり、炊事遠足も企画して行ったりもしているくらいクラスが纏まっていた。
それは何故か。
それは別名「勇者PT」と平塚静が勝手にそう名付けている女子三人組がいるからだ。
そんな3人は常に行動を共にし、その内二人が「天龍の楽しい学校生活を全力で守護る」努力を常に怠らないため、彼女たちがいるクラスは常に纏まっているのだ。
教師たちの間で誰がこのクラスを担当するかで影で争奪戦があったくらいで教師を勝手に楽させてくれるクラスで有名なのだ。
「なんでお前たち二人はよりにもよって私が代役で来ている時に遅刻するんだ…?」
教師陣では特に評判の良い生徒である3人のうち2人が揃って遅刻をするという珍しい事態に運悪く平塚静は遭遇した。
「すいません」
「申し訳ございません……」
「優等生のお前たちが揃って初めての遅刻なんて、なんだか理不尽に特に意味もなく教頭あたりに私の所為にされそうじゃないか」
「そうなんですか?」
「そうなんだ」
「……そういえば今回の平塚先生の代役は角川先生の腰痛が理由ですか?昨日は八十肩でしたけれど……」
武蔵がとても心配そうに言った。
三年C組の担任教師は角川文人という御年82歳のご老体だ、自分の後輩の総武高校校長に「死ぬ前に少しだけ教師をやらせてくれ」などという無理を言って、安いボランティアのような給料で倫理や道徳など歴史の生き証人な言葉で中々為になる授業をしている教師である。
角川老人はボケてはいないが体のガタが相当来ていて、いつもその立派な死にかけ具合で「この先生、いつか身をもって人の死について授業するために教師を続けているのか…?」と生徒たちをいつも戦々恐々とさせてくれる名物教師である。
武蔵はそんな自分の突然動けなくなったりする担任教師を背負って学校近くの担任教師の自宅に連れて帰ったことが何度かあり、彼の連れ合いの奥さんの好意でそのまま自宅にお邪魔して、お茶や食事をご馳走してもらったり泊まったりなどをしているうちにクラスで一番担任教師と仲が良くなっていた。
いつかの日の避けることの出来ない別れを想っては武蔵はいつもその大きな胸を痛めている。
「……今日は痛風の痛みで朝から布団から立てないだそうだ、痛風ってそんなにも辛いものなのだろうか?」
武蔵が、ほっと胸を撫で下ろす、胸が揺れる。
相変わらずデカイ、と平塚静が思っていると。
「平塚先生」
ベルファストがさっと手を挙げた。
「どうした遅刻者」
「私が軽くご説明いたしましょうか?」
「知ってるのか?そういえばロイヤルは家庭科部部長だったな……そうだな、HRの時間も少し残っているし、じゃあ軽く説明してくれ」
「わかりました、では失礼いたします」
「ああ」
指名されたベルファストはそのまま自分の席からすっと優雅に立ち上がり、教室の壇上に踊り出ると人のマークを黒板に書いて、腎臓と肝臓の絵をチョークで適当に書いた。
そして、クラスを見回してベルファストは授業を始める。
「軽く痛風についてご説明いたしますと、痛風は不規則な生活や暴飲暴食で内臓が弱ったり、プリン体の過剰摂取によって、体内の尿酸値が高まることで発症するものです。
プリン体、これは誰でも知っていますね、最近販売され始めたビールなどでよく謳い文句として使われているくらいですし」
かきかきと黒板に尿酸やプリン体と文字を書いて尿酸を分解する臓器に矢印をつけたりと、生物の授業のように話を進める。
「あんまり美味くはないので私は買わないな、あの手のビール」
「そうですか、では先生のビール事情は置いておくとして話を続けますが、痛風はそのプリン体が原因であり、症状は主に足の親指の付け根の関節が痛みだして次第に赤く腫れ上がります。」
ぎゃりぎゃりと音がする勢いでベルファストは人のマークの足の部分に赤色のチョークで丸を塗りつぶして書く。ついでに人の顔部分に苦悶の表情もつけるのを忘れない。
もう既に不穏な気配をクラス中が感じ始めていた。
「痛みは締め付けられるように強く痛み、歩くことが困難になるほど激しく痛む場合もあり、まさしくその病名通り、風が吹くだけで痛む、と言ったもので、中々に怖い病気です。
予防方法としては1日400mgを目安にしたプリン体の摂取制限と何事もそうですが、規則的な生活、バランスの良い食事、適度な運動によって予防できます。
ちなみに平塚先生が今現在そのままの生活を送り続けた場合2年後に軽い前兆があると思いますのでご注意を―――以上、本当は怖い家庭科部部長の医学でした」
ご清聴感謝いたします、とベルファストが頭を下げるとクラスの何人かがぱちぱちと拍手した。
「聞いて後悔した…………軽い説明なのに事実がくそ重い…そしてあと2年後とか具体的すぎる、本当に怖いんだが…」
「あと補足としては成人前発症の可能性が高いのは、このクラスでは材木座君、谷口君が可能性が高いです」
ベルファストの溜弾のような不安の投下はまだ続いていた。
材木座という名前の太った生徒と特に特徴もない顔が特徴の坊主頭の生徒が悲鳴をあげた。
「わ、我!?」
「え!?……材木座はいいけど、嘘だろ……俺も…なんで、野球部だぞ俺…?好き嫌いしないぞ俺……?」
「我はいいのかよぅ!?」
「だってお前―――デブじゃん?そういうのなりそうだろ?」
「ひどっ!?」
「今朝も京極堂夏彦みたいな穴あきグローブな材木座君は見ててそのまま将来メタボリック・デスですが、谷口君の発症原因は姿勢が悪いのが原因です、そう、その椅子の座り方です、とても肝臓や腎臓などの内蔵へ負担をかける姿勢でとても体に悪くて良いです、将来は急性膵臓炎あたりの世界三大激痛で悶え苦しんで死ぬくらい良い姿勢です」
「メタボリック・デス………なんか必殺技っぽくて怖い…吾輩死ぬの?」
「そのまま将来太り死にだろ?…俺は全然良くねぇ……なんでわかるんだよ……」
「私から言えることは一つだけです、どうせいつか人間死にますので―――大丈夫です」
『……っ!?』
悍ましいほど神々しい笑顔でベルファストはそう言った。
教師とクラスメイトたちはベルファストのその神秘的なほどに美しい容姿による酷薄な笑顔に怖気を感じ、寒気を感じて静かに慄いた。
天龍はそんな彼女に「どうでもいいけど、遅刻した癖に全然悪びれもせず堂々としてんなぁ、ベルは」とか思って窓側の席で窓の外の植木の枝にスズメが可愛く跳ね回っているのを眺めていた。
「ベルファストさん、あんたは死神かなにか?」
何が一体大丈夫なのか、とクラスの誰かが代弁してそういった。
「そう見えます?」
ベルファストはニコッと代弁した男子生徒に可愛くウィンクする。
ウィンクされた男子生徒はさっと顔を青くする。
相変わらず、なんかこえぇえな、と誰かがぽつりと呟いた。
「ベルファスト、最後のそれは悪質な宗教がよく言う台詞じゃないか?……今のようなほぼ確定した未来をさも神秘的に言う場合によるが」
そのままにしておくと、ベルファストがクラスの人心を乱しまくるのでそれを止めるために「お前のその神秘的な面だと洒落にならんからやめろ」と武蔵は言った。
「ええ、よく知ってますね、武蔵」
「お前といると知りたくなくても知ってしまうんだ……悲しいが」
「こういう風に怪しい宗教はつけこんできます、という見本もついでにこなしました、これにて講義終了です」
「中々良い講義だったな、攻撃力が高い感じだ」
「というわけで、5年後痛風確実の平塚先生、少々よろしいでしょうか?」
「なんだロイヤル…今、心が盛大な取り込み中なんだが?―――っ5年後ってなんだ5年後って!?確実ってなんだ!?予言までする気か!?」
「基本的なことだよ、ワトソン君とでも言いましょう」
「は?」
「つまり、これはただの診察です、そして今回のDr.ベルファスト・大樹・ロイヤルの診察料は有料であり、診察料金として今の遅刻―――チャラでお願いいたします」
ああ、その為にか、態々こんなことしたのか、とセコイなベルファストと武蔵は思った。
HRに遅刻しておきながらその遅刻を無しにするためにHRを丸々潰してしまうとは。
そこまでなのか?
「そんなに皆勤賞が欲しくなってきたのか?」
「別にそこまでは欲しくはないですけれどもたった一度のミスで逃すというのが悔しいので」
「皆勤賞の景品の図書券1000円分のためじゃないんだな、お前そういうの大好きそうだからと思ったのだが」
「ああ、それは天龍にあげたいですね」
「へ?」
ちょいちょいと左手の指を曲げたりして、自分を見ていたスズメが不思議そうに首を傾げているのを微笑みながら眺めていた天龍が驚いて顔を教室に戻す。
「ああ、私も天龍にあげようと思っていた…ああ、悔しいな…たしかに…なんで私はいつもドジなんだ……」
武蔵も心底悔しそうに言った。
3年間ありがとうの意を込めてプレゼントする予定の筈だったのだ。
「やーい、このドジっ子」
正直言えば、今、かなりイラッとさせられたが武蔵は素直に頭を下げる。
「ああ……すまなかった、そしてもう二度とないように気をつける」
「これで遅刻はなしでしょうし、次回から気をつけてくださればそれでいいです」
「ああ、しかし、そもそもお前がとか言いたい気もするが、それはお互いの失敗ということで水に流しておこう」
「ええ」
「…なんだよ二人して」
そんなことを言い合う二人に恥ずかしそうに天龍はそっぽを向いた。
ほんと可愛いです天龍。
ほんと可愛いなぁ天龍は。
と言葉にせずベルファストと武蔵は内心そんなことを思いながら顔を緩ませていた、まるで可愛い姪子をみるようなおじさんのような気分で。
「勝手に遅刻をなしにしようとするな―――駄目だ、二人共遅刻にしておくからな、きっちりと」
相変わらず本当に仲いいなこいつら、と思いつつもそれでも無情にも平塚静はそう言った。
えーっという一部ブーイング。
「やはり駄目でしたか、わかってましたが―――では最後に、谷口君の場合、部活などの激しい運動後は常に普段の気持ちコップ一杯分程度多めの水分補給をすることで多少の予防ができますので、覚えておいてください」
誰が何を言おうと角川先生は遅刻者をそのまま5分間必ず廊下に正座をさせるので、平塚先生で助かりました、とそのままベルファストは潔く壇上から降りて自分の席に戻っていく。
「さっきのってまじ?」
坊主頭の男子は先程のアドバイスの真偽をベルファストに伺った。
「ええ、最初は八つ当たりと悪あがきでこのようなことを言いましたが、これは全て本当です―――どうか私を信じてください」
席に戻る途中、クラスメイトの谷口に席に近づいてそう言うベルファスト。
真摯な声音が薄藍色の瞳と共に発せられて男子生徒のハートを貫く。
まるで勇者たった一人に世界の救済という無茶な要求を願う女神のようだった。
「――っありがとうベルファストさん!今日から俺、気をつけるわ!」
「そう、それ、それが悪質な宗教のやり口だ、騙してないが、騙されるな谷口」
既に谷口が悪徳宗教ベルファスト教の信者になりかけていたので、それは注意する武蔵。
「悪質な宗教はここから金銭を巻き上げたり出来るように科学的なアドバイスはせず、さらに心理的な誘導をしますが、私はしませんよ」
ベルファストはそう言いつつ教室の後ろの廊下近くの端の席に優雅についた。
「わ、我は!?」
誰か忘れてない!?と必死にベルファストの横の席に座っている1人の生徒が声を張り上げる。
顔を横に向けず前をみたままベルファストは言った。
「貯金を崩してライザップにでも通えば治ります」
「うわぁい、ぶん投げられたぁーしかも高額ぅー!?」
「まぁ材木座はなぁ、ちょっと自業自得っぽいからしょうがないよな――頑張れよ」
「天龍殿まで!?」
クラス中で笑いが起こる。
本当にいいクラスだな、と平塚静はうんうんと頷いて、最後に。
「ロイヤル」
「はい?」
「お前はあとで職員室な」
「わかりました」
少しやりすぎたか、とベルファストは思った。
「……あとでもっと詳しく説明してくれ…………あと他のも何かあるなら教えてくれ……」
暗い表情で平塚静はそう言った。
「ええ、その他にもまだいくつかございますので、放課後にでも教えいたします」
「まだいくつかあるのか……はぁ…怖いなぁ、じゃあ、HR終わりな……はぁ……痛風持ちなんか誰も貰ってくれないよなぁ……」
そう行って平塚静(独身)は哀愁を伴った姿で教室のドアに手をかける。
「先生」
「なんだロイヤル、まだ何かあるのか?」
「先生はまだお若いので、少々気をつけるだけなのですから、そこまで怖がらなくてもよろしいのでは?」
「本当かっ!?」
「ええ、本当です―――なので遅刻の取り消しをお願いします」
「ああ!いいぞ!――というと思ったか、駄目だ」
「くっ……やはり、手強いですね」
「ふっ舐めるなよ、小娘」
そう言ってクールに平塚静は教室から去った。
「なんかバトル漫画っぽくていいな、今の……私もやってみたいな」と天龍
「最後の場面だけならいいが、他のはやるなよ?」と真剣な武蔵。
「いや、しねぇよ……つか出来ねえ、そもそもどうやって他人の姿勢が内蔵に悪いとかわかんだよ…あと諦め悪すぎるだろ、ベルは」
「色々と真面目に10年近く欠かさず様々なことを勉強しましたから……あと昔の医者はもっと凄かったそうですよ、シャーロック・ホームズのモデルは実在した医者ですし」
「へぇーそういうものなのか…でもすげぇな、ベル、ちゃんと努力してんだなぁお前も」
「ふふ、ありがとうございます、天龍、その言葉が私の努力への十分な報酬です」
「そうだな、そういえばメイド的にはそういうのはどういう感じなんだベルファストは」
「その努力の片鱗すら見せず口にせず、静かにただ侍るのみ―――それが完璧なメイドです」
二話 ああ、テニヌ
「いや、それがストーカー染みててヘタレぽんこつっぽいんだよ……おまえ、努力の方向が可笑しいし、侍ってもいないだろう」
「やはり、そう思います?……こうやって静かに見守ってるのは…やはり…そう、ですよね」
4時間目、体育の授業、別のクラスとの合同での授業中、二人組でラリーや試合をする授業内容なのに別のクラスの1人の男子が孤独に壁打ちテニスをしている。
それを先程からずっとじっと静かにちらちら見ているベルファストに武蔵は言った。
「材木座、もうちょいしっかり走れ!オラァ!」
「ひぃ!」
「次は俺な、俺が材木座を走らせてやる、この一時間で1キロは減量させてやる」
「なんか我いじめられてない!?」
「虐めてない、虐めてないギリギリ取れる打球だぞ――――走れこのデブ!」
「虐めだぁ!これ拷問!」
普段体育で二人組が必要になるとしょうがなく組んでいる筈の1人が、クラスの雰囲気が良すぎてぼっち連盟を勝手に脱退してしまったので、件の男子生徒はさらにぼっちっぷりを加速させていた。
しかしそれにしても異様なほど上手な壁打ちだな、と武蔵は思いつつもベルファストに言う。
「声をかけて組んでこい、行って来い、お前なら別に不思議じゃない」
もじもじとテニスラケットのガットを爪でガリガリしながら「ああ、お一人でなんてお上手、ああ」とか呟きながら恍惚と彼を見ているベルファストは正直、気持ち悪いのだ。
「そうですか?…迷惑になると思いますが」
「お前の謎のマイペースっぷりは校内で有名だから、あの少年も後から嫉妬もされないぞ」
武蔵は何をしてるんだこいつは、もう少しで別の女に惚れてしてしまう時期だぞ、今年は。と原作とやらを思って原作を全く知らず、そして教えていないので何も知らないベルファストを急かす。
「し、しかし…ですね、その…………そんな、畏れ多い……」
「なにが畏れ多いのか、お前の方が向こうからすると畏れ多くて近寄りたくないほどの美少女だぞ?」
「近寄りたくないと思われている……だから、声をかけれないんです、1年も、というか武蔵も全然自分の提督に声かけてないでしょう」
「私は別に平和な内は縁がなければそのままの方針だ、一応気にはしているが、お前のように指揮官を見つけても狂おしい本能とやらに悩まされてもいないしな」
もし、彼にいきなり「今日からお前は俺のカキタレだ」とか言われても喜んで即座に受け入れるレベルで彼女はその本能に狂わされているそうだ。
なんでも、この世界の艦娘とやらは自分の提督を見つけると身も心も預けたくなるくらいに惹かれるらしい。
やはり原典での提督ラブ勢はその原典通りのレベルで無償の愛情を提督に持ってしまうようだ。
別ゲーだが、ベルファストはアズール・レーンにおいては体を連続でタップしても怒らないくらいのラブ勢だった。
他の例だと軽空母鳳翔は自分が艦娘に覚醒する前からとある父子家庭の少女の面倒をまるで母のごとく見ていた。初めて出会った時からどこか眼が離せない気持ちがあったという。
最近はその女の子の深夜アニメの鑑賞やネットゲームなどに付き合って毎日が寝不足気味と本当に嬉しそうに言っている。
「埼玉に泉こなたがいて……那珂たち三人は346の武内P――――なんだろうなこの混ざり具合は」
天龍以外はまだそのへんあたり提督との「契約」はしていないが、大体皆、運命の如く自然な関係を自分の提督との間に作り出していた。中々不思議な世の中だ、艦娘の絶対数が少ないからかまるで一対一のパートナー制のようにも感じられると思いながら独り言を口にする。
四人、か。
大淀、鳳翔、武蔵、ベルファスト。
この四人しかいない前世持ちの艦娘でオタクといえるオタクは武蔵だけだ。
リーダーである前世から女性の転生者の大淀はアニメとpixivで艦これという世界を眺めていたくらいで殆どプレイしていない。
ゲームは無駄に時間がかかるだけで全然ストーリーがないからつまんなかった、だそうだ。
だからか特に大淀はよく二次創作における所謂「ブラック鎮守府」を酷く恐れていて、そうならないように只管50年かけて権力と金を集め続け、未来知識で凶悪なまでのインサイダーを繰り返して遂には世界でも長者番付ベスト10にも入る大金持ちになってしまった。
アマゾン、yahoo 、楽天、ソフトバンクの儲けを自分の会社で先取りし、フェイスブックやラインすら未来からの知識でその発明を奪ってますます資産を増やしている。
最近はそもそも艦娘の力なしで「敵」と戦えるように現在アメリカで研究されているドローン兵器やパワード・スーツなどの小型兵器開発に資産を投じたりしている。
そんな大淀は何も私たちに強制はしない。
私の戦闘訓練も元々自主的であったし今現在、天龍が唯一艤装を展開することが出来る艦娘であっても、力の研究のために天龍の平和な日常の時間を奪うようなことをしていない。
むしろ天龍のような不幸の下に産まれたように両親に虐待され片眼を失いながらもそれでも死に物狂いで自分が化け物であることを受け入れながら強く明るく生きている少女の幸せを守ろうとしてくれている。
初めて学校に通うという天龍を人の悪意から守らせるためにこの高校に私を入学させたのは彼女だ。
既にもう私は天龍に心底メロメロでむしろこちらから頼みたいくらいであるが、大淀は本当に私達の人権と命、そして心を尊ぶ優しい女性だった。平和ボケと言えば平和ボケだが、結局のところ、たかだか14人しか居ないのに日本の防衛に対しての責任を取るだなんて不可能なことに彼女は気付いていた。いざという日は戦わずして自分が守りたいものだけ逃してそのまま艦娘の存在を世間に知られずに隠れることを私達に厳命している。
もし、今日から敵がきても最早私達の出撃を彼女は考えもしないだろう。
もう、他人が何人死のうが、しらない。
私達が必死に知らない他人のために戦うなんてナンセンス。
知らない人たちも私達を助けないだろうし。
これはお互い様。
ハッキリとそう言い切る勇気が彼女にはあった。
それは10年前に起きたベルファストに間違えで行われた私の暴力を見て戦いという行為のおぞましきグロテスクさを目の当たりにし眼が覚めたのだと彼女はよく言う。
戦いという行為は華々しくもないただの悲しい暴力だった。
そう命を賭けて帰ってきた私と鳳翔に涙ながらに謝罪したのを覚えている。
そもそも、なんで私達が戦う必要があるのか、もう黙って戦う義務がある人達に任せておこう、私達は私達の為に生きよう、それが彼女の現在のスタンスとなった。
たまにやる訓練もただの本当のストレス解消目的である。
最早、何も益もないのに私達艦娘にお金や不動産や会社をほいほいプレゼントしようとするので正直普段は会いたくない人になってしまった。
なんというか自分と他の艦娘との縁をお金で取り持とうとしているようで、その様はまるで寂しい独居老人。
「いつか艦娘詐欺に遭いそう」とはベルファストの談。
そして鳳翔は今世にて初めてゲームやアニメに触れたという珍しい人であった。
前世ではスポーツ観戦が趣味だったらしい。
そんな彼女はあの泉こなたの父、泉そうじろうとくっつきそうでくっつかない、そんな端から娘が見ていていじらしく思うような静かなめんどくさい恋愛を繰り広げていると泉こなたから直接武蔵は愚痴られるのを聞いていた。
一番TS転生者の醍醐味を見ていて感じる。
なにせ女に産まれて34年経っても未だに生娘のような人だ。
「しかし謎だ…もしかして私たちには特になんの理由もないのか……そもそも、いや、どうだろうか」
いつのまにかそんか考えが口に出ていた。
「なにが謎なのでしょうか?」
こいつはメイドが登場する作品以外あまり興味ないし、そもそも艦隊これくしょんを知らなくて残念だな、と思いつつも此処一年でとても人間らしくなった目の前の少女に激を飛ばす。
「謎なのはメイドとしてのお前の行動だ」
「……なにがでしょうか」
「此処一年、主人を全く助けてないぞお前は、メイドがそれでいいのか?――メイドは主人の為にあるんじゃないのか?」
毎日彼との怪しい妄想を繰り返しては自分のヘタレさを慰めているだけで、何もしようとしていないベルファストに武蔵はそう言った。
「――――う、しっかり暇があれば見守ってましたから!去年みたいに車に轢かれたりしないようにとか、あと転ばないように校内を普段から綺麗にしたりとか…あとは、えっと」
「それがストーカーなんだ、去年、彼の妹に道のわからない外国人のフリして近づいて何気なく一緒に遊んで情報収集したりとか、最早、危険域のストーカーだぞ?暗殺対象を長い年月をかけて観察している途中の暗殺者か何かか?GPSや盗聴器とか視野に入れ始めてる時点で相当だぞ」
それは犯罪だぞ、お前、と武蔵は冷たく言う。
そして
「本当に好きなんだな…お前」
「……」
顔を真っ赤にしてベルファストは黙りこんだ。
乙女な表情だ、これが恋する乙女なのか。
真面目に攻略しようと思えば、攻略できるのにそれをいつまでたってもベルファストはしない。
もうイジイジそわそわとしてもう「なんでもいいから見てて鬱陶しいからいい加減にしろ」
「それが本音でしょう!?」
「鬱陶しい、かなり鬱陶しい、お前が鬱陶しい1人のメスの顔をしているのをいつも見てしまっている私の為になれ」
「め、めす……っ!?」
「一緒に暮らしてた時、発情した猫みたいで正直夜はいつもうるさかったぞ、お前」
彼と出会ってからはほぼ毎晩らしい。
「え………そんなメイド!」
「なんだその悲鳴…」
「ボール、毎度の武蔵のノーコンで結構遠くに飛んでたわ……ん?なに見てんだよ二人は、あ、もしかしてアイツがベルの?」
そんな会話をしていると、遠くに飛んでいったボール探して持って帰ってきた天龍が二人を見て言う。
「そうだ、あれが、ベルファストのご主人様だ」
「………なんだ組むやつ居ね―のか、でもなかなか壁打ちはうめぇじゃん、私らも3人で無理矢理やってるからちょうど良いな――――――おーい!そこのやつ!こっち来いよ!一緒にやろーぜ!」
「え、え……!?」
「流石だ天龍、ナイスだ」
天龍にはベルファストもダダ甘だ、無理に止めはしないだろう。
今、無理に止めたら彼のベルファストへの好感度は底辺に落ちるだろうし。
「そろそろダブルスで勝負しようぜ?女とやるより男とやったほうが、それなりにまだ歯ごたえあるしな、ベルはアイツと組めよ」
「な、な…」
「制限はどうする?」
「今来るヤツくらいの身体能力でいいだろ、あーあ、来週の日曜が待ち遠しいわ、肩こるんだよ、こうやって制限し続けるのは…早くあいつらと海で遊びたい」
「そうだな、私もいい加減自分の全力を忘れそうだ」
「えっと…なんスか?」
気分はなんか涼宮ハルヒに声をかけられたみくるちゃんだな、今の俺は、とびくびくしながら彼女たちの前に比企谷八幡は近づいた。
そんな様子をみて、なんか、悪い気するな、と天龍は思いつつ言う。
アワワワワワ、とぷるぷるとベルファストが震えている。
四五度の角度でそんなベルファストの頭を武蔵が叩いていた。
「私ら1人足りないんだよ、ダブルス一緒にやろうぜ、お前はベルと組めよ私はハンデで武蔵と組むから、負けた方はあとで腕立て300回な」
「さ、300回…」
それだけで体育の一時限潰れる拷問のような罰ゲームだった。
なに、初期の闇遊戯の闇のゲームなのこれ?
即効魔法お腹いたいを八幡は使いたくなった。
「キツかったり嫌なら減らすけど、やっぱ負けた方はペナあった方が燃えるんだよなぁ」
「300回はやめておけ、回数が軍隊の特殊部隊並だから」
「じゃあ、何回くらいがいいんだ?どう思う?ベル」
「勝手に……」
「ん?」
「勝手に好きに決めてやれば良いんじゃないでしょうか?――――私、一切負ける気ありませんから、お好きにどうぞ?」
あまりにもな、天龍の美少女ムーヴにいい加減に腹が立ったようで、ベルファストは静かに冷たく言う。
「へぇ、言ったな……ベル」
「言いましたよ、それが何か天龍」
「へぇ、私にも喧嘩売ってくれるんだな、嬉しいぜ」
心底嬉しそうに天龍は笑う。
天龍にとってベルファストは自慢の姉のような存在だが、こうやって対等に勝負がしたくなる時もあるのだ。
「喧嘩?いえ―――蹂躙ですよ、それに先に喧嘩を売ったのは貴方でしょう天龍」
「フフ、そうなのか?そんな気はなかったけどよ」
「ふふ、面白い……ですが無謀ですよ、天龍…本当に無謀な勝負ですよ、これは」
「は、無謀なほど燃えるんだよ、私は」
二人は互いにラケットを刺すように向け合い睨みあう。
やはり血の気は本当に荒いんだよな、私たちは、と武蔵は思った。
戦闘艦の魂の似姿をとっているからだろうか。
戦いを挑まれると、艦娘は皆人が変わったように見えるくらいの闘争心を持つ負けず嫌いばかりだ。
「なんかいきなりヤバイくらい険悪なんですけど、なにこれ俺巻き込まれてんの?つうかテニスする気あんの?この雰囲気は殴り合いまである」
「あー………比企谷だったか?なんかすまんな、なに気にするな、いつもの可愛いじゃれ合いだから、普通にテニスをするだけだ」
「あ、氷川さん、ウス」
身長186センチの大柄の褐色肌美人に八幡はまるで舎弟のような挨拶をした。
「―――ウスじゃないが、そういう挨拶しないで欲しいんだが、普通でいいから、普通で…この前ちょっとすれ違った時に肩がかすっただけの下級生に泣きそうな顔で謝られたのが地味にショックで、そういう畏まった感じ、やめてくれほんと」
「…………あーよろしく」
女でその大きさは色々大変なんだろうな…と思って素直にそう言う八幡。
「そう、それでいい、武蔵と呼んでくれ、あと比企谷の下の名前は八幡だったか?」
「そうだけど…」
「良い名前だ、八幡、聖なる弓の武神で有名な誉田別命の別名だ、生まれる時に両親が八幡宮で祈願し名付けられたのかな?」
「……らしいっすね」
「私の場合は氷川、氷川というのはスサノオを意味していて下の名前は武蔵、つまり、私の名前はそのまま武蔵の国のスサノオなんだ、だからこちらは仲良くお互い武神勝負と行こうじゃないか」
「へー詳しいんだな……やっぱり自分の名前でそういうの考える時期って女子でもあんだな…」
八幡は自分の黒歴史を掘り起こされた気がするが、それを武蔵は誇らしいことだと言うように。
「誰しもそういう時期はあるさ、そしてそれは恥ずかしいことでもないんだ、自分自身の無限の可能性を信じられる未熟な若さの証なんだよ、それは、そして今になって後悔したのならばそれは成熟した大人への一歩とも言える大切な記憶なんだ」
「そういう風に考えるなら、変でもないのか…そういう考え方もあるんだな…」
「他人に迷惑をかけて、自分でそれをただの恥ずかしい過去にしてさらに蓋をしてしまって強く信じて抱いていた時の感情を忘れてしまう場合が多いがな……それに私の場合はまだ本気で信じて続けている」
「……なにを?」
「過去、ただの乱暴もので他人を間違って傷つけた人間が未来は正しく、強く、そして優しく、身も知らない他人の為に命をかけて戦える者になることをだ、スサノオらしくな」
それが出来るようになるまでは今の私には本当の名前がないんだ、と武蔵は言った。
そんな不思議なことを言う彼女に比企谷八幡はある種の共感を感じた。
「武蔵、なにを格好をつけてるんでしょうか、たかが4時間目の体育で―――ではよろしくお願いいたします、比企谷、くん、まずは握手を」
軽々しく年三回くらいほじくりかえせるほどにこいつは簡単に私を許してくれてしまって、それが少し困りものなんだがな、なんて言葉が八幡の耳に聞こえた。
過去に武蔵は傷をつけたのだろうか?
そんなことを八幡は思った。
「あ、ああ……えーっと」
八幡が握った手は陶磁器のような白く滑らかで冷たい手だった。本当に綺麗な細い指の女の子の手だった。
そして八幡は素直にエロスをその手に感じたのだった。
「ベルファストとお呼びください、貴方に勝利が掴める場所へと手を引いて連れていく者の名です」
「えっと」
「イギリス流のご挨拶です、日本人はそういう洒脱さが足りませんね、こういう場合、そのまま格好をつけて返して良いのですよ」
くすくす、と八幡の手を握ったままベルファストは笑う。
とてもそんな上品な良い匂いがする女の子に恥ずかしげに言葉を返す八幡。
「あーそうなのか?」
「そうですよ、では次回に向けて何か考えておいてくださいね」
ゆっくりと彼女から八幡が手を離すと、彼女から最後に少し力が込められて離れる、名残惜しく、まるでもっと繋ぎたかったとでもいうかのように。
八幡は正直かなりドキリとした。
なんというか全てにおいて眼が離せなくなるような気がするような蠱惑的で暴力的な人外的な仙女か何かのような色気がベルファストにはあった。
それをみて、天龍が声を張り上げて割りいるように言う。
「そして私は天龍だ、楽しくやろうぜ、べつにお前に迷惑かけるつもりで呼んだわけじゃねぇからな、一緒に楽しくやるために呼んだんだ、適当にみんなでやろうぜ、よし、私からサーブな、私のツイストサーブを見せてやる」
「あれ天龍あなた打てましたっけ?」
「それっぽいのは打てる」
「ならば、私のライジング・ショットを魅せましょう」
「出来んの?」
「ボールが地面にバウンドした瞬間に打ち返すだけで出来ますよ」
それだと、ただ、ネットしまくるのでは?と八幡が言おうとするとベルファストが八幡に可愛くウィンクする。
なるほど、と八幡は理解した。
心理戦か、勝負はもう始まっていたのだ。
ライジング・ショット、その名の通り日の上がりを意味する打球だ。
正解はボールが地面をバウンドして一番高くなった時に打ち返すのだ、ライジング・ショットは。
「あ、私にもできそうだ、それ、ちょっとこの勝負でやってみるかな?」
「案外難しいですよ?私には出来ますけど…天龍は出来るのでしょうか?」
「舐めるなよ、やってやる、おーい!そこのコート貸してくれ!これはガチの真剣勝負だ!頼む!」
天龍が挑発に負けて、ダブルスの為にコートを空け始めていた。
これは負けたな、と既に武蔵は敗北を悟った。
あまり天龍を騙すな、と武蔵は思ったが、それはそれでこんな子供騙しに引っ掛かる天龍が可愛いので黙っていることにした。
そして静かに八幡に武蔵は言う。
「適当に普通にやってれば勝てるぞ、天龍はもうベルファストの策に嵌ってるからな」
「はは」
八幡はつい口から笑いが出た。
普通に面白くて笑ってしまったのだ。
その後ろでベルファストが恍惚と蕩けるような笑みを浮かべているのを武蔵は見なかったことにした。
そして私はノーコンなのだと武蔵は八幡に言った。
「私は天龍のハンディキャップだ」
無駄に男らしく腕を組んで、少しカトキ立ちだった。
というよりもガンバスターのような立派な仁王立ち。
ジャージを肩で棚引かせトップを狙えそうなレベルで格好いいな、この人、と八幡は思うが。
「私は天龍の勝負を熱くさせることができる立派なハンデなんだ」
「それは、そんな自信満々に言えることなのか…?そんなハンデ扱いされて嬉しそうにしてていいのか」
「天龍が楽しければ、それでいいさ、いくらでも自主的に足を引っ張ってやるさ」
「いや自主的に足を引っ張りはするなよ!?頑張れよ!?ちゃんと!まじで頑張れよ!?」と天龍が聞こえていたのか慌ててそう言う。
「比企谷くん」
「ん?」
そんな面白い二人を見ていた八幡の名前を肩をつんつんと指でつついて嬉しそうにベルファストは呼んだ。
「武蔵のノーコントロールな108式波動球にだけは注意してください」
そして鬼気迫る顔でベルファストは八幡に続けて言った。
「危ないな、それ…まじで」
「そうです、かなり、危ないんです、まるでゴリラの破壊光線級です」
「ゴリラは破壊光線出さないだろ」
「武蔵はただのゴリラじゃありませんから、スペース・ゴリラです」
「また人をゴリラ扱いかベルファストいい加減にしろ…怒るぞ、いい加減」
流石の毎度のゴリラ扱いに武蔵は腹を立てていた。
「言い訳不能でしょうに、なんでそんなに球技になると力加減が超弩級にヘタクソなんですか?」
「去年は窓を2枚割っただけで済んだぞ、そこまでではない、それに私は元から超弩級だからしょうがないだろう」
ヤケクソ気味に、武蔵は虚しい声でそう言った。
前世でも武蔵は球技が苦手だった、多分それを強くてニューゲームして引き継いでいるんだろう。
「バドミントンのシャトルで内窓外窓の両方に綺麗な穴空けてましたね、そういえば、器用な何かの技かかってましたねあれは…そうですね衝撃を一点集中させる系のやつでしょうね」
「オートでかかってしまった―――何故か」
何故かスペース・シャトルが、横に勢いよく発射されて事故ったようでしたよ比企谷くん、わかりました?こうしてテニスコートが丸々一つ私達の為に空くくらいなんですとベルファストが言う。
周囲が一つ分さっとコートを空け始めていた。
退避ー!退避、退避ー!とC組の男子たちが叫びながら疲れてへばっていた材木座という太り気味な生徒をずるずると引き摺って運び始めていた。
空襲でもこれからあるのか?と八幡が所属しているクラスはのんびりと不思議そうに、その異様な光景を見ているが大丈夫なのだろうか。
「だからいつも、一人足りないんだよなぁ」
天龍が球技になるといつもこんな感じだと無邪気に笑ってそう言う。
「理解したわ」
だからか、綺麗所しかないと有名なこの三人組の中に男子が一人居ると言うのに全くそのことについて嫉妬もなく、C組の人間全員が俺を生け贄かなにかを見るような同情した視線を送っていたのは、と八幡は納得すると同時にとてつもない程の身の危険を感じた。
ああ、テニヌ。
ぼっちな壁打ちをしていた俺の近くの距離に三人がいたのもそういうことか、なるほど、そして嬉しそうにこっちをみて引き摺られたまま腕伸ばして親指立てるな材木座、と八幡は睨み返した。
「んな元気あんなら自分で歩けよ!」と蹴られてる。
ああいう扱いされるくらいならぼっちの方がまだいいわな…と八幡は思ったという。
今回もご拝見まことに感謝感謝のタラスクタラスクです。
義務ブル……う…AP半額……止まるんじゃねぇぞ…ししょうも、ころぉもこれからあるんだからよ…。