お前がベルファストになるんだよぉ!   作:みさりつ

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ネタ回
そして様々な実験回。
様々な設定もぶちまける回でもあります。
作者の好きな多重クロスってこんなのという性癖をバラす回。



三話 なんて素敵なジャパニーズ 後編

放課後。

 

 

「なんか誤解みたいだったコウ!メイド長が作った部活じゃなかったよ!奉仕部!」

 

私は放課後ダッシュで白い紙袋を携えて別クラスの男子の下に駆け込んだ。

下手な女子高生では太刀打ち出来ないほど可愛い男子である二年F組の戸塚くんの双璧と謳われ、女装をしなくても女装。あの三人が率いる家庭科部に居ても男子から嫉妬をされない、そんな私の幼馴染にしてかなり性格が悪いことで有名な三条煌の下にだ。

 

もう気分は「勝訴」か「号外!号外!」みたいな感じ、これで学校の一日の最後を締めくくれるなんて最高な感じ。

放課後の教室で結果発表を静かにお菓子のレシピ本を読んで待っていたコウの前に立って、私は早る声で伝えたのだ。

 

結果、誤解であると。

だが、そう伝えたというのに、コウの可愛らしい顔の表情は優れなかった。

何処か腑に落ちない表情、そして私の手に在る賄賂として用意していた赤いシールで蓋をされていた白い紙袋に細い指を差す。

 

「そうか、で、誤解だったのはわかるけど……鳴海、お菓子は…?北海道に居る数少ない友達から友情ポイントを使って商品交換して手に入れたお菓子の2つは?」

 

代りに松戸市の八柱ピーナッツ送ることになって、もう、これからは餓死を覚悟するくらいお金がなくなってしまったんだけど、誤解ならあげなくてよかったよね?

誤解で済んだのなら賄賂にせず僕が持って帰ってそのまま近所の斉藤のおばさまに高く売りつけて回収するつもりだったんだけど、とコウの指が震えていた。

 

「これだけど?そのままだよ?」

 

白い紙袋をコウに返す私。

その赤いシールで閉じられた紙袋を開いて見たコウが、額に手を「考える人」みたいに当てて「あー」と言う。

 

「やられたか……鳴海に頼った僕が悪かったか……」

 

「え?」

 

そういえば、と私は思い出す、そもそもすぐ渡せるように、紙袋の口のシールは私は外していた筈…でも重みはあった、ならお菓子は確かに…と、私もコウが持った白い紙袋の中を覗き込んだ。

 

「あ」

 

紙袋の中身がすり替わっていた。

 

 

北海道のお菓子から、何処にでもある今日の夕飯の材料に変わってしまっていた。

じゃがいも、人参、玉ねぎがカレー用に綺麗に切ってあるものがビニール袋に小分けにしたのと、そして林檎と蜂蜜が入っていることが有名なあのバーモントカレーのカレールウ。

 

「これであとは豚肉でも買えばちょうどカレーライス作れます」みたいな中身に変わっていたのだ。

 

まるでガンガンの漫画「鋼の錬金術師」の国家錬金術師が使う魔法のような錬金術の如く。

 

そう、等価交換されていたのだ。

 

「いつのまにか……別の物質に錬金術で等価交換されていた…?」

 

「これ全然等価交換してないから、大分お菓子よりも安いものと変わってるから…鳴海は代償で真理に何を持ってかれたの?」

 

そう言って、コウは敗北の表情を浮かべていた。

 

「楽しみにしていたノストラダムスの大予言が外れたかのような敗北感だ、良かったのか、悪かったのか……」

 

「世界の滅亡が楽しみだったのコウは?……その時、私たち幼稚園児以下だったよね……幼馴染やめよっかな、やっぱり」

 

「ワクワクするじゃないか、そういうの、で、気づかなかったの?紙袋」

 

「うん」

 

わたしこと加藤鳴海はあのメイド長が淹れたルイ14世も愛飲したという、ラズベリーの果実のような香りある紅茶を昼休みに戴いた、それはもう素晴らしい一杯だった。

わたし自身が最も体が欲するような紅茶の滑らかな味とほのかな茶の渋みと完璧な砂糖の量によって一口、また一口と、喉を通すごとに全身が花の香りに包まれていくような感覚と飲み干していく自分の吐息すら気持ちよく突き抜けていく。

 

紅茶ってこんなにも喜ばしい素晴らしい飲み物だったんだって毎度ながらにその感動を直接脳みそにぐいぐいと優しく突き刺してくるような、紅茶の奥深さを教えてくれる幸せの一杯。

 

自分がまるで花束で野球スタジアム端までぐんぐんとかっ飛ばされた気分すらしたまま、最後の一滴まで飲み干したあと、ぼけーっと「ああ、美味しかったなぁ……」と紅茶に浸ってるうちに手を引かれ、お昼休みもあと少しのところ、メイド長に学校玄関前連れていかれてしまった私。

それはお寿司をぶら下げた酔っ払いを女将さんが優しく手を引きタクシーに載せる感じの100倍は上手にした優しいメイド長の白い紙袋をぶら下げた私に対するお手引きはまるでそのまま妖精の国につれていかれるような気分になってしまい私は夢見心地だったのです。

後に教えられるのだけれど、私にお昼休みに飲ませたあの紅茶はメイド長が私から貰ったお菓子を「勘違いだったから、やっぱり、返して」と私に言われないように自身の限界まで高めた技術を使った全力の一杯だったらしいのです、人を本気でらりらりにするつもりで美味しい紅茶を淹れたそうなんです。

まさにわたしは紅茶トランス状態だったのだ。

 

確かに勘違いは解けたけど、何かメイド長のお菓子入れのスチール缶のことで腑に落ちない感じは残っていたけど――時既に遅しだったのだ。

 

あの時はまだ気づけなかったのだ、仕方がない、ごめんコウ、学校玄関前でよくやる新聞部の毎回恒例の部費稼ぎの写真を前にして、あーでもない、こーでもないと楽しそうな総武高校でも有名な仲良し3人たちの写真選びに私も付き合わされてしまって手に持ったお菓子の些細な変化に気付けなかったのです。

 

 

「鳴海、今の気分はどうかな?」

 

コウがどんよりした表情で言った。

今月は相当厳しいらしく、4日は納豆ご飯で凌ぐつもりと言ってコウはお菓子を私に預けていた。

やられた、という気はしない、私は特に損をしていないし、美味しい紅茶飲めたし。

なんだろう。

 

「浦島太郎か、パンドラの少女かな?」

 

綺麗な女神が沢山居る竜宮城から帰って玉手箱を開けたと思ったら、実はパンドラの箱を開けたみたいな気分に私は陥った――カレーセットがコウの最後の希望だ。

 

「パンドラ………これで僕に食いつなげと?希望じゃなくて予知や偽りの希望の方だったら嫌だな…」

 

まぁ2日は良い栄養になると思う。

 

「お腹すかしてメイド長の大事なお菓子勝手に食べておいて、本当に優しいでしょ、メイド長、元々あのお菓子お詫びにもってきて欲しいって頼まれたやつだし」

 

素直にお腹がすいた、といえば家庭科部のよしみであるメイド長は食いでのある食べ物を私を通してコウに用意してくれるだろうに。

あのひとは一日中しても構わないくらい家事ならなんでも好きなのだ。

 

だから何故、メイド長が一口食べる度ににっこりとするくらい大事なお茶菓子をわざわざ食べたんだか。

確かに一袋98円の中で小分けされたルマンドを本当に嬉しそうに食べているメイド長のルマンドは普通のルマンドより遥かに贅沢なお菓子になった気がして美味しそうにみえるけれど、それを邪魔しようだなんて悪の所業であるとわたしは思う。

 

もしかしてメイド長のことがコウは好きなのだろうか?つまり、これは小学生が女の子を虐めるようなムカつく求愛行動?

正直無謀なので、やめておいたほうがいい、と伝えた方が良いかもしれない。

コウのような、夢があるのに足踏みして中途半端に高校生やっているような男は男として見られてもいないだろう。

それに、どうやら好きな人がいるっぽいし。

 

「……それでも納得がいかない、とても納得がいかない、倍返し食らった気分、いつも言ってる「これがメイドの嗜み」とか言われた気分」

 

コウは紙袋に入っていたらしい上品な上質な白磁のようなメモ用紙をひらひらとさせて言う。

 

「ミルクランド家の財宝は頂戴した」と定規かなにかで書かれ、筆跡鑑定不可能な一筆が書かれたメモ用紙がコウの手にあった。

 

「うわっ…ミルクランド北海道……」

 

やり返されてる、と私は言った。

同時に、お菓子の元の持ち主まで悟られている。

だが同じ仕返しでもルーズリーフを破って書き殴ったようなコウのアレよりも上品な仕返しだった。

 

「あとこれも見て」

 

そして紙袋に張ってあったシールをコウは自分の右手の爪の上に載せて私に見せる。

 

「あ」

 

「ここまでするか……細かいな、部長は絶対にヤマザキの春のパン祭りでシールを集めるタイプだ」

 

どんなタイプなのか、と思いつつ私はそのシールを見た。

 

Here comes the 

phantom thief 

 

と、ほんの小さく筆記体英語が赤いシールに黒字で書かれていた。

こんなお洒落なシールあったかな、くらいにしか感じないほどの達筆で万年筆か何かでさらりと書いたようだ。

 

直訳して「怪盗参上」という意味である。

ここまで態々手のこんだことをやるのかあの人、と私は戦慄した。

あの僅かに私が紅茶を淹れるためにスチール缶を抱えてすっと空気の中に消えるように「ちょっと待っててくださいね」と行った家庭科準備室の中で、ここまでやってたのか。

そもそも、なんで私は渡したお菓子をあのスチール缶の中に入れていた瞬間を覚えていなかったのか。

どうやって、紙袋をそもそもあの人は私に、あれ?

 

無駄だ、考えても、無駄なのだ。

 

私も「これがメイドの嗜みです」と言われたような気がした。

 

そしてコウががっくりと女性に見間違う細い肩を落とす、完膚なきまでに負けました、と言ったようなものである。

そんなコウを見て、私は感心して言った。

 

「……流石、メイド長」

 

何処か常に自信の微笑みを湛えた女神の如くな美しいかんばせ、白銀の髪と陶磁のような滑らかな肌、魅惑的な肉感ある女性らしい完璧なスタイル、深い薄藍色の瞳、全てが一体となり調和したまるで美人の究極形態。

ラブライカのアーニャちゃんの雪の妖精のような可憐さという感じよりもまるで暖かい冬の女神のような静謐を称えた美しさ。

 

そんな彼女は一日中見ていても飽きないくらい綺麗でその女性らしい所作は完成されている。

極限まで女性としての自分を鍛え上げたのだと周囲から感心され、優雅に歩く姿を見ると花が咲くように見えるとまで。

もう同じ女性として嫉妬や羨ましいとかそういう感覚すら感じないほどの存在、わたしが入部している家庭科部の部長であるベルファスト・大樹・ロイヤル。

 

「相変わらず、アニメみたいな人だよね」

 

「………鳴海」

 

「ん?」

 

「豚肉貸して、今度返すから」

 

「そういって、一回も返したことなくない、コウ」

 

「次こそは絶対」

 

「に、返すとは言ってないでしょ、殴るよ」

 

コウにそう言って、私はため息を付く。

 

「ほんと……」

 

「…しかし、相変わらず一筋縄ではいかないな、上手過ぎる」

 

「あまり同い年とは思えないよね、いつも」

 

 

 

 

三話 なんて素敵なジャパニーズ 後編

 

 

 

そんな少し年齢詐称疑惑を受けていた産まれた時からメイドな家庭科部部長は廊下を歩いていた。

実年齢は10歳だが、精神年齢が高め。

そんなベルファストは平塚先生と軽い健康相談の約束を朝にしていたので彼女のもとに5分以内くらいで少し寄るつもりで職員室に向かっている。

 

天龍は駅前の本屋でホビーマガジンを買いに先に下校していた。

 

武蔵は痛風で休職した角川先生の身体の容態を聞きに行くつもりでベルファストに付き添っていた。

 

「奉仕部……ですか…確かに心惹かれる名前ですが、どうせボランティア活動を行う同好会でしょうね」

 

奉仕部、なんでもそういう名称の部活動が静かに総武高校に存在していたらしい。

 

もう解けた誤解であるが加藤鳴海がそのことを知って、ベルファストが新しく新設したと勘違いしたようだった。

 

 

確かに、私ならやりそうだと思われても仕方がない気がすると言いつつ、貰ったお菓子を死守した昼休みであった。

どうやら私が華麗に頂戴したことは誤解の奉仕部の件で気付いていないようで、あのままあの野郎の元に返っているだろうとベルファストは微笑む。

 

お取り寄せまでして買いたいとは思わないけれど、たまに食べたくなるお菓子も手に入った、鶴見先生から余っているから持って帰って欲しいと言われていた家庭科の授業の教材も綺麗に処分出来たので一石二鳥。

 

しかし、奉仕部。

 

部活動の予算獲得で体育系の部活動に対抗するために文化系同士で組んだ、あの文化部予算獲得連盟には入ってないですし、ゲーム部みたいな予算を組まれない非合法な同好会なんでしょう、とベルファストは忘れることにしていたが、ついそんな言葉が出ていた。

 

正直、そういうどうでも良さ気なことでも考えて口にだしておこなければベルファストは自分自身を保てなかった。

 

ただ視線を交わすことだけですら身体が宙に浮くような歓喜で胸が張り裂けそうな気分にさせてくれるご主人様のことを思って狂ってしまいそうなのだ。

 

ご主人様のこと独り考えるだけで、もうご主人様の十代の少年の溢れるような性欲であのベルファストの首輪の鎖を長くされ、強く手で引かれ、さらには四つん這いにさせられ乱暴にベルファストの逆ハート型の形の良い尻たぶを掴まれ揉みしだかれながら獣のように激しく慰み者にされてしまう、そんな淫らで背徳的な妄想を行っては淫戯に耽りたくなってしまうのである。

 

名前を呼ぶことすら1年間もかかってしまって、ベルファストは自分がかなり肉食獣思考に傾いている気がしていた。

 

本来のアズール・レーンの世界に居るベルファストであれば、こんな悠長な真似は決してしていないだろうという確信があるのだ。

いつ死ぬかわからない争いの世界に居るベルファストであったら、積極的に愛する殿方からのお情けを戴いているに決まっている。

 

そんな、早く彼に所有されてしまいたいという本能、一夜の寝具のようにただ女性の胎内の温もりを与える道具としてでも彼の物になりたいという魂からの欲求を感じ、常に従属本能が疼き続けていた。

 

もういいよね、もう身体から始まる恋愛もあってもいいんじゃない?

身体から始めるメイドとしての服従の日々とかいいよね?

 

そんなアダルティな発想が脳裏に今日はもう8度くらい、ちゃぷちゃぷと浮かんでは沈み消えていた。

 

ジャブジャブと自分の身体に溺れさせて、優しく女の体温で溶かし尽くしてしまって、それからゆっくりとベルファストのメイドの実力を味わって貰えばいいのだ、きっとご主人様も気に入って戴けるだろう、最も女性の肉体を欲する年代だ。

 

どんなに女性に興味がないと強情な硬派を気取る男性でも週に一度は手淫でもしなければ、洗濯物が大変になる年頃である。

 

体育の時、あの屈んだ時に感じた胸への視線はとてもこちらを女性として欲していた視線でこちらもとても刺激されブラの下が少し張ってしまって「触れて戴いても構いませんよ」という言葉を口に出したいけれど出せないもどかしさと言ったらもう。

 

そもそも何故、この10年で出会っていなかった?

 

昔から出会っていればもう既にベルファストの身体の良さを全て知りつくしていても可笑しくはないというのに。

 

ご主人様のHLA遺伝子の形にとって最も理想的な女性の香りをベルファストは発している筈なのだ。

 

まるで飴玉を蟻の巣に放り込んだくらい確実にこの極上の蜜を含んだベルファストの甘い身体を沢山貪ってくれていることだろう。

 

女の子はお砂糖とスパイスと素敵な何かで出来ているというマザーグースの詩のようなこのベルファストを。

 

「そう、そういう部活動でしょうね…」

 

そんな様々なご主人様に所有され征服されるシチュエーションの妄想やテクニックについてを脳裏から追い出すために口から冷静な声を必死にだすベルファスト。

 

結局、お昼休みの未遂で自分自身に残っている情欲がちりちりと仄かに燃えだしそうでとても危険だとベルファストは感じていた。

もし今の精神状態のまま上手く彼を家にでも連れ込んだりでもして2人きりになったら、今日の夜には今穿いている禁欲的で清楚な白いショーツが床に可憐な白い花びらのように落ち、白くて長く細いアスパラのような脚の間にある雌しべで彼の肉体を受け入れ、前後運動をすることは間違いないだろう。

 

別にベルファストは初心のネンネでもないから、そのまま大事にしておいた処女を大事な場面で有効に活用し、さらに初の貫通による処女の血をまざまざと彼に見せつけて男性の新雪を踏む征服感を満足させて喜ばせるようなことはいくらでもするだろう。

むしろビデオカメラを用意したりもして大事な場面を記録したいとすら考えているくらいだ。

 

そしてそのような個人的な欲望を抜きにして、彼に多くの幸いが満ち溢れた喜ばしい日々をベルファスト自身が贈れたのならば、それはメイドとして何よりもの幸いとなるだろう。

 

今日の体育に見せた何のてらいもない、少年らしい普通の笑顔。

 

楽しいから笑う、それは人として当然の幸せだ。

 

あのような笑顔の切っ掛けのチケットをこれからも手渡せるように努力するのがベルファストの役目でもあるのだ。

 

つまり、ベルファストのような銀髪巨乳の彼女でもいれば豊かな人生を送れること間違いなしなのだ。

金髪巨乳が真理なら、銀髪巨乳は宇宙。

 

みたいなことをベルファストは考えていた。

 

 

「なんだ、ベルファスト、その部活を知っていたのか?」

 

一緒にリノリウムの床を歩いていて、奉仕部について発言をしたベルファストに武蔵は少し驚いていた。

 

ベルファストが頭の中はもうご主人様とのカラオケで夢中だと思って居たからだ。

実は必死に我慢しているとは思ってもいない。

あくまでベルファストはすまし顔のままだ、かなりえっちなことを考えていたりしてもだ。

自分自身の表情筋くらい自由自在にコントロールするのがメイドなのだ、当然である。

 

「部活ではなく同好会のようですが、今日昼休みにナルの口から知りました、中々良い名称の同好会です、あのアイドル同好会よりかはまともそうですね」

 

武蔵が話に乗ったことで気を取り直したベルファストはそんな愚にもつかないことを言う。

 

「あんな、はた迷惑なだけが取り柄のドル豚の巣窟と一緒にしてやるな、同列で語られたらその奉仕部の子が腐ったバナナの皮を踏んづけたみたいな嫌な顔をするぞ」

 

アイドルである那珂のモノマネを男が完全に模倣するだけであんなにも殺意が湧きそうなくらいイラッとするものだとよく武蔵に教えてくれた同好会だ。

 

奴らがよく犇めいている場所が家庭科部の部室と遠いのがなによりだ、なんていつも思っているくらい。

 

アイドルのカリスマが宿る仕草を研究し将来に活かすことを目的とした同好会で、たまに学校の廊下のド真ん中で気持ち悪く無駄にキレのあるアイドルのダンスを汚い汗を飛び散らせながら踊っていることがある。

 

そんなはた迷惑で醜い視覚的校内暴力行為を見かけた平塚先生によって誰もが助かる正しい体罰的な暴力を受けていることで有名な男子3人組の同好会だ。

 

別名、三匹のドル豚。

 

やつらには飢えた狼の群れすら近寄らないと言われている。

 

気持ち悪くて。

 

「なぜあいつらは素直にケミカルライトを使ったヲタ芸をしないのだろうか」

 

「そうですね……」

 

周囲にいつもそう思われながら、ついには去年の文化祭のステージの壇上に剃髪した状態でアイドル衣装を身に纏い勇気を出して上がってしまった。

 

彼らが文化祭の貴重な時間を削って歌い踊ったのは

 

「お願い!シンデレラ」

 

346プロの有名なアイドルソングだ。

 

「文化祭のあれは……酷かったな」と武蔵。

 

「ええ………本当に酷かったです…」とベルファスト。

 

文化祭ではもう「お願い死んでくれ」という感じだったらしい。

 

そんな彼らの生涯恥知らずな間違った勇気は凄いと学校で有名だが「ちょっと人としてどうなのか?」と常に思われ、さらには三人ともアイドルのカリスマな仕草を使いこなすことでカリスマ政治家を目指しているという。

 

そんな頭がかなりおかしい人間たちと比べられたら、あんまりにもなショックで彼女は泣いてしまうだろうと武蔵は思った。

 

那珂たち3人が揃えば、あの伝説のアイドル日高舞にはまだ敵わないが、魔王に挑む勇者PTにはなれそうなくらい人気があるトップアイドルユニットだ。

 

その他に様々な個性ある見目麗しいアイドル達が激増し常に世の中を席巻している。

アイドル文化全盛期時代と言っても過言ではない。

だからか、どの学校にも必ずアイドル研究会が存在するらしい。

 

そんなアイドル達を愛してやまないのか、それとも馬鹿にしている気すらする件の三匹のドル豚たちは春休み明けの直後の放課後、放送室を勝手に占拠し校内放送ジャックをしながらyoutubeなどに総武高校の女子の制服姿で自分たちの歌い踊った姿を後日アップロードし、さらに後日ストレートにそのまま停学を食らった。

 

三匹のドル豚がハモった汚いダミ声での不協和音校内放送は未だに多くの生徒の耳に残り、苦しめ続けているそうだ。

 

豚のミートからミンチにしたくなるレベルの音痴。

中居○広がオペラ歌手にすら感じるほど、黒板を指で引っ掻いた以上の脳髄に不快感を叩き込む地獄の歌声。

まるで豚の断末魔の合唱だった。

まさに彼らはアイドルマスターSideM(肉)だったのだ。

 

一曲目で放課後に残っていた生徒の皆を不快感で耳を閉じさせ、2曲目の「メルヘンデビュー!」でベルファスト、武蔵、加藤鳴海、三条煌が放送室に殴り込みに行って止めたが被害者は未だに多い。

 

その時天龍は机を叩いて大爆笑していたらしい。

 

そんな彼らは停学以降、最近姿をみていないが、どうしているのだろうか。

別に普段からアイドルの仕草の模倣がデフォルトな彼らはイラつくからみたくもないが少し気になった武蔵である。  

 

ちなみに三人共イケメンの部類で見た目だけは良い、見た目だけは、しかし、普段の言動が本当にはた迷惑過ぎて女子は天龍くらいしか笑って話しかけない。

 

ここ半年くらいで社会的に評判が良くなってきた総武高校の唯一の「恥」として誰もが冷たく話しかけるのだが、それを全く気にも止めない三人組なのだ。きっといつかテレビの物真似番組に出演するだろうと思われるが、もし脚光を浴びたとしてもいつか本当のアイドルのファン達に挽き肉加工されるだろうから基本放置が正解だ。

 

 

武蔵は忘れることにした。

 

 

「アレのことは忘れましょう、奉仕部、なるほど、個人が活動をしている同好会なのでしょうか?益々良いと思います、中々に健気な…なんだか気になってきました、どのような子が?森薫先生のシャーリーみたいな女の子ですか?でも1人で同好会を作ってしまうとは……私達の学校には変な方が多い気がしませんか?年中春先のような脳みその子が多いような気がいたします……」

 

去年から春先の発情期突入中の変な人代表みたいな奴がそんなことを言った。

 

「彼女の場合は総武高校変な人教師代表平塚静先生に頼まれて作った部活だから彼女は変ではない」

 

婚期に焦っている筈なのに、自身の生活スタイルはあくまで孤独を愛し休みの日には1人酒と煙草とラーメンに耽溺している様子の現代のスナフキンのような女性教師。

ベルファストが痛風の危険性を指摘するくらいはひとり荒れた生活を送っているようだ。

 

「教師も……変な方が沢山いらっしゃいますね」

 

ある意味誰よりも本能に忠実に生きているベルファストに奉仕部に興味を持たれ、気にされてしまった。

カンも頭も鋭いのだ、どうせ直ぐにバレると思ったので武蔵は自身の内心を全てを話すことにした。

ベルファストはシャーリーのような後輩メイドがいつでも欲しいと豪語している、放って置いたらアラ大変と言った具合に変な風になってしまうのを恐れて武蔵は先にこれだけは先に言っておく。

 

「ああ、多いな……私の隣にもいる」

 

「ええ……私の横にも居ます、やはり頭が良い子が多い進学校、だからこそ比例するように頭が変な子もいるんでしょうね」

 

武蔵と喧嘩なんかせず変人扱いをさらりとスルーして言い返すベルファスト。

どうやら機嫌が良いらしい、廊下を歩く足取りが軽やかだった。

普段はもっとゾルディック家の子供みたいに足音を御淑やかに消しているというのに。

そんな機嫌の良いベルファストを見て、武蔵は徐に少し勇気を出すように、こう言う。

 

「ところで、すこし長くて聞いてもあまり面白くない話をしてもいいか?」

 

「いやです」

 

何処に聞く要素が?

そのような話、どこかの化学調味料より身体に悪そうです。

 

ベルファストはそう言ってあっさりと断る、そんな話、私の機嫌が悪くなりそうなのでパス、ということである。

 

「………味の素は身体に悪くない……ぞ」

 

サトウキビから作っているんだ。

 

武蔵は出鼻をくじかれてガクッとした。

良い空気吸ってるな…ホント…と落ち込む。

だから、こいつとは昔は馬鹿話しづらかったんだ、とも。

 

「そうですね、知ってます、そして簡潔に言うと職員室とカラオケの予定があります、みたいにどうぞ簡潔に」

 

簡潔にベルファストはそう言った。

 

「……では、簡潔に話すぞ、その奉仕部の子は去年、家庭科部設立の時は誘ったんだが断られてしまった女の子の一人だ、一応私の提督だ、気にはしていたが、逆に言えば気にはしていた、だけだった」

 

気を取り直し姿勢を正してそう言う武蔵。

 

「つまり、これからの武蔵は違うと?」

 

「察しが良いな、まあ、これから勇気を出して少しずつ話しかけてみようとは思っている」

 

実はそうでなくても角川先生からも、よく頼まれている、と武蔵は言う。

「ああいう女の子の綺麗な笑顔のひとつでもみようとする努力をする男が全くいないとは、冷たくされようとも、それでも奮起して笑わせるようとする男が未だにいないとは、なんと不甲斐ない、本当に情けない男ばかりが蔓延る世の中だ、生徒を見る教師としてではなく、同じ男として情けないと思ってしまう」と武蔵に零したことがあるそうだ。

 

「それを一応女性の武蔵に期待するとは……どれだけ昔の奥さんに似ているんでしょうかその方は」

 

必ず一度は全校生徒は聞いたことがあるというほど、授業の合間に奥さんとの大恋愛な馴れ初めを喋ることで有名な教師である。

その話を聞くと独身女性でアラサーな婚期に焦る平塚静は死にたくなるらしく、サイモン・ガーファンクルのある歌が嫌いになったという。

その話はまるで1967年にアメリカで製作されたダスティン・ホフマン主演の「卒業」のような話だ。

 

「似たようなことを大淀も言っていたな、昔は街を歩くだけでいきなり男性から花を渡されたりすることがよくあったと」

 

いきなり見も知らぬ男性にあなたの笑顔がみたくて、と花を手渡され、大淀はいつもタイムスリップ感をよく味わっていたそうだ。

そういう光景を眼にしても当時の周囲の人間達はあまり気にせず素通りしていた時代だったという。

 

「大淀様はすっかりと日本ではまだバナナが高級品だった時代の方になってしまいましたから、きっと角川先生とは話が合うでしょうね」

 

「そばが一杯40円だったというのは昔を懐かしがっていた大淀から聞いたことがあるな、私も」

 

「よくお爺ちゃんから聞ける系の話ですね…」

 

「角川先生は30円らしいぞ、近いな」

 

「ですが、そんな風に大淀様くらい美しい女性には道端で花を贈るような行為は恥じることなく当たり前に出来る男性が居た時代だったのでしょうね。今の時代は道端でお母さんと一緒の小さな男の子が外国のお姉さん綺麗だからこれあげる、とチュッパキャップスを私にプレゼントしてくれるくらいですね、あれは中々に女性として感動しましたよ?」    

 

「あるのか…お前は見た目はいいからな、見た目は」

 

「失礼な、中身も立派な綺麗な外国のお姉さんとして私は飴のお礼にその男の子のほっぺたにキスをしてあげましたが?」

 

「中々に良い話だな、お母さんも自慢の息子だと思ったろうな、大抵それがいつか失われてしまうが」

 

普通に立派な大人対応である、少しベルファストを見直してそう言う武蔵。

 

「そのような行為は近所の拉麺屋か八百屋さんなら歳をとってもまだ出来そうですね、オマケで、私の近所にないですが、そのようなイメージです」

 

お嬢さん美人だからオマケしてつけてやるよ、というやつだろう。

 

「ないのか……そういえばないな」

 

ちなみに大淀様はロシアのことを未だにソ連と言いますよ、とベルファスト。

 

「良いものですね……」

 

ベルファストはそのようなベルリンの壁が壊れた瞬間を目にすることが出来なかった世代の2回目だ、正直女性として生まれてから今は少し憧れを感じないでもない。

若い女性たちが白馬の王子様を夢見ることを誰もが出来る、許されていた時代だったのだから。

そういう時代でもメイドをしてみたかったとベルファストは思っている。

 

「ですが、昔ばかり懐かしまずとも私も女性の笑顔を花開かせ咲き誇らせることを当然と出来る立派な淑女足り得るメイドになる為に常に努力を怠ったことはありません」

 

メイドなら至極当然である、そう言い切るベルファスト。

メイドって一体なにさ?と武蔵は思うが、武蔵も武蔵で言う。

 

「お前はそうだろうな、提督など関係なく私もそう思うよ、私も彼女の曇りのない笑顔のひとつでも見れたらきっと嬉しいと思う、それが出来るなら、本望であると言えるだろうな」

 

女性に優しい紳士、女に生まれてやっとそれが本当に素晴らしいことだとわかったとは因果だが、と武蔵は皮肉気に笑う。

 

「ますます気になりますね……貴方の提督さんのお名前、そういえば全然聞いたことはないのですけど、どのような名前の方なのでしょうか?教えてください」

 

興味があまりなかったので聞いたことがなかったとベルファストは言う。

どうせ、こいつはご主人様かメイドにしか興味がないので教えても意味がないしと武蔵は思っていたので教えてなかったのだ。

 

「雪ノ下雪乃、という名前の女の子だ、知っているだろうが国際教養科一の美少女で有名な――」

 

 

 

 

「あら、雪乃さんが武蔵の提督さんで奉仕部を?」

 

武蔵が衝撃で立ち止まった。

 

「どうしました?」

 

つられてベルファストも少し武蔵の前で立ち止まった。

生徒の人気が普段から少ない静かな職員室近くのリノリウムの床がよく見える廊下。

だからこそか、武蔵は余計にその衝撃が体を巡った気がした。

 

「は………?」

 

そんな声が思わず武蔵から絞り出すように出ていた。

あともう少しで職員室前なのだけど、どうしたの?

いきなり膝に矢でも刺さったの?

どうしたの?此処に私を置いていけ、後で追い付く。みたいなこと言ってくれるの?

という面倒そうな顔をして先に立ち止まった武蔵に振り向くベルファスト。

 

「私は彼女と友達ですよ?………あら、武蔵とは案外お似合いかもしれませんね、美少女と野獣ですね」

 

そして武蔵の顔を見て「ああ、なるほど」という顔をしたベルファスト。

同時にもっと人気のない方向に武蔵の手を掴んで引いて動かしていく。

どうせ内密な感じの話をすることになってしまうのだ。

提督に対し積極的ではない武蔵だって艦娘だ、艦娘は提督のことになると皆、態度を変えることはベルファストは知っていた。

あの天龍ですら、自身の姉には素直にたっぷりと甘えん坊な態度を恥ずかしがらずよく見せているのだ。

そして自分も面倒な惚気けに武蔵をいつも付き合わせている自覚は少しある、人としてご主人様とのカラオケの時間くらいなら少しは削っても良いとベルファストは思った。

 

「時間がなくて歌い足りない気がしますので明日か明後日もカラオケにまたいきませんか?――二人で」という手もある。

 

少し遅れたとしても先に行った天龍が絶対に彼を楽しませてくれているだろう、そんな天龍に対する信頼もある。

どんな気難しい小学生だって1日天龍と遊べば「天龍ねぇちゃん、また明日来ないかな……」なのだからきっと大丈夫だ。

 

今日の所は比企谷八幡という少年が純粋に他人と遊んで楽しめればそれで良いとベルファストは今は思っている。

大分冷静になったようである。

 

「私をなんだと………ちょっと待ってくれ………本当か?」

 

ベルファストに誘導されながらも驚いている武蔵を追い詰めるように「此処なら良いでしょうか」とベルファストは誘導を終える。

ちょうど学校の中でも空き教室が多くある区画だ、普段は三匹のドル豚が犇めいているので、あまり生徒が近づかない区画である。

静かなのでドル豚たちはどうやらまだ停学中らしい。

 

そして立ち止まって武蔵にベルファストは真理を説く。

 

「察しが悪い武蔵にもわかるとは思いますが、あのような育ちの良いお嬢様のオーラがハッキリと誰が見てもわかる綺麗な女の子を私が放っておく筈はないでしょう?」

 

「なるほど、そうか…………納得できてしまうな、それは…友達なのか?」

 

確かにベルファストが好ましいと思う、気難しい女の子だ、実際に地元企業の有名なご令嬢でもある。

武蔵はその部分を失念していたと納得する。

 

「向こうは友達だと思ってるかは私にはわかりません、しかし、私の中ではもう立派な友達ですよ」

 

武蔵はこのベルファストのいい加減にも感じるほどの器の大きい正々堂々とした後を振り向かず生きる生き方は見習いたくても、一生無理な気がした。

勿論、ベルファストは正々堂々卑怯なこともするので、一長一短であるが、真似出来ないと思った。

この少し何処か腑に落ちないファジーさが相手の反発を飲み込んでしまうベルファストをベルファスト足らしめる独特な空気なのだ。

あまり物事を深く考えず悩まず直向きに進み続けるのだ、ただメイドとしての本能の赴くままに前に、前にと。

 

メイドとしての力で他者を心地よくしていき、いつしかベルファストだからしょうがないと相手に根負けさせるマイペースな対人能力。

たとえ他人に間違って殺されかけたとしても誠心誠意を込めて謝られたと解れば簡単にそれを赦してしまうほどのベルファストの心の強さから起因する力。

それはある種のカリスマと言っても過言でもない、そんなベルファストの周囲はいつも愉快で争い事が少なく争い事があってもやんわりと納めてしまうのだ、いつも場の空気を上手に影で操るのである。

きっとそれは他人に奉仕する存在であるメイドとしての技術の一部なのだろう。

昨年の過去のベルファストのそんな不思議な対人能力で起きた幸福な結末で納まり終わった騒動を武蔵は思い出した。

 

そして少し、武蔵は先を越されたような気がしていた。

若干焦りすら感じていた。

 

「…………」

 

武蔵は自身の不甲斐なさで少し悲しくなった。

今まで何を私はしていたのだろうか、と。

本当に気にしていただけ、だったのだ。

一度家庭科部に誘って断られたくらいで諦めてしまった己の愚かさに少し後悔した。

 

そんな武蔵の内心を知らずベルファストが話を続ける。

 

「たまに彼女が空き教室で1人で読書してる時にそのまま私が掃除したりしてますし、放課後のいつもの掃除で雪乃さんがいる空き教室に入った時はお邪魔したお詫びに紅茶も淹れたこともありますよ、中々私をメイドとして満足させてくれる方ですね、突然掃除を初めて最後に紅茶を淹れた私に不思議な顔をして、お礼の一言を言って、それ以降は私を居ないものとして扱ってそのまま読書を続行出来る素晴らしい方だと私は思ってます、あれはメイドとして働いている気分になりますのでとても良い友達です、名前も本当にお可愛らしい、雪乃様、じゃなくて、雪乃さんって呼ぶのが近所のお姉さんメイドな気分になれて良いものであると思い、勝手にそう呼ばして戴かせて貰っています。去年は武蔵が一番好きな漫画である「金色のガッシュベル」を読んで戴いたら、彼女は中々感受性豊かに読まれていました、口をほんのちょっと窄めて泣くのを我慢している雪乃さんはとても可愛いらしかったです……つまり、彼女は素晴らしい友人でございます」

 

「………」

 

もう結構仲良くしてるな、と武蔵は思った。

 

英国人のフリをして仲良くなりたい人間相手にファースト・ネームでいきなり呼んだりもするので雪乃さんと普通に呼ばせて貰っているようだ。

 

漫画をどうやって彼女に読ませたのか、それは金色のガッシュベルが日本に来ようと思ったきっかけの漫画なんですよ、などとホラを吹いたのだろう。

 

そもそも武蔵が去年引っ越しで家に置いていった漫画なのに、そうやって良かれと思う嘘なら平気でつくし、上手に嘘はついてはいない事に出来るのだ。

確かにイギリスに居た頃に「武蔵の漫画が読みたくなりましたね、英語よりも日本語で漫画を読みたいです」みたいなことを過去にベルファストは言っているのだ。

そうやって雪ノ下雪乃のような女の子にとってはかなりクリティカルな漫画に違いないと思って読ませたのだ。

 

「こういうものもあるのね…みてもいないというのに、なんでもそうだけれど、知る前から物事を馬鹿にするのは良くないわね……ちょっと漫画を見直したわ、ちゃんとした日本に誇れる文化なのね…」とか涙をハンカチで隠しながら言ってましたとベルファストは恍惚とした表情で言う、とても良いものが見れたと、その時歓喜したそうだ。

 

「漫画を全て読み終わった後に一息ついた彼女に紅茶を淹れることが出来てメイドとして光栄でした」

 

「なんという、テンプレートな育ちの良いお嬢様だ……」

 

武蔵もそんな様子は見てみたいと思った。

そして武蔵は自分自身が思う、勇気やら後悔やらと自分は「なんでも難しく考えすぎなのでは?」という気になってきた。

ちょっと自分はガサツであるし、彼女の迷惑になったら嫌だな、と遠慮していたのだ。

 

 

だが、ああ、そうか、と武蔵は思った。

 

人と仲良くなるのには時間はいらない、昼の体育で自分が比企谷八幡に言ったことを思い出した。

いつだって仲良くしようと思えば出来るのだ、縁だとか言い訳なんてせずに仲良くしようともっと積極的になれば良いのだ、当然ながらベルファストにはそれが出来ている。

それを理解した武蔵はふっと微笑み、身体を楽にして、ベルファストの冗談のような話に腰を据えていつでもツッコミが出来る準備をした。

 

「ええ、あれはもう本当に自分の間違いをすぐに素直に認められる素晴らしいお嬢様っぽい感じがあり、もうそれをみては私は本当に心から嬉しくなってしまって、次は「不安の種」でも貸そうと思ってしまいました。あれだけ最終巻で号泣しそうにしておいて「ちょっと」だけというのならば「不安の種」で彼女の豊かな感受性の反応を確かめてみたいと私は考えてしまうのです、最近はお掃除の方も新入生の家庭科部部員の案内や入部の雑務で離れていましたので久しぶりにお掃除ついでにお貸してみようと思いますが、喜んでくださるでしょうか」

 

16歳の一人暮らしの女の子に読ませるものじゃないぞ、あのホラー漫画は、大人でも呼んでいて不気味なリアリティーを感じる怖さがあるし、実際リアルの投稿再現漫画もあるんだぞ、あれ。

読んで後悔する漫画なのだ。

いつも他人に遠慮はしない、メイドとか言う割に本当にベルファストは他人に遠慮しないのだと武蔵はその部分を指摘したくなった。

 

「それは邪悪すぎるぞ、お前、本当にやめてやれ、もう少し遠慮してやれ」

 

「メイドが遠慮してどうしますか?遠慮なんてしていたらメイドとして配慮ある奉仕が出来ないでしょう?」

 

これだ、遠慮はしないが配慮はするという謎の言い分で仲の良い人間に奉仕をいつもしようとするのだ。

 

遠慮せず、バーゲンの赤いチラシと木工ボンドで作成したハリセンでよく皆から遠慮されていて悲しい大淀を冷たい表情で「これくらいが大淀様に丁度よい配慮であると存じます」とバシバシ叩いていた小さな頃の見た目だけは可憐な妖精のようなベルファストの姿を武蔵は思い出した。

 

地味に可憐すぎて武蔵も同じTS転生者と言われても慣れるまでいつもドキドキさせられていたくらい可愛かったが、同時にすぐにドキドキがなくなった思い出だ。

そういう遠慮のなさが他人に凄まじいクリティカルをしょっちゅう出すのだ。

 

大淀の過去の孤独の苦しみをベルファストは癒やしたそうだ。

 

この世界に現れて間もない頃から大淀を素晴らしい女性であり、そして孤独であると認識し、彼女を一時的な主として仰ぎ、常に彼女の傍を付き従った。

まるで家族のように遠慮を一切せず、好き勝手に。

その好き勝手ないつも嬉しいクリティカルを出され続けた大淀は今は自分がベルファストの真の主人ではないことにいつも嘆き、この世で金で手に入らないものはベルファストくらいだと言っているそうだ。

 

人と人との出会いは奇跡ではあり大切なものであるが、だからこそ、そこまで難しく考える必要もないとベルファストはよく言っているのを武蔵は思い出した。

 

出会ってしまえばその出会いを大切にするだけであとはメイドとして直向きに配慮を怠らず全力を尽くせば大抵なんとかなる、それが様々な人間と接する仕事に付いているベルファストのメイドの心得らしい。

そもそも他人が本当に好きだからこそメイドなんて出来るのだ、常に他人に奉仕するメイドとして当然である。

 

心から望んで誰かを思いやれなければ、それは奉仕とは呼べないからだ。

 

だけど。

 

「駄目だ、不安の種は事前知識なしで人からいきなり貸されて読まされるような漫画じゃないからな」

 

オチョナンさんとか本当に普通に居そうで嫌だから、と武蔵は言う。

 

「…しかし、家にある漫画は私が最近の女子高生に人気と噂なので参考資料で集めている「恋しよっ」とこれくらいですし……そういえば、いつ読んでもオチョナンさんは怖くて良いものですね……夏場の蚊のような嫌な客対用として窓際に貼り付ける式神にしておきたいくらいです」

 

武蔵は他にも置いていった漫画がある筈だがと思ったが去年引っ越す際に「邪魔なら売っていいぞ」と言ったことを思い出した。

引っ越す前に残していた筈のたまに読みたくなるジョジョ全巻が既に売られていることに少し武蔵は後悔した。

 

「……オチョナンさんをアース製薬の虫除けシールみたいな扱いにする気なのかお前、多分お前の言う怖さは彼女にとってはきっと違うからやめておけ……」

 

普通に嫌われるぞ、と武蔵は最後に付け加えて言う。

そういうお前のナチュラルなSな部分は彼女に垣間見せないでおけ、頼むから、と。

あと武蔵は聞き捨てならない、夢野咲子というペンネームの月間少女な男が書いている、とある漫画の名前が出たような気がしたが、気の所為にしておく。

これ以上の多重クロスはいっぱいいっぱいである。

 

「ではやめておきます、式神といえば、前に鳳翔さんに「大樹さんは全く才能ないから、ごめんなさい」って全く才能がないらしいので無理ですが、私も鳳翔さんの様な妖精使いになりたいものです」

 

艦娘たちは皆ある種の霊感、直感力、カリスマを備えている者が多い。

言葉数が少なくとも特定の他人と深く繋がり響き合える艦娘。

アイドルとしてどのような仕草が最も自分に相応しいのかを最初から直感で理解しトップアイドルとして君臨出来ている艦娘。

大淀は金儲けの才能、経営のカリスマ。

天龍のように他人に熱を与える事ができる艦娘、様々である。

その中でも鳳翔は霊感の才能をもっていた。

 

「あれか……ああいうのはお前には無理だろうな」

 

「なくともどうにかなる人間は覚えられない……とのことですが」

 

過去、フランス語も禄に喋れないというのにいきなりメイドとしての様々な教養を身につけるレッスンの為に明日から本場のフランスに行くと思いつきで言い出しては手隙の艦娘を保護者にして次の日には本当にフランスに行ってしまい大淀を寂しさで泣かせてきたようなことを何度も平気でやってきた、そんなある種の繊細さとは全く無縁なベルファストには霊感なんてある筈はない、メイドとして培ってきたカンがあり十分だからだ。

 

「なるほどな……」

 

「英国でもないのはわかってますし、流石にもう諦めています、ただ羨ましいだけです」

 

「英国の…ああ、あの笑い話か」

 

「ええ」

 

イギリスでは今もそんなミセス・ベルファストとしての有名な逸話が残っている。

 

イギリスや欧州では心霊スポットな物件は高値で取引され、金持ちがよく買って住んだりもする。

幽霊ホテルなんてものもイギリスのシュロップシャー州にあり、実際に殺人事件が起こった場所などに泊まったりするのもイギリスでは大人気だ。

件の幽霊ホテルのプリンスルパートホテルなんてイギリスの有名な心霊スポット10選に入る観光名所扱いだ。

 

そんな金持ちの不謹慎な道楽で買われた家の心霊現象に悩まされてノイローゼ―になってしまったとあるメイド長の代打で映画「シャイニング」にでも出そうな床が赤いカーペットな幽霊屋敷に過去に一ヶ月間勤めていたこともあったベルファストは一切心霊現象に遭わずに無事にメイド長の仕事を勤め上げてしまって残念に思ったことがあったそうだ。

 

ベルファストはメイドとして幽霊屋敷のお祓いや幽霊との命を賭けた壮絶なバトルも経験したかったのだ―――なのに全く出なかった、期待感にウズウズとして様々な対心霊グッズを通販サイトやオークションなどで30万円分くらい購入して準備もしていた。

同居人には何度も正気を疑われ頭を叩かれ、それでも必要だと言って色々買ったのに。

 

なのに――全く出なかった。

 

屋敷に元から居た人間が何人も心霊現象によって沢山辞めていったという幽霊屋敷だというのにだ。

 

ベルファストが真っ暗な屋敷中を2000ルクスのLEDランタン片手に「出てきなさい!私と勝負を!正々堂々私と勝負なさい!」と一ヶ月間働いている間、徹夜でほぼ毎日幽霊を大きな声で呼び続けていたというのに、出なかったそうだ。

 

「私と戦いなさい!……今日で最終日なのですけれど……そもそもいないのでしょうか?せっかく銀の銃弾までお土産で用意してましたのに、指弾の練習もしたというのに……はぁ…もう朝ですね……なんて虚しい……つまらない仕事でした…結局主人の方も逃げていたのでただの屋敷内の管理業務というあまり大したことのない経験で終わってしまって残念です………………はぁ、これでは、私は毎晩ただ正気を失った方を一ヶ月やっていただけではありませんか……泣きたくなってきました…」

虚しい何も残らない涙で震えながら無事に短期間のメイド長業務を無事に勤め終わったらしい。

 

その後、そのまま幽霊屋敷から心霊現象が2度と起こらなくなってしまったという英国に残るミセス・ベルファスト伝説の一つである。

 

暴れる虎を素手で捕まえたり、幽霊を徹夜で一ヶ月間も追い回しそのまま幽霊をノイローゼーにさせてお引っ越しさせてしまうなどの様々な伝説を2年の間でイギリスに残してきた怖いもの知らずの最強のメイドは今も有名なのだ。

 

そんなベルファストは真面目に仕事として本気でそういうことを簡単にやってしまうタイプの人間なので、才能なんてないに決まっている。

 

そして今やそれはベルファスト渾身の笑い話の持ちネタになってしまったという話である。

 

自己紹介などで日本の学生によく聞かれる「メイドの仕事って実際どんなの?」と聞かれたらかなりの頻度で使っているらしく、今年の2学年のクラス替えでもいきなり自己紹介で使い、新しいクラスを爆笑の渦に叩き込み、初々しいクラスの雰囲気を最初が肝心なのでそうやって良い方向に持っていき爆笑の渦で纏めたりしているらしい。

みんな笑える冗談だと思っているようだ。

 

「鳳翔さんはこなたさんの頭にこっそりといつも妖精を載せて守らせていて、羨ましいです、私もあのような力でご主人様をいつも守りたいのですが」と過去に何度かアレキサンダー大王の逸話みたいなことを英国で仕出かしてきたベルファストは本当に羨まし気に言う。

 

そして今現在、空母系の艦娘が扱うとされる妖精を手にしているのは鳳翔のみ。

彼女は妖精などを使役しながら霊媒師のような仕事をしている。

大体の仕事は大淀の大本営系列の会社で新しい建築物を建てる前の地鎮祭などを行って稼いでいるそうだ。

元々そういう職業の家の出身らしく神を降ろして生まれてきたとされて大切に育てられていた稀有な艦娘らしい。

艦娘に覚醒する前から凄まじいほどの霊感があったらしく彼女の提督である泉こなたの亡くなった母ともよく昔からお盆の日はほのぼのと会話をしていたらしい。

去年の夏は夫と娘と一緒に写った筈のせっかくの家族写真が心霊写真扱いされたと泉かなたに鳳翔は愚痴られたそうだ。

 

「確かに羨ましいな、そもそもあの人だけなんか世界観違う気がしないか?元々霊感はありましたが艦娘に目覚めたら船魂として強力な神通力が使えるようになりましたってなんだ、あの人みたいに使えないんだが私は、私も艦載機がある艦娘な筈なのに…何故だ」

 

武蔵のようにこの日本現代で空手家大山倍達みたいに山籠りをして熊と喧嘩をするような人間にも才能はないらしい。

自分自身と向き合い、自身を凡人だと思いつつも強い信念で遥かな高みを目指し努力を続けている人間には遠い力なのだ。

きっと「契約」で真の力に武蔵が目覚めるまではそのような力は使えないのだろう。

 

「一緒に冬の猛吹雪の中、滝などに打たれる修行でもいたしますか?意味はなさそうですが」

 

そんなことをして風邪でも引いたらどうするんですかと怒る鳳翔さんが目に浮かびそうですが、とベルファスト。

 

東雲鳳翔34歳、独身。

みんなの素敵な優しいお姉さんとして日々をのんびりと暮らしていて、優しい聖母のような風格の持ち主。

何故か近所からは男性と付き合ったことすら一度もないのに淑やかに亡くなった夫を想い続ける未亡人だと思われている、周囲は鳳翔さんが男性と付き合ったことがないなんて誰も思いもしないらしいからだ。

 

 

「ああ、意味ないな多分、別に寒くても冷たくても平気だしな私たちは…少し話がずれてきたな、もう一度言っておくが一人しかいない奉仕部の子が雪ノ下雪乃さんだ、そして私の提督でもある」

 

「つまり、ああやって1人で静かに読書しているのが奉仕部というわけなのでしょうか?………まさか………嬉しいです」

 

頬に手を当て、ベルファストが嬉しそうにしていた。

 

「は?……なにが嬉しいんだ」

 

「私の為に……私に奉仕を好きにさせて戴ける部活動だから、奉仕部……そして………なんてこと、いままで気がつかなかった……」

 

「絶対に違う」

 

「違いません、きっとそうです……ああ、私はなんてことを……毎日、私をお待ちしていたというのに……私は一ヶ月近くも……なんてことを…深く謝罪を…謝らないと…」

 

お茶会を……お詫びのお茶会の準備をしないと!

大淀様からシロツメグサが一面に咲き誇る、あ、シロツメグサは花言葉「復讐」だから、違う、えっと…カンパニュラの、そうカンパニュラの花畑!

青く美しく咲き乱れるカンパニュラの元で、謝罪をします。

 

土下座、土下座いたしましょう。

 

勝手にそう言って暴走しかけ始めるベルファスト、確かに彼女からすればそういう風に感じても可笑しくないが。

一応、人が周囲にいないことを確認しつつ武蔵はそんなベルファストを。

 

「お ち つ け 」

 

「ど…っ!?…う…痛っ……う…」

 

武蔵はそう言いながらごすごすと拳でベルファストを廊下の壁に押し付けて殴った。

 

「落ち着け……誤解だから」

 

「……なんで今、5回殴ったんでしょうか?………一回でいいでしょうに…もしくは4回……」

 

武蔵は5回ベルファストの細いウェストを鈍い痛みを出すように殴っていた。

 

「誤解だからだ、言っておく、暴走しようとするな、それは誤解だからな」

 

「………つまり、これがほんとの肉体言語とでも言いたいのでしょうか?…脳みその言語野部分すら筋肉つまってるようなことしないでください、このゴリラ」

 

「ゴリ―――次は師匠直伝の発勁使うぞ」

 

静かに腰を落とす武蔵に冷や汗をかく、ベルファスト。

 

 

「……わかりました私のそれが誤解だと理解して落ち着きましたからやめてください、武蔵の親ゴリラみたいな方の技はやめてください…そもそも武蔵の師匠である、あの男は人間なのでしょうか?いつも気になっているのですが。大淀様もよくあんな超人達をお見つけになられましたね。緒川さんは空蝉の術が使えるのですよ、意味が分かりません、どのような原理かいまだにわかりません」

 

ベルファストが言う、どうやら話題を別の話に変えて一端冷静になろうとしているようだ。

 

「風鳴翼は知ってるな、私は実は昔、歌手になる前の彼女に出会ったことがあるんだ、その繋がりでたまたま目にした彼の武術に惚れてな、それで私が頼みこんで数年ほど時たま師事して貰ったわけだ」

 

弟子入りした初日に「燃えよドラゴン」を視聴させられて、正直、意味がわからなかったが、と武蔵は言う。

 

「武蔵の好きな歌を歌うという歌手の方ですね、ああ、風鳴、弦十郎…親戚かなにかでしょうか、骨格的に種族が違うので遺伝子的に親戚とは思いもしませんでした」

 

風鳴弦十郎という男の名を口にしてベルファストは少し嫌そうな顔をする、そして少々の毒混じりの言葉である。

 

風鳴弦十郎は他人を滅多に嫌わないベルファストが珍しくはっきり苦手だと言う他人である。

豪快で途轍もないほど大雑把すぎる男なので、ベルファストはあまり会いたくない。

 

ベルファストは苦手なものは情緒に欠けるガサツな男なのだ。

 

客としてたまに大淀の住む家に5,6年前から武蔵の下に武術の講師として来ていた風鳴弦十郎。

大淀に仕えているメイドとして粛々と働いていた過去のベルファストは彼に客応対をしているとよく「ああ、そんなのやらなくてもいいぞ、休んでていいぞ、お茶くらい自分で淹れるが」と言われ、自分で適当にお茶を雑に淹れられる、みたいな一番プロのメイドが聞きたくないワードや行動を連発されて毎回酷く落ち込まされてきたらしく、泣きそうになったことも何度もあった。

 

毎回このようなことがあったという。

 

「ああ、そんな……そんな番茶でも煮出すように…ああ…なんてことを…ああ」

 

「中東のチャイみたいなもんだろう、ミルクも砂糖も練乳もたっぷりいれたんだ、どうだ旨そうだろう?中々良い茶葉だったしな、絶対に旨いぞ」

 

「シルバーニードルズをチャイに?………確かに茶葉が良いので美味しいことは美味しいのでしょうけど……」

 

100g2万円の最高級茶葉ではなく、そこらへんのやっすい茶葉でやれよ、そっちの古い100g4000円のフォートナム・アンド・メイソンでやれとは客には言えないベルファストである。

 

「お茶は美味しく飲むのが一番だろう?―――どうだ、ああ、チャイは生姜を入れるんだったな……ま、このチューブのやつでいいか…よし、これで完成だ、ふむ、いい味だ――君もこの紅茶を飲むか?」

 

なにすんじゃボケぇ!あまつさえチューブ生姜を入れるとは…最早、外道!とは客に言えないベルファストである。

 

きっとこいつはロッキーみたいに生卵を丸呑みしたことがあるタイプだ、とも思ったそうだ。

 

「いえ…結構です……少し疲れましたので…さがらしていただきます…少し私、気分が……優れないようなので………休ませていただきます……」

 

「そうか、ならゆっくり休むといい、こちらは俺に任せておけ」

 

まだ中学生くらいの年齢のベルファストをいたく心配してそういう男。

しかし、なんでお客さんなのに、メイドの私に任せておけとか言うのだろうか?

わけがわからない。

 

「……………つらい…」

 

「つらいなら、俺が君を運んでやろうか?ほら」

 

「結構です…え?」

 

「軽すぎるな、ちゃんと飯、食ってるか?」

 

「………っ!」

 

「この私のベルファストに勝手に男がお姫様抱っこだと………?―――ころすぞ、てめえ」とは言えない昔のベルファストであった。

 

みたいなことを過去に客として散々やられたらしい。

メイドとして必死に我慢していたらしいが風鳴弦十郎が来た次の日は大抵ベルファストはふてくされて寝込んでしまうことは大淀の家でベルファストが暮らしていた頃をよく知っている人間たちの中でも有名な話だ。

そもそもメイドとして働いている時は他人から休めと言われるのは嫌いである。

しかし、客だからメイドとして文句は言えないのだ。

「風鳴弦十郎に対して最も良いメイドとしての客対は、メイドとして働かないことだ」みたいな謎の真理に辿り着いて虚しくなるという。

 

そして一番嫌なのがたまにしかこない客であること。

 

「好きでやっていますので、黙って座っていてくださいませ、貴方のそれは茶葉の無駄遣いです、この山猿」

 

と言い始めるベルファストの通常対応から塩対応配慮への切り替えがあともう少しという絶妙な来客頻度なので、本当に最悪の客らしい。

風鳴弦十郎からすれば幼い可憐な少女が一生懸命に働いているので、男としてはそんなことはさせず楽をさせてあげようと遠慮してしまったのだろう、態々自分なんかの面倒なんて見ずに何処かで遊んでいればいい、なんていう大人対応だったのだ。

 

しかし、メイドに遠慮はしてはいけない、メイドが一番困るのは客にそういう余計な遠慮をされることなのだ。

 

「過去に風鳴という日本で有数な国防関係において力を持った一族があって、結構あくどい、というよりも昔から因習的な家だったらしくてな、女子供に対する扱いが酷かったそうだ、大淀曰く、昔からの金持ちほど、未だに戦前から生活が変わらないまま、男尊女卑が蔓延っていて大変だったそうだな」

 

「過去?もしかしてその風鳴家を大淀様がお取り潰しに?……あの男、実は育ちが良いのですか?」

 

夢枕獏の小説にでも登場しそうな筋肉の塊のような巨漢なのだ。男臭い男でまさに快男児という性格で、良いところのお坊ちゃんには見えない、むしろキン肉マンのような半生でも送ってきたのだろうとすら思う人物だ。

ちなみにキン肉スグルは親に豚と間違って幼い頃捨てられて掘っ立て小屋で暮らしていたという過去がある。

きっとそのような大雑把な人生を逞しく生きてきたのだろう彼は、とベルファストはよく思っていた。

 

「ああ、戦前から裏で日本に根を張っていたそうだ、戦後に大淀が生まれて金儲けを始めてからそういう昔からという家は大分なくなっていったが、その生き残りだろうな」

 

「なのに……アレなのですか?」

 

「なのにアレだ、他の人達はそうでもないが」

 

滅べばいい、少女ひとりの心も救わない、救おうとしない家は、いいえ、滅びなさい。

 

そして、武蔵はそう言った7年前の大淀を思い出して身震いした。

 

「……怖かったぞ、あの時の大淀は、本当にそういう大きな家ひとつを傘下に入れて実質、なくしたも同然にしたしな」

 

大淀は戦後の混沌の時代を生き、世界10位にも入る大金持ちだ。

そこまで行くのにどれほどのことがあったのかは知らないが、常人がその姿を見るだけで何処か畏れ多いと感じる禍々しいほどの存在感を発している、海千山千の既得権益を持つ権力者と長年渡り合って来た女傑の気配を持つ女性なのだ。

 

「大淀様もそのような凛々しい姿が常であれば本当に素晴らしい女性であり人格的にも尊敬出来る方として私も普段の塩対応配慮をしなくても宜しいのですが……」

 

年に一度、自分の下につく沢山の経営者陣の前に姿を見せるという行事がある正月の日。

その人の海の中心をモーセのように歩く大淀はいつもちょっとゴッド・ファーザー感があってベルファストは好きだった。

裏社会では大淀はメイクで老けたように見せているがそれでも何時までも若々しい姿から悪魔と契約している魔女とまで言われているそうだ。

 

「そうだな、しかし、だからこそ常に引き籠り気味で私たち以外の普通の人間とはあまり関わらないようにしているんだ、天龍が言う様に、私たちは誰だって救うことなんて出来ないからだ、所詮、多少普通の人間より優れているだけだ、誰とでも戦ってしまえば、誰も守れなくなっていつかは身を滅ぼす、そして大淀は私たちの柱だ、柱が動いてはならないから、ああやって迷惑な独居老人やっているんだと私は思う、まぁ、艦娘の頼みならどんな無茶でも聞いてしまうのが悪いところだがな、そしてたまに艦娘に頼まれない無茶をしようとするが」

 

 

「やはり艦娘は全員が全員、善人ばかりですね、そして身内や周辺の人間の為にはいつも無茶をしますね」とベルファストは言って武蔵を頷かせる。

 

「ああ、しかも迷わずその無茶を即決即断でやってのけるな、いつも」

 

人間は迷いながら生きる人間と迷わず生きる人間のふたつあると思うが、私は大多数の迷う人間だから、眩しいよ彼女たちは、と武蔵は言ってため息を吐きながら言う。

 

 

「元々は不知火が同級生だったとある一人の女の子を助けたいとある日、大淀に頭を下げてな、その話を真剣に聞いた大淀がそのまま真剣を抜いたみたいに本気を出して潰した家がその風鳴家だ。潰したと言うよりも、当時の当主から新しい開明的な人間に代替わりさせてその因習をなくさせたという感じだな。

まぁ大淀の傘下にそのまま入り、過去の禊として今までの彼らの古い住居をその日から直ぐに全て壊させたので潰れたといえば潰れたというのだろう……その家で立派な信仰でもありそうな大きな石とかも建築業者が壊したりもしていた……なんか沢山神社関係者とかお坊さんとか集まったりして、鳳翔さんがその中心になってなんか儀式とかして、ああ、異様な光景で怖かった…興味本位で見るんじゃなかった…あれ……絶対そのまま壊しては駄目なやつをなんとかしていたんだ……あれは…」

 

「何が怖いのかはわかりませんが完全に相手の歴史ごと葬ってますね、それは」

 

「……そして彼らが何故あんな超人なのかは理由はわからない、代々そういう超人が生まれてくる家系だったんだろうな、そういう歴史の闇の中に…余計怖いが……師匠は理由がなさそうだが」

 

師匠はよく言うが、男なんて映画でもみて飯食ってれば勝手に強くなれるさ、らしいぞ、と武蔵。

 

「はぁ、そうなんですか…色々ツッコミたいですが…って、ぬいの名前が出たような…」

 

「ああ、不知火が発端だ」

 

風鳴翼は代々続く風鳴家の歴史の中にいる多く居たという鬼子の1人として生まれた。

実の父だと思って育てられていたその人が実は血縁的には異母兄であり、祖父であると思っていた男こそが彼女の実の血縁の父である。

それを風鳴翼以外、誰もがそうであることを知っていてもそのことに対し異議を立てて反抗はしなかったようだ。

もしくは、したのかもしれない、しかし、ある日幼い頃の彼女は知ってしまったのだ。

 

風鳴の血に固執した祖父が実の息子である父の妻を寝取り、無理やり母に自分を産ませたのだと知ってしまったのだ。

 

自分は故に鬼子。

 

彼女は幼い頃から異母兄である父から愛されていないと思いながら孤独な気持ちで過ごしていたそうだ。

ひとりで好きな歌と風鳴家に伝わるという武術だけを自分の心の拠り所にして、そうして自分自身を鬼子と思い、鬼子として生きようとしていた。

 

そんな少女が通う小学校の同級生であった不知火が今まで彼女が奪われてきた筈の11歳の少女にとって当たり前の幸福を取り戻すために命を賭して日本政府にすら影響を与えるという巨大な力を持つ風鳴一族と闘いを始めたそうだ。

 

なぜなら不知火も過去、鬼子として怪物として両親に捨てられた人間だったからだ。

5歳の時、虐待はされてないが、不知火という怪物から逃げるように去って行った両親に大淀の横で静かに手をふり続けた、悲しい幼い少女だった。

そんな彼女には沢山の同胞達が居て、彼女は同胞たちの手によって立ち直って強く生きていた、故に、似たような扱いを受けていた少女を見捨てておけなかったのだろう。

 

 

「……ぬいが、そんなことを?」

 

「ああ、お前が録にフランス語も喋れないままフランスに行って料理やお菓子やバレエだかのレッスンを受けてた時期だったから7年前くらいか、その風鳴家と大淀の大本営は昔から色々あったらしいんだが、それとは別に風鳴翼を攫いに夜に家を勝手に出ようとした不知火を偶然見かけて無理やり私も格好つけてその騒動に参加したんだが、その時に風鳴翼に私は会ったことがあるんだよ…立派な家だったな彼処、かなり和風で庭も広くて、まさに武家という感じで……」

 

武蔵は散歩気分で不知火の友人の家出の手伝いに付いて行ったと思ったら不知火の目的地はそんな立派な家で「ヤクザの家かもしれない、もしかしてヤクザの一人娘を……攫うのか…もしかして」と嫌な気配を感じたらしい。

 

必死に冷静さを取り繕って相手の家の前で「ここか?不知火」とか言っていた記憶を武蔵は思い出す。

 

「……武蔵、よくやりました、そういうところは格好つけでも本当に格好良いですよ貴方は」

 

ベルファストが心からの賞賛を武蔵に送る、大抵の男はそれだけで落ちるだろう微笑みを浮かべながら。

 

「………有難う、で、私は風鳴に代々仕えていた緒川さん達を「こいつら人間なのか?」と驚きながらギリギリの所で抑えていたが、あの時の不知火は凄かったぞ、たった1人であの弦十郎師匠と互角以上に渡り合ったからな、ガチンコの殴り合いだ、まぁ師匠は最初は不知火を傷つけないように相手をしたようだがあれは凄かった、油断しているところに艦娘の全力の一撃だ、常人なら死んで居ただろうな、そこから師匠も本気を出し始めて、まさに死闘だった」

 

小さな不知火が、まるで巨岩のような男とぶつかりあったという7年前。

大きな日本屋敷の庭先で大地が抉れていくような超人的な戦い。

 

「ぬい?…あの可愛いらしい、ぬいが?しかもまだ11歳の時の、ぬいが………あの大男と、そんな……?」

 

私たちと違って本当の11歳ですよ、小学5年生の時のぬいですよ、とベルファストが驚いていた。

 

「あの時の不知火はまさに不知火、海の上でも消せることの出来ない炎の如く、命を燃やして死にもの狂いで戦っていたぞ「朝までにはこの不知火が翼の夜を終わらせてみせる」とか凄まじい格好良い事いいながら、そして弦十郎師匠が人生で初めて誰かに完全に負けたと言わせるほど強かったな、あの不知火は」

 

「あの風鳴弦十郎を?」

 

ベルファストはいつも風鳴弦十郎のガサツな言動に凹まされ続けて、ついにはもう諦めたというのに。

あの人の話を全く聞かない男を昔の小学5年生の不知火が凹ませたの?と驚いた様子のベルファスト。

 

「どちらかというと力で打ちのめした、というよりも、その不知火の友人を想う強い心で打ちのめした、と言う様子だったな、あれは」

 

「………」

 

「一応、お前も風鳴翼が不知火の提督のことは大淀には秘密にしてくれ、あくまで不知火は友達の為にという理由にして欲しいらしい。提督だから、とかじゃなく私が闘うのは友達の為だからという理由で戦ったらしい、元々大淀は不知火の友人だからほいほいと手伝っただけだしな、むしろああいう外道な手を染める家は積極的に滅ぼしたいらしい、人間にそういう真似が出来る権力者は私たち艦娘にとって最も危険だ、未来のブラック鎮守府なんて言ってな…どれだけ昔にひどい2次創作話を読んだのかは知らんが…毎度のことながら、実際に未来に戦争のような物があれば、きっと私たちは大淀が居なければ実験動物として扱われるかもしれないなと思わされるな……」

 

「それはどうでも良いですが、私には…ぬいは一言も…………当時からそれなりに仲が良いと思っていましたのに…そういう時にこそ、メイドの力が必要なのでは?」

 

「…直接関わった私と大淀くらいしか知らない話だ、実際当時お前が日本に居たとしても協力は求めなかっただろうな、私も勝手に強引に付いていったんだ、そこに何があるとは知らずな…」

 

「……」

 

終わった後でもいいから私に教えてくれても良いのでは?とベルファストはちょっとふてくされた空気を出す。

むしろ、そんなことがあったというのなら、メイドが一番役に立つというのに?

 

「それ、なんで………私も…」とイジケそうなベルファスト。

 

 

「なんで、私はフランスに……そんなことがあったというのに、そんなことをつゆ知らず、毎晩の北上先生の食道楽に付き合っていたのでしょうか…私は……情けなくなってきました……メイドであるのならば言われずともすぐさまソレを感じ取り、仲間や主人が危機に陥った時に颯爽と影の如く現れる、それがメイドだというのに…なんと情けない……そういう第六感が、力が欲しい……それが出来なければメイドとしては私はまだまだ未熟なままなのかも知れない……本気で滝にでも打たれた方が良いかもしれません…」

 

ベルファストは涙が溢れそうだった。

 

「いじけるな、もう終わったことだからな……あと、お前の中のメイドはなんなんだ…」と武蔵。

 

「メイドはメイドです」

 

「そうか……あと、あの風鳴翼の暗い過去のことでもあるし、そんなに簡単に口に出来ることでもないんだろうな、私はよく知らないで戦っただけで大体しか知らない、正直のところ深くは知りたくないから漠然としたままにしている。

 

最初は家庭環境に悩まされている友達を家族と一端距離を置かせる為に家出をさせようと計画した不知火に付いていったと思ったら、盛大な超人バトルがいきなり始まってしまい私も驚いたんだ。

 

まさか、あんな人間たちが待ち構えているとは思わなかった、精々がヤクザのチンピラだと思っていた……。

 

風鳴の屋敷に着いていきなり不知火が蹴りで大きな武家の屋敷のような庭の壁を壊して侵入して私が驚いていたらさらにいきなり壊した壁の穴から苦無や弓矢が飛んできて私は死ぬかと思ったが不知火はそれをさも当然かのように無言でそれを蹴り落としていて…ちょっと怖かった。

 

私は一体どこに付いて行こうとしているのか、全くわからなかったのだから。

 

私からすればちょっとした子供同士の家庭相談だと思ったらいきなり最高裁判が始まりそうなくらいの驚きの展開だったからな、その後いきなりバッファローマンみたいな男と不知火が超人バトルだ。

 

わけがわからなかった。

 

私はそれでもわけがわからないまま……お前が居たらとよく思ったよ…お前ならあのノリに付いていけそうだなとか考えながら、不知火がその謎の巨漢の超人と戦っている間、必死にプロレス技を使って他の人間を足止めしていた」

 

「……色々あるのですねその風鳴家というのは………それは本当に今の時代の日本の話しですか?不法侵入を行ったらいきなり苦無や弓矢が飛んでくる家なんてこの時代に本当にあると言うのですか?」

 

「ああ、私もよく思った…そしてある程度戦っていたら、途中、大淀も赤い着物姿で刀を持って静かにやってきた……」

 

「……大淀様が…何故?」

 

「知らない、だが、大淀が興亜一心刀という満州統治時代に作られたという軍用の刀剣を抜きながら「日本の影で刃を振るう、風鳴の剣も今宵で終わりです、この大淀が成敗致します」なんて言い出してさらに私は怖かったよ…そのまま大淀は屋敷の中にひとりで静かに入っていくし、もう私の頭の中には暴れん坊将軍か仁義なき戦いのテーマが流れ続けていた………わけがわからなかった……大淀が言っていた731部隊に関与していた過去の風鳴の悪行ごと、とか―――正直、知りたくない」

 

「色々あるのですね…世の中………」

 

大淀と風鳴家の謎の確執はさておき、不知火はたった一言を風鳴翼の父として生きているある男に言いたくて戦ったのだ。

 

父であり、実は風鳴翼の異母兄である風鳴八紘に。

 

「翼をちゃんとはっきりとわかるように愛せ、お前は大人なんだから、一番苦しいのは子供の翼なんだから、ちゃんとしろ、それが出来ないならこの不知火が翼を攫って幸せにしてやる」みたいな感じのことを彼に言ったそうだ。

 

「…化物か貴様は…」

 

「化物で構わない、この不知火は翼の為ならば、化物でも構わない……」

 

そんな男らしいことをズバズバと言う小学5年生の不知火の戦う背中を見て、緒川という忍者の末裔の大学生の1人にアルゼンチン・バックブリーカーをかけながら武蔵は「高町なのはかな?」とか思ったそうだ。

 

そうした不知火の強い意志が、風鳴弦十郎を打ち破ったのだ。

そして後に風鳴弦十郎に「すまなかった……見て見ぬ振りをしてしまっていた俺は間違っていた…俺にも翼の為に何か出来た筈だったのに…赦してくれ」と土下座をさせたらしい。

 

それから7年後、風鳴翼は風鳴八紘という本当の父と休日には仲良く腕を組んで買い物をしたりしているらしい。

傍観するように静かに娘と接することを風鳴八紘は止めて不器用ながらもしっかりと言葉にして娘を愛するようになったそうだ。

 

ちなみに遺伝子上の風鳴翼の父親である祖父の風鳴訃堂という外道な老人は大淀に成敗され、そのまま家が大淀に乗っ取られたことで心が折れてボケてしまったらしく老人ホームで静かな余生を過ごしている。

 

 

「色々あったんだが、簡単に言うと不知火はその友人の父親に直談判したようだった、その結果、友人の家庭環境の改善が出来たみたいだ――大淀は知らん」

 

「ぬい、頑張ったのですね……」

 

「でだ、それから月日がたって風鳴翼が歌手としてある日ある曲を歌ってデビューした、そして流れるんだ、ある曲が街のいたるところで……もう私はその日から風鳴翼の熱狂的なファンになってしまったし、不知火があの時何をしたのかもはっきりと理解出来た」

 

「その曲は?」

 

「私が昔、前世で好きだったアニメのオープニング・ソングだった」

 

「……はい?」

 

「不知火は本当に高町なのはだったんだ、風鳴翼にとっての……」

 

「わけがわからないのですが…アニメが何か?高町なのはとは?」

 

「私にしかわからないだろうが、今度その曲を聞いてみろ、CDを貸して…いや、今、携帯で歌詞を読ませてやる、これだ……そもそも何処かで聞いたことはある筈だ…」

 

武蔵はいそいそと自分の携帯電話でネットを開いて、その風鳴翼が歌った曲の歌詞項目をベルファストにみせる。

その興奮した様子はオタクっぽいですね、武蔵は、と思いながらベルファストは携帯の画面を覗く。

 

「題名は…ゼロからの出発?……ああ、ラジオか何かで聞いたことがあります…あれは温かい歌ですよね」

 

「そう訳すのか……初めて知った…日本語は素敵だな…本当に……」

 

この世界で風鳴翼のデビュー曲は「innocent starter」

 

魔法少女リリカルなのはのOPだがこの世界では普通の歌謡曲として歌われたそうだ。

メディアで歌われたその日から、すぐにオリコンチャートランキング1位を獲得したらしい。

歌詞も歌声も心にとても深く響く良い曲だと言われており、日本全国の様々なお店などでそれが流れる度に、それを聞いた不知火が静かに顔をいつも赤くするらしい。

風鳴翼に不知火ははっきりと「私たちの歌だ」と不知火の前で初めて歌った日に微笑んで言われていたのだ。

 

それから曲を作る度に風鳴翼に似たようなことを言われる不知火は「なんでしょうか……不知火に落ち度でも……」と恥ずかしがって顔を隠してしゃがみ込むらしい。

それを見て豪快に笑う風鳴翼、そんな二人の様子をみる周囲は誰もが毎回生暖かい目でみるしかないという。

ちなみに不知火は女の子なのに風鳴八紘に婿殿扱いされているらしい。

 

「………ぬいを全力で愛でましょうか、今度あったら」

 

歌詞を見て、どれだけ偉大なことをあの不知火が成し遂げたのか、大体理解したベルファストは不知火と彼女の提督である風鳴翼の深い親愛なる友情を感じ取れた感動に震えながらそう言う。

 

「ああ…しかし、そんな熱くて凛々しい不知火を猫可愛がり出来るのはそもそも同世代の艦娘でお前だけだからな、普通に天龍や私が頭撫でるとかなり不機嫌になるからな、あいつ、なんでお前は不機嫌にせず出来るんだ?」

 

今は高校三年生の不知火は未だに中学生くらいの容姿なので、周囲から年下扱いされるのをひどく嫌っている。

 

「ああ、それはちゃんと頼んでますから、愛でさせてください、お願いしますって、勝手に可愛がるならそれは相手は怒りもしますがこちらから愛情と誠意を込めて頼んでいますから私の場合は出来るんですよ」

 

「なるほどな、何事も誠心誠意か」

 

「で、なんでしょうか今のそのぬいの劇場版でしかも感動巨編みたいな話は………家にでも泊まってもっと詳しく聞かせてください…あと、何故みんなは自分の提督のことあんまり他人や特に大淀様に教えたがらないんでしょうね、私も教えてませんけど、大淀様は艦娘達が選んだことに対してはそもそも深く聞きませんが私は天龍の傍に居るために通ってると大淀様に誤魔化してますね」

 

 

「提督たちの人生ホイホイと変えてしまいそうだからな、それくらい自分の力に無頓着すぎるからだろう」

 

風鳴翼が純粋に自分の力のみで歌姫として世界一の歌姫になれるように応援してるからそれを財力で邪魔されたくないんだろう、と武蔵は言う。

 

「最早、日本牛耳ってる感ありますからね、カイジの兵頭会長とか、アカギの鷲巣とか、そういう感じで、本拠地の栃木県に地下帝国もってそうですからね…ああ、そのような家を沢山取り潰した結果そうなってしまったのでしょうね…」

 

「既に核シェルターはいくつか持ってる筈だ」

 

「それは知ってます、前に天龍と一緒に見学したことがありますが、其処においてある保存食のお菓子のウエハースのやつがとにかく美味しいのですよ?知ってます?ビックリマンチョコよりも美味しいんですよ、あのビックリマンチョコよりもですよ、武蔵も今度どうでしょうか?」

 

「知らないはずはないが私は甘いのは一切駄目だからパスだ、それにしてもお前そういうお菓子大好きだな、ほんと………まぁいいか、今日お前の家に泊まったら色々私にも聞かせてくれ」

 

 

「ええ良いですが……今日、ですか?」

 

「今日だ、駄目か?」

 

「食材の準備をしないと……家の冷蔵庫にお菓子の材料くらいしか今ないのですが…」

 

「たまにはスーパーの出来合いか出前で良いだろう、カラオケの後だとお前が食事を作って私を持て成し終わってしまって折角の話が出来なくなる、ついでにお前が漬けているあの梅酒を飲ませてくれ、酒を入れれば其処まで食わずに済むしな」

 

「……たまにはいいでしょう、では私はカルアミルクでも…って学校ではそういうことを言うのはやめてください……」

 

「大丈夫だ、周囲に人は居ない」

 

「いえ、そうではなく、そういうことではないのですよ、マナーの問題です、人前ではなくとも、未成年が通う学校の中ですので、そのような言葉はいけませんからね、わかりますか?」

 

学校で性欲を解消しようとした人間が棚に上げてそう言う。

 

「わかった、で、いいんだな?」

 

「ええ」

 

よし、とベルファストの返事を聞いて武蔵は思った。

 

カラオケの後のお持ち帰りはこれでなしだな今日はと密かにベルファストの不純異性交遊を阻止できたことに少し安堵する。

過去に毎晩、アブノーマルなシュチュエーションを考えてはアンアン叫んでいたベルファストは高校生の男子にとっては毒過ぎるのだ、もう少し段階を踏んでからやってもらわないと、数カ月後に家庭科部部長が高校中退をして大問題になりそうだからだ、それを知った大淀が何をするかわからない。

 

 

「よし、もういい加減、立ち止まらないで職員室にいこうか…井戸端もそろそろにしないと、お前のカラオケが待っているしな……私の愚痴に付き合ってくれてありがとう、大樹」

 

「悩みがあったのでは?結果的にただの長い雑談でしかなかったような気がするのですが…?」

 

「それはもう解けた、助かったよ」

 

清々しい顔で武蔵はそう言いった。

 

「そうですか、それは良かった、あとそうですね、カラオケの時間がなくなります……急がないと…あと大樹と呼ばないでください、あなたは教えてくれない癖に」

 

「私には氷川武蔵という名前以外ない」

 

「前世の方は?」

 

「お前と違って、前世の名前すら覚えていない、何故だろうな…氷川という苗字も得るのには色々しなければならなかったし、そういう謎の力が働いているみたいだな……」

 

「あら……そういえば艦娘は艦娘になると誰もが、家族すら元の名前を受け付けなくなるそうですね、確かに例のイギリスの友人も名前で呼ぶと少し違和感を感じましたし」

 

艦娘が艦娘として覚醒すると艦娘の名前以外を呼ぶと他人も本人も違和感を感じ、大抵が皆、不幸な家族関係に陥るそうだ。

ある日から突然、自分たちの娘を別の名前の存在だと思ってしまうという、艦娘としての覚醒。

それを現代人たちの多くは恐ろしい何かと感じてしまって自分の子供を捨ててしまう。

大淀くらい昔の日本に生まれていれば、下手をすると座敷牢暮らしもありえる。

 

東雲鳳翔は稀有な存在で、生まれた時から鳳翔と名付けられていたらしい。

 

「そういうことだ、きっと私たちにとって魂の真名だからなんだろうな」

 

「そうですか……では、職員室にでも…」

 

「ああ」

 

 

 

そう言ってふたりは空き教室が多くある学校の区画から職員室の方へと再び向かった。

そして

 

「あ」

 

「あら」

 

「あ、ベルファストさんに武蔵…?」

 

少し猫背で目立つ寝癖と少し斜に構えた様子だが、中々整った容貌が特徴的な男子生徒が独りそこにいた。

武蔵は少し疑問に思い、すぐに理解した――――ああ、奉仕部にもう入ってたのか、まさか。

 

まさか、家庭科部を設立してしまったせいで、色々変わってしまったのか。

 

 

すまんベルファスト。

 

 

忘れてた。

 

ちょっと出遅れてるかもな…すまん。

 

なんでいつも私は―――。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

三話 なんて素敵なジャパニーズ 後編 了

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 




設定やちょっとした解説。

風鳴弦十郎
武蔵の武術の師匠の1人。

シンフォギアを見ていて思ったのは何故、あの風鳴弦十郎が翼の過去について本気を出さないのかいつも謎だと作者は思っています、OTONAなのに。
風鳴訃堂が人間最強枠で過去に戦って負けていたりするのだろうか。

ベルファストの不倶戴天の敵。
周囲は「案外お似合いなのでは?」と思うらしいがベルファストはそんなことは思ったことはないし、純粋に苦手。


不知火

戦艦の眼光を持つ少女。
数々の二次創作においてワンパンで敵を沈めたりしてます。
今作においてもそのイメージ。
過去にやっていることがまんま、ラノベ「紅」の紅真九郎。


武蔵

本作におけるドジな凡人枠や解説枠を兼ねている使いやすい子。
海上だと反力が激減するのでプロレス技を主体とした戦闘を好んでいる。


大淀

彼女の話は深く追及した話を書くと戦後内政チート系なので別の話になってしまうので閑話などではあっさりとした話を考えています。

本作は青春ラブコメなのです。

鳳翔さん

何故、自分たちが転生したのかという、大体の理由を漠然と理解しているらしい。

そして泉かなたが彼女の初代提督。


三匹のドル豚

オリジナルキャラ 
本作で使います。

最後に

設定は本作のエッセンス。

あと閑話で読んでみたい話があれば、作者の知識量で書ける範囲は書きますので要望があれば感想にでもお書きください、R18は勘弁してください。




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