年齢や名前が出ていない兄弟の名前は全て捏造になります
例えばの話、マンガとか小説があったとして、その物語の中では簡単に人が死ぬ。
それは、物語という筋書きをより盛り上げるためには必要なことだ。
けれど、それでも、死んでしまったキャラクターたちが生きていて、悲劇など存在せずに生きていくという筋書きを読みたくなるのが人情だろう。
彼自身も、そういった感覚で二次創作のサイトなどを巡っていたこともあった。
だからと言って、別に自分自身でそんなことをしたいと思ったことはなかったのだ。
(なのになんで転生先が殺伐マックスのNARUTOの、よくも知らない柱間とかマダラの時代なんだよ!?)
怒号と刃物と、そして忍術の飛び交う戦場で、彼、うちはヒヨリは生まれた時から幾度も考えたことを反芻した。
「ヒヨリ、聞きましたが千手一族を討ち取ったそうですね。父として鼻が高いですよ。」
「・・・・はい、ありがとうございます。」
ヒヨリは、傷を負った体に鞭を打ちながら、現在の父であるタジマに返事をした。
初陣から数年、その間に生き残っていく中で人を殺すということにおいてある程度は耐性はついた。少なくとも、動揺を外に出すほどではなくなった。
ただ、人を殺したことを褒められる、ということはいつまでたっても慣れはしない。
今回は、羽衣一族との連合での戦だった。そして、敵には千手一族も加わっていた。
(・・・・うちが相手だって知れ渡ると、結構な確率で千手を雇うからなあ。)
おかげで、千手との確執はどんどん広がっていく。
疲れた体を引きずって、父や一族の人間と己の集落への道を進める。
己の衣装についた返り血は拭いきれることも無く、べったりと張り付いたままだつた。
「それでは私は今回の戦でのことで話し合いがあるので、お前は先に家に帰っていなさい。」
「分かりました、父様。」
集落へと帰って来ると、出迎えのために集まっていた一族の人間に出迎えられた。一族の皆は、それに緊張させていた体の力を抜き、それぞれの近しい者たちの元へ行く。
あまり戦場の経験が無い年少者などは母に会い、安心したのかそのまま崩れ落ちる様に眠りこけてしまっているものもいた。
そして、そんな中、すすり泣く様な声が響く。皆の視線がそちらに向けば、そこには老いた女とその背を撫でている年若い男が一人。
「・・・・シガクの弟、帰って来れなかったんだな。」
「千手に討ち取られたらしいぜ?」
「ああ、また千手か。」
ひそひそと聞こえる声に、淀みに淀んだ憎悪とも言えるどす黒い何かが混ざっていることが分かる。
今回の戦は、どちらかと言えば小競り合い程度だ。それでも、少なくない一族のものが死んだ。それもほとんどが子どもだ。
訓練さえ碌に出来ていない存在を戦に連れていくことは、ヒヨリも反対の意見を唱えているが、所詮は子どもの言葉だ。聞き入れられることなどない。
そして、そういった兄弟や夫の死を知った一族が立ち去ると、生き残ったものたちも自宅に帰り始める。
そんな中でも、長であるタジマは何かしらの話し合いがあるのだろう、集落の寄り合い場のように使われている建物へと行ってしまう。
それを見送り、ヒヨリは己の家に足を進めた。
「若、お帰りなさい。」
「若!手柄を立てたそうですね!」
集落を一人で歩いていると、すでに広まっていたらしい話を種に一族の人間に話しかけられる。
ヒヨリは、ひらりとそれに手を振ってこたえる。それを見ていた一族の者たちは口々に言い合った。
「さすがは、長の長男様だ。齢八にして、千手の大人を討ち取るとは。」
「ああ、おまけに驕ることも無く鍛練も怠っていない。」
「これでうちはも安泰だ。」
(聞こえてんだけどね?つーか、中身はあんたらよりもはるかに、とまでは言わねえけど、十も違わねーんだから。そんなに褒め称えても意味ねんだけど。)
しょせんは、ヒヨリは凡才なのだ。平和ボケした世界で生きてきて、この世界に適応しているだけ、確かに優秀なのかもしれないが。
ヒヨリと名付けられた少年は、確かに天才であった。イメージ通りに動く身体や教えられたことをまるでスポンジに沁み込む水のように吸収する頭。それがあったからこそ、戦というものを恐れていたヒヨリも生き残ることが出来た。
下のきょうだいたちの成長を見る必要も無く、ヒヨリという存在は周囲に才能を見せつけた。一年前、わずかに、齢八にして、彼は千手一族の忍を殺して見せた。
(・・・・そうだ、あの時、俺はこうゆう世界で、こんなふうに生きていくことを決めたんだっけ。)
そんな彼を、一族の皆はもちろん、父のタジマも褒め称えた。
もしかすれば、千手一族との因縁に終止符を打てるのかもしれないと。
それを、ヒヨリは内心で嘲笑さえしていた。
無理だと、知っていた。ヒヨリは、マダラという男の実力を真に知っていたわけではないが。それでも、漫画やアニメで見たことを考えれば、自分という存在はどれほどのものだろうか。木遁という力を知っている身としては、いつか来るヒヨリという存在の無力さを彼らが知る日が来なければいいのにと、そんなことさえ思った。
内心で憎々しくそう思いながら、道を行く身内一同に挨拶をする。そして、今までのことを思い出し始めた。
一歳の時に熱病で生死を彷徨った際、何の因果か前世というものと思い出したのが運の尽き。自分の苗字がうちはだったと知った時の衝撃は今でも覚えている。うちは特有の容姿だとか、あの有名な家紋だとか。
転生するとしても、なんでもここなんだよと叫びたくなったのは割愛するべきか。
長男だったせいか、父親の期待もお察しの通りで、扱き倒されたのも今では懐かしい。
(・・・・・あそこまで扱かれたから、俺も何とか今、生き残っていられるんだろうけど。)
最初に比べれば、ずっと、戦場で息がしやすくなった。
この時代、齢六つにして、すでに戦場に出ることになっている。ヒヨリ自身、すでに戦場に立つようになって三年が経過した。
人を殺す様になってから久しい。摩耗し、麻痺した精神は、少しずつ何かが削り取られていく感覚もしてはいるが、それでも逃げ出すわけにはいかなかった。
「兄様!」
そこで思考に割り込んできた声に、ヒヨリは視線を向けた。
そこには、彼よりも少しだけ幼い子どもがおんぶ紐に赤ん坊を背負って駆け寄って来た。
「兄様、お帰り!迎えにいけなくてごめん。父様はどうされたのですか?」
「・・・・ああ、父様は少し話し合いがあるから後で帰って来る。迎えの事は気にしなくていい。弟たちの世話もあるし、仕方がないからな。」
ヒヨリは湧き上がって来る何とも言えない感情を押し殺し、彼女に微笑んだ。
「ただいま、マダラ。」
「うん、おかえり、兄様!」
元気よく返事をした妹のマダラに、ヒヨリはうーんと心の中で唸り声を上げた。
最初に、タジマという父親の名前に思うことが無かったわけではない。
あれ、アニメで聞いたことあるくね、なんて思わなかったわけではない。
自分の家がうちはの族長筋って聞いたけど、時代がちがうのかなとか思ってたけど。
まさかの自分の次に生まれてきたのが、女の子で、マダラって名づけられるなんて思わないじゃないですか・・・・・!!
マダラのあとからわらわらと湧いて出て来た残りの弟二人をあやしながら、ヒヨリはぐったりと息を吐く。
次男であるアサマの頭を撫で、三男のホノリを腕に抱いて、マダラにおんぶされた四男のイズナに目を向ける。
(上がマダラで、下にイズナって完璧にそうだよね?)
確か、マダラは五人兄弟だったはずだ。なら、一番上に自分がいるせいで、一つ繰り下がったというのが妥当なのだろうが。
(・・・・けど、マダラが女ってことは、もろもろのフラグはすでに存在、しないのか?)
うちはになってから知ったが、基本的にこの一族では女は忍にはならないものらしい。理由としては、女はあまり戦力として期待できない。だから、他の一族でも言えることだが、くのいちは主に諜報活動を行い、そのために色事に関することも必要になるわけだ。
うちは一族には血継限界がある。そういった色事で下手に妊娠でもされれば、血の薄い子が生まれてしまう。そのため、うちは一族では女性は基本的に家について任されている。
(ここらへんは、出稼ぎっていうか、内と外で役割を分担してるわけだ。)
このままいけば、マダラは一族のどれかの男と結婚し、この集落で生涯をすごすのだろう。
それならそれでいい。マダラの将来を考えれば、退屈かもしれないが人並みに幸せな人生だろう。
(・・・・・・つーことは俺が柱間とか木の葉の里とかお膳立てしないといけねえの?いやあ、むりむり。)
彼と対決するには最低条件で万華鏡写輪眼が必要になるわけだが。
それを開眼するイメージが自分にわかない。というか、体術や忍術において、あそこまで行ける自信が無い。
(嬉しくないことに、写輪眼は開眼したけどさー。うちはの病とか、つーか下の弟二人下手したら死ぬんだよな・・・・・)
記憶が正しければ、柱間とマダラは河原で出会ったのは、背格好からして十は超えているだろう。その間に、柱間の弟の板間と、イズナを除いた弟が死ぬのだ。
(・・・・つって、俺も生き残れるのか、分かったもんじゃねえけど。)
そして、自分たちはマダラを一人にするのだ。
苦々しい未来になるかもしれないそれを思って、ヒヨリは顔を歪めた。
それに、下の弟妹たちは不安そうに、ヒヨリに声をかける。
ああ、逃げられない。
ヒヨリは、まるで呪いのように、そんな彼らを愛してしまっていた。