ともかく一族滅亡は逃れたい   作:藤猫

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日常が続いた。次から進展していくと思います。


きょうだいたちの日常

「姉ちゃん、兄ちゃんはー?」

「自分の部屋じゃないの?」

 

マダラは兄が取り込んでくれた洗濯物をちまちまと畳みながら、アサマの質問に答えた。その隣には、小さな人形を持って遊ぶイズナが寝転んでいる。

戦も無い昼下がり、アサマは兄に稽古をつけてもらおうと家の中を探していた。

 

「分かった!」

「アサマ、兄様の邪魔しちゃだめよ!?」

「しないよ!」

 

どたどたと走っていく後ろ姿にマダラため息を吐く。来年には戦に出なければならないのに、落ち着きのない弟が心配になる。アサマは、他の一族の同い年に比べてずっと落ち着きがない。戦場のことをよくよく知っている兄や父は、戦では冷静であることが大事だと常々言っているが、大丈夫なのだろうか。

そこで、マダラは畳んでいた服に目を向ける。丁度、手に持っていたのはアサマのものだった。先ほど持っていた兄の服に比べれば、ひどく、ひどく、小さなものだ。そんな、小さな体の弟が、来年には戦に行く。

マダラは、きつく、服を握りしめた。そして、心の中でゆっくりと、幾度も、幾度も呟く。

 

(・・・・大丈夫、大丈夫、大丈夫。)

 

アサマは、同年代に比べればずっと体術や剣術について優秀だ。ホノリも落ち着いた性格の子だ。

二人とも鍛練だって欠かしていない、兄にも時々とはいえ鍛えてくれている。

そう、だから、大丈夫なのだ。

己にそう、言い聞かせてマダラは掴んでいた服を放す。

 

(・・・・服、タンスにしまって。もっと、出来ることを増やしたいなあ。)

 

マダラは、まだ家のことを全て任せてもらっているわけではない。兄や父が戦でいないときは、弟たちと自分だけが家に残る。隣には叔母一家がいるため、食事などはそちらに食べに行っている。

けれど、マダラとしては早々と自分で食事を作れるようにして、叔母の負担を少なくしたいと思っていた。

 

(・・・・兄様、私には禁止するんだもん。父様から聞いたけど、兄様は私ぐらいからご飯を作ってたって聞いたのに。)

 

マダラの母はあまり体が丈夫でなかった。そのせいか、いつも寝ている風景しか覚えていない。そんな母の代わりに家の仕事をしていたのが兄だった。

もとより忍のせいか、体力があったらしく大人の手を借りる時はあったらしいが、ほとんど自分で家事をしていたらしい。

ヒヨリとしては、内面の年齢が年齢な為仕方がないのだが。彼としては、マダラぐらいの年で包丁を使うのはさすがに恐ろしいのだ。正直言えば、マダラにはまだ遊んでいてほしいと思っている。

けれど、マダラからすれば、女は家のことをするのだから早く出来ることを多くし、父や兄の役に立ちたいのだ。

 

(・・・・兄様はすごいもんなあ。忍術とかだけじゃなくて、家事も出来るんだもん。)

 

マダラは、どんなことでも褒めてくれる兄が好きだ。小さなことでも、できたらすごいなと褒めてくれる。そのせいか、もっと出来る様になりたいと思うのだろうが。

マダラは、ちらりと隣に寝転ぶイズナを見る。

イズナが今遊んでいる人形も、兄が端切れで作ったものだ。

 

「兄様に、針仕事教えてもらわなくちゃなあ。」

 

マダラは叔母が話していたアサマの戦装束の件について思い出す。

うちはの女は、どんなことがあっても夫や息子、兄や弟の戦装束を己で作る。無事で帰って来るようにと、一針、一針、縫っていくのだ。

 

(・・・・叔母様に頼んで、私も手伝わせてもらおう。)

 

兄のものも、父のものも、手伝わせてもらおう。

今は、己だけで仕立てることは出来なくても、せめて、それだけはしたかった。

女である自分に出来ることは、それだけしかないのだから。

 

 

「兄ちゃん!!」

 

どたどたと騒がしい足音共にアサマは兄の部屋の襖を開けた。

 

「・・・・・アサマ兄様、声ぐらいかけなよ。」

「アサマか、どうした?」

 

兄の部屋は、薄暗い。なぜかというと、部屋の壁に沿うように棚や台が置かれている。棚には戦のための武器や、その手入れ道具。そして、大半を占める巻物や紙の束が置かれている。

部屋に入ると、紙と墨のにおいが鼻を衝く。

それは、アサマの苦手な座学を思わせるためどうも好きになれない。けれど、それと同時に兄の部屋を思い出せるため、嫌いだとも思わなかった。

部屋には、何やら巻物が広げられ、それを覗き込むようにホノリとヒヨリがいた。

 

「なんだよ、ホノリ、ここにいたのか?自分だけ兄ちゃんとずるいぞ!」

「アサマ兄様が、ヒカク従兄様たちと修行するって飛び出していったんでしょう?」

 

ヒカクは、隣りの家に住むアサマたちの従兄だ。ちょうどアサマと同い年で、来年には初陣をきるため、この頃は熱心に互いで鍛練をしている。

 

「・・・まあ、そうだけど。」

 

アサマはホノリに指摘されて、気まずそうに頭をかきながらヒヨリの隣に座った。

 

「そういや、何してんの、兄ちゃん。また術の発明?」

 

アサマは誇らしさを隠そうともせずに、巻物を覗き込む。

ヒヨリは、戦場に立つようになって忍術の開発も行うようになった。アサマはあまり知らないが、父であるタジマが褒めているのを聞いたため、きっとすごいことなのだろう。

アサマは兄が好きだ。怒る時は怖いが、それでもそれ以上に褒めてくれる兄がとても好きだ。

体術や剣術だけでなく、忍術に関しても秀でた兄は、ホノリの誇りだ。それに加えて、周りの同い年に比べて冷静で皆の中心に立つ兄はまさしく彼の自慢だった。

何よりも、戦場に出る前から兄は写輪眼を開眼させたのだ。

 

(俺も早く開眼しないかな。そしたら、もっと強くなれるし。兄ちゃんも褒めてくれる。)

 

アサマは、そんなことを思って心を躍らせた。

 

「違う、ホノリに、大名同士の関係について少しな。」

「え、勉強?」

「アサマ兄様も知っといた方がいいよ。忍者なら、雇われる人の現状は知っといた方がいいよ。」

「えー、それならお前が覚えとけよ。俺、こういうの苦手。」

 

不服そうに顔を逸らすアサマに、ホノリは眉を寄せた。そこでヒヨリが困ったような顔をして、アサマの顔を覗き込んだ。

 

「そういうなよ、アサマ、知っておいてそんなことはないぞ?」

「・・・・そういうのって、頭領になる兄ちゃんが知ってりゃあいいじゃん。」

 

ぶすりと口を真一文字に結んだアサマに、ホノリは不機嫌そうな顔をする。

 

(・・・・せっかく兄様と勉強してたのに。)

 

普段、家事や戦で独り占めできる機会など滅多にないのだ。ホノリは、間に入って来たアサマに少しだけ顔を歪めた。

ホノリは兄が好きだ。戦で手柄を立てるほどの強く、そして頭も良い兄は、彼にとって自慢の兄だった。

 

(・・・・ぼくは、あんまり体術とか好きじゃないから、こういう時ぐらいしか褒められなのに。)

 

別に苦手、というわけではなかった。ただ、本などを読んだり、忍術についての勉強をしている方が性に合っていた。

周りの大人は、どちらかというと戦闘において才をみせるアサマのほうを褒めることが多い。けれど、兄は違った。

ホノリは、その時のことを思い出すと自然に頬が緩んでしまいそうになる。

 

(お前は、お前の得意なことをすればいい。俺も全能じゃないんだ。もしもの時は、助けてくれ。)

 

そんなことを言われた時、ホノリはまさしく有頂天になった。

憧れの兄に、自分が頼られることができるかもしれない。といっても、戦場の事を考えれば体術等もしっかりするように言われはしたが。

 

(ホノリは、鍛練の時なんかによく褒めてもらえるんだから、こういう時は譲ってくれてもいいのに。)

 

ヒヨリは、不服そうな顔に戻ったアサマを横目に捕らえつつ、小さく肩を竦めた。

 

「そういうな、いつまでも俺がいるとは限らないんだから。」

 

その言葉に、アサマとホノリは飛び上る様に顔を上げた。ヒヨリは、やはり笑っていた。いつもと同じように、優しげな顔に、ホノリが声を上げようとしたがそれに被さる様にアサマが叫んだ。

 

「何言ってんだよ兄ちゃん!そんな、そんな!」

 

感情が先走り、肝心な事が言えないのか口をぱくぱくと開いては閉じとアサマは繰り返す。それにホノリはヒヨリの反応を伺った。

それに、ヒヨリは驚いたように瞬きをした。そして、その後に、苦笑をしながらアサマの頭を撫でた。

 

「あー・・・勘違いさせたか。そういう意味じゃないんだ。」

「なら、どういう意味だったんですか?」

 

ホノリの震えた声に、ヒヨリは一瞬だけ動きを止め、そして軽く首を振った。

 

「そりゃあ、お前らが大人になってまで世話できることは少ないだろうしなあ。」

 

本当に、それだけ?

そう問いたくなった。けれど、それを素直に聞いて応えてくれることもないだろう。兄は、昔からそういうところがある。

ホノリは湧き上がって来る不安に、顔を歪めた。

ヒヨリは、皆の中心にいるようで、時折ぽつんと一人で物思いにふけっていることがある。

その時の顔が、ホノリは好きではない。

ひどく、遠くを見るような顔で何を考えているのか。それでも、聞いたとしても教えてはくれないのだが。

アサマは、それに素直に納得したのか、なーんだーと声を上げた。

 

「でも、それならホノリが覚えればいいじゃん。こういうの得意なんだから。」

「そう言うな、それに、アサマだってずっと一緒にいるわけじゃないだろう?アサマも覚えてくれると俺も嬉しいな。」

「・・・・兄ちゃんも嬉しいの?」

「ああ、俺ももしかしたら忘れちまうかもしれないし。そう言う時、お前は覚えておいてくれたら、俺も助かるんだ。兄弟だからな。俺はアサマやホノリのことを助けるが、お前たちも俺のことを助けてほしいって思ってるぞ。」

 

そう言われると、がぜんやる気が出てきてしまう。アサマがそれに反応し、広げられていた巻物をチラリと見る。すると、ヒヨリはふふふふと小さく笑い声を上げながら、地図をなぞっていく。

小さなネタ話を交えながら、飽きないそれにいつのまにかアサマは夢中で聞いていた。

その横で、ホノリだけは胸騒ぎをさせながらヒヨリを見つめた。

 

(・・・・・もっと、頑張ろう。)

 

その胸騒ぎも、兄の言葉の意味も、良く分からなかった。ただ、もっと、強くなって、勉強しようと思った。

きっと、もっと強くなれば、もっと賢くなれば。

 

(・・・・兄様だって、あんなこと言わないはずだ。)

 

何故だか知らないが、そう思った。自分にできない事ならば、ホノリにしてもらえばいい。そうだ、兄弟なのだ。兄たちのことを助けられる、そんな人になりたい。

ヒヨリの説明を聞きながら、ホノリは、そんなことを誓った。

 

 

「はあ・・・・・」

 

夜も更け、ヒヨリは布団に入っていた。

 

(・・・・・マダラが強い。)

ヒヨリの悩みの種は、彼の可愛い妹であるマダラの事だった。

写輪眼が開眼してすぐ、彼は自分の覚えていることを出来るだけ書き出し、それを覚えて燃やした。

それによれば、マダラは柱間に出会った時、大人にも負けることはなかったらしい。そこから考えて、おそらく幼い時から頭角を現していたのだろうが。

マダラと下の弟たちや従弟の組み手を見ていて感じたのは、強い、その一言に尽きる。

 

(たぶん、あれじゃあ俺も負けるかもしれねえなあ。)

 

戦場で実際に殺し合いを行っているヒヨリでさえ勝てないマダラは、さすが主人公のライバル役、というべきなのだろうか。

 

(どうも、柱間は次の戦ぐらいで初陣をきるみたいだしなあ。)

 

その話を大人たちから聞き、期待の視線をもらったがそれに応えられそうにはない。たしか、柱間も幼いころから強かったはずだ。

アサマも、来年には初陣をきることになる。

迫りくるタイムリミットと考え、彼はため息を吐いた。

これからのことを考えて、出来るだけ弟たちは鍛えてやっているとは思うが。それでも、不安が残る。というか、不安感しかない。

 

(・・・・俺自身も、もっと強くならなくちゃいけねえよなあ。)

 

原作では、イズナを残し、マダラの兄弟は全員死んだ。ならば、自分もその死ぬ範疇に入っているのかもしれないのだ。

 

(・・・・というか、もしも、俺ら全員が生き残ったとして。木の葉の里って出来んの?つーか、ゼツはその場合どうなんの?)

 

考え出してもしょうがないのだが。どうしても一人でいると、そんなことばかり考えてしまう。

ヒヨリはまた、深くため息を吐いた。

 

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