気づいたら、お気に入りが千を超えてました。ありがとうございます。
「・・・・・・・・・・・・・・」
感極まった後に残ったのは、筆舌しがたい気まずさだった。
岩の上に向かい合って正座し合い、互いに何とも言えない顔で見つめ合った。
名前も聞いていない、少女はどちらかというと気恥ずかしさが勝っているのか、居心地が悪そうに体を小刻みに揺らしている。
その間に、ヒヨリは己の中に生まれた警戒心に従って少女を観察する。
炎のような赤い髪は、腰まで伸びていて、癖のないストレートだ。色素自体が薄いのか、肌も雪のように白い。
顔立ちを言えば、美人に属するのだろうが。切れ長の目や、全体的な配置のせいなのか、少々厳しそう、というか高圧的な印象を受ける
そして、ヒヨリは彼女の顔に強烈な既視感を覚えていた。
(・・・赤い髪に、白い肌。もしかして、うずまき一族か?でも、わざわざここまで、どうして?いや、それにしてもこの既視感は?)
それに飲み込めない違和感を覚えながら、ヒヨリは目の前の存在の目的を考える。
この少女は、自分に対してどんな目的を持っているのか。
おそらく、自分と同じように前世の記憶のような者を持っているのは明白だ。そして、自分がうちは一族であるという事実は色濃く受け継いでしまった容姿から察せられる。それに加えて、忍ばない忍である自分という存在は戦場では非常に目立つ存在だ。自分の立場も、目の前の少女が知っている可能性は高い。
何を、望んでいる?
木の葉の里についてか?
それが、一番に、うちはに属する自分に関わってくる可能性が高いだろう。
(・・・・いや、もしかしたら、この時代についてまったく知らない可能性もあるのか。)
柱間たちの時代は、あくまでNARUTOという漫画の中ではそこまでクローズアップされていない部分だ。自分は、そこそこ鮮明に覚えていたが、彼女がそうだとは限らない。ナルトたちの時代だけ覚えていて、今についての情報収集をしたいという可能性もある。
それとも、安易に同じように転生してきた存在というだけで係わってきた可能性もある。
(・・・・・その場合、どうする?どれほどの情報をもたらせばいい?)
自分の目的に、彼女は使えるのか?
ぐるりと、渦巻く息の中、少女が口を開いた。
「あー・・・・・えっと、突然抱き付いてすまない。なんというか、自分と同じ存在に感動して。」
「・・・・いや、それについてはいいんだ。たぶん、俺もあんたと同じ立場だったら、同じことをするから。」
困り切った顔で頭をかくさまに、また強烈な既視感を覚える。
誰だ、誰に似ているんだ?
頭の中をひっくり返しても、明確な答えが出てこない。
「えっと、そんで、あんたはうちはの人間で。ああ、いや。その前に、名乗った方がいいよな。私の名前は、千手百合って名前だよ。」
「千手?」
明確な出自、方向性をもたらされたことで、彼の中で答えが見つかる。
「千手、仏間?」
「・・・・・やっぱり似てるのか。まあ、親子だからしょうがないか。」
吐き出した名前に、少女はまた何とも言えない、微妙な表情でヒヨリを見た。
ヒヨリは、自分が出した答えに、目を見開き声も出せずに固まった。
そうだ、彼女は千手仏間にそっくりなのだ。
戦場でも、遠目であるが一度だけ見たこともある。
(そうだ、千手仏間!あの男に似てるんだ。)
すぐにそれが出てこなかったのは、仏間に似ていると言っても瓜二つというわけではないからだ。おそらく、全体的な顔立ちは似ているのだが、細かなパーツが違うため既視感は覚えても合致にまでは至らなかったのだろう。それに加えて、彼女は赤毛だ。そのため、どうしても千手一族だと分からなかったのだ。
それが示すのは、彼女は千手柱間によく似ているということでもある。
そして、それにヒヨリは声を上げる。
「いや、待てよ!確かに、お前は千手仏間に似てるが、本当に親子なのか!?大体、お前、俺と一つぐらいしか違わないだろう!?なら、噂話ぐらいは聞いているはずだ!いや、その前に、お前はどう見てもうずまき一族じゃないか!?」
基本的に少女の方が成長は早いものだが、体格的なものからして百合と名乗った少女はどう考えてもヒヨリとそう変わらない。だが、もしもそうならば彼女は仏間の長子ということになる。
初陣はとっくにすませているだろうし、そうならばその時に噂として耳に入っているはずだ。何よりも、彼女はどうみても千手一族には見えない。
その言葉に百合は、肩を竦めた。
「・・・・・遠回しにものすげえディスられたような。まあ、いいけど。私は、柱間と違って才能がない、良くも悪くも平均的な人間だったからね。柱間の時、噂になったのは、次の跡継ぎの才能の宣伝の為さ。まあ、あいつはそうされても初陣で殺されないぐらいの才能はあったし。あと、私の母親がうずまき一族で、その母に似てるだけだよ。」
「・・・・それもそうか。いくら頭領の子どもでも、敵対してるうちはにまで柱間の噂が流れてきたのは、意図的に流したもんだったからか。」
驚きで思わず慌ててしまったが、百合の言葉にヒヨリはいったん息を落ち着ける。
そして、千手一族について分かっていることを頭の中で並べた。
千手一族は女性も戦に出る。うちはと違い、多数の人間を抱えている千手一族は戦である程度の人間が死んでもそこまで痛手にはならない。
それに加えて、千手一族は忍の世界でも有名なほど頑丈だ。
千手一族は、はっきり言えば特徴のない一族だ。うちはのように血継限界を持つわけでもなく、猪鹿蝶で有名な奈良家などのようにオリジナルの忍術を持つわけでもない。
けれど、そんな一族が忍の世界で有名なのは、その頑丈さ故なのだ。
生命力が強い。一言で表してしまえば確かにその程度だが、死ににくいというのは戦場でのアドバンテージとなる。
前の戦で殺したと思っていた存在と、戦場で出会った時などはぞっとする心地になる。
柱間も確かうずまき一族と婚姻を結んでいたはずだ。それが、彼の父の代に行われてもおかしくない。
(・・・・・・そういや千手一族が有名なのに、うずまき一族がそんなに有名じゃないのは疑問だったけど。どうも、うずまき一族は、神事に関わってる節があったな。)
しょせんは、うちはと言えども子どもが調べただけのことだ。敵対している千手一族の遠縁であるうずまき一族の情報は殆ど手に入らなかった。
(この世界では、忍宗は忍術になってる。でも、六道仙人が残したことがなくなったわけじゃない。うずまき一族は結界術が得意だけど、そこらへんに関わりがあるのか?)
考え込んでいたヒヨリを見つめていた百合は気だるそうに息を吐く。
「まあ、長子っていっても、所詮は女だし。柱間にも勝てないから、そういう頭領争いからは脱落してるしねえ。母親も亡くなって、今は二番目の奥さんだった人に育ててもらってるけど。」
「はい!?」
ヒヨリは目をかっぴらいて百合の顔を凝視する。思考に浸っていたヒヨリにとってはユリの言葉が現実に引き戻されるほどの衝撃的だった。
ヒヨリの驚き様に、百合はのんびりと返事をする。
「あ、うちはってやっぱ一夫一妻制?」
「当たり前だろ!?え、千手って違うの!?」
「うーん、千手は良くも悪くもそこまで血の濃さにはこだわってないから、他の一族との婚姻関係も少しはあるんだよねえ。だから、人数が多いのは知ってる?」
「ま、まあ、それぐらいは知ってるが。そのおかげで、千手って一族の人数多いよなあ。」
羨ましいと前から思っていたことを口にしていると、百合はうんうんと頷く。
「まあ、下っ端は一夫一妻だけど。ある程度地位が高い存在は、絶対的に奥さんが数人いることが多いよ。地位が高ければそれだけ強いし、そう言った存在は出来るだけ優秀な子は残しておいてほしいだろうからね。」
「・・・・うちは頭領だろうが、奥さんは一人なんだが。」
ヒヨリは昔の記憶のせいか疑問に思っていなかったが、確かに今は戦国時代。そういった、側室的な存在はありえるのだろう。
「えっと、じゃあ、あんたは正妻の?」
「うん、政略結婚みたいなもんでさ。といっても、私を産んですぐに亡くなったらしいけど。それで、二番目の奥さんだった人が今は正妻的な立場に立ってるけど。」
「・・・・あの生命力の強いうずまき一族が、か?」
「・・・・・任務に出て、死んだらしい。私もその時は昔の記憶なんてなかったから、よく知らないけどね。まあ、今は柱間たちのお母さんに良くしてもらってるよ。」
どこか、無愛想に答えた彼女にこれ以上何かを聞くことは出来なかった。
「そ、そうなのか。すまない、変なこと言って。」
ある意味、久方ぶりのカルチャーショックと彼女の事情に動揺していると、百合は口を開いた。
「それで、あんたの名前教えてほしいんだけど?」
それに、ヒヨリは自分が名前を名乗っていないことに気づいた。彼女が自分の名前を知っている可能性はもちろんある。礼儀として聞いている可能性もあるが、ここでかまをかけていることも考えられる。
(・・・・・いや、深く考えすぎてドツボに嵌ってる。少なくとも、相手も目的があって会いに来てるんだ。なら、少なくとも、敵対はしないはず。)
ヒヨリは、小さく息を飲み、そして口を開いた。
「・・・ヒヨリ、うちは、ヒヨリだ。」
百合は、だろうな、と返事をした。
「君は、ヒヨリっていうんだ。」
百合はヒヨリ、という単語を幾度か繰り返した後に、改めて彼を見た。
「・・・・そんで、うちはタジマの長男で、マダラの兄貴か。」
しみじみとした口調でそう言った彼女の気持ちは、ヒヨリも感じていた。
柱間とマダラの時代に、柱間の姉と、マダラの兄として自分たちは生まれて来た。裏で何かがあったのかと勘繰りたくなる気持ちはわかる。
「まあ、そうはいっても、分かんねえことはわかんねえんだけど。」
気だるそうに百合は肩を竦めた後、改めて姿勢を正してヒヨリを見た。それに、ヒヨリもこれから彼女が何を言いたいかを察した。
「それでさ、私があんたに話しかけた理由なんだけど。私は、木の葉の里を早く作りたいんだ。」
単刀直入に差し出された目的に、ヒヨリは目を細める。口を噤んだままのヒヨリの沈黙を了承と受け取ったらしい。
「まあ、それで、未だ子どもの私らがどうにかできることもほとんどないのが実情なんだけど。」
「・・・・一族で発言権を得るには、実力が必要だからな。」
さすがに無言を貫き通すわけにはいかずに、ヒヨリは無難に返事をする。
忍にとって、強さは美点だ。
一族の中で頭領に選ばれるのは、もちろん、当代で一番の強者になることが殆どだ。一個人での強さを持っていても、率いることが不得手な場合もある為例外もある。けれど、強いという事は、一族を鼓舞するために、引き付けるために必要不可欠なのだ。
「そうだけど、私はどう足掻いても今からそれが期待できるほどの強さは持てそうにないけど。そんで、だ。君んとこの、マダラって何歳?まだ、初陣の噂は聞いてないから、五歳ぐらいか?」
「・・・ああ、もうすぐ初陣だ。」
嘘は言っていなかった。ただ、本当の事も言えなかった。
百合は何ともないような気軽な声で、ヒヨリに問う。
「あんたは、マダラに勝って頭領になれる?」
何の躊躇も無く問われたそれに、ヒヨリの目の端はぴくりと動いた。けれど、彼はそれに反射的に答える。
「無理、だ。」
ヒヨリはそれに素直に答えた。すでに相手には自分が柱間に敗北したことは伝わっているだろう。ならば、下手に取り繕ってもしょうがないだろう。
百合はそれに予想通りの反応だったのか、納得したように頷いた。
「だよね、柱間に負けたんだから。相手のマダラに勝つのも難しいよね。」
はあああああ、とため息を吐きながら、百合は腕を組んだ。そして、じっとヒヨリを見る。
無言で自分を凝視する百合を不審に思い、ヒヨリは眉をひそめた。
「どうしたんだ?」
「・・・・いやさ、そんなに私の事信用できない?」
早々と自分の内心が相手にばれていたことに動揺しながらも、ヒヨリはそれをなんとか押しとどめる。そして、否定の意を込めて首を振った。
「そんなことねえよ。どうしたんだ、突然。」
「・・・・・私は、あんたの存在を知った時、めちゃくちゃ嬉しかった。だって、同じ存在となんて絶対に会えないと思ってたからさ。そりゃあ、私とあんたは違うけど。でも、あんまりに、あんたは静かだ。」
あんたは、私を信用してないんだね。だから、私が何をしたいかを探ってる。
あっさりと看破された己の感情に、ヒヨリは動揺して体を揺らせた。それに、百合はやっぱりなあ、と悩む様に顎に手を添えた。
「理由とかって教えてくれない?確かに、私は千手で、そっちはうちはで。でも、あんたはだってこれから何が起こるか知ってるはずでしょ?少なくとも、こんなことを相談できる人間はいた方がいいと思うけど。少なくとも、私はそんな存在が欲しかった。」
ヒヨリは、時間を稼ぐようにゆっくりと瞬きをした。
その問いに、素直に答えていいのか分からない。
確かに、百合の言う通り、ヒヨリにとっても、相手にとっても互いの存在は有益なものだ。それでも、ヒヨリには目の前の存在を信用していいのか分からない。
千手とうちは違う。ひどく極端な話をすれば、千手一族には木の葉の里は必要ない。
うちはは千手に勝てない。柱間という理不尽な存在が、二つの一族の均衡を崩すだろう
いや、違うのだ。柱間という存在はただのきっかけに過ぎないのだと、うちはという世界に属しているヒヨリは分かっていた。
うちはは近親婚を繰り返してきた。そして、その血に限界が近づいてきている。
総人口自体が少なくなり始め、それに加えて病弱な人間が増えてきているように感じている。おそらく、元より備わった個体としての素質はうちはは優っているだろう。けれど、物量に押し流されてしまっては勝ち目はない。
このまま、緩やかに、柱間とマダラが出会うことを阻止ししてしまえば、うちは一族は滅ぶだろう。そして、千手一族だけが残れば、後に敵になる存在などないはずだ。
そうだ、極端な話、千手一族の中で完結するというなら、木の葉の里はさほど重要ではない。
だからといって、この考えをやすやすと口にすることも出来ない。この考えが、本当になる可能性など一つでも潰しておきたいのだ。
「いや、すまない。俺も、その、混乱しているんだ。」
濁してしまったが、否定の言葉を唱えると、百合は疑うように目を細める。それに、自分の内心を見透かされるような感覚を覚える。
そして、百合は口を開いた。
「・・・・私さ、記憶が戻った時はけっこう気楽に思ってたんだよね。そん時は、自分の父親の事とかあんまり気にしてなかった。女だったし、結婚の事とか我慢するんなら戦のこととかもどうとでもなるしね。それに、本当に嫌なら逃げ出すって選択もあったからさ。」
「は?」
唐突に話し始める百合に、ヒヨリは困惑する。そんな彼のことなど気にもせずに、百合は話し続ける。
「そんで、自分が柱間の姉って知った時は面倒事はごめんだーって!どうやって逃げ出そうかって思ってたよ。柱間と、扉間とか、一応姉って扱ってくれてたけど。何が起こるか知ってるから、どうしていいかもわからなかった。さっさと、あいつらから逃げてしまいたいとも思ってた。戦場も、殺し合いも、何もかもが恐ろしかった。勝手にやってくれって、そうも思ってた。」
淡々と紡がれる彼女の話に、ヒヨリは思わず聞いていた。
そこまで考えて、何故、戦場に出てまで木の葉の里を望むのか。
それに、少女は笑った。
困り果てた様な、仕方がないとでもいうような、妙に老いた目で微笑んだ。
「・・・・何の、本だったか。いや、アニメとかだったかもしれないけどさ。下の子ってずるいんだって。」
「何が?」
百合は胡坐をかき、その上に肘をついて頬杖をつく。どことも言えない方向に視線を向けた。
「あんたさ、下が生まれた時の事、覚えてる?」
問いの意図は分かりはしなかったが、ヒヨリはそれに素直に頷く。
「ああ、全員、全員の分、ちゃんと覚えてる。」
「そんな時に、柱間が生まれたんだよ。奥方がさ、私にも抱かせてくれてさ。下の奴らってずるいよなあ。だって、上からしたら、その抱っこしたときの温さとか、柔らかさとか、重さとか、全部、覚えてんだもん。」
その言葉に、ヒヨリは、彼女がなぜ、木の葉の里を望んでいるのか、分かった気がした。
きっと、全部が同じではない。全てを話してくれたわけではないのだろう。けれど、彼女は自分と、そう違わない。
恐れている。恐れて、そして、同じように箱庭を欲しがっているのは確かだと思った。
ほんの少しだけ、震えた声が彼女の声に混じる。
「見捨てらんねえじゃん。それで、見捨てたら、私、一生引きずるって分かるじゃん。瓦間さ、七歳って幼さで死ぬんだよ?」
死にたくない。死にたくない、でも、死なせたくもない。
最後のそれに、ヒヨリは頭を殴られたような衝撃を感じる。
それは、ヒヨリがずっと目を逸らしていたようで、ずっと頭の片隅にちらついていた事実。
漫画において、死んだときの年齢がはっきり載っていたのは、瓦間ただ一人。その瓦間は七歳までが期限だ。そして、彼が死ぬ以前に、マダラの弟は少なくとも一人死ぬ。
そして、それからさほど時間を置かずに、板間と、残りの兄弟が死ぬ。
タイムリミットは遠くない。
喉からせり上がって来る熱い塊に、ヒヨリは喉を手で覆う。
「・・・・分かったでしょう。ヒヨリ、時間はもうそんなにないんだ。瓦間は、今、四歳になった。期限まで、あと三年。いや、そっちはもっと早い。それに、仮に瓦間も、七歳って期限を何とかしたとして、死はいつだって離れることはないんだ。」
暗く淀んだ瞳は、彼女が嘘は言っていないのだと確かに思えた。そして、それだけが本心ではないような気も、またした。
百合は正していた姿勢を、だらんと崩し、疲れたように首を振った。
「・・・・そうだね。そっちもそう簡単に選択は出来ないのが分かる。だから、協力するかどうかは少し考えてほしい。でも、その前に少し話がしたいのも事実なんだ。」
「話?」
「・・・・現状把握っつうか、木の葉の里って望んでも、打開策が見つかんないし。誰かに話せば、なんとか打開策が見つかるかなって。それぐらいは、いいでしょう?話したくないことは話さなくていいし。」
それはヒヨリにとっても魅力的な申し出だった。自分自身、八方塞がりであることは事実だった。
「・・・・ああ、それは俺も頼みたい。」
「よっしゃあ!なら、さっそく話そうよ!」
先ほどまでの疲労感などなかったかのように明るい表情にヒヨリは何か、力が抜ける様な感覚を覚えながら彼女に向き合う。
「えっと、それじゃあ、まずは問題点から話そう。まず、私達は少なくとも木の葉の里が欲しい、ってことでいいの?」
「・・・・そうだな、俺はそう思ってる。」
「うん、なら、木の葉の里が出来る上で何が必要なのか、だけど。」
「一つ、後ろ盾としての大名の存在。二つ、千手とうちは両族の同盟。それに伴う、他の忍の一族との同盟、か。」
「・・・・まず、大名への伝手もねえし、一族での同盟も現在無理だしねえ。」
「そうだな。」
ヒヨリが感じるに、今現在の情勢は、日本の戦国時代に似ているように思う。
どうも、昔には大きな国もあったらしい。
鎌倉時代のように封建制度を築いていたらしいのだが、それが戦国時代のように地方の政を任されていた大名と呼ばれる存在に、権力が移ってしまっている。
忍が雇われているのが、そういった分散されてしまった大名たちの小競り合いについてが殆どだ。
「こう考えると、今の時代って複雑だよね。」
「ああ、小国はたくさんあるが、原作のような火の国なんかはまだ出来てねえな。」
ヒヨリが不思議に思っていたのは、基本的にその地に住む忍は自らの集落近くから出ることはないことだった。それについてはどうも、大名たちは近所の忍しか雇おうとしないためであるらしい。
その理由も、単純な話で、金銭面のことがあるためだ。まず、忍たちへの報酬は、一族に対して、一まとめに支払われる。暗黙の了解のようにそれぞれの一族に対しての基準額があるそうだが。
その一まとめにされた報酬で、一族はその戦に対しての費用や生活費を捻出する。それに加えて、戦場までの距離が遠い場合、そこにいくまでの費用も報酬から捻出しなければならないのだ。
数日に渡る場合は、兵糧についても必要になる為、場所が遠ければ遠いほど忍側にはうまみはない。忍ならば、移動などすぐにできるはずと思われるだろうが、そう簡単にはいかないのだ。
移動するまでの間に、大名たちの領土や他の忍たちの集落がある場合もある。報酬が生じえない戦を自分たちからしていくほど戦闘狂ではないのだ。慎重に進まなくてはいけないのだから、その分日数がかかってしまう。
「まあ、それぞれの国が内部でごたついてる分、食いっぱぐれはないけどさあ。」
「それで、子どもを数合わせに戦場に出して、人口の偏りが出てる時点でだめだろ。戦続きで、一般人の子どもも死亡率がひどい。」
苦みの走った口調に、百合もそうだと頷いた。
「そう言えばさ、侍ってきいたことある?確か、この時代にはまだいるよね?」
「ああ、見たことあるぞ。」
「え、まじで!?あの人たちって、今の時代の扱いどんな感じなの?」
「忍が台頭してきて、だんだん居場所を失ってきてるな。忍はそれこそ諜報も戦も出来るが、あの人たちは戦うことしか出来ないし、仁義的なものも気にするから使いにくく思われてるみてえだけど。戦えないから、文官みたいな働きをしてる人もいるらしい。」
侍は、忍と違い、一つの主君に仕えることが主流であったらしく、忍のような道具まがいではなく、一般人と貴族の中間のような立ち位置のようだ。
だが、それゆえに忍と戦う上では、総合的に金がかかり、応用性もない。忍を雇うならば、少々割高でも、そこから生活費も、戦の費用も支払えるが、侍は戦があろうとなかろうと、ある程度の金を投資し続けれなければならない。そして、侍は剣術だけだが、忍術という手数の多さには勝てない。
「そのせいなのかはわからねえけど、侍の人たちはけっこう穏健派が多いらしいが。」
「穏健派?戦に反対ってこと?」
「一応、そうらしい。彼ら自体、俺たちのせいで戦での有用性を示せなくなってきてる。さっきも言ったが、そのせいで文官にシフトする人もいるし。まあ、子どもの死亡率が高いせいで、人口も少なくなってる。生産性って面で、この世界自体が打ち止めになりかけてるが。」
「そうか、戦うためにある一族なのに、戦いを止めさせたいのか。まあ、お役目御免になった人たちからすれば、戦争なんて旨味はないよね。それでも、戦は終わんない、か。」
「そりゃあ、そうだろう。負ければ、食らい尽くされるだけだ。誰だって、そうなんだ。死にたくない、奪われたくない。誰だって、弱者の側になりたくないんだ。」
どれだけ、戦なんか止めたくても、戦うのを止めれば一気に弱者に成り果てる。だから、皆、必死に殺し合う。
忍だってそうだ。殺さなくては殺される。戦わなければ、金は稼げず、生活さえできない。
「・・・・・いいよなあ。なんでそこまで情報持ってんの?」
「俺は一応次代として期待されてたからな。大人たちの会合やら、雇い主との顔合わせも連れて行ってもらってたんだよ。」
「く、そこそこ自由な身だけど、そこら辺の情報はどうしてももらえないし。」
羨ましそうに唸る彼女を見ながら、ヒヨリはどこか微笑ましい気持ちになる。彼女の動作は、少しだけ騒がしい時のアサマと被る。
「結局、戦だってみんな利があるからしてるんだよなあ。」
「そりゃあな。原作での千手とうちはの同盟だって、うちはにとってメリットがあったからだし。」
「メリット、ねえ。」
(そうだ、メリット、利があるからこそ人は動く。うちはと千手を動かすには、それこそ何か上回る利がなければだめだし。)
うちはにとっての利益、望むことは何か。
うちははプライドが高いため、誤解されがちだが単純な感覚を持っている。忍としてのプライドを満たされること、そして愛しい家族さえいれば彼らは他にはあまり何かを望まない。
単純であるからこそ、それを満たすのは難しい。
(だが、皆、心の底から願っている。家族が、愛しいものが、子どもたちが死なないでいい世界を望んでいるのだって事実だ。)
侍、世界の情勢、穏健派、大名、両族の欲しがる利。
ばらばらと頭の中で、並べられる単語たち。
人は利益があるからこそ、幸福を望むがゆえに足掻き続ける。
誰もが望んでいるのは、なんだ?
大名たちを動かすにも、利益が必要だ。
(・・・・・・利益。忍たちに戦を止めさせるぐらいなら、その前に雇い主が戦を止めれば。)
深まっていく思考の中で、突然、百合の声が入る。
「なあ、そろそろお開きにしよう。」
「え、ああ。」
「・・・・日も陰って来た。そろそろ帰らないと、一族の人間に疑われる。」
そう言われてみると、日もだいぶ傾いて来ていた。確かに、そろそろ帰らなくてはいけない。
百合は立ち上がり、背伸びをした。
「それじゃあ、来月の今日、もう一度会おう。その時、協力するかどうかを決めておいてほしい。」
「・・・・もしも、協力を拒んだら?」
「それは、互いに好き勝手するしかないよ。敵対するかも、今の状況じゃ分からない。」
「・・・・腸を見せ合えってか。」
「うっわ、今、それが出て来るの。でも、そうだね。私は、少なくとも腸の一篇を見せられたと信じてるよ。」
百合はそう言った後、ヒヨリに背を向けて歩き出した。けれど、すぐにヒヨリを振り返った。
「・・・・ヒヨリ、一つだけ言っておきたいんだけど。」
「何だ?」
百合はそういって、一旦離した距離を詰めた。そして、耳打ちをした。
「ゼツには気を付けて。」
「・・・お前は、会ったことはあるのか?」
「ぜ、いや、黒いのは私も気配を感じたことはない。でも、柱間とマダラが生まれてる。もしかしたら、接触してくる可能性もある。」
確かに原作でも出てきたが、いくら警戒しても気配が感じられずに、頭の隅に追いやっていたことだった。
「あいつは、目の事で何度もアプローチを重ねて来たって話してた。私たちに関心を払ってる可能性は低いけど。でも、あんたの弟について、あんたの命を狙う可能性もある。」
「忠告、感謝する。」
それに彼女は頷き、今度こそヒヨリに背を向けて森の中に消えていった。
取り残されたヒヨリは、疲れたように大きく息を吐いた。
百合、という存在は、自分にとってどんな意味を成すのだろうか。
何よりも、彼女に差し出された協力関係を、自分は受けるべきなのか。
(・・・・疲れた。)
また、ばらばらに散らばった単語たちに思考をはせながら、ヒヨリは額に手を当てた。