AKIBA'S TRIP SHADE   作:AhoMidoro

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 ネットでは、阿倍野優は好戦的で狂気的。家族のことを何とも思わない。姉とも妹とも違い人間臭さがない。そういうキャラとされています。が、個人的には、それだけのキャラではないと思っていまして、ネットでの扱いに少々不満があります。
 この小説を書くのは、大好きな優と瀬那と舞那の3人を中心に、カゲヤシサイドでの物語を描きたいと思ったからです。
 原作の設定やストーリーとは極力矛盾などがないようにすすめていきます。
 何故この時期になのかといいますと、アニメ化の影響で原作が再び注目を浴びるようになったからです。


二つのオープニング

 その夜、田中アキヒロは、数日前に失踪した友人のキヨタカを捜すために秋葉原を訪れていた。消息を絶つ直前に彼から掛かってきた一本の電話が、唯一の手がかりだった。

「オラァ!」

「うああぁあっ……!」

「おっと……やり過ぎちまったか? 悪いな、人間に丁度いい手加減なんて器用なマネ、出来なくてな」

 銀色の髪が妖しく光を反射する顔色の悪い男が、アキヒロの前に立っていた。パンクロッカーのような格好をした青年の名前は、阿倍野優。限りなく人間に近い容姿をしているが人間ではない。古来より日本に生息する固有種、陰妖子(カゲヤシ)である。

「えーっと、何だっけ、お前。あー、友達を捜しにわざわざこんな路地裏まで来たんだっけか? へへっ……そうだな。最近、ここで吸血したといえば、一人だけだな……」

(吸血……? こいつ、何を言って……)

「確かそこら辺に吸い殻をほっぽり出しておいたはずだが……」

 優が路地の奥へと目を向ける。

(あれは……キヨタカ!!)

 そこには、生気を失って倒れている友人の姿があった。

「……あぁ、ははっ、まだあるじゃねぇか。そこで横たわってるのが、お前が捜していた奴じゃねぇの?」

「生きてるんだよな……?」

「誰にも見つけられなかったんで、飲まず食わずでヘバってるようだがお前よりは元気そうだぜ。ははっ」

(良かった……)

 優の視線がアキヒロに戻される。赤い右目が鈍く光り、鋭くなった。

「よーく見ておけ。オレが血を吸えば、すぐにお前も同じようになる」

「っ……」

 表現ではなく文字通り、優が牙を剥く。アキヒロは動こうとするが、痛む身体は楽に言うことを聞いてくれない。誰の目から見ても、次に何が起こるかは明らかだっただろう。

「……兄さん、待って」

 が、それは起こらなかった。誰も来ないと思われた路地裏に、人の影がさしたからだ。否、人ではない。文月瑠衣。彼女もまたカゲヤシであり、阿倍野優の妹である。しかし兄妹ではあるが穏やかな雰囲気などなく、瑠衣が優に近づく。

(……誰だ? 妹?)

「あぁ? 何だ瑠衣、お前、何しに来た?」

「その人を逃がしてあげて」

(!? ……助けてくれるのか?)

「はぁ~? おまっ、何言ってんだよ?」

「今週はすでに十分な人数を吸血しているはず。彼の血まで吸う必要は……」

(何にせよチャンスだ。今のうちに起きないと……)

「ったく、お前は相変わらず意味のわかんねぇ奴だなぁ。ここまでやって、何もしないで放り出すわけねぇだろうが」

「……それでも、その人は……」

 瑠衣との会話に気を取られ、優はアキヒロが起き上がろうとしていたことに気づかなかった。

「っ、いってぇ……!」

「ほら、無駄話している内に起き上がっちまったぞ。もたもたしてると逃げられ…………おっと、こりゃ立派だ。まだお友達を助けるつもりでいるぜ」

 右肩を抑えながらアキヒロは、キヨタカを助けるためか、逃げ切れないと判断したのか、逃げようとはしなかった。だが、勝ち目があるとも思ってはいなかった。

「…………」

 何を思ってか、その様子を見た瑠衣が息を漏らした。しかし、優がそれを待つ訳もない。

「情けねぇなぁ、人間は。……覚悟しろっ」

「兄さん!」

「死ねっ!」

 

「うっ……」

 

 優の回し蹴りが直撃し、アキヒロの意識が途絶えた。身体から力が抜ける。

「あっ!」

「おっと、やっちまったか? お友達なんて置いてさっさと逃げれば良いものを。こりゃ血を吸っても意味ねぇな。人間はな、オレ達と違って、これぐらいでも死ぬんだよ」

「……そんな……」

「……ったく、これだからガキは。オレはもう行くぜ。そこの二人は重ねて置いておけば喧嘩して互いにぶっ倒れたように見えんだろ。……何せ、最近の秋葉原は、やたらと物騒だからな。俺達のおかげで。うはははははははっ。……じゃあな」

 そう言い残して、優はその場を去った。アキヒロがまだ生きているのを知っていて、トドメを刺さずに。

(安心しろ、瑠衣。死んでねぇからよ……)

 

 

「クソッ、吸血してやるつもりだったってのに」

 路地裏を離れた優は気が立っていた。言うまでもなく、瑠衣に吸血の邪魔をされたからである。そのままアジトに帰る気にはなれなかった。

(アイツ、ますます甘くなりやがった。なんで人間なんかを助けたがるんだ。お袋の計画のためだってのに……クソ、吸血し損ねたぜ。代わりに誰か襲えそうな奴いねぇかなぁ)

「……ぅああっ!」

 駅前から少し歩いたところで、人の叫び声が聞こえた。

(なんだ、喧嘩でもしてんのか? ……また路地裏か。丁度いい、血を吸わせてもらうぜ)

 路地裏に入っていくと、そこにいたのはバンドマンの格好をした若者と痛みに顔を歪め壁に寄り掛かる青年だった。

「なんだよ、人間の喧嘩じゃなくて同胞の吸血かよ。……まあいい。おい、コイツ譲れ」

「はっ」

 このバンドマンの男もカゲヤシであり、阿倍野優の部下である。バンドマンの格好は阿倍野優の部下である証であり、秋葉原を歩いているバンドマン姿の若者の多くが末端のカゲヤシであった。

「さっきの奴ほどじゃねぇが、お前もだいぶボロボロじゃねぇか。本当に、人間は情けねぇ……なァ!」

「ああぁあぁっ……!!」

 優が下段に繰り出した蹴りが青年の左腿に当たる。骨が折れていなかったとしても、楽には歩けないだろう。

「もう限界かよ。あと一発顔面か腹でも殴っておけば静かになるか。……ウラァ! ────!?」

 今度は顔面を狙って左ストレートが繰り出された。……しかし、それは青年に当たらなかった。当たる直前に、青年が攻撃を受け流したのである。優の左手を外側から押し、軌道をずらしたのだ。

「テメェ……」

「……随分と……辛そうだな……?」

「あぁ!?」

 青年の右手に、優の手首を掴んだまま、力が入っていく。

「痛いのは俺の方なのに……なんで……そんなに苦しそうなんだ? 俺を痛めつけて……それでスッキリするのか?」

「苦しそうだぁ? オレが、苦しいだと!?」

「優様、落ち着いてください」

「うるせぇ、引っ込んでろ!! ……お前には、オレが辛そうに見えるのか?」

(何なんだ、一体。こんなふうに取り乱す優様は、初めて見た……)

 バンドマンが表情を曇らせる。青年が薄っすらと笑みを浮かべた。真っ直ぐに優の目を見て。

「ああ……。追い詰められているようにも……焦っているようにも見える」

「…………」

 優が青年の手を振り払う。それと同時に青年は、意識を失って倒れ込んだ。

(苦しい……。オレが? 追い詰められているだと……?)

 バンドマンが青年が眠ったことを確認し、優に話しかける。

「大丈夫ですか?」

「…………」

「血は吸われないのですか?」

「……おい。コイツをうちのライブスペースに運べ」

「は……?」

「コイツを運べっつった! 傷に気をつけろよ」

「いえ、しかし……」

「命令だ運べぇ!!」

「は、はっ!」

 

 バンドマンの反応は当然のものだった。妖主の子供の中で唯一の純粋なカゲヤシであり一番の人間嫌いのはずの阿倍野優が、人間を吸血することを自身の意志でやめたうえに連れて帰ると言うのだ。

 

(オレは……何をやってるんだ?)




田中アキヒロ……原作主人公。漫画版におけるナナシの名前。

キヨタカ……漫画版における友人。
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