AKIBA'S TRIP SHADE   作:AhoMidoro

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人を襲い、血を吸う人ならぬ者

 青年は、見慣れない場所で目を覚ました。そこに窓はなく、今が何時頃なのかを把握することは出来ない。

「ってぇ……」

 起き上がろうとすると、全身に痛みを感じた。その痛みで何があったかを思い出す。

(あぁ、確か俺、変な奴に襲われて……。途中から来た銀髪に蹴られて……その後どうなった?)

「気がついたか。安心しろ、危害は加えない」

「お前……!」

 青年に声をかけたのは、路地裏で青年を襲ったバンドマンだ。そして青年は、自分が現在どういう状況に置かれているかをおおよそ推察することができた。

(気絶して運ばれてきたって訳か……。何が目的だ? 殺すならとっくに殺されてるだろうし。そういえば吸血とか言ってたな……)

「もう少しそのまま待て。すぐに優様がお戻りになる」

(あの銀髪、ユウっていうのか。20前後に見えたが、あいつがこいつらのボスか?)

 どうやら取り上げられているらしく、ポケットに入れていたスマホがない。外と連絡を取られては困るのだろう。

 

「おい、戻ったぞ。……起きてるみてぇだな」

「…………」

「なんだ、喋れねぇのか?」

「……目的は? 何のためにここに連れてきた?」

「思ったより元気そうじゃねぇか。安心したぜ」

「俺の血を吸うのか? 美味いとは思えないぞ」

「いや、最初はそのつもりだったがやめた」

「ここはどこだ?」

「心配すんな、オレが経営している地下のライブスペースだよ。……お前をここに連れてきたのは興味が湧いたからだ」

「興味?」

「ただの人間がオレの拳を防いだんだ、十分な理由だろ」

「……お前ら、何者なんだ?」

「オレ達はカゲヤシだ。人間の上位種だよ」

「カゲヤシ……?」

 それは青年には耳慣れない言葉だった。

「分かりやすく言い換えると、吸血鬼だ。大昔から日本に存在する固有種で、人類の敵だってことになってる」

「……人間の敵ってことは、お前らを狙う連中がいるってことか?」

「察しが良いじゃねぇか。その通り、国の犬どもと殺り合ってる。えーっと、何だっけか。……あぁ、そうだ、『国内情報調査機構』だ。通称『NIRO(ナイロ)』。カゲヤシに関する情報を隠しながらカゲヤシを狩り続けている。街中をウロウロしている黒服とサングラスの連中を見たことくらいあんだろ。それがオレ達の敵ってわけだ。んでお前は今、そのオレ達と一緒にいる。これがどういう意味か分かるか?」

「…………」

「もしエージェントに目でも付けられてみろ。口封じの為に殺されてもおかしくねぇ」

「……なるほど。俺はお前らに従ったほうが得策ってことか」

 ようやく、青年は自分が考えていた以上に面倒で大変なものに巻き込まれたのだと理解した。

「物分かりが良くて助かるぜ」

「だが見ての通り俺はボロボロ。できることなんてないぞ」

「なにも戦えってわけじゃねぇ。ちょっとした情報収集くらいでいいさ」

「それなら俺じゃあなくたって出来るだろ」

「オレ達カゲヤシは、全身に太陽光を浴びれば炭化して死ぬんだよ。だから寒くもねぇのに厚着してるんだ。日中の活動にはリスクが伴う。そこで人間のお前の出番ってわけだ」

 このときの青年には、不思議と人類の敵だという相手に加担するというのに迷いも躊躇いもなかった。おそらくそれは人間が他の動物を食すように、カゲヤシが人間から血を吸うのも自然なことだと考えたからだろう。

「……そうやって、今まで何人の人を拉致してきた?」

「拉致なんざしたことねぇよ、少なくともオレが知る限りだとな」

「は? ……つまり、俺が初めて?」

「初めてというか特例中の特例だ。今までもなかったし、これから先もねぇだろーよ。……お前、昨晩オレに言ったことを覚えているか?」

 青年に問いかけた優の顔は心なしか期待を孕んでいるようにも見えた。

「あぁ、そういえば何か言ったな。悪いけど覚えてない」

「そうか……。じゃあ今、オレはどんな顔をしている? お前にはどう見える?」

「……そうだな、何か欲しそうな顔かな。欲しくて欲しくて堪らない。どうだ?」

「欲しい、ね……さあな。……お前の服、汚れてんな。待ってろ、オレの上着とズボンをやる」

 青年は、言われてグレーのパーカーが血やら何やらで汚れていたことに気がついた。優が自分が着ている衣服と同じものを青年に渡す。

「全く同じ服か。拘りが強いんだな」

「服装で識別しやすくなるだろ。だから同じのを何着か持ってるんだよ」

「あぁ、そうだ。俺のスマホ取ったろ」

「確かに取ったな、忘れていた。……ほらよ。悪いな、警察なんぞに通報されると困るんでな」

「で、俺は何をすればいい?」

「しばらくは自由にしていろ。何かあれば連絡する」

 そう言って、優が出ていこうとする。

「アンタのこと、なんて呼べばいい。自己紹介くらいしてもらいたいんだけど……ユウさん」

「……阿倍野優だ。好きに呼べ」

「ハヤオ、午後ハヤオだ」

「……思い出したら、教えてくれ。じゃあな」

(──お前が欲しいのは、俺の言葉か?)

 

 残されたバンドマンが青年改めハヤオに話しかける。

「歩けるか?」

「痛いけど、まあ、大丈夫だ。……着替えたいんで後ろを向いていてくれ」

 長身の優のズボンはハヤオには少し長く、上着は短いコートのようにも見えた。

「いいぞ。どうだ、似合うか?」

「似合わないことはないが、そのパーカーの上に着るものではないな」

「だよな。何か良さげなのを探さないとな……。もう行っていいのか?」

「構わん。これが優様の連絡先だ、追加しておけ」

(不思議なもんだな……。自分をボコボコにした奴ともこんな普通に話せるんだもんな)

 

 

 外に出たハヤオはググールマップを開いた。

(ここは……UD+ビルのすぐ近くか。とりあえず、自警団の秘密基地に行ってみよう。どうなったか聞かないとな……)

 実のところ昨日の夜ハヤオが秋葉原にいたのは、アキヒロが失踪した友人を捜しに行ったと聞いたからである。秋葉原自警団がアキヒロを追いかけると知りハヤオも出かけたのだが、その途中であのバンドマンに襲われたのだった。

(なるほど、確かにこうして見ると黒服サングラスがチラホラいるな。やけに色の白いバンドマンも……)

 優の言った通り、秋葉原の街中にはNIROのエージェントとカゲヤシらしき者が少なくなかった。黒服に自分が殺されるかもしれないと考えるとハヤオは、無意識に早足になっていた。

 ほどなくして裏通りにある自警団の秘密基地の入口に着く。ハヤオは自警団のメンバーではなかったが自警団と交流があった。といっても彼がここに来た回数は数えるほどだったので、地下の秘密基地に少し入りにくさを感じていた。階段を下り開けたままになっている扉の前まで来て、中に知らない女性がいることに気づく。彼女の格好と部屋の空気から、自警団員の友人ではないことは容易に把握できた。

(見るからにお堅い人だ。引き締まった身体がスーツ姿の上からでも分かる……何者だ? まさか……NIROのエージェント? もう俺のことを? いや、まさかな……)

「あなた方にもいろいろと説明をしなければならないのですが……。田中さんは先に駅前へ行っていてもらえますか? 私は後から追いかけますので。詳しくは、後ほど。それでは」

(マズい、こっちに来る……離れないと)

 慌てて地上まで引き返し、横の影に身を隠す。スーツの女性が、その少し後でアキヒロも出ていった。

(アキヒロさん……? なんか、いつもと雰囲気が……)

 二人が離れたことを確認して、ハヤオはまた地下へ下りる。

 

「ごめんくださーい」

「ん? おっ、ハヤオじゃん!」

「おお、ハヤオくん、こんにちは」

「やあ。げ、元気?」

「お帰りなさいませ、ハヤオさん」

 ハヤオに声をかけた順に、二次元コンプレックスで爽やか系イケメンのノブ。ジャンク屋を経営する秋葉原のリーダー的存在で、秋葉原自警団の実質的なリーダーのヤタベ。アイドル好きでカメラの腕はプロ並みのゴン。年齢不詳正体不明、謎に包まれたカリスマメイドのサラ。彼らが、秋葉原自警団のメンバーである。

「ハヤオもアキヒロを追いかけるって聞いてたからどうしたのかと思ったぜ」

「いやぁ、結局見つけられなくて帰ったんですよね」

「あ、新しい上着買ったんだね。似合ってるよ」

「あれ? ハヤオくん、パーカーが汚れているみたいだけど……」

「あぁ、ちょっと喧嘩に巻き込まれちゃって……。特に怪我とかはしてないんで大丈夫です」

「…………」

 サラがじっとハヤオの上着とズボンを見つめる。

「えっと、どうかしました?」

「いえ、見ない服だと思いまして……。失礼ですが、どちらで買われたものですか?」

「いや、買ったんじゃなくて知り合いから譲ってもらったんですよ」

「そうでしたか。失礼しました」

「ところで、キヨタカさんは無事だったんですか?」

「あ、うん。ちょ、ちょっと衰弱してるみたいだけど、健康に問題はないみたい」

「良かった。……あの、聞きたいことがあるんですけど……」

「……ははぁん。さてはオススメエロゲを教えて欲しいって感じかな?」

「ノブさんは相変わらずっすね」

「まあまあ。それで、なんだい? 真面目な話みたいだけど……」

「えーと……さっきスーツの女性とアキヒロさんが出ていくのを見たんですけど、あの人は?」

「……あー、警察の人だよ。ほら、キヨタカくんのことでね」

「えっ、まだ失踪届は出してなかったんじゃ?」

「あ……」

 しばし沈黙が流れる。ハヤオの中の疑いが確信に変わり始めていた。

「もしかして、失踪した後で何かあったとか?」

「…………」

 

「──吸血鬼に襲われた、とか」

 

 吸血鬼という言葉で、その場の空気が変わった。どうやら図星らしかった。

「……何か知っているのかい?」

「いや、最近あるじゃないですか、吸血鬼の噂。それで、もしかしたらなーって思って。それと、アキヒロさんの雰囲気がおかしいような気がしたんですけど、何かありました?」

「……キヨタカくんのことで少しショックを受けててね。しばらくすれば元に戻ると思うよ」

「そうですか。突然来てすみません。次に来るときは先に連絡しますね。お邪魔しました」

 このときハヤオは危険だと感じながら、優に言われた情報収集ができる可能性を考えていた。

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