AKIBA'S TRIP SHADE 作:AhoMidoro
「なあ、ハヤオの様子からするに何か知ってるみたいだったけど……」
「う、うん。もしかしたら昨日の夜、襲われてるところを見たのかも……」
「どうでしょう。確信があったわけではないように見えました」
「まあ、ハヤオのことだから、好奇心で言ってみただけかもしれないよな」
「でも僕は、ハヤオくんは人の命に関わっていたかもしれない話で冗談を言うような子じゃないと思うなぁ」
「ほ、本人に直接聞いてみる、とか?」
「……聞かれてるのは俺達のほうだからなぁ。いっそ正直に話してみるか?」
「それはいかがなものかと」
「だよねぇ。しばらくは様子見かな」
(駅前だったよな……。行ってみるか)
自警団のアジトにいたスーツ姿の女性、御堂聡子。ハヤオの怪しんだ通り彼女はNIROのエージェントであり、NIROの指揮を執っている男の右腕とも言える存在だった。しかし、このときのハヤオが彼女の正体を知るわけもない。
(俺のことじゃないみたいだったけど、それはつまり自警団も直接関わりがあるってことか? もし本当にキヨタカさんの失踪がカゲヤシの仕業なら、確かに説明はつく)
裏通りから駅前まではそれほど離れておらず、そんなことを考えているうちに駅前の通りに出た。セガの前を歩いていたアキヒロがハヤオの視界に映る。
(いた……。……ん? 色白のバンドマン……。アキヒロさんの後ろを歩いてる奴って、まさか……)
「おい、そこのお前」
(間違いない、ユウの部下だ……!)
アキヒロが振り返る。マスクを付けたバンドマンが敵意を隠す気もなく睨みつけていた。
「肌をみる限り人間ではないようだが……」
(どういうことだ? アキヒロさんが人間じゃない?)
「何のことですか?」
「とぼけても無駄だ」
「……その通りだ」
「やはりエージェントか……。悪いが消えて貰う! はあああぁ!」
男が叫び、次の瞬間にアキヒロを狙って2メートルほど跳躍する。
(マズい、アキヒロさん……!)
「っ!」
もしもアキヒロがこのときただの人間だったなら、疑いようもなく躱すことなど出来はしなかったのだろう。だが、アキヒロは難なく避けた。男を目で追いながら。
(避けた!? アキヒロさん、こんなに強かったのか……?)
「ぐっ、次は外さん!」
男が、一拍遅れてアキヒロが戦闘態勢をとる。直後、男がアキヒロに殴りかかった。それを受けてアキヒロは後ろへ距離を取る。男は上段、下段、中段とアキヒロの動きに合わせて攻撃を仕掛けるが、アキヒロはその全てをギリギリで回避していく。別に男が弱かったわけではないのだろう。ただアキヒロが強かったのだ。そして男に生まれた一瞬の隙に、アキヒロが回し蹴りを叩き込んだ。
「ぐはっ! くそっ! 相手の力量を見くびったか……。ん?」
同胞の劣勢を見たカゲヤシ二人がアキヒロを囲むように飛び出した。
「チッ……」
「ははははっ! 形勢逆転、といったところか。さあ、さっさと片付けて……」
「当たれぇ!」
戦闘態勢を立て直した三人のカゲヤシをふいに現れた聡子が蹴り飛ばし、その勢いを利用して身に着けていた衣服を剥ぎ取る。
「ぐわあああああっ!!」
身体の大部分に太陽光を浴びて痛みでか熱さでか苦しむ男達は、地面に膝をつきながら炭化し、跡形もなく消えていった。
(なんだ、何が起こった? 今の一瞬で服を脱がしたのか!?)
「危ないところでしたね。怪我はありますか?」
「いや、大丈夫。……今のがカゲヤシ?」
聡子が頷く。
「……奴らが、我々の敵です。倒すべき相手です。今のあなたのように人々は日々、襲われているのです。表向きにはただの喧嘩やオタク狩りとされていますが、実際は……違います。そういった事件を防ぐのが我々、そしてあなたのこれからの仕事なのです。さぁ、またこんなことがあってはいけません。彼女の元へ行きましょう」
(やっぱり、あの女はエージェントか。アキヒロさんもエージェント……。それはつまり、俺はアキヒロさんの……自警団の敵になるってことか? ……『今のあなたのように』? いや、それはちょっと違うだろ。今のはアキヒロさんがエージェントだったからだ。……人間じゃないっていうのはどういう意味だ? エージェントは人間じゃなくなるのか? クソ、分からないことだらけだ)
「彼女って? そこで何をする?」
「我々エージェントの間では師匠と呼んでいる人です。対カゲヤシ戦に極めて有効な尋常ならざる技を持った達人です。彼女の元で、対カゲヤシ用の技術を学んでいただきます。……ただ若干、人間性にその……問題というか……あの……。ま、まぁ、とにかく会えばわかります。では、行きましょう。場所は、とあるビルの屋上です」
(尾行するか? いや、相手はプロだ。俺みたいな素人じゃ気づかれる。……一度ユウに報告するか)
ハヤオはスマホを取り出し、メールを打ち始める。
『話したいことがある』
それだけ書いて送ると、すぐに返信がきた。
『2時間後にライブスペースに来い』
(返信速いな。暇なのか? ……二時間か。結構あるな……。とりあえず何か服を買おうかな。いつまでも汚いパーカーを着てるのも嫌だしね。どんなのがいいんだ? 誰か相談できそうな奴は……俺を襲ったバンドマンに聞いてみるか。……連絡先知らないな。ユウなら知ってるか)
『俺を襲った奴のアドレスをくれ』
『なんでだ?』
『ファッションの相談をしたい』
またすぐに優からメールアドレスが送られてきた。
(マジで返信速いな……)
送信先を送られてきたアドレスに変えて、またメールを打つ。
『ハヤオだ。今会えるか?』
『優様のライブスペースに来い』
(ユウってこの優なんだな。優しい、か……。てか、どっちにしろあそこに行くのな)
地下にあるライブスペースの前に着き、扉を開ける。
「……いるかー?」
「いる。……それで、何の用だ?」
「あ、いや、その前にさ。まだ自己紹介してもらってないんだよね」
「我々カゲヤシは人間と違って、末端の者は基本的に名前を必要としない」
「名前ないわけじゃないでしょ? 俺は人間だから、俺にとっては必要なの」
「……斎藤だ。斎藤祐樹」
「斎藤ね。ハヤオです、改めてよろしく。用事なんだけど、この上着とズボンに合う服を聞きたいのよ」
「そうだな……。優様はいくつか重ね着しているが、カゲヤシでないならその必要はないな。ワイシャツなんかはどうだ?」
「ワイシャツか、いいね。この近くで買える店ってどこかある?」
「中央通り南東にスーツの専門店があったはずだ。おそらくワイシャツもあるだろう」
「南東な。突然で悪かったな。助かったよ、ありがとう」
「気にするな。また何かあれば連絡しろ」
(人を襲う吸血鬼……。そんなに悪い連中だとは思わないな)
祐樹の言葉に右手を軽く振ると、ハヤオは中央通りに向かった。
(午後ハヤオ……。面白い奴だ)