AKIBA'S TRIP SHADE   作:AhoMidoro

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アジトへ

「好きな色はあるか?」

「黒とマゼンタが好きだ」

「マゼンタ? ……ピンクでもパープルでもなくか?」

「マゼンタ。但し黒をベースにしたワンポイントくらいのマゼンタだ。単体のマゼンタはそれほど好きじゃない」

「……拘りが強いんだな」

 ここは服屋。ハヤオは祐樹を連れて、防御力の向上に来ていた。カゲヤシとなったハヤオには、より脱がしにくい服が必要だったのである。

「悪いな、二回もファッションの相談をしてショッピングなんかに付き合わせて」

「気にするな。我々カゲヤシにとって衣服は命に関わるものだからな。そしてお前の世話役になった以上、これも任務だ」

「あ、世話役だったんだ」

 優は危険だからと一緒には来なかった。というより、ハヤオが大人しくしているように言った。本人はまたすぐに動くつもりだったらしい。自主的ではない自粛の間は、他のカゲヤシにカバーさせるということに決まった。

 購入する服を選ぶハヤオは、優から渡されたジャケットとズボンに合わせてコーディネートをするためか、どうしてもやはり優と似たような格好になってしまうようだ。

「ドレスシャツとナロータイ……。優もワイシャツと黄色の細いネクタイ着てたよな。意識したわけじゃないんだけど」

「優様はワイシャツの下にネクタイを入れているがな。……あまり派手だと目立つんじゃないか?」

「少しくらい派手な方が、逆にカゲヤシだと思われないかもしれないじゃん」

「なるほど、そういう考えもあるな」

 レジで会計を済ませ、試着室で着替える。黒い優のズボンを穿き、黒いドレスシャツを着て、マゼンタのナロータイをつけ、最後にこれまた黒い優のジャケットを着た。

(ネクタイなかったら黒ずくめじゃねぇか!)

 鏡を見てツッコミを入れる。さすがに不審じゃないかとも思ったが、今更どうしようもないので気にしないことにした。

(相変わらずブサイクな顔だな。体型はスリムで悪くないと思うんだけど。……俺、人間じゃなくなったんだよな。今までと変わったようには見えないけど)

 ハヤオはカゲヤシになったと言われても、その実感が湧かなかった。実際に体を動かしてみれば違うのかもしれないが、こうして姿を見るだけでは人間と変わらない。ライブスペースから外に出たときは確かに肌が焼かれるのを感じたが、それは幼い頃に感じた夏の暑さに似ているようにも思えた。カゲヤシとなった今は暑さと言うよりは熱さだが……。

 試着室から出てハヤオは祐樹に声を掛ける。

「他には何が必要だ?」

「武器として使える物だな。優様の部下が使っているものと同じエレキギターならあるが、何か希望はあるか?」

「ナイフとかはダメなのか?」

「ダメだ。そんなものを振り回せばただの喧嘩では済ませなくなる」

「あぁ、表向きにはそういうことになってるんだ。持ち歩いていて自然なもの……杖は?」

「杖か……なるほど、悪くない。十分なリーチがあり、グリップ部分が金属製のものならそれなりの攻撃力を持つ。何より、パイプや工具を持ち歩くより自然だ。よし、探してみるか」

 外へ出た二人は傾き始めた陽の光を肌に感じながら、武器として使えそうな杖を探し始めた。

 

 

 同じ頃、一人残され退屈になった優はハヤオとの会話を思い出していた。

(嫌いなのか……ね)

 姉と妹のことをハヤオにそう尋ねられた彼は「好きじゃない」と答えた。しかし、嫌いだとも言わなかった。それは彼自身が、自分を把握できていなかったからだろう。

(まるで俺の心を見透かされているような気がしてくる。アネキ達も瑠衣も好きじゃねぇ。それは間違いないはずだ。マザコンのアネキ共とデキの悪い妹になんざ興味ない。それなのに、なんだ、この気持ちの悪い感じは。……アネキ達は父親が人間だとは知らないみたいだが、伯父貴が言うんだからそうなんだろうよ。……どうしてだ。どうして半分は人間のアネキ達が妖主代理で、半分人間の瑠衣が次期妖主なんだ。確かにカゲヤシの群れは女が統率する。だが、お袋の子供で純粋なカゲヤシは……今は、オレだけなんだぞ? オレは……必要とされていないのか? ……クソ、余計なことまで思い出しちまう……)

 優は恐れていた。誰に知られることもなく、ただ一人孤独に。

 座り込んだ自身の脇にあるボロボロになった衣服を見て、答えの出ない問いかけを追い払った。

(ダメだ、考えるな。……今は、一人でも多くの人間を吸血する。オレはカゲヤシだ。人間の生き血を吸ってこそカゲヤシだろうが。そのためには、エージェント。狩られる前に、オレがお前らを狩ってやる)

 そしてまた一人、静かに決意を固める。その先に何を求めているのかさえ考えずに、立ち上がる。既に塞がった小指の傷を確かめ、避けている好きではない二人の姉に会うため、カゲヤシのアジトへ向かった。

 

 

 買い物を終えたハヤオと祐樹。武器を手にしたハヤオは満足げだった。

「思ったより時間かかったな。でも、おかげで良い武器が手に入ったよ」

「そろそろ暗くなり始めるか。我々カゲヤシにとっては活動しやすくなるんだが、20時を過ぎるとほとんどの店が閉まり人があまりいなくなってしまう。これが我々が日中にも活動しなければならない理由だ」

「太陽が沈めば炭化しないからな。夜に出歩いてたアキヒロさんとキヨタカさんと、加えて俺は格好の獲物だったわけだ」

「そのアキヒロという瑠衣様の血を得た人間についてはそうだが、先に優様が襲った男については違うな。優様から聞いていないか?」

「吸血のために襲ったんじゃないのか?」

「キヨタカという男はどうやら瑠衣様のことを調べ回っていたらしい。それを知った優様はエージェントの可能性が高いと考え、襲ったと聞いている」

「……は? それって完全にキヨタカさんの自業自得じゃん。てかなんで、その瑠衣さんのことを調べてたんだよ?」

「何故その男が瑠衣様を調べていたのかははっきりとは判らなかったらしいが、エージェントではなかったようだな。瑠衣様の写真を持っていたと聞いているが、自分で撮ったものか誰かから受け取ったものか……」

「本人に問い詰めればよかったじゃんか」

「なんでも、怯えてしまってそれどころではなかったと」

「…………。都市伝説が好きだとは聞いてたけど……」

 そこまで話したとき、祐樹のスマホがメールの着信音を発した。

「優か?」

「……ああ。ハヤオ、お前を連れてアジトへ来るように、と」

「アジト? ……カゲヤシが大勢いるってことだよな。それってつまり……」

「お前を他の者達に紹介するとのことだ」

「……!!」

「そう身構えるな。優様が必要だと言えば殺されるようなことはない」

「本当だろうな?」

「既に優様の意思で、優様の血を得てカゲヤシ化しているお前に、末端の者たちは簡単に手を出せない。安心しろ。案内しよう、ついてこい」

「……思ってたんだけど、斎藤は末端じゃないのか? 末端は自我が弱いって聞いたんだけど……」

「いや、私は末端だ。末端と言っても、その中で更に上位とそうでない者に分けられる。基本的に末端のカゲヤシは能力の高さと自我の強さが比例するが、上位の者は他の末端の者達とは違って自我を持つのだ」

「実質カゲヤシは四階級ってことか」

「そういうことだ。上位の末端の者は他の末端の者達を指揮する側になる」

「……斎藤もだいぶ凄い人だったんだな」

「そうでもない。お前が考えている以上に、上位の者は多い。俺はその中の一人でしかない」

「カゲヤシの社会って効率的だな。……言い方が悪いかもしれないけど、蟻とか蜂の群れみたいだ」

「その通りだ。事実、カゲヤシは妖主様を頂点としたひとつの巨大な群れの中で生きている。人間の影で生きるために必要だったのだろう」

「そもそも人間が我が物顔してるのがおかしいよな。地球は人間だけのものじゃないし」

「確かにそうだとは思うが、まさか人間の口から聞くことになるとはな。優様が気に入ったのも解る気がするよ。……あまり待たせてはいけないな。少し急ぐぞ」

「お、おう」

 

 

 秋葉原再開発区域内某所、カゲヤシのアジト。ここを訪れた優は、好きではない二人の姉、北田瀬那と舞那に睨まれていた。

「優……正気か? 人間を仲間にしようなんて……」

 無論、それは人間に活動の協力をさせると伝えたからであった。

「あぁ、正気だよ。別に仲間なんてつもりはないが……何か問題あるか?」

「バカなの? 人間なんて信用できない。あんなに同胞意識の弱い奴らなんだぞ。ママにも人間は敵だって言われてる。ね、姉さん」

「優が目をつけたなら普通の人間とは違うのかもしれないけど……理由は? 他の人間と何が違う?」

「そいつは傷を負った状態でオレの拳を防いだ。それなりの戦力になるはずだ。それ以上に、カゲヤシが人間から血を吸うことを理解している」

「今いる末端の者達で戦力は間に合っている。……吸血を理解しているというのはどういうことだ?」

「人間だって牛やら豚やらを食べる。だから、カゲヤシが人間の血を吸うのはおかしいことじゃない。そう言っていた」

「……ママの計画のことは話していないのか? 吸血の必要がないと知っても同じことを言うとは思えない」

「姉さん、どうするの?」

「優。カゲヤシは人間と同じ食事でも生きていけると教えて。その上でどう考えるかにもよる」

「……わかったよ。もうひとつ報告しておくことがある。新しいエージェントの話は聞いているか?」

「既に多くの同胞がやられたらしいな。そのエージェントがどうした?」

「そいつ、瑠衣の血を得てやがる」

「えっ、アイツまさか捕まったの!?」

「いや、瑠衣が自分で与えたらしい。アイツの血を得ただけあって末端連中じゃ歯が立たない。オレも不意を突かれたとはいえ退けられた。アネキ達も気をつけろよ」

「瑠衣め、何を考えている……」

「大丈夫でしょ。連中はまだママの代わりが二人いることも気づいてないんだから」

「わかった、そのエージェントと優が目をつけた人間のことは私からママに報告しておく」

 そこまで話したとき、末端の男が部屋に入ってきた。優にとってのバンドマンと同じく、瀬那と舞那の下につくカゲヤシである。

「瀬那様、舞那様。例の人間が到着しました」

「通せ。今アジトにいる者全員に集合をかけろ」

「はっ!」

「優、もし私が信用できないと感じたらその場で殺す。いい?」

「……ケッ、好きにしてくれ」

 長子である瀬那は冷静沈着であり優秀であったが、故に敵対する者に対しては誰よりも非情であった。

(予想通りの反応だな。余計なことすんなよ、ハヤオ……)

 

 

「着いたぞ。ここが我々のアジトだ」

「また再開発エリアか。カゲヤシはプラスフィールド周辺を拠点にしてんのか」

 電気街として発展してきた秋葉原は、再開発によって秋葉原駅を中心にオフィス街としての面を持ち始めた。秋葉原で活動するカゲヤシは、このオフィス街を拠点としていた。

 中から出てきた男が、入口前で待っていた二人に声を掛ける。

「入れ」

「……ヤバい、緊張してきた」

「堂々としていろ。もしお前が認められなさそうなら私からも信用できる者だと進言してやる」

「おう……ありがとう」

 広間に通されたハヤオに、男が言う。

「ここで待て。下手な真似をすれば死ぬと思え」

「了解。死にたくないからな」

 周りにいるカゲヤシ達がヒソヒソと話す声が聞こえる。何者だ、こいつ人間か、あれは優様のジャケットではないか、横にいるのは祐樹か。徐々にカゲヤシが集まり、音が大きくなっていく。

(ヤバい、マジでヤバい。これ全員カゲヤシかよ。……殺されそうになったら今度は逃げよう)

 しばらくして、一番奥の部屋から優と双子が出てきた。ハヤオは──知り合って間もない相手ではあったが──知った人を見つけて安心するのが自分でもわかった。

「待たせたな。こちらへ来い」

 (あお)い目をした少女、瀬那がハヤオを呼ぶ。

「はーい、みんな静かにして注目!」

 (あか)い目をした少女、舞那が指示を出す。

(あれ……? この二人……どこかで見たよな……。金髪の双子……あっ!)

 眷属の三人が出てきたことで、騒がしかった空間に水を打ったように静寂が流れた。

 ハヤオは双子のことを知っていた。ハヤオだけではない。秋葉原にいる者であれば当然のように知っていただろう。しかしそれを確かめることはできず、瀬那が話を始めた。

「皆に招集をかけたのは、ある者を紹介するためだ。極めて異例な、我々に協力的な人間だそうだ。……優」

 よほど珍しいのか、沈黙していたカゲヤシ達が小さくどよめく。

「あー……こいつは午後ハヤオ。エージェントではないにも関わらずオレの拳を防いでいる。カゲヤシが人間から吸血することについても理解を示している。一日、逃げられる状態にして様子を見たが逃げようとしなかった。そして、カゲヤシになることを受け入れた」

 最後の一言を聞き、末端だけでなく瀬那と舞那までもが驚きの声を上げた。騒然とする広間に、ハヤオは居心地の悪さを覚える。

「まさか、カゲヤシ化させたのか!?」

「バカ優! 何勝手なことしてるの!!」

「別にいいだろ。何かあればオレが責任を持つ」

「一体なぜ、そこまで……。いくら末端の血とはいえそんな簡単に……」

「…………」

「コラ、バカ優! 黙ってないでなんとか言いなさい!」

「……オレのだよ」

「なに?」

「オレの血だよ。末端のじゃねぇ」

 末端の血ではなく自分のものだ。その言葉が発せられた瞬間、ざわめきが再び沈黙に変わった。ハヤオに末端のカゲヤシ達の様々な視線が送られる。

(歓迎ムードなら嬉しかったけど、真逆だ……。優、大丈夫か?)

「……本当なのか? 本当に、自分の血を与えたのか?」

「嘘でしょ? アタシ達よりも人間が嫌いなアンタがそんなことするわけないじゃん」

「本当だよ。……それよりも大事な話がある。NIROは今、オレを狙っていやがる。しばらくオレは派手には動けねぇ。その間、オレの分をカバーする奴が必要だ。ってわけで、誰かいねぇか?」

 優が話題を半ば無理矢理に変えた。舞那は不満げだったが、瀬那はそれ以上何も言わなかった。

「じゃあ……私が。もちろん、好きに動いちゃっていいんですよね?」

 女子高生の姿をした一人の若いカゲヤシが名乗りを上げる。彼女の名前は小鳥遊(たかなし)桜。金色にも桃色にも見えるカールのついた髪が艶かしく光を受けて輝いていた。

「あぁ、構わねぇよ」

「よかったぁ。みんな、明日から忙しくなるわよ!」

 桜が部下の女子高生カゲヤシに呼びかける。

「……以上で解散。桜、優の代わりは楽じゃないと思うけど頑張って」

「お任せください、瀬那様。計画のため、しっかりと人間どもの血をいただいてきます」

 集まっていたカゲヤシが散っていく。その中で去り際、桜がハヤオに微笑みかけた。

(……?)

「優と……午後ハヤオ。こっちに」

「祐樹、アンタもよ」

 そうしてハヤオは、奥の部屋へ通された。




アジト……妖主襲来以前のアジト。原作に登場するものではない。

プラスフィールド……現実における秋葉原クロスフィールドのこと。

小鳥遊桜……原作におけるJKVのこと。原作ではOPムービーのために創られたキャラのため本名含め細かい設定が存在しない。

午後ハヤオ2
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