オーディナル・スケール 少し違う世界の物語   作:夜桜の猫の方

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やっと1話DAZE☆
……1話から話が重い。あと、ネタバレくらった人はゴメンね(てへ


≪1話≫ 笑う棺桶、そして・・・

何処までも”雄大”で地平線の彼方に聳え立つ山々は”偉大”で

仰ぎ見る空は鮮明に”透き通って”いて、時折吹く暖かな風が僕の髪をなびかせる。

 

「……キレイ……」

 

たぶん、この世界を見た誰もが抱く思いだと僕は思ってる。それくらい

()()()()()()()()()()()()。だから、こんなにも心を奪われている。

 

「木綿季」

「ユウキ、こっちです!」

 

風と共に僕に声が掛けられる。そっちに向き直れば和人とプレミアちゃんが手を振っていた。

早くこっちに来てーと言ってるみたい。

 

「はーい!今行くよ!」

 

返事をして二人に駆け出す。ここは大自然あふれる悠久の世界≪アイングラウンド≫

今はまだ、()()()()()|()()()()()()()世界(ゲーム)世界(ゲーム)世界(ゲーム)世界(ゲーム)世界(ゲーム)》》

 

―――――――――――――――

 

お頭(ヘッド)、準備出来ましたぜ。」

 

人が従来する大通りのを外れた路地裏に、一様に顔を隠した者達が集まっていった。

その数20弱。サングラスや口元だけマスクで隠す者。ガイコツの様なマスクを被る者。

ポンチョだけ被る者。様々な人間がいるが()()()()()()()()()()()()を持っている

それはー―笑う棺桶

 

「OK。んじゃ、行こうか。」

 

ポンチョを被る者が先導し他の物が続く。彼がトップだというのは明らかだが

その人物だけ身に纏う雰囲気が違う。まるで、本物の殺人鬼の様に―—―

その集団が大通りに出た瞬間に奇異の目が集まるが誰一人として萎縮などしない。

むしろ見せる事が目的と言う様に手を振る人間までいる程だ。

誰一人として振り返さないが。

 

――――――――――――――――――

 

若干の気怠さと同時に目がチカチカする奇妙な感覚に襲われながら僕は目を開ける。

途端、眩しい光が網膜を貫いて目を瞑った。

 

「あっはは。大丈夫か木綿季。」

 

未だ痛い照明の光に、目を徐々に開ければ最初に視認できたのは僕を覗き込んでいる和人。

あれ?僕、いつの間に寝ちゃって?

と、頭に違和感があり手を伸ばすと何か硬質の感触が。

 

「…和人」

「どうした?」

「僕、いつの間に頭が石像になっちゃったの?」

「……く、あっははは!」

 

突然にお腹を抱えて笑いだす和人にジトーと視線を指していると

彼はまったく悪びれずにゴメン御免と言い、僕の喉に手を伸ばす。

そして、カチャと何かが外れる音が……あ!!

 

「やっと気付いたか。まだ起き難いだろうけど頭だけ持ち上げられるか?」

 

まさか……と頭に感じる硬質の感触に思い当たり、和人の言う通り頭だけ持ち上げる。

そして彼が僕の頭に()()()()()ヘルメット型の機械を取る。

その瞬間に髪が少し引っ張られるが、そんな事は気にしないほど

―—―恥ずかしかった。ものすっっっごく恥ずかしい!!

()()()()()()()()()()()()()けど、それを抜きにしても先ほどのアホの子発言と捉えられてもおかしくない自分の発言に顔から火が出るほど恥ずかしい!!

 

「木綿季、間違いは誰にでもあるんだ。むしろ、ちょっと可愛かったぜ。」

「~~~~!?よ、余計なお世話だよ……」

 

羞恥のあまりに顔を背けると、妙に暖かい目でこっちを見ているラースの人達が

だからそういうのが恥ずかしいんだって!

 

「キリト、ユウキ。目覚めたんですね。」

「おう、プレミア。まあ、木綿季はダイブ慣れしてないから休憩は必要だけどな。」

「僕はARが専門なの。そういうキリトは平気そうだね。」

「こっちは元VRプレイヤーだからな。()()()()()()には慣れているんだ。」

「……あの感覚は僕は慣れないかな~」

 

あの魂が抜ける感覚はどう慣れろと言うのだろうか。時々当たり前の様に人を超えるからかず兄は恐ろしい。

僕の兄が人外な件について!実際、華奢な体格と姉と間違え割れるほどの女顔さえ除けば何でも出来るのに

料理や裁縫まで出来てしまう事に、女として負けた気がしたのは内緒。

――実はちょっと泣いた。でも、今気になるのは誰が僕の(和人)を嫁に貰うのだろう。

語弊がある?世の中そんなの気にしてたら始まらないよ!

 

「お~い、木綿季さん?いま変な事考えてませんでしたか?」

「なんでもないよ!それよりもさ、僕、ダイブ中の記憶がないんだけど……。」

「あ~~、それはだな「それはまだ開発中だからよ」

 

和人の後ろから端麗な女性が顔を覗かせる。神代と書かれたプレートを付けている。

 

「神代さん。開発中って事はやっぱり……。」

「ごめんなさい。疑っている訳じゃないの。ただ、茅場さんは万が一でも外部に漏らしたくないみたい。」

 

そこでチラっと後方に視線を向ける。が、ラースの人達が誰もいない空間に向かって声を掛けている光景に首を傾げる

 

「木綿季、今オーグマー着けてないだろ。ほら、ジッとしててくれ」

また恥ずかしさで顔を背けそうだったが和人に抑えられオーグマーを付けられる。

羞恥を誤魔化す様に「オーグマー起動!」と言いさっき場所に目を向ける

そこにはラースの人達と楽し気に話すプレミアがいていつもより表情が明るい。

やっぱり気の置けない本当の家族はここの人達なんだな~と思っていると、ポンっと頭に手が置かれた。

 

「かず兄?」

「俺達もいつか、ああいう風になれるよう頑張ってこうぜ」

「……うん!」

 

二ッと顔を綻ばせる和人に頷き大分良くなった体を起こす。

何回か肩を回すと、起きたのに気付いたのかプレミアちゃんが走り寄って来た。

その時に時計を確認したら15時を過ぎていた。ダイブ前がお昼前だから結構潜っていたみたい。

あ、お昼食べてない。それを自覚したからかお腹が空いて来た

 

「お目覚めましたね、ユウキ。気分はどうですか?」

「うんそれは良好。でも僕すっごくお腹すいちゃって」

「ユウキらしいです。では、下の食堂に行きましょう!」

「プレミアちゃんに言われたくはないよ~。」

 

ここの案内は任せてくださいと言わんばかりに張り切るプレミアちゃんの後を追う。

部屋から出る際に振り返ってお邪魔しましたと言うと、また遊びに来てくれーとちらほらと声が上がる。

どうやら僕達の仲はいつの間にか和人とプレミアちゃんが繋いでくれたらしい。

あ、あれ?かず兄は何処に……

 

「木綿季、誰か探してるのか?」

「うわぁ!か、かず兄~驚かせないでよ。」

「お、おうゴメン。」

 

いきなり横に現れたら心臓が止まるじゃないか!と続けようとして

何処か心ここに有らずの和人を訝しんでいると

 

「ユウキ、キリト。行きますよ!」

「あ、はーい。ほら、かず兄!ボサッとしてないで食堂に行くよ。」

「あ、ああ。お邪魔しましたー!」

 

 

 

 

 

「……どうして俺は記憶があるんだ?」

「かず兄?」

「いや、何でもない。それより、食堂ってどんなメニューが有るんだ?」

「ふっふふー。それはですね―—―

 

――――――――――――――――――――――――――――――

 

≪同時刻≫

 

お洒落なカフェのテラスで遅めの昼食を取っている一人の少女がいました。

腰まである艶やかな黒髪を風になびかせハムサンドを食す様はとても優雅と言えるでしょう。

しかし、その顔つきは10代後半と言うには童顔でまだあか抜けていません。。

髪と同じ黒い瞳に飲み物のカフェオレを映しつつホウっと一息。

 

そう、私です。

 

白いノースリーブのシャツに薔薇色のフレアスカート。

アクセントに鮮やかな緋色のリボンで襟を止めているので胸元が見える心配も無し。

後はブーツを履いていますがコレはどうでも良いでしょう。

 

「それにしても平和ですね~。」

 

普段はアイツ等に会いたくないがため引き籠る事が多いですが

こんなにも良い天気や!とテレビで言ってたので外出する事に。

念のために―—万が一のポケ〇ンで色違い理想個体が出るくらいの確率でアイツ等と出会ってしまった場合の

一応の保険もありますが、使わないに越したことはないでしょう。

 

「さて、遅めの昼食も取りましたし次はどこに行きましょうか」

 

ハムサンドを食べ終え、飲み干した紙コップ諸共ゴミ箱にシュー―トした私は椅子に掛けて置いた黒コートを羽織ります。うう、やはりサイズが3回りほど大きいですね。ネットの買い物はコレだから信用できません!!

裾が引きずらないか気にしながらも街を歩いて行きます。こんな時は箒に乗って空でも飛びたいですね~

 

「ま、ALOじゃありませんし無理ですよね。」

 

ちなみにALOは箒でなく羽根で空を飛んだりします。が、今はどうでも良いですね。

何となく、本当に何となく周りを見渡し

  ―—―言葉を失った。

 

視線の先には周囲の奇異の視線を集めながらもビルに入っていく怪しい集団。

それだけなら無視しました。でも、その集団が付けていた”エンブレム”は

 

「なんで、なんで≪ラフコフ≫がいるんですか……」

 

しかも、少しだけ視界に映った()()()()()()

あれは、ラフコフの(トップ)PHO(プー)

呼吸が荒くなる。背筋の震えが止まらない。視界が段々と狭くなり指先から力が抜けていく。

何故、滅多に人前に表さないプーが、()()()()()()()()()()()()―—―

 

パンッ!

 

気絶寸前にまで混乱していた意識が”銃声”によって引き戻される。

再び視線を戻せば先ほどより人が減ったラフコフと()()()()()()()()()()

それを周囲の人も近くしたのか金切り声を上げ混乱の一途をたどる周囲の人々。

 

「本当、シャレになってませんねッ!!」

 

私は急いで誰にも見つからないように建物の裏手に周り込み、周囲に人がいないか確認する。

人気がいないのを確認したら鞄から一応の保険―—―茶色い拳銃を取り出す。

コートは邪魔になるから脱ぎ捨て、銃の、デザートイーグルの安全装置を外し装填する。

 

「……ハー。……面倒事に首を突っ込みたくはないですが……」

 

3日前にXaXa(ザザ)が毒物を買ったから私も他人事では済まされない。

あれは人を物理的に殺す物じゃない。()()()()()()()()()()()()()()()()()()()

もう一度深呼吸し心を落ち着かせる。

もし、ラフコフの人員と出会ったら

 

『撃ち殺す」

 

人を外れた外道に赦す慈悲はない。ダンと壁を蹴り駆け出す。

裏手に扉は無かったが道は続いている。恐らくこの先に非常階段があるはず。

まずは、そこに居るであろうラフコフのメンバーを殺し退路を作る。反動も威力も馬鹿でかいが躊躇している場合じゃない。速く、速くと懸命に駆け出し、確認のため通路の曲がり角で止まろうとすると

 

 

 

「―—―和人!!目を開けてよ和人!!!」

 

 

全身の毛が逆立つ。もう、犠牲者が……

ガリッと音が出るほど歯を擦らせ止まる事なく曲がり先に飛び出す。

開けた視界の先には”胸元を抑えて倒れている女の子とその子を必死に揺さぶる少女”

そして、”右手に注射針を持つローブを来たラフコフの男”

そこまでで十分だった。躊躇などなく照準を合わせ引き金を引く。

ズドンッ!!とおおよそ銃の音ではない咆哮を上げ、次の瞬間には男の右肩から血が弾ける。

いくら威力が強くても所詮は拳銃。せめて徹甲弾なら吹き飛ばしていたのに

 

「ナニ!?貴様、は!?」

 

ああ、その途切れ途切れの声、ザザですか。何やらガイコツマスクが割れて額から血を流していますが

まあ、どうでも良いです。

 

「死んでください。」

 

二発目を撃ち、弾丸は吸い込まれるに眉間へと――――

 

―――――――――――――

 

「ん?なんだか外が騒がしくないか?」

「確かに、言われてみれば職員の人達が慌ただしい様な気がする。」

「何かあったのでしょうか?」

 

プレミアちゃんのオススメを三人で食べ終わり、これからどうしようかと雑談していたら

突然、外の職員たちが慌ただしくなり始めた。

まるで()()()()()()()()()()()()

 

「ただ事じゃないな。まるで、何かから必死に逃げているような……」

「やっぱり和人もそう思う?コレ、さすがにおかしいよ。」

「待ってください。今、監視カメラに接続して状況を…………」

 

眼前にホログラムを投影したプレミアちゃんが固まる。

不審に思って僕と和人が映像を覗き込むと

 

「な!?」

「………うそ、だよね。これって……殺され、てる……」

「ッ!!」

 

血溜まりに沈むラースの職員と拳銃を持ち顔を隠した男たちが映っていた。

その映像に言葉を失うと同時に吐き気を覚える。

人が、死んで―—―ガタンッ!!

 

「プレミア!!」

「放してください!彼らを今すぐ助けないと!」

「………今言っても()()になるだけだ。それに、襲撃犯が二人とは限らない。」

 

苦虫どころじゃない。今にも自分が飛び出しそうな顔をしながらプレミアを引き留める。

僕も、頭の片隅で理解してしまった。

”無力”あまりにも無力な僕達に出来る事はないと。

プレミアちゃんが脱力したように椅子に座り裾を握り締める。そしてハッと気づいた様に声を上げる。

 

「カヤバさんは、上の人達はこの事を」

「しまった、上の人達が気づく術がない!」

「!!そうだよ、すぐに知らせに行かないと!!」

 

プレミアちゃんの言葉に僕達は急いで立ち上がる。その瞬間ガチャリと食堂のドアが開く音が。

全身の毛が逆立ち体が動かなくなる。すぐさま和人が僕達二人を背に庇うけど

ドアを開けたのは上にいた職員さんで、盛大に息を切らしている。

 

「君達はまだここに居たのか。いや、ある意味行幸か…。」

「カルベさん!今、下で」

「ああ。大体の状況はもう掴んでる。上の人達はもう避難しているから

  さ、君達も速く逃げよう。」

 

一通り捲し立てた後、非常口と書かれたドアを開ける。どうやら職員しか開けられない扉らしい。

上の人達が避難した時いて僕とプレミアはホッと息を吐いたけど、和人だけは険しい顔をしたままだ

和人?と声を掛けようとしたら手を掴まれて和人に引っ張られる。

何か、()()()()

 

「………和人君。二人を任せた。」

「はい……。」

 

そう言って和人に何かを渡す。プレミアちゃんも見えていたのか首を傾げたけどすぐにハッとして

和人に引っ張られた。そして、僕達三人だけ入って扉が閉められる。

突然ことに振り向くけどそこには何故か壁しかなくて

 

「行こう、二人共。」

「キリト!かや「行くんだッ!!」

 

プレミアちゃんの言葉を遮る様に和人が歯を食いしばって叫ぶ。

彼女は和人の手を振り解こうとして―—辞めた。

そのまま俯き覚束ない足取りで和人に付いて行く。そのまま僕たち以外の足音がしない階段を……………

まって、()()()()()()()()()()()()()

そんなの、おかしい。幾ら早くても下から、それも走っているなら階段の音が上下から聞こえるはず。

上の階は最上階でもない。それなのに音がしない

―—―まさか

 

「茅場さん達は避難していない?」

 

瞬間、プレミアちゃんは体を震わせ和人は一層握りを強くする。

痛みすら起こる強さだけど僕には唖然とした感情が多かった。避難しない職員にも

まるで、見捨てる選択をした和人にも

 

「俺は、掌の上にあるモノを守るのに精一杯なんだ……」

 

まるで自分を卑下するかのように吐かれた言葉に僕はハッとする。

和人が異様な程に普段通りなのは()()()()()()()だと。そして、和人は大切な人達数人とその他大勢と言われたら”大切な人達”を選ぶと吐いた。”それ程までに俺は無力だ”とも

 

「キリト……」

「さ、そろそろ出口に着くけど警戒しよう。外に襲撃犯が待ち構えている可能性は高いからな。」

 

プレミアちゃんが声を掛けると()()()()()()()()()で警戒を促す。

多分、和人は無理をしている。それを僕達の前ではアレで最後とばかりに振舞っているんだ。

……僕達を心配させないように。

和人、と声を掛けようとした時、ガチャリと扉が開く。職員の人かなと視線を向けると

 

「ひッ!―—―」

 

喉から掠れた悲鳴がです。出てきたのは口元だけマスクで隠した男性。

そして、手には血に濡れたナイフを握っていて、目が血走っていた。いっそ狂気的なまでに。

男性が此方に気付き目を見開く。それは驚愕じゃない≪歓喜≫だ。そして、階段を駆け上がって来る!

それを理解した瞬間に足から力が抜け、同時に、手の温もりも消えた。

 

「―-え?」

「グあァ!アグフィは!?」

 

突然の事に驚き固まる中、男性が悲鳴を上げて転げ落ちる。ナイフが音を立てて地面に落ちる

そして、いつの間にか階段に倒れていた和人がナイフを拾い男性に駆け出す。

刹那、僕は和人がしようとする事が脳裏に横切って

 

「和人だめだよ!それだけはダメッ!!」

 

僕の制止の声が聞えたのか首元を狙って放たれたナイフが急降下し男性の太ももを深く切りつける。

飛び散った血が和人の声にかかるが、気にもせず顎にナイフの柄を強打させる。

ゴスと鈍い音がして男性が力尽きたかのように倒れる。そして、ハーと息を吐く和人横顔に言いようのない不安を覚える。

 

このままじゃあ、彼が一人で何処かに行ってしまう

 

唐突に浮かんだ言葉に、気付けば和人の手を握っていた。

 

「木綿季今はこんな事してる場合じゃ「お願い、少しだけでいいから。」

 

心の底から来る寒気に声を震わせながら懇願すると、和人は言葉を噤んでされるがままになった。僕は少しでも恐怖を払いたくて和人の手を手繰り寄せる。怖かった。和人が、映像で見た人の様に血に涼むのが……

 

 

 

「少し、落ち着いたか」

「……うん。ごめんね、こんな事してる場合じゃないっていうのに」

「いや、誰だってこんな状況じゃ仕方ない。」

「……本当、ゴメン。プレミアちゃんは?」

「今、先に行ってもらってる。たぶん、そろそろ連絡が来るはず。」

『キリト、聞こえますか?』

「プレミア?ああ。聞こえているよ。」

『この先には誰もいません。それと、私が活動できるのはこのビル内までです。』

「やっぱそうだよな。」

『ごめんなさい。』

「いや、仕方ないよ。後は俺達に任せてくれ」

『…………はい。無事で、いてください。』

 

その後、程なくして和人のオーグマーから音が鳴る。プレミアが帰って来た音らしい。

つまり移動しなきゃいけない。けど……震えが止まらない。

その時、頭に掌が乗せられる。

 

「大丈夫。木綿季は絶対に守るから。さ、あと少しだ。行こうぜ。」

「……うん。ありがと、かず兄。」

 

まだ震えは止まっていないけど、何とか歩ける程にはなった、と思う。

でも何故だろう―—―嫌な予感が止まらない。

程なくしてドアの前まで辿り着いてしまう。でも、嫌な予感は止まらない、振り払えない。

和人の手を掴もうとして、辞める。これ位耐えないと、彼に背負わせてばかりになってしまう。

 

(それは、嫌だ。)

 

ここまで無茶をさせて、慰めて貰って、これ以上は彼が潰れてしまう。

今更何を、と言うかもしれない。でも、もう限界なんだ。僕も、和人も。

そこまで考えた時、和人が勢いよくドアを開く。瞬間、風が僕らの間を通りぬけ

外の世界を意識すると同時に僕らは走り出す。

すぐにでも、1秒でもここから離れたかった。そして、曲がり角が直ぐそこにと思った時

()()()()()()()()()()

 

――――え?

 

視界の端にはさっきまでいなかったはずの誰かが立っており、右腕を振り上げている。

太陽の光を反射しているのか、眩しくて詳細が解らないそれに視線が釘付けになる。

避けられない。そう確信した時にグイッと引っ張られる感覚。そして、横転する視界の奥では右腕の注射針を振り下している骸骨のマスクをかぶった人が立っていた。

ゾワリと全身の毛が逆立つ。さっきの男と違う。濃密で粘土質な酷く嫌な雰囲気を放つ人物にこれ以上ない恐怖が全身を支配する。

 

「木綿季、俺が惹きつけるからその間に逃げろ。」

「か、和人!?なにを言って「勿論、俺もすぐに逃げる。大通りに出れば奴も追って来れないはずだ。」

 

恐怖と混乱で動けない僕を庇う様に和人が立ちふさがる。骸骨のマスクの男は滑稽なモノを見たかのように、耳障りな声を響かせる。

 

「ほう。まさか、子供が俺に、一人で、無謀にも立ち向かうとな。」

「無謀なんかじゃないさ。アンタのソレを叩き落せば、二本目を抜くより俺のナイフの方が速い。だから、大人しく引くといいぜ。」

「フッ、ほざけ!!」

「走れ、木綿季!!」

 

二人が駈け出したのより遅れて転がる様に逃げ出す。恐怖と涙が溢れだしそうになる。今にも崩れ落ちそうなほど足が震えている。でも、そんなことしたら和人が死んじゃう―—―

 

「誰か、誰かいませんか!」

 

声を震わせながら叫ぶが足音すら帰ってこない。恐怖が限界を超えて足が竦む。それでも、止まっちゃいけない!

また、()()()()()()()()()()!如何しようもなく無力な僕は助けを呼ぶことしか出来ないのにッ!!

もう一度声を上げようとした刹那

 

ブシュと、異様な音が耳朶を震わせる。

 

弾かれた様に足を止めて振り向くと、仮面の一部を砕かれて頭から血を流す男とナイフを手放して蹲る和人

 

「和人!!」

 

骸骨マスクの男が和人を蹴飛ばし、ボールの様にこっちに吹っ飛んでくる。地面を何回か転げまわってようやく止まった和人に駆け寄るが、様子がおかしい。明らかに蹴られた腹部ではなく左胸を抑えている。

そこからは()()()()()()が手の間から零れていて苦悶の声を上げる。

その光景に今度こそ心が砕け散った音を聞いた気がした。

 

「ぐ、ああ。ああああああ!!」

「和人、しかっりしてよ!ねえってば!」

「あ、はあ!はあ……ゆ、ゆう、き。にげ、ろ」

 

胸元を抑え、苦悶の声を上げていた和人から力が抜け目を閉じる。まるで、死んでしまったかのように

 

「和人、嘘だよね和人!!目を開けてよ和人!!!」

 

どんなに呼びかけても揺さぶっても目を開けることも無い。

死神の鎌が、和人の首を刈り取ろうとする幻視して視界が明滅する直前

 

ズドンッ!!と耳を劈くような激しい音が耳に響く。何?と顔を上げると、肩に穴が開いたさっきの男と

その奥に≪黒い髪と瞳の少女≫が銃を持って鋭い眼光を見せていた。

 

「ナニ!?貴様、は!?」

「―—―死んでください。」

 

もう一度さっきの音が響き、弾かれたように男が倒れ込む。え?と思う間もなく男が蹴り飛ばされ視界から消える

代わりに、さっきの女性が立っていて見下ろしていたが、和人の状態に顔から血の気が引く。

 

「ザザ、何て事を!……ああ、もう!!間に合ってくださいよ!!」

「な、何して「貴方はそのまま抑えてて!死なせたくないんでしょう!」

 

手に持った拳銃を放り投げ僕の対面に座ったかと思うと、和人の衣服を破いて液体が溢れている部分に手を伸ばす。余りの剣幕と理解の外が立て続けに起こるが、死なせたくないの一心で言われるがままに補佐をする。

 

「……思ったより中に入り込んでいますね。今からだと半分も抜けませんが0よりましですね。

  少々古臭いですが、手段は選べません。」

 

そんな事を呟いたかと思うと和人の傷に口を当てて血を吸って……て!?

 

「な、急になにを!!」

 

突然の事に慌てだすと、彼女は吸うのを止め腰から水筒?を取り出し中の水を口に含む。すると盛大に吹き出した。その後も盛大に嗚咽を溢し、何度も水を含んでは吐き出していく。

何だろう……ちょっとだけイラっとしてる自分がいる。

あ、待って。吐き出した水が血の色のほかに緑色や血とは違う鮮やかな赤が混じっている。

まさか、液体を吸って吐き出している!?何かの間違いで摂取するかもしれないのに!?

 

「な、何してるの!!そんな事したら、君が!」

「ゴホッ!ケホ!……はぁ、ご心配なく。これが今は一番手っ取り早い方法なので。」

「だからと言って、自分を蔑ろにするのは「結果的に」

「……結果的に、彼の劇薬を2割を取り除くことが出来ました。」

 

そう、かもしれないけど!……そう言われてしまうと何も出来なかった僕は何も言えなくなる。

効き目など殆どありませんしと言われたら本当に言えなくなってしまった。

未だ気絶したままの和人を強く抱き寄せる。鼓動は弱弱しいけど、しっかり感じる。僕が息を吐く。

それに、と彼女は言おうとして後方を一瞥する。その視線を追おうとして少女に遮られた。

 

「今は、彼女を連れて行くのを優先しましょう。」

「は、はい…………え?彼女?」

 

彼女なんて、女性は僕とこの少女しかいないのに。キョロキョロと周りを見渡す。すると、少々呆れたように少女が声を出す。

 

「あのですね、貴方が腕に抱いている人ですよ。」

「え?」「え?」

「…………和人は男ですよ」

「えェ!?嘘ですよね!?だって、こんなにも「それ以上は禁句です」ア、ハイ。」

 

て、つまらない漫才している場合じゃない。和人を背負って運ぼうとすると彼女が肩を貸してくれる。

今は顔がちょっと赤いけど、自分を顧みず和人を助けてくれた辺り、たぶん良い人なのかな?

でも、さっき……

 

「ああ、さっきの男なら生きてますよ。銃弾を弄って殺傷性を低くしましたから。」

 

何故か()()()()()()ヒラヒラと銃を見せていたけど何故だろう。嘘を言っているようにしか思えない。

 

「そっか。」

「―――――まあ、嘘ですが。」

 

今不穏な言葉が聞えた気がしたけど努めて無視する事にする!今は和人が最優先。

こんな事を続けていたからか幾分か冷静になった頭に唐突に思い浮かぶ。

 

「あ、救急車呼んでない。」

「それなら警察の人達と一緒に来るのでは?一応都心に近いですし、と、噂をすれば何とやらですね。」

 

視界の奥、混乱と興味本位で中々のカオスになっているラースビル前に視線を巡らせる。いた。人垣の後ろの方に救急車両が見える。

 

「あと、もう少し。和人、もう少し耐えて……」

「…………」

 

女の子が応急手当をして先程よりは表情が柔らかくなったけど、それでも時折苦しそうに苦痛の声を漏らす。

だが、いくら鍛えていると言っても10代半ばの少女。裏通りを抜け、視界が開けた途端、足腰に力が入らなくなって崩れ落ちる。倒れると思って目を閉じるけど、何時まで経っても地面の感触なんて来ない。不思議に思い目を開くと、彼女が僕たち支えていた。

 

「貴方も大概無茶してましたか」

「あ、ありがとうございます。」

「……礼を言われる身ではありません。」

 

それだけ言った後、先程よりも和人が軽くなった気がした。目覚めたの?と顔を見るが目覚める兆しすら見えない。多分、この人がさっきより深く支えてくれているからかな。

でも、目を合わせずに俯いているのはどうして……

僕達が路地裏から抜け出し、やじ馬で集まっている人達を避けて救急車両に着くと隊員の人?が血相を変えて走り寄って来る。僕達は事情を手早く説明し、和人が車両に運ばれる。僕が親族と話すと一緒に来てくださいと言われたので、さっきの人にも行こうと振り向いた時

 

「hello!愛しき日本国の諸君たち。」

 

唐突に、不遜に、まるでショーの一部だと言う様に声が上がる。波が引くように喧騒が止み、先程声を上げたポンチョを羽織り顔を隠した人物に注目が集まる。周囲の奇異の視線や警察隊の剣呑な視線に臆することなく

むしろ、注目する事が目的とばかりに話し始める。

 

「今日はこの会社の()()()()に付き合ってくれて迷惑を掛けたな。なに、さっきの一連は明日の正午……フュー。今日の夜にでも解るだとよ。ようするに()()()()()()は今日の夜に全国に伝わるって事だ。

さあ、馬鹿騒ぎしまくれよ愛する人間ども。ただの仮想世界が現実になる日だ……アハハハハハ!!」

 

醜悪に下卑た笑いを響かせ、ホログラムの様に唐突に消えてしまう。それを受け、周囲の人達は誰となく去って行く。たぶん、彼等はあの男の言葉を真に受けたんだ。当事者である僕達を除いて

 

「あれはプーじゃない。でも、伝える事は同じなはず。……下郎め」

 

隣に立っていた女の子が苦虫を噛んだような表情で呟く。それより”プー”ってさっきのポンチョ男?

でも、プーじゃない?何故、彼女はそんな事を知っているの。

ねえ、と話しかけようとしたら救員の人達だけが一段と慌ただしなった。

 

「人手が足りないんだ、早く来てくれ!」

「あ、ああ。なに慌てているんだ?今までの一連はドッキリだって

「バッカ!()()()()()()()()()()()のがドッキリか!?」

「―--え?」

 

それが誰が言った言葉かも解らない程混乱する。心臓が、止まる?

和人()が―—―死ぬ

隣から息を飲む雰囲気が伝わり、救員が途端に血相を変えて飛び出す。僕が認識できたのはそこまでだった。

 

「おっと、危ない。いや、コッチは手遅れかな。」

「大丈夫か!君!」

「大丈夫じゃないですね。彼女はその車の中の彼の親族で―—―

 

ブツリと。テレビの電源が落ちる様に目の前が真っ暗になった。

 

 

 

「あれ、ここは……真っ暗で何も見えないや。」

 

気が付いたら光一つない暗黒の空間に立っていた。自分の手足は見える。でも、1m先に何があるのか解らない。

途端に恐怖が込み上げてくるけど頭を振って追い出す。そこで、ハッと気が付く。

 

「そうだ。和人はどうなったの?」

 

嫌な予感。それも、喉を閉められるような錯覚に陥った途端に駆け出す。速く此処から出たくて。一秒たりとも止まりたくなくて、何事も無かった。何もなかったようにあの笑顔が見たくて、自分を優しく包み込んでくれる暖かな夜のような彼に会いたくて一心不乱に駆け出した。そして、視界の奥。闇と同化するように佇む和人が視界に映る。思わずホッと息を吐こうとするが、代わりに出たのは掠れた声で。

なんで、如何して、そんな()()()()()()をしているの!

 

「和人!!」

 

いろんな感情が頭に渦巻いてその中の恐怖だけが鮮明に警告する。≪彼は死ぬ≫と

和人は僕の声が聞えたのか儚く微笑んで、ナニカを呟いた。震えが足先から全身に伝わり必死に手を伸ばす。

だけど、もう少しの所で彼が砕け散る。その瞬間、頭が真っ白になって、飛び散る破片をかき集めようとするけど

唐突に落ちる錯覚に陥る。違う、落ちているんじゃない。沈んでいるんだ。何も聞こえない。誰もいない水の中に

 

「誰か、助けて……僕達を…だれか……

 

ああ、力が、抜けていく。水の感触も、思いも、何もかもが消えていく。

もう何も見えない視界でなけなしの力を込めて手を伸ばす。

 

でも、誰もいないのに、誰が助けてくれるんだろう?そんなノイズ混じりの声が遠くに聞こえ、また目を閉じた。

 

 

 

しばらくすると、完全な暗闇が少しだけ晴れた。詳しく言うとちょっと痛いかな

 

「……ここは?」

 

目を開けると見しらぬ天井が目に入る。僕の部屋でも、言ってしまえばリビングの天井でもない。鉛みたいに重い体を起こすと、椅子に座っている女装した和人……じゃない。確か、僕達を助けてくれた女の子だ。

その子はん~!と小さく欠伸をし、眠たげな眼で僕と視線を合わせる。

 

「あ、どうも。こんにちは。もう夕方ですが。」

「こ、こんにちは。」

「さて、貴方が起きたなら”彼”の所に行きましょうか。」

「彼?……あ、和人は!?和人はどうなったの!!」

「それを今から確認するんですよ。口で言うより目で見た方が速いので。」

 

立てますか?と伸ばされた手を取って立ち上がる。僕が寝ていた部屋から出ると看護師や病衣を来た人たちが前を通り過ぎていく。ここは、病院?

 

「ここは、≪横浜港北総合病院≫という場所です。」

「よ、横浜?でも、ラースがあったのは六本木じゃ……」

 

それに答える事無く女の子は進んでいく。すれ違った人たちと時折会釈しながら歩いていく事数分。誰一人いないフロアに辿り着いた。いくら病院とはいっても静かすぎる。僕たち二人以外の足音も、人の気配すら感じない。

ちょっと、嫌な所だな。

 

「倉橋先生、和人君の妹さんを連れて来ましたよ。」

「紺野君と、妹さんは初めましてですね。僕は倉橋と言います。桐ケ谷君の主治医をしております。」

「は、初めまして。桐ケ谷木綿季です。あ、あの!かず「直接見よう。」

 

僕の声を遮って女の子が入りましょうと倉橋先生に促す。それに少しじれったいと思いつつも口を紡ぐ。僕より、この人の方が医療に関しては知識が深い。その人が見た方が早いと言うのなら……

 

「紺野君……」

「仕方ないと思います。≪メディキュボイド≫に関しては説明が難しいですから。」

 

メディキュボイド?それと和人に何の関係があるの?たぶん、答はこのドア一枚を挟んだ向こう。そして、倉橋先生がドアを開き僕と紺野さんはその中へ足を踏み入れた。そのドアの横のプレートには≪第一特殊計測機器室≫と書かれていた。

 

部屋の内部は妙に細長い部屋で、奥に今と通ったのと同じドアがある。右側にはいくつかのモニタを備えたコンソール(?)が設置されている。左側は一面横長の大きな窓だけど、ガラスは黒く染まって内部を見ることが出来ない。

 

「このガラスの先は()()()なので入ることが出来ません。了承してください。」

 

そう言って、空中に指を走れる。すると、微かな振動音と共にガラスの色が薄れて透明になっていく。

その向こうは一見して小さな部屋だと思った。でも、奥行がかなりあるので本来はとても広いんだと思う。

なぜ小さいと思ったか。それは、部屋中を大小様々な機械たちが複雑に混在しているからだ。

だから、中央のジェルベッドに気付くのが時間がかかった。

僕は限界まで顔を近づけてベッドを凝視した。

ジェル状のベッドに沈むように誰か―—恐らく和人が横たわっている。胸元まで白いシーツが掛けられているが、それ以外の喉元や両腕、例外的に左胸の位置から様々なチューブが周囲の機械に繋がっている。恐らく、と言ったのは、彼の顔を覆うようにベッドと一体化した白い立方体に覆われているからだ。見えるのは唇と顎だけ。直方体の上部には様々なホログラムが踊っており、その奥に簡素な文字で≪Medicuboid≫と書かれていた。

 

「……和人……」

「…………」

 

僕は声に出てるか解らない程に掠れた声で囁いた。つい半日。いや、それよりも前まで握っていた手が、僕を安心させてくれた体温が、心が温かくなる笑顔が―—―たった数メートルの分厚い壁が隔てている。

震えはじめる手足。荒くなる呼吸を息を吐いて無理矢理抑えて、背を向けたまま言葉を絞り出すように訊ねる。

 

「倉橋、先生……和人は、和人はあんな風にならなきゃいけない程……酷い、状態なんですか……?」

 

答えは、酷く惨酷なモノだった。

 

「≪虚血性心疾患≫……一般的に≪狭心症≫や≪心筋梗塞≫と呼ばれる症状です。ある年ではHIV/AIDSを上回った死亡数を出し、和人君はその中でも【ターミナル・ケア】と呼ばれる状態です。」

 

「ターミナル・ケア……通称、()()()()()




メディキュボイドに入るのはキリト君でした。何とな~く知ってたって言われると私は悲しい。あと、最後にアレ?と思った人は主の語彙力と文力が著しく欠けてるという事で
許してください、何でもしますから!
次回、ユウキが我武者羅に走る話。

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