オーディナル・スケール 少し違う世界の物語 作:夜桜の猫の方
そして前回の後書きで我武者羅に走ると言ったな、あれは嘘だ。
長くなって2万とか文字数が超えたので二つに分けて投稿します。ユウキ編は出来るだけ1話当たりの文字数を少なくしてサクサク投稿したいじぇ。なお、前回(必死に目を逸らす
その部屋には耳が痛いほどの静寂が満ちていた。狭い横長の部屋には一人の少女が壁に体を預ける様に立っていた。異様な程震えている体を両腕で抱いる少女―—ユウキは壁から体を離し、正面のガラス壁に手を触れる。
「………」
声が、出ない。彼の名前を呼ぶたびに胸が引き裂かれる感覚に陥ってしまう。それを、その痛みを背負わなければいけないのに
――――—怖い。人の命を、痛みを背負う事がこんなにも痛いだなんて知らなかった……!
彼が成し遂げようと背負っていたモノも、こんな形で終わらせてしまったのも
「……全部、僕のせいだ……!」
倉橋先生や助けてくれた少女―—紺野さんに彼の今の状態を聞かされ、僕は目の前が真っ暗になった。
二人が言う虚血性心疾患は、簡潔に言えば心臓に血液が行かなくなる病気らしい。血管の中の血液が固まり動脈硬化が発生する。最悪の場合―—手術が間に合わず死亡してしまうケースが多いと。でも、彼の場合は動脈硬化が
『心臓に送る血液の流れが止まった際、人間は本能的な恐怖と地獄のような苦しみを味わいます。それを、彼は何度も何度も……こんなの、いつ彼の精神が崩壊するか……』
心臓が鷲掴みにされるなんてモノじゃない。彼はこの奇病に掛かっているせいで、≪心臓が完全に停止するのが先か≫≪精神が崩壊するのが先か≫の死の淵に立たされている。先生達も全力で手を尽くすらしいけど、余りにも奇病すぎて、現状では≪メディキュボイド≫に頼って痛みから彼を遠ざけて精神の崩壊を防ぐしか手段がない。
「……あぁ…」
コンっとガラスから音が響く。木綿季がガラスに額をぶつけて項垂れていた。冷たくなった手を伸ばすが分厚い壁がそれを拒む。どうしようも、如何しようもない程に依存していたと今になって木綿季が理解する。和人と木綿季は、どちらも桐ケ谷家に養子縁組として引き取られた子供だった。和人が5歳の時に、木綿季は6歳の時にそれぞれ桐ケ谷家へやって来た。当初は普通の『兄弟と家族』の様に生活していたが、二人が10歳の時に養子縁組で本当の家族は解らず、和人に至っては離別している現状だった。
(あの時、もう誰が本当の家族で周りを疑って疎遠になった和人を励ましたっけ。)
『たとえ本当の家族じゃなくても僕は和人の”家族”だから!!』
そのすぐ後に和人が思いっきり顔をしかめて『何言ってんだコイツ』みたいな事言って来たから掴み合いで言い合いの大喧嘩になったんだっけ。どっちも本音を言いあって、子供ゆえの裏表のない心の吐露に和人が折れて『……がんばる』て言ってくれたのが凄い嬉しかったのを今でも昨日の様に思い出せる。あれからお姉ちゃんって和人に呼ばれて、調子に乗っちゃって色々失敗を繰り返しちゃったけ。今では僕がかず兄なんて呼ぶのが昔は信じられなかったな~。
………もしも、もしも今何でも願いが叶うなら……あの時みたいに、
「何も、出来ないなんて………」
無力感に打ちのめされて膝から崩れ落ちる。目頭が熱くなって頬に冷たい水が流れる。胸を占めるのは虚無感なのかな?何もないこの手が涙で濡れていくのをただ茫然と眺めているだけだった。
――――――――――――――――――――――――――――—
「木綿季………」
妹が体を震わせて両腕で自分を抱いているのを俺はただ見ている事しか出来なかった。状況は既に倉橋先生から聞いている。生と死の狭間を彷徨っているって事もな。だが、虚無感に打ち震える妹をただ見ているだけなのが最も苦しい。心臓に血液が行かない?地獄のような苦しみが周期的に精神を蝕む?そんなの―—―眼前の光景に比べれば虫以下の些細な事だ。
「あの時……ナイフを振り下すのに躊躇しなければ結果は変わっていたのかもな。」
階段の時の様に咄嗟でない。自分から人を殺す事に躊躇してしまったからこそあんな体たらくを見せてしまったのだ。その結果がどうだ?
もう二度と話せない。触れられない。プレミアだって助ける事も出来ず動けないでいる。それを木綿季のせいとは言語道断だ。全て自分の為体の結果だ。
「本当、何やってるんだろな。」
木綿季がガラスに額をぶつけて項垂れる。そんな痛々しい姿を
「こんなの、いつの間に……?」
和人がソレに興味本位で触れた瞬間、内側から響く厳かな音と共に扉が開く。そこから現れた
――――――――――――――――――――――――――――—
「神様でも、悪魔だって構わないから………僕は、どうすればいいの?和人が死ぬ位なら
いっそ、この命だって。そう続けようとした瞬間、
『なに馬鹿な事を言ってんだ木綿季は。』
バッと顔を上げるが視界に入ったのは目が赤く泣き腫れている僕の顔だけ………違う。右耳に付けたままだったオーグマーが明滅してる?たしか、未読メッセージがあるサインだっけ。ここが病院だと忘れてオーグマーを起動させてメッセージを開く。差出人は、プレミアちゃん?
『直に電話が出来る場所に来てください。和人と話せるので早く―—―』
最後まで読む事なく僕は立ち上がり部屋の外へ駆け出す。廊下を出た目の前にはフロア地図があり、横の階段から屋上に行けるみたい。逸る気持ちそのままに駆け、屋上へ続く扉を乱暴に開ける。そこは中庭と同じような
『ユウキ!やっと繋がりました!一時はどうなる事かと』
「プレミアちゃん!和人と話が出来るってどういう事!?」
『ユウキはキリト一筋ですね。少し妬けてしまいます。』
「あ、えっと……その……」
『冗談です。いま、和人と変わりますね。』
頬に熱が集まるのを感じながら、オーグマーからノイズの様な音が耳に入り
『…………よう。木綿季』
懐かしい
『お、おーい。木綿季さ「ごめんなさい……」……え?』
「ごめんなさい……ごめんな、さい……!」
『ゆ、木綿季さーん……』
溢れて来る謝罪の言葉に和人がたじろいで言葉を掛けられずにいる。
謝って済む事じゃない。だが、木綿季の感情はそれだけじゃなかった。
「……………くやしい……」
『え?』
「
『木綿季……』
「
木綿季は謝罪じゃない慟哭を叫んだ。憐みなんてより、どうしようもない程に無力で泣いているだけの自分が大っ嫌いで、それでも何も出来ないこの身に絶望している。彼女の謝罪はそんな現実への敗北感から来るものだった。
「和人……ごめ『良かった。木綿季がまだ諦めてなくて』……うぇ?」
『悔しいって事は……天に、知らない誰かに命運を預けるんじゃない。
「うん。僕は出来るなら……いや、僕自身が
『ま、真っ正面から言われると恥ずかしいのですが……』
「僕は本気だよ。」
『ああ、解ってる。だけど、俺もただ待ってるだけのお姫様は御免だぜ。』
彼が言った事に首を捻っていると、不意に目の前の空間が歪み始める。突然の事に固まる木綿季を置いて異変は広がり空間が黒くノイズが走る様に乱れ始める。本能的な危機感から離れようとするが、打ち出されるように歪みから転がり出た人物に目を見開いて硬直する。転がり出てきた人物は首を捻りながら立ち上がり木綿季に向き直るって何時もの様に微笑みを浮かべる。
「よ、木綿季」
「かず、と。どおして……」
「ああ、いや。この体はプログラムの集合体だぞ。プレミアと同じ」
それを証明するかのように呆然とする木綿季の頭に手を伸ばすが、触れる事が出来ずに通り過ぎる。注意深く見れば彼の体はプレミアとは違い向こうが透けて見え、時々ブレる。だが、プログラムの集合体と言うには真に迫った眼差しで木綿季を見据え、絞り出すように話す。
「……俺は木綿季に卑怯な事を今から言う。勿論、木綿季が拒めば何もなかった話になる。でも、それでも木綿季が頷いてくれるなら……」
「和人?何の事?」
和人はこれ以上にない程に渋面を浮かべながらも口にする。
「木綿季。どうか現実世界で動けない俺に代わって
「……は?」
「今から説明する。まず、ラースを襲った連中がオーグマーのプログラムを書き換えてとんでもない
「…………え?」
思わず耳に付けたオーグマーに触れる。帰って来たのはヒヤリとした冷たい感覚だけで、それが凄く恐ろしい。
「大丈夫。今は安全だ。オーグマーがAR拡張機から殺人器具へとなる条件はただ一つ”
死ぬ。何回も聞いた単語が木綿季の精神を激しく揺さぶる。そんなのあり得る訳ないと叫びたいが、彼の真剣な目が嘘でないと告げている。
もし、もしもOSでHPが尽きれば……死ぬ?
「そ、そんなの……どうして、僕にソレを……」
「奴らは殺しこそ最大の快楽だがそれと同じように人をモルモットの様に試しているんだ。オーグマーのランキングによる報酬欄を開いてくれ。」
「う、うん。………えぇ!?和人、これって!」
木綿季が開いたランキング報酬欄。そこには、木綿季の今の順位≪6078位≫と書き換えられた報酬―—≪2500万≫と表示された莫大な金額だった。思わず開いた口が塞がらなくなった木綿季の耳に和人の舌打ちが聞えて来る。
「奴らは命を懸けさせる代わりに巨万の富を餌に犠牲者を増やす算段らしい。この餌に喰いつこうとして社会は間違いなく荒れる。最悪、
「うぁ……」
「木綿季!!」
今にも吐きそうな程に顔を青くして蹲る。木綿季のトラウマが現実で蔓延する事に視界がグニャリと歪むが、和人に続けてと言う。彼はでも、と渋っていたが遂に折れて話し始める。
「これを防ぐ手段は色々あるけど、一番速いのは―—―
「どういう、こと?」
「奴らがプログラムを書き換える直前、ラースのスタッフが……茅場さんが置き土産を残したんだ。ランキング1位になったヤツが望むなら、この
和人は脳筋思考だろ?と言うが目は全く笑ってない。彼自身、今直ぐにでも木綿季からオーグマーを取り上げて命を懸けるデスゲームから遠ざけたいと切望している。でも、それ以上に、彼女なら正義の味方としてデスゲームを終わらせる事が出来ると確信している。勿論、和人もただ見ているだけじゃない。彼も、また―—―
「もし……もし1位になれば、和人を救う事が出来るの?」
「それは………」
恐らく、このデスゲームは多大な死者をだす。どれだけ木綿季が我武者羅に足掻こうがちっぽけな身一つの彼女では死者0なんて虫のいい話がある訳ない。だからこそ、このゲームに幕を下ろす英雄にはそれ相応の報酬が出て来るだろうと和人は予想するが……彼女はそれ抜きで俺を救うらしい。その目に欲望など片鱗も見せない。あるのは、ただ家族を救う純粋な願いだけ。
だから、かもしれない。
「出来るさ。木綿季なら。」
「………うん!」
和人は、世界で最も卑怯者だと自分を卑下しながら彼女に
「木綿季……この現実世界を、皆を救ってくれ。」
「――――—任せて。だから、少しだけ待っててね。」
木綿季が頷いて笑みを見せると、和人は胸が引き裂かれる思いを必死に隠し彼女に右手を伸ばす。木綿季も彼の手を包み込むように両手を伸ばすと―—ほんの少し。風が吹けば消えてしまう程に小さな温度が掌から伝わって来た。木綿季が目を瞑り子供の様に胸に抱きよせて目を開くと、もう誰もいなかった。けど、両手に、胸の中に彼の暖かさがあるみたいで……
「やってみせるよ。必ず―—」
「お姉ちゃん]
呟いた言の葉が夜空に溶けると同時に、後ろから声を掛けられて振り向くと直葉と、父と母がそろって立っていた。三人とも先程までのやり取りを聞いていたらしく顔を歪めている。
「木綿季、あぶ「お母さん。僕は何と言われたって辞めるつもりはないよ。」
「………死ぬかも、しれないんのだぞ。」
「覚悟の上……なんて、本当は少し怖い。でも、それ以上に何も出来ないまま泣き崩れるのは嫌なんだ。」
二人が僕を心配してくれるのは痛い程伝わってくる。けど、僕の意思はそれ以上に硬い。死ぬのが怖くないって言ったら嘘になる。でも、これを乗り越えて和人を救うことが出来たら
「僕は、過去に向き合う事が出来るから………だから、お願いします!僕を、
僕が頭を下げると三人から息を飲む雰囲気が伝わって来る。でも、そんなの当たり前だ。誰だって子供を死地に飛び込ませる親はいない。だから僕は反論されたりオーグマーを取り上げられたりしても何とかすると覚悟を決めていたけど、帰って来たのは別の回答だった。
「なら、私も戦う。」
「す、直葉!?何ってるの、死んじゃうかもしれないんだよ!!」
「その言葉をそのまま返すよ。私だって何も出来ないのは嫌なの!」
う、と反論できない僕にお父さんが空を仰いで溜息を吐く。
「まったく。娘達を一人でに死地に向かわせる等、許す訳なかろう。」
「ご、ごめんなさい。でも!」
「ところで母さんや。家の
「そうね。このツケは社会的に払って貰わないとね……」
普段温厚な両親が額に青筋を立ててラフコフを社会的に駆逐しようと計画を夫婦間で立てる光景に娘二人は冷や汗を流しつつ絶対に怒らせないようにしようと心に誓う。
「木綿季」
「は、はい!」
「…………絶対に生き残りなさい。」
「は、は、え?」
「本当は、ほんとーは貴方達からオーグマーを取り上げて常に目の届く場所に置いておきたい所だけども、助けたいのでしょう?」
「う、うん。」
「なら約束して。絶対に生きて帰ってくる事。貴方は一人で戦っている訳じゃないって事。それを約束して。」
「…………解った。何があっても、絶対に死んだりなんてしない。」
母が頷いて父は厳格な雰囲気を少しだけ緩ませたが、流石は一家の大黒柱。激情に駆られながらも生きて帰れと約束する。絶対に保護にしちゃダメな約束を3人に誓う。僕は家族を見渡して大きく深呼吸する。そして
「それじゃあ、助けよう!僕達で!」
「「「おーーー!!」」」
それから直葉達は和人の所へ行くと言い、僕は少しだけ夜風に当たりたかったので後でエントランスで待ち合せと言っておいた。ベンチに座って感じる風はもう冬の様に寒い夜風じゃない。暖かな心地よい風が僕を包み込んでくれる。しばらくすると、誰かが此方へ歩いてくる音が聞こえてきた。もしかして見回りの警備員さんと思いつつ視線を向けると、黒目黒髪の少女がランタン片手に立っていた。
「おや、奇遇ですね。こんな所に木綿季さんがいるとは……」
「えっと、紺野さんで合ってるよね?」
「む?どうして私の名前を……と思ったら、倉橋さんが呼んでいましたね。」
隣、良いですか?と聞かれたのでコクリと頷くとランタンを僕達の間に置いて座り、埼玉と同じ星空を見上げる。僕も釣られて見上げると息を飲むほどに幻想的な光景が目に入った。視線を遮るものは何もなく、視界一杯の星空に魅入られる。思わず感嘆の声が出てしまうと、隣に座った彼女が呟く。
「………紫苑」
「えっと、君の名前?」
「そうです。
「あ!そう言えば。僕は桐ケ谷 木綿季って言います。」
「ええ、知ってます。だって、見ていましたから。」
「?」
思わず首を傾げ紺野さんを見つめると、彼女は僕に向き直り浅く頬杖を突いて微笑む。彼女は同性の僕でも息を飲むほど綺麗だから、ちょっとドキッとしたのは内緒。
「木綿季さん。私にも和人君を助けるのを手伝わせてくれませんか?」
「………へ?えと、如何して?」
「如何してと言われると厳しいですが…………しいて言うなら……」
そこで言葉を区切って空を見上げたかと思うと、苦々しい表情で息を吐いた。
「罪滅ぼし……とは言わないでも、いい加減奴らに心底腹が立った、とでも言っておきますね。」
「は、はあ。」
「如何でしょうか?信用出来なければ蹴ってくれても構いませんが……」
「うんん。僕は信頼してる。」
「ほう……それは何故?」
試すように聞いてくる紫苑に僕は笑みを向けて答える。この人の事はよく知らないけど、それでも理屈抜きで信頼できる。それはたぶん……
「だって、僕達の事を助けてくれたでしょ。」
「はあ………え、それだけですか?」
「うん。ソレだけで十分だよ!」
彼女は驚いたかのように口を開いていたけど突然俯いて何かを呟く。風が邪魔して聞こえなかったけれど、彼女が顔を上げた時に呆れるような笑みを浮かべていた。
「君はそう言う人なんですね。裏表のない、天真爛漫な人」
「そーかな?自分じゃよく解らないや。」
「そうですよ。それで、返事はOKと受け取っても?」
「勿論!でも、OSは……」
「デスゲームですよね。流石に知ってます。」
彼女はそれだけ言って立ち上がり、そろそろ帰らないと体が冷えてしまいますよと言って出口へ歩きはじめる。置いて行かれないように僕も走り始めた時、暖かな夜風が背中を押してくれた気がした。
ユウキ編の始めまりだぜ!ぶっちゃけこのキリトとユウキは自己否定が原作より増し増しなので、こんなの木綿季じゃない!と思うかもしれませんが、そこは長い目で見ていてください!
作者のスタンスとしては≪主要人物は死なない≫との法則があるので。(その分、原作よりシリアス)次回は………キリト君の出番です。