「うおおっ! 唸れ俺の右腕ッ!」
そんななんだかよく分からない叫び声を上げながら、あのバカは私をシールドバッシュで吹き飛ばした。
吹き飛ばされた体制を整え、あのバカに文句と共に渾身のハイキックを食らわせてやりたい衝動をどうにか抑える。邪魔をしてくる小型モンスターがいないから、手伝わせてみたらコレだ。この野郎、クエストが終わったら覚えてなさいよ。
現在は角竜――ディアブロスの狩猟クエスト。フィールドは砂漠。時刻は真上で太陽が輝く昼。クーラードリンクを飲んではいるものの、照りつける太陽のせいで身体は焼かれ続けた。これだから砂漠でのクエストは嫌いだ。
「おほぉぉおおおッ! 突き上げしゅごいよぉぉおおおッ!!」
そして、ディアブロスお得意の地面からの突き上げ攻撃があのバカに直撃。空高く舞い上がるあのバカはいつもより強く感じる太陽光を浴び、光り輝いていた。
また意味の分からない言葉を叫んでいるけれど、そんなものもいつもの光景となってしまっている。もうヤダアイツ……
お願いだからクエスト中はもう少し緊張感をもってもらいたい。どうせ言っても聞かないんだけどさ……
「ロロット! バカやってないでさっさと閃光玉を使うニャ!」
オトモアイルーであるミナヅキの言葉を受け、あのバカが起き上がってから直ぐに閃光玉を使用。閃光玉により真っ白となった視界が晴れると、閃光玉で怯んだディアの姿を確認することができた。
ハンターとして本当に残念な実力しかないあのバカだけど、アイテムの使い方だけは何故か上手い。あと耐久力も常人を遥かに超えている。ディアの突き上げ攻撃が直撃しておいてなんでアイツは普通に戦っているんだろう。これでもう少し戦力となり、あんな性格じゃなければなぁ……
さて、そんな愚痴をこぼしていても仕様が無い。このチャンスに全力でいかせてもらおうか。
目眩状態のディアへ一気に近づき、もう自分の身体の一部と言っても過言ではないほど使い慣れた片手剣で抜刀斬り。さらに、斬り上げ、斬り下ろしから回転斬りまでのコンボを叩き込んでやった。そして、その回転斬りを食らわせたところで、ディアが脚怯みによるダウン。
「ナイスだマイハニー!」
誰がハニーだバカヤロー。いいからあんたは黙って戦いなさい。
ダウンしたディアの脚へ私とミナヅキでラッシュをかける。あのバカはそんな私たちから少し離れ尻尾を攻撃。尻尾は既に切断してあるのだし、もう攻撃する必要はないのだけど、近くにいると絶対に邪魔だからこれで丁度良いと思う。
2度ほどコンボを叩き込んだところで、ダウンしていたディアは起き上がり頭を大きく振った。むぅ、これで倒しきれなかったか。
そして、そんなディアの起き上がりモーション後、また直ぐに真っ白となる視界。どうやら、あのバカがまた閃光玉を使ったらしい。ホント、アイテムの使い方だけは優秀な奴だと思う。
「捕獲する! 麻酔玉を用意しておいて!」
「あいよ、任せろ!」
もう捕獲できるほど体力は削ったはず。別に捕獲をする必要はないけれど、ディアは逃げるとき砂の中へ潜るせいで、一度見失うと少々面倒くさい。ここで終わりにしてしまおう。
今日はもう、疲れたんだ……
閃光玉で再び怯んだディアの脚元へ私が罠を設置。そして、罠へかかったディアにアイツが捕獲用麻酔玉を投げたところで相手は動かなくなった。これでクエスト完了。
ああもう、ホント疲れたな……
確かにディアブロスは強いモンスターではあるけれど、私がここまで疲れているのはそれだけが原因じゃないだろう。
「っしゃ、おらー! クエスト完了だー!」
いつも通りのあの笑顔を浮かべ、眠っているディアの周りで踊るバカ。おかしい、なんでアイツはあんなに元気なんだろうか……
また今日も何度かシールドバッシュで吹き飛ばされたのだし、そのお返しをしてやりたいところではあるけれど、今ばかりはゆっくり休みたい気分だ。
「……モミジ、お疲れ様ニャ」
踊るバカを見てため息を落とす私に労いの言葉をかけてくれたミナヅキ。貴方がいてくれることが唯一の救いだ。ホント、癒される。いつもいつもありがとね。
はぁ……こんな調子でこの先大丈夫なのかなぁ。
◆ ◆ ◆
「いやー、今日も完璧だったな! 自分の才能が怖くなるぜ」
クエストを終え、ポッケ村への帰り道。今日も今日とて私のパーティーのバカは元気な様子。
どこが完璧で、どんな才能が怖いというのだろうか。普段ならツッコミのひとつでもやってあげられるけれど、そんな元気も今の私にはなかった。いや、まぁ、クエストが終わった後はいつもこうなんだけどさ。このバカの体力が異常なんだ。それだけ元気が余っているのなら、もう少しくらい上手く動いてもらいたいと願うばかりです。
いつも通り騒がしいアイツを見て、いつものようにため息をひとつ。
このパーティーとなり、そこそこの時間は経ったけれど、コイツのことはよく知らなかったりする。どうしてコイツがハンターをやっているのかとか、コイツの過去の話とか。仲良くする必要はないけれど、一応コイツとはパーティーを組んでいるのだし、もう少しくらいコイツのことを知っておいた方が良かったりするのかな。まぁ、別に知りたくないっていうのは本音であったりするけどさ。
そんなことを考えつつ、ボーっとアイツのことを見ていて気づいたことがひとつ。
「そう言えば、どうしてあんたはそんな片手剣を使っているのよ」
コイツが使っている武器種は私と同じ片手剣。一発一発の威力は低いものの、その手数の多さで火力は十分カバーできるし、盾を使えるおかげで安定した立ち回りもできる優秀な武器だと思っている。私だってそんな片手剣を愛用しているのだし、コイツが片手剣を使っていることには何の文句もない。
じゃあ、何が問題かって言うと……
「それってハンターカリンガでしょ? もう少しくらいちゃんとした武器を使いなさいよ」
――ハンターカリンガ。
それは片手剣を使うハンターなら誰もが使ったことのある武器。つまり、初心者用、初級の初級者が使うような武器だった。一流のハンターならどんな武器だろうと問題なく扱える、なんて聞くことがあるけれど、そんなはずはないってのが私の考え。一流のハンターならそれ相応の武器を使うべきだし、ただでさえ戦力になっていないコイツがハンターカリンガなんて使ったらもう……
私とパーティーを組んでからそれなりの数のクエストをクリアしているのだし、素材やお金がないってわけではないはず。そうだというのに、どうしてそんな武器を使っているのやら……
「おおー、良くぞ……てか、やっと聞いてくれたか。実のところこの片手剣はな、超一流のハンターからもらった武器なんだ!」
「ねぇ、ミナヅキ。これホントの話?」
「嘘の話ニャ」
うん、だと思った。
コイツの過去は知らないけれど、超一流のハンターから武器をもらうとかはまずないだろう。どうせギルドからもらったものを今もまだ使っているとかそんな理由なはず。
「はぁ……ちょっとソレ貸して。どうせちゃんと手入れもしてないんでしょ?」
「うん? まぁ、貸すのはいいけど大切な武器だから丁重に扱ってくれよ」
ハンターカリンガ程度が大切な武器って……武器屋に行けば普通に買える武器でしょうが。ポッケ村の武器屋なら600zとかだったと思う。とても安い。
変な奴だとは知っていたけれど、コイツはそんな私の想像以上なのかもしれない。今更だけどホント、とんでもない奴とパーティーを組むことになっちゃったなぁ……
なんとも複雑な気分のままアイツからハンターカリンガを受け取り、刃こぼれだとかそういうことがないか確認。しかしながら、意外なことに手入れはしっかりと行われているらしく、状態はかなり良い。長く使われているせいか、全体的にくたびれてはいるもののまだまだ使うことは可能だろう。
ハンターカリンガは本当に初心者が使う片手剣だ。ソレをここまで使い込んでいるのは初めて見た。
「……あんた、武器の手入れできたんだ」
直すような部分もなかったため、ハンターカリンガは返すことに。アイテムの使い方は上手いし、武器の手入れもできる。そんな風には見えないけれど器用な奴なのかもしれない。
「だから言っただろ、大切な武器だって」
私からハンターカリンガを受け取り、少しだけ拗ねたような顔でアイツは言葉を落とした。いや、だって普段のコイツからはそんなこと想像もできなかったんだもん。そう思ってしまうのも仕方の無いことだろう。
「それは失礼しました。それにしても、ホントどうしてハンターカリンガなんて使っているのよ」
現在の私たちが行くクエストのほとんどが上位クエスト。G級と比べたらまだ優しいレベルではあるものの、ハンターカリンガじゃ流石に無理がある。私だってハンターカリンガで上位モンスターと戦うのは遠慮したいくらいだ。
「ふっ、一流のハンターってのはな、武器を選ばないんだぜ?」
コイツ、ぶん殴ってやろうかな。
確かにそういう意見もあるけれど、コイツが言うともうギャグにしか聞こえない。武器くらいはちゃんとしたものを使いなさいよ。ただ、どうせ私が言っても聞かないんだろうなぁ……
「ねぇねぇ、ミナヅキ。コイツって昔からハンターカリンガを使っていたの?」
「……そうニャ。その片手剣をもらってからはずっとソレを使っているニャ」
あっ、もらったってのは本当のことだったんだ。
その時にどんな物語があったのかは知らないけれど、その人ももう少しくらい良い武器を渡してくれれば良かったのに……いやまぁ、ハンターカリンガだから渡したんだろうけどさ。
きっとミナヅキも苦労していたんだろうなぁ。そして、今現在も苦労し続けていることだろう。……うん、一緒に頑張ろうねミナヅキ。私は貴方の力にちゃんとなってあげるよ。
……もらった武器、か。
ヘラヘラと笑うアイツを見ながら、頭の奥でいつかどこかの記憶が浮かびかける。そうやって思い浮かぶ記憶は……いつだって悪いものだった。
ホント、色あせず風化もしてくれない記憶はタチが悪いものばかりだ。
別に前へ進む必要なんてない。けれども、私はいつになったら過去に縛られなくなるのだろうか。悩みひとつない顔で笑うアイツを見て、私はそんなことを思った。