だから笑ってください   作:puc119

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立てば金獅子、座れば牙獣種、歩く姿は……まぁ、つまりはラージャンってことだ

 

 

「っつー……ったく、ホント怪我だけは勘弁してもらいたいな」

「ロロットの自業自得ニャ」

 

 本当に怪我が痛むのか、顔をしかめながらあのバカが言葉を落とした。

 これまで、コイツとは何度もクエストへ行っているし、そのクエストの度、モンスターからボコボコにされていた。けれども、コイツが怪我をしたところは見たことがなかったし、それほどに丈夫な身体なのだろうと思っていたのは本当のこと。

 だから、今のロロットの様子はやたらと新鮮に感じた。

 

「はぁ、暫くは休んでいなさい」

「モミジはどうするのニャ?」

 

 ん~……どうしようか、私は別に怪我をしているわけでもない。だから直ぐにでもクエストへ出発してもいい状態だ。

 

「そうね、私は何かのクエストへ行くことにするわ。ミナヅキはどうする?」

「うニャ……ロロットをひとり残しておくと何をするか心配だから、ボクは残ることにするニャ」

「いや、俺は別に何もしないぞ?」

 

 それもそうね。いくら残念な奴とはいえ一応、パーティーを組んでいる仲間なんだ。問題でも起こされたらたまらない。

 ミナヅキが来てくれないのは確かに寂しい。でも、ひとりのクエストは慣れている。……私にとってはそれが普通だったのだから。

 

「それじゃ私はクエストに行ってくるけど、あんたはおとなしくしてなさいよ?」

「あいよー。モミジなら大丈夫だろうが、気をつけて行ってきてくれ」

 

 言われなくても。それに、大変なクエストに行くつもりはないからまず大丈夫だと思う。

 

 

 そんな会話をしてから、軽く準備をして直ぐに集会所へ向かうことに。止まっているのはどうにも苦手なんだ。

 

 そして、難しいクエストを受けるつもりはないけれど、流石に採取クエストじゃなぁ……なんてことを考えている時だった。

 

「おっと、ごめんよ」

 

 私も私で上の空になっていたのは確かだったと思う。なんだか意識しているみたいで腹が立つけれど、あのバカがああして怪我をしてしまったことを気にしている自分がいたのだろう。

 

「あっ、こっちこそごめん」

 

 集会所へと向かう途中でひとりのハンターとぶつかってしまった。

 その相手だけど……背は私よりも高く横幅は2倍くらいもある巨体の女性ハンター。その背に大きなハンマーを担いでいた。これほどの巨体なんだ。一度見たら忘れることはないはず。つまり、今の私のいるギルドとは違うギルド所属のハンターなんだろう。

 

「あたしは大丈夫だけど、アンタは大丈夫かい?」

「う、うん、大丈夫。えと……見かけない顔だけど貴女は?」

 

 もしかしたら、いきなりそんなことを聞くのは失礼だったかもしれないけれど、どうしても気になってしまった。いや、それくらいにインパクトのあるハンターだったんだ。

 

「普段はバルバレにいるハンターだよ。たまたま近くに来たものだからバカ弟子の顔を見に来たのさ」

 

 なんて目の前の女性は笑いながら言葉を落とした。見るからに豪快そうな人だ。きっと実力もあるハンターなんだろう。

 それにしても、そうですか。バルバレといえば砂漠の近くにあるギルドだったはず。このポッケ村とは正反対の気候だけど、大丈夫だろうか。

 

「っと、そうだ。アンタ、ロロットっていうハンターを知らないかい?」

 

 あ、うん……それ、よく知っている奴です。

 なるほど、あのバカのお師匠さんだったのか。ロロットの過去はほとんど知らないけれど、アイツもバルバレのハンターだったってことかしら?

 

「ええ、知っているわ。ソイツならここを真っ直ぐ進んだ先の家にいるはずよ」

 

 私とパーティーを組んでいることは言わなかった。別にこれと言った理由はない。ただ、なんとなく。

 

「そうかい、そうかい。ありがとね」

 

 どういたしまして。

 そんな会話を私と交わすと、そのハンターは直ぐに私たちの家へ向かっていった。ドスドスという効果音がよく似合いそうだ、なんて思ったけれど、流石にそれは失礼か。

 どんな教育をしたらあんなハンターになるのか、とか色々と言いたいこともあったけ。でも、私からは何も言わなかった。踏み込んじゃいけない気がしたから……ってことだと思う。たぶん、おそらく、きっと。

 

 全く気にならない、と言ったら嘘になる。けれども、その時はそれ以上考えることもなく、直ぐに集会所へ向かってしまった。

 

 ……ここで、今出会ったハンターについていったら、このお話がもう少しだけ違うものになっていたのは確かだろう。けれども、そんなことを考えたって仕様が無いんだ。きっときっとそういうこと。

 

 

 そして、集会所にしては珍しい相も変わらずのんびりとした空気の中で、どのクエストを受けようか、ボーっとクエストボードを見ているときのことだった。

 

「失礼。最近他のギルドから此方へ来たというのは、君で間違いないだろうか?」

 

 整った顔立ち。使用武器はライトボウガン。見るからに強者。そんな男性のハンターから声をかけられた。

 

 それがきっと何かの始まる合図だったんだろう。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

◇ ◇ ◇

 

 

 身体中が痛む。クエスト中はまだどうにか動いてくれたが、今はもう動ける気がしない。ホント勘弁してもらいたいよ。

 そんな俺を置いてモミジはクエストへ行ってしまったが……まぁ、モミジなら大丈夫だろう。いやでも、ミナヅキくらいはついて行った方が良かったかもしれないな。

 

「それにしても情けないニャ」

 

 俺がまともに動けないのをいいことに、腹の上でピョンピョン跳ねながら挑発してくるネコ畜生。ああもう、鬱陶しいな。そんなに暇ならクエストでも行ってこいってんだ。

 

「あの戦い方をしたのは初めてなんだ、しゃーないだろ」

 

 今の俺にはアレが精一杯。お前のご主人ほど器用な人間じゃないんだ。我武者羅に武器を振り回すことしかできない不器用な人間だよ。

 

「……それなら、もっと違う戦い方をすればいいニャ」

 

 そんなミナヅキの言葉に何かを返してやることはできなかった。

 今、俺のやっていることが正しくないことはわかっている。けれども、一度やってみようと思ったことを曲げるつもりはない。それが筋ってものだろう。

 

 はぁ。とはいえ、今のこの姿をあの師匠に見られたら何を言われることやら……少なくとも褒められはしないだろう。

 

「そういやさ、お前って俺の師匠と会ったことはあるんだっけ?」

「どっちの師匠ニャ?」

「キリンを食べる方」

 

 いや、食べないけどな。でも、あの師匠は見た目がもうキリンを美味しくいただきそうなんだ。ホント、ラージャンって感じ。

 

「……食われるかと思ったニャ」

 

 ああ、会ったことはあるのか。

 まぁ、そうだよなぁ。これまでいろいろなモンスターと戦ってきたが、どのモンスターよりもあの師匠が俺は怖いよ。ウルクススに背負投を決めるハンターなんてあの師匠くらいだろう。人間じゃない。見た目も中身も。

 

 そんな仕様も無い会話をしている時だった。噂をすればなんとやら。まさに青天の霹靂。ホント勘弁してもらいたいよ……

 

 

「邪魔するよ」

 

 

 なんて、声がしたと思ったら、どんな力を込めたのか分からんが、けたたましい音が響き家の扉が開いた。

 

「うん? なんだい、随分と元気そうじゃないか」

 

 別段、俺もハンターとして小さい方ではない。けれども、そんな俺と比べて遥かに大きい背に、とにかくでかい横幅。もうなんか、明らかにヤバい奴。驚くべきことに生物学的分類上は雌になる。

 そんな人間(?)が現れた。

 

「うニャー! ラ、ラージャンニャー! こやし玉、こやし玉を使うニャ!」

「落ち着けミナヅキ! ラージャンにこやし玉は効果がないぞ!」

「あたしゃ人間だよ! この大馬鹿者っ!!」

 

 人間ピンチになれば多少はキツくても身体は動いてくれるものだ。アレだけ痛んでいた身体も動き、自分でも驚くような早さで戦闘態勢へ。

 

「お、お久しぶりです師匠。え、えと……すみませんが、丁度キリンの素材は切らしていまして」

 

 はて、ラージャンって毒生肉は食べただろうか。残念ながら、ラージャンに対する知識はそれほど持ち合わせていない。

 

「いるか、そんなもの! はぁ……まったくどうしてこんな性格になってしまったのやら」

 

 鏡、持ってきましょうか? それともモンスター図鑑のラージャンのページを見せればいいだろうか。

 まぁ、とにかくそんな人に育てられたのが原因だと思う。

 

「武器防具を没収されて原生林に一週間ほど放置されたりした影響かと」

 

 狂竜化したガララアジャラと出会った時は本当に死ぬかと思った。

 

「良い師匠じゃないか」

 

 あらやだ、会話にならない。

 

「そ、それで、今日はどうしたんです? 雪山へ里帰りですか?」

「あたしの故郷はバルバレだよ! なんだって、そういうところばかり、あのバカに似ちまったんだい」

 

 いやだって、こんなやり取りばかり見せられていましたし、師匠の扱いはそうするものだと、あの人から習いましたし……

 

 師匠とはそんなやり取りを続けていたが、やはり師匠が怖いのか、ミナヅキは完全に避難していた。ラージャンとソロで戦うとか本当に勘弁してもらいたい。

 

「はぁ、たまたま近くまで来たものだから顔を見に来ただけさね。それにしてもなんだい? 随分とおかしなことをしているようじゃないか」

 

 壁に立てかけてあるハンターカリンガをチラと見てから師匠はそんな言葉を落とした。

 ……信頼できる相手だ。別に隠そうとは思わないが、全てを説明する気にはなれない。だって、絶対に怒られるし。

 

「……自分なりにいろいろと考えているつもりです」

「やめときな。アンタが考えたところで良い考えなんて思い浮かぶはずがないさね」

 

 それはわかっています。それでも、今の自分でできる限りのことはやってみたいんだ。例え、それが間違っていることで、望まれていることじゃないとしても。

 

「ま、どうせあたしが言ったところで、アンタが聞きゃしないのもわかっているよ。ホント、そういうところもあのバカそっくりだ」

 

 そう言って師匠は呆れたように笑った。曇ひとつない純粋な笑顔。どっかの誰か笑顔とは大違いだ。

 

「それに、それはアンタが決めたことなんだろう? それなら頑張りな。胸張っていけばいい。なんたってアンタはこのアタシとあのバカが育てた唯一のハンターなのだから」

 

 本当にカッコイイ人だ。俺なんかの師匠にはもったいない。

 ……自分が恵まれた環境にいるのは確かだろう。俺がこの師匠や、世界を幾度も救ったあの人に追いつける日は来るのかねぇ。そんな自分なんて想像もできないんだけどさ。

 

「とりあえず、元気なようで良かったよ」

「今は怪我でボロボロですよ?」

「それくらい怪我のうちには入らないさね」

 

 相変わらずのスパルタ。それでも、今の自分がいるのはこの師匠のおかげってのもよくわかっている。

 ホント、俺の周りにいるハンターはバケモノだらけだ。モンスターなんかよりもよっぽど怖い。

 

「今度はアンタから顔を見せに来な。そうすればアイツも喜ぶよ」

「えー……でも、どうせ行ったところであの人はいないじゃないですか」

 

 面倒くささが半分。恥ずかしいのがもう半分といったところ。ただ、会いたいと思っているのも本当のことだ。

 

「あー……忙しい奴だからねぇ。『次で最後! これが最後のクエストだからっ!』とか言っていたけど……まぁ、ダメだろうさね」

 

 5年前にも同じセリフを聞いた気がする。てか、出会った時からずっと、ハンターなんてもう辞めてやる! とか言っているような人だった。良い加減にしないと、本当にあの美人な奥さんに逃げられるじゃないだろうか。

 まぁ、あの人がギルドから離れる影響がどれほど大きなものかは皆わかっているだろうけどさ。相変わらずな人だ。

 

「それじゃ、あたしはもう行くことにするよ」

 

 あら、もう行ってしまうのか。そうなるとなんだか寂しく思ってしまう。まぁ、いろいろあったとはいえ、お世話になったのは本当のことなのだし、それも仕方の無いことだろう。

 

「頑張れ。あたしからはそれしか言わないよ」

「はい、頑張ります。俺からもそれしか言いません」

 

 不出来な弟子であることは確かで、貴方のように強い心も、あの人のように世界の危機を救えるほどの実力もない。

 それでも、貴方たちの唯一の弟子であることは誇りに思っている。だから、俺なりにできる限りのことをやってみるつもりだ。

 

 そして、そんな会話を交わしたところで、師匠はそれ以上言葉を落とすこともなく行ってしまった。どうして、片手剣を使っているのか、どうしてポッケ村にいるのか、聞きたいことはあったと思う。落とされた言葉はあまりにも少なく、素っ気無さすら覚えるが……それが今は有り難かった。

 信頼されている……ってことなのかね。いや、それは考えすぎか。

 

 さってと、なんだかんだでやる気が出てしまった。

 残念ながら怪我のせいで今直ぐに動くことはできないが……まぁ、予定よりも少しだけ早く動いてみるとしようか。

 

 それにしても……

 

「ミナヅキ。お前、いつまで隠れているつもりだ?」

「……ラージャン、怖かったニャ」

 

 心の底から同感だよ。

 

 

 

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