-side 士道
ホットココアと辛子明太子のおにぎりの入ったコンビニ袋を右手に、岐路へ付いている頃。寄り道していたせいか、空はうっすらと明るくなり始めている。
境界線を見て、ぽけー、としていると、眼前に人が立っているのに気づいた。今時珍しい黒の和服を包んで、顔には狐の面を被っている。いかにもな危ない人だ。そして、まさしく都市伝説、そのものだ。
纏う雰囲気は、狂気そのもの。可視化できるのではないかというほどに凝縮された気配。狂三と会う時も、こんなことを感じたりするが、その比ではない。
直後。街に轟音が響き渡る。何だ? 明確だ。『空間震警報』という名目で街中に設置されたスピーカーから鳴り響くサイレン。人間に恐怖を与える音域をわざと出しているのかというほどに心を不安定にさせ、こんな早朝だろうとお構いなしに鳴り響く。
呆然と立ち尽くしていると、周囲の家から住民が最低限の食料だけを持って開かれたシェルターへと入っていく。その中には泣き叫ぶ赤子を抱いた親もおり、急な警報に気づいていない者もいる。そんな中でも逃げ出せなかったのは、この都市伝説の影響だ。一度その存在を確認したが最後、とでもいいたげなほどに動けなくなる。立ったまま金縛りにでも合った気分だ。
「に、げないのか?」
けれども、何とかその不安に打ち勝ち、口を開く。
その都市伝説は訳が分からないといった様子で腕を組んで、小首を傾げた。
それから暫く目を左右に動かしながら現状を整理していると、途端にその都市伝説が左を見た。些細な動きだったが、今まで人形のようにピクリとも動かなかったそれが小さくでも動くと、大きく見える。
目が合わなくなったと同時に金縛り状態から開放され、俺はすぐさまポケットからインカムを取り出して耳に付ける。
『士道! 大丈夫!?』
耳から響いた声に今まであった緊張感から放たれる。やはり妹の声は落ち着くなぁ…
「どういう状況なんだ!? こんな朝っぱらから」
脱力してしまいそうな体を何とか持ち直して、緊張感で心を縛る。
『確かに異例よね。精霊<ブラッド>。今士道の目の前にいる都市伝説がそれよ』
「マジか…」
体を左側に向けて、再び人形のように固まった都市伝説を一瞥する。何故こんな朝早くに…? 何が目的なんだ? いや、目的なんかあるのか?
『目的は不明。それに、現れたのもここ天宮市に四年前に現れた一度きり。まぁ、被害が甚大なのだけれどもね……』
「甚大? どのくらいだ?」
『民間人の被害は死者重傷者合計一千人。駆けつけたASTとDEMの9割以上が死亡または恐怖から来る精神病に罹っているわ』
「ちょっと待て! 民間人の被害って…どういうことなんだ!?」
つい。目の前にいる精霊に何の配慮もせず叫んだ。それも仕方のないこと。四年前なら既に地下シェルターが完備されている状態だ。何故そんなに民間人の死傷者が多いんだ?
俺が考えられるのはこの精霊の最強の槍、天使の能力がシェルターの頑丈さを越すか、物質を貫通できるかっていうことだけだ。けれども、一般的に高校などの施設に隣接しているシェルターじゃない限り一箇所に一千人はそうそう集まらない。集まって精々数百人だ。何が目的なんだ?
『私に聞かれても分からないとしか言いようがないわよ。いきなり体内から爆発した人もいれば、毒を盛られたって人もいるし、回復した重傷者に聞いても、予兆らしい予兆はない。時間もランダムだし、謎でしかないの。けれども、これだけはいえるわ。くれぐれも、アイツの『血』には触れないことね』
「血?…わ、分かった」
血に気をつけろったって、どう気をつけろっていうんだ。そもそも出血自体精霊はしないだろうに…
「な、なぁ」
「…?」
何かを待っているかのように挙動不審だったそれが、こちらに狐の目を向ける。先ほどまでに恐怖は感じないが、やはりゾクリとくるものはある。
しかし、それが別のものへと変わってゆく様はまるで一瞬で。脳が理解することをまた、拒絶した。
「おい!」
つい。叫んでしまった。叫んだら、治るとでも俺は思ってるのか? いや、そんなことない。俺じゃぁないんだ。
じゃぁ、何で? 怒り。それを声にしたまで。眼前。その少女の後方に一瞬にして現れ、金糸の髪を靡かせた、その怪物に。精霊の心臓を光の刃で貫いた、その無慈悲な機械へ向けて。
いつもの如くになってしまいましたが、間を空けすぎてしまい申し訳ありませんでした。
いや、というのもですね? 受験中に購入したライトノベルや漫画をずっと読み耽っておりまして、つい書くことを忘れてしまっていました。
では、次回はどうなるのか? そして、今月中に書くことが出来るのか?
乞うご期待!…期待しすぎたらプレッシャーで私が圧殺されますので。ご容赦を。
ご意見、ご感想お待ちしております。