Fate/John Doe   作:処炉崙霸β

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無様に咲かせよ。名無しの花。
プロローグ


 目の前に広がっているのは、ただ暗黒の暗闇。

墨汁を余すことなく真っ白なキャンバスにぶちまけて出来たような、不細工な暗黒。

 

 自分の体がどこにあるかすらわからない。

混乱は混乱を呼び、ますます自分自身が何なのか理解できなくなる。

 

 ここは夢なのか?はたまた現実なのか?

すまんが、俺は胡蝶の夢なんかお呼びじゃないんだ。

 

 そう思った瞬間、一気に電撃が走ったかのような痛覚とともに手足の感覚が戻る。

 

 そして、一気に不細工な暗黒が、まるでビデオを逆戻しにしたかのように失われ、純白の世界が現れた。

 

 そんな非現実的な光景を見て、思わず息を飲んでしまう。

想像してほしい。人間が生きている間で、アニメやゲームでもない限り、こんな不可思議な光景を見るのだろうか?

 

 否、見る訳がない。

むしろ見たことがあるという奴がいるのであれば、すぐさま俺の目の前にテレポートやらなにやらを使って来てもらい、事の顛末を隅々まで俺が満足できるように話してほしいものだ。ただし三行以内でな。

 

 

 

 

 

 世の中には様々な名前がある。

太郎とかジョンとか。まぁ、定番の名前なら誰でも三つは思いつくはずだ。

 

 だが、日本では名無しの事を名無しの権兵衛というみたいだな。

無論、アメリカあたりでもそれに値する名前がある。それはなにか?

 

 john・Doe(ジョン・ドゥ)っていうらしい。

 

 

 

 

 俺は、日本の地方都市で生まれた。

両親ともに普通の人間で、兄弟は兄が一人。

 

 兄には絵の才能があり、気付いた頃には東京かそこらへんの大都市に行って絵の仕事をしはじめた。

 そんな兄と比べて、俺には何の才能もなかった。

なにをやっても平均以下。学校で唯一まともだった教科は歴史だけ。

 

 そんな中、中学生のころだったか。

教師が変なことを言いはじめた。

 

「君達は、魔術っていうのは知っているかい?」

 これを聞いたとき、思わず俺は耳を疑ったね。

一介の教師ともあろう人間が、魔術とかいうオカルトを知ってるかと口にしたんだ。疑わない訳がないだろう?

 

 まぁ、それから10年くらいたった頃に。

俺はその教師が言ったことは事実だと知ることになる。

 

 ▼歴史研究家、山崎義秀の日記より

 

 

 

 

 

 

 

 「ハァ、ハァ、ハァ、ハァ。ゲボッ、ゲホッ」

 喉から舌に血の味のするナニカが上がって来る。

足の筋肉も、限界を超えてピクピクと震え、走るごとに神経を地面にたたき付けたような痛みが走る。

 

 「なんで、ぐじゅ、なんでこんな目に!」

 鼻水と涙をぼろぼろと垂らしながら、傍目から見たら無様にしかみえない走り方でひたすら俺は道路を走る。

 目の前が涙でかすみ、鼻の中も過剰にでてきた鼻水で詰まっており、鼻水自体も垂れて俺の下唇のところまで伸びていた。

 

 それもそのはず。

なんていったって後ろから錆びた刃物を持った骸骨が追って来ているのだ。

 現に、先ほど俺に切り掛かってきた奴だぞ。

あともう少し回避行動が遅れてたら、確実に首から上が飛んでいたに違いない。

 

「ぐへぇ!」

 べしゃり、と音を立てながら俺はなんとも滑稽な姿でひび割れたアスファルトの道路に突っ伏した。

 顔に鈍い痛みが走り、アスファルトに顔をぶつけた衝撃で切れた唇と鼻から血がどろどろと出るのが分かる。

 

 「カラカラカラ」

 骸骨は俺の姿を見て笑っているのか。

不愉快な骨を鳴らす音を立てながら、かこん、かこん、と足音を鳴らし、俺に対して近づいてきた。

 

 奴の方を向きたくないのに、俺の体は反射的に骸骨の方へと道路に突っ伏したまま、奴の方へと体の向きを変える。

 

 火の明かりに一部を照らされながら、がらんどうの眼窩(がんか)で俺を見つめ、再度顎の骨をかたかたさせ、俺の前に立ち止まる。

 

「ころ、さないで!おねがいぢまずぅ!」

 俺の口から出るのは、勇猛な口文句でもなく、勇者のような台詞でもなんでもない。

 思わず嘲笑ってしまうような、本当に無様な命乞いだけだった。

しかし、俺は何度も何度も、身を蝕む恐怖からひたすら命乞いをする。

 

 こんなところで死ぬわけにはいかないんだ。

まだ、死にたくない!

 

 俺の脳内が、そんな言葉でひたすらに埋め尽くされる。

そんな俺を見て、骸骨はなにを思ったのか。

 

 ただ俺をその頑丈そうな骨の足で、思い切り蹴り飛ばした。

俺の体はおかしな浮遊感とともに、いくばくか離れたところに、鈍痛とともに着地した。

 

 骸骨は、蹴り飛ばされてびくびくと痙攣している俺に何度も近付いてきては、再度俺を蹴り飛ばす。

 

 その都度、俺の体は悲鳴を上げ、ごぎっというような嫌な音を立てる。

そう。骸骨は俺を嬲っているのだ。

 だが、ここでなにか反抗すれば、奴が片手に持っている刃物で、切り殺されてしまうかもしれない。

 

 だから、俺はひたすら奴から加えられる痛みに耐えた。

だって、今の俺にはそれしかできないのだから。

 

 

 

 あの骸骨は何の反抗もして来ない俺に飽きたのか。

いつしかどこかに去って行った。

 

 パチパチと火に囲まれたアスファルトの道路の上に、俺は虚ろな目で赤く侵食された夜空を見つめていた。

 

「ごぶっ」

 肺に折れた肋骨が刺さったのだろうか。

勢いよく、鮮血を口から噴き出した。

 

 「ま、だ。じにだぐ、じにだぐッないぃ」

 体はもはや度重なる打撃で言うことを効かず、今の俺は道路を這いずり回ることすらできない。ただ、死にたくないと壊れたおもちゃのように連呼するだけだった。

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