OVERLORD~るし★ふぁーサマご帰還の時~ 作:≪原動天の熾天使≫
後方で、誰かが倒れた音がした。
守護者たちが涙を堪えながら嗚咽のような声を漏らし、地に伏す姿を見た。
信じられない光景だった。
ナザリック地下大墳墓が最奥、その主の
今、
いや、単に天使と呼ぶには聊かそれは異様に過ぎた。
無論、ただの
至高天の上に立つ、ユグドラシルにおいても存在を知るものはごく一部しかいない最高位の天使――、通常の熾天使の倍の数の羽を持ち、ふとすればすべてを焼き尽くしてしまいそうなほどの光を放つその天使を、アインズは良く知っていた。かつて、散々てこずらせてくれた相手だからだ。ある意味ではかつてのアインズ・ウール・ゴウンに彼以上に被害をもたらした者はいないといってもよい。
創造系の能力を中心としたLv95以上の熾天使のみがたどり着ける、アインズのイクリプスと等級の超存在。天使の身でありながら神に最も近づいた者――
天使長は睥睨するように気取った動きで玉座の間を一周見渡すと、その存在を認めたのかアインズを見つめ、笑みを浮かべた。それも、カルマ値が離れた相手に対して常時極大規模の神聖属性ダメージを発生させる《
とかく心中穏やかでないアインズは、その天使の一挙一動が気に障った。それこそ、本当に久しぶりなほどにキレていた。行うべき対応はそうではないだろうと心の冷静な部分が告げるが、鎮静化の光さえ呑み込むその怒りの前には無力だ。
「今までどこに隠れていた!答えろ!」
咆哮とともにいつの間に放たれたのか、複数の無詠唱された<心臓掌握/グラスプ・ハート>が天使に向かって展開される。突然の攻撃を戸惑いながらも咄嗟に避けるあたりは流石
天使は派手な登場をした割にあっさりとやられた。
***
第五層、氷結牢獄。
その後しばらくして目を覚ました天使の様子を見に、アインズはその場所に訪れていた。
……いや、天使というのは語弊があるかもしれない。なにせ、彼の十二枚の羽は全てが漆黒に染まっており、
「で、どうしていきなりあんなところに出てきたんですか」
問い質すのはアインズだ。アインズの片手は謎の机に置かれており、そのテーブルには何故かカツ丼がおかれている。……そう、何故だかアインズが直々に取り調べをしているのだ。それも嫌に古風なやり方で。
「いやさ、どうなってるか聞きたいのはオレのほうなんだけど……。てか、現断超痛かったし」
反応する堕天使はどこか憮然とした様子である。
「だまらっしゃい! こちとらネタは上がってるんですよ!」
ドン!とアインズが机をたたく。むなしく音だけが氷結牢獄に反響した。
「や、ネタって何だよ。……ていうかさ、ここ寒くない? 円卓行かない? 取り調べごっこも飽きたし」
「まあ、あんまりここで遊んでるとニューロニストにも迷惑でしょうしね。じゃあ、ちゃっちゃと指輪で飛びましょうか、るし★ふぁーさん」
二人の間には、先ほどの慳貪な空気はない。だが、それも当然だろう。
先の取り調べは遊びであったし、言ってしまえばアインズの浴びせた現断もるし★ふぁーと呼ばれた天使の展開していた《
かつての
そんなこんなで、二人はそれなりに仲が良いといえる。本人たちが否定しても、やはり傍から言えばそうなのだ。円卓へと転移した彼らの片割れが、ばつの悪そうな声をあげる。
「あー……っと、どうやって現れたかだけど。つまりはその、扉の機能だよ。玉座の間の」
つまりは、信じられないほど精巧なレリーフが書かれたあの扉だ。たしかに、素材からすればかなりのトラップを仕込むことが可能だろう。だが。
「あれってトラップつけないってことになったじゃないですか」
「だからその、ギミックだよ、ギミック。罠じゃなくてギミックなんだ」
「どう違うんですか」
詰問するアインズは少し苛立たしげだ。決まりごとを反故にしたのだから、当然といえば当然だろうか。
「だからさ、一応あれって希少金属をふんだんに使ったわけだろ。あの眼なんか熱素石なんだぜ?何もつけないのはもったいないじゃないか。ちょっとしたジョークだよ、ジョーク」
るし★ふぁーはあくまで軽口を叩くように答える。
「一応、ウルベルトやタブラには聞いたさ。そう言う仕掛けなら悪くないって言ってくれたし、実際あれは……。そうそう、最後だったからな。少し
いたずらを語るにしては早口な口調だ。まるで、本当はそれについて語りたくなどないかのように。
「……るし★ふぁーさん、何を隠しているんですか?普段のあなたなら、もっと楽し気にギミックの説明をするでしょうに」
だから、付き合いの長いアインズが疑問を口に出すのも当然だった。るし★ふぁーは非常に彼らしからぬ困ったような顔をして、観念したか、淡々と語りだした。
「ペスから、今のモモンガさんの目的を聞いた。……無駄だよ。少なくても今は、この世界に俺たちのメンバーはここにいる二人しかいない。俺と、モモンガさんだけだ。だって、あのギミックはギルド長以外のすべてのログインしているアインズ・ウール・ゴウンのメンバーを玉座の間に強制転送するんだから」
吐き捨てるように語られた言葉。それは、アインズにとって最も酷な言葉だったかもしれない。
「なっ……!」
絶句する。
「で、でも、ワールドチャンピオンなら熱素石の出力を利用した転送をレジスト出来るはずでしょう! それに、始めにこの世界に来た時、るし★ふぁーさんにも<伝言/メッセージ>が繋がらなかったわけだし! だから、異世界だから不具合が起きたとか! 」
縋るようにもっともらしいことを並べる白骨の王。その姿を見た天使の長は、憐れ悲しむように首を振った。
「仲間の危機にたっちさんが応じない理由があるか? あれが動くってことはナザリックの玉座の間に部外者の人間種を通したってことなんだぞ。それに、<伝言/メッセージ>が入らなかったのは最終日に俺のやったいかさまのせいだ。第一、たっちさんがレジストしたとしても、それって結局……」
他の皆は、応答しなかった。
つまり、そういうことだ。
「……そうですね。わかっています」
幾分か冷静さを取り戻したアインズに、その意味が分からない理由はない。
だが、それでどうしようか決められるほどアインズは冷徹ではないのだ。
なぜなら、彼はいつまでも思い出を大切にしてきた人なのだから。
るし★ふぁーは語り続ける。
「まあ、でもさ。未来のことはわかんないからな。『アインズ・ウール・ゴウン』が不変の伝説になれば、遠い未来に報われる日が来るかもしれない。転移の原因だってわかんないわけだしな。だからさ、」
そういうと、るし★ふぁーは大仰にためを作った。口元には悪い笑み。ユグドラシル時代から彼が愛用してきた表情差分だ。自動で連動できるわけではなく、手動で切り替えなければ作用しない、随分取り回しの悪い仕組みだったから、ユグドラシルにロールプレイヤーが多いとはいえ、滅多に使う人はいなかった。それでも、あるいはそれだから使うのが彼のこだわりだった。
それは多くの場合トラブルを生む笑みなのだが、アインズは存外この笑みが嫌いではなかった。
彼がとびきりに楽しいことをするときにだけ顕す、この笑みが。
「やろうぜ、世界征服。ナザリックのシモベたちの期待に応えるためとかじゃなくて、モモンガさん自身の欲望のために、世界の覇者になるんだ」
それは、ユグドラシルのギルド第九位、悪の華たるアインズ・ウール・ゴウンが真実全盛期の姿に戻るために放たれた、何より邪悪な堕天使の囁きだった。
るし★ふぁーさんはわからないなりに現実として受け入れている。
■本日の楽しい捏造解説コーナー
《
天上の神威は絶望のオーラのような常時発動型のスキルであるが、特異な性質として純粋に神聖属性のスリップダメージのみを発生させるという点が挙げられる。
ダメージは100+カルマ値の差分(%)に依存する最大値割合ダメージ攻撃に分類され、カルマ値が500差があれば通常の6倍、1000差があれば通常の11倍のダメージとなる。
効果対象はプレイヤーのレベルに依存し、天上の神威Iでレベルの20%、Vで100%。
通常IVまでしか発展しないだとか、所詮神聖属性固定なこととか、そもそものダメージがしょっぱいこととかであまり取る人はいない。一方で、いわゆるボス耐性に強いだとかで他のオーラよりまともだとかいう向きもあった。
ちなみにエリア内の効力が最大のもの一つのみしか効果が適用されない欠点があるのだが、いかんせんまともに食らったプレイヤーが少なすぎてあまり認知されていない。
《
自分のカルマ値を自由に宣告できるスキル。PKを繰り返してもカルマ値を500(極善)にできたりする。一度使用すると実時間で168時間の間は再使用ができない。
効力のしょっぱさの割にやたら条件の難しい天使長にならないと使用できないしクールも長すぎるが、カルマ値依存の効果が多い天使と相性そのものは良く、その一方でいろいろとバグや仕様の抜け穴をつけるなど、遊びがいはすごいあった。
フレンドリーファイア:
ダメージは有効にならないが、当てようと思えば当てれる。つまり、ノックバックはするしフィードバックもする。