チートを貰ったが、異世界では……。   作:月詠 秋水

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遂に姿を表した魔王クレア、それに対抗すべく雪咲は魔王化を発動する。だがいつもとは違い、変な違和感に気づく。だが時すでに遅く、雪咲は理性を持たぬ獣と成り果てていた。
クレアは雪咲の豹変と急なパワーアップに戸惑いつつも、取り敢えずは捕縛する手立てを思考していた。


第91話 魔王との戦い(後編)

(ここは……何処?)

 

 気が付くと、俺は真っ暗闇の真ん中に立っていた。先程まで魔王と名乗るクレアと戦闘を繰り広げようとしていたのだが、魔王化を発動し激痛に苛まれてからというものずっとこんな状態である。歩けど歩けど先は見えず、途方に暮れていた。

 

 その頃現実世界では、既に意識を失い暴走状態の雪咲がクレアと戦闘を繰り広げていた。もはや言葉という言葉は発することが出来ず、雄叫びを上げながらも高速移動しながら色んな角度からクレアに斬りかかる。目で捉えることの出来ない速度で移動している為翻弄されるが、それでも様々なスキルを使用し防いでる状態だ。

 

「くそっ、この我が翻弄されるなど……!」

 

「ーー……!!」

 

 激しい剣戟やスキル・魔法の押収が繰り広げる中、我の中にユラの記憶の断片が脳裏を駆け巡る。今までどのような暮らしをしていたのか、こちらの世界に来てからどのように暮らしていたのか……生まれた時から今の瞬間までの事。今まで感じた事の無い感情を胸に抱きつつも剣を交える。

 

(……一体何なのだ、この感情は。胸が締め付けられるような、とてつもなく苦しい感覚……っ!)

 

 悶々と考えていると手にしていた白銀の剣が空を舞う、そして数回転した後深々と地面に突き刺さる。チャンスとばかりに雪咲がクレアに向かい刀を振りかぶる、だがその瞬間に動きを止めてしまう。ほんの一瞬という時間だったが、クレアにはその一瞬だけでも十分な時間だった。

 

 手首を掴み取り刀を奪い取る、そのまま魔法で四肢を拘束し動きを一切合切封じる。

 

「っ……!!」

 

 拘束を解こうともがくが、一切溶ける様子が無い。息を整えながら少しだけ様子を見るクレア、意識もなければ本能だけで動いている雪咲。戦う前までの落ち着いた魔力の波動とは違い、今となっては高低差の激しい山の如くブレている。綺麗な顔を歪ませながらも暴れる様は宛ら、理性を失った獣と言ったところか。

 

「……未熟者め」

 

 そう言ってクレアは、雪咲の胸元に深々と手にしていた剣を突き刺す。雪咲は動きを止め、口から血を吐きまるで全身の力が抜けたようにダランと身を投げ出す。これで一件落着したかと思われたが、そうは問屋が卸さない。

 

 深々と突き刺した剣と雪咲の肉体の間から、得体の知れない黒い瘴気のようなものがモワモワと外へ放出されていくのが分かる。その瘴気は雪咲の肉体から全て抜けた後空に留まり、人の形を成していく。

 

「此奴、やってくれたものだ……まさか我と言う魔王を倒すためだけに、その魔王よりも邪悪な存在の封印を紐解いてしまうとは……」

 

 我は一先ずユラの拘束を解き、黒いゲートを作りそこへ放り込む。ゲートの先は魔王城、かつて我が魔王として覇せていた頃拠点としていた場所。そこに転送されたことを確認すると、ゲートを閉じ瘴気の方へ目を向ける。そこには先程まで瘴気だったものが肉体を持ち、まるで本当に生ける人間のような見た目をしていた。

 

「やれやれ、ユラに力を託したのはお前か……先代魔王・ジルニトラ?」

 

「……久しいですね、後継者よ。ずっと貴方の事を見守ってきたのですが、やはり後釜は貴方にはキツかったですかね?」

 

「はっ、ぬかせ……」

 

 ジルニトラはクスクスと笑いながらも赤色の瞳でクレアから視線を離さない、クレアはジルニトラの発する威圧に内心冷や汗をかきつつも平静を装う。

 

「そう身構えなくても良いのですよ、私は単に姿を表しているだけに過ぎません。本来私はこの世界では死を迎えた者、長く留まってしまえば”向こう”の世界を追われるでしょうし……」

 

「……色々と聞きたいことがあるが、真っ先に聞かねばならぬことがある。あの人間に力を貸したのは何故だ?しかもあのような過去一番の出来損ない、獣魔王・レオネスティの力だけを……」

 

「さては貴方、勘違いしてませんか?」

 

「は?」

 

 ジルニトラの予想だにしない答えに、クレアは首を傾げる。

 

「レオの力が顕現したのは、あの者の心に乱れが生じていたから。本来魔王化と言うものは、硬い決意と覚悟の元に漸くきちんと発動出来るもの。心が乱れたままでは私の力どころか、レオの力ですら宿らなかった可能性もあります」

 

「……」

 

 クレアは顎に手を当て考え込む、ジルニトラは小さくため息をつく。

 

「彼に伝えておいてください……もし次に魔王化を使うのであれば、もっと覚悟を決め心を出来るだけ平坦にしてから使いなさい……と」

 

 それだけを言い残し、ジルニトラはまた黒い靄に戻ってしまう。そのまま風に流され、どこかの方向へ飛ばされていった。そして辺りに静寂が戻り、クレアは取り敢えず黒いゲートに消え去る。




どうもお久しぶりです、秋水です。
今回の話で通算100部(まだ話の話数的には91話ですが)達成となりました!!
100話ぴったりに特別な話を設けようかとも思ったのですが、中々にどんな話にしようかまとまらない……ので、100~105話位までifの話を書こうかと思っていおります。
内容につきましてはまだ考えてはおりませんが、少なくとも現段階で申せることは恋愛が必ず絡んでくる……ということで!

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