あの日から翌日、皓は酒場で他の人達から話を聞きいていた。眞弓と冬望の部屋を訪ねてみたんだが、どちらとも部屋に居ないのか物音一つしなかった。現実世界ならもうとっくに起きていてもおかしくはない時間帯なのだが……。そう思いながら、聞いた話を頭の中で整理しながら部屋へと戻る。
「……」
静寂な部屋で一人きり、そんな中でふと部屋の感じに違和感を覚える。ある筈ない気配が、まるですぐ目の前にまで迫ってきているような感覚。だがそれは決して殺意など害する気配ではなく、ただ皓だけを見えいるようなそんな視線。様子を見つつもじっとしていると、突如姿の見えなかった視線だけのものは姿を現す。まるで空気中に身を潜めていたかのように、ひょっこりと顔を出してきた。
「女の子……?」
その少女は少し褐色の肌、だが魔族のような特徴はなく普通の女の子だった。少し話を聞いてみることに、皓は椅子に少女をベッドの上に座らせる。
「どうしてこの部屋に……?」
「私は……ただの思念、此処には居ない……」
「思念……?」
「実態の肉体を一旦捨て、肉体が修復されるまでずっとこのまま……魂みたいなもの」
「という事は……つまり」
そう、肉体は今死を迎えそうなほどの……いや、もはや死体と同じということだ。体温も脈も無くなり、完全に死んでいる状態。だが魂だけは逃げ出し、自由に出来ると言っても限られた時間だけこの場にいるということ。ただし、肉体が修復されれば魂は肉体に戻り完全に生き返ることが出来る。
「……反魂の魔術」
皓が小さく呟くと、少女は頷く。
「それで、俺に何を伝えたいんだ?」
「あの人は今……ハルカスで戦っている、私の肉体を取り戻すために……だけど、恐らく間に合わない……お願い、あの人にこの事を……」
「ちょっとまって」
皓はある一つの疑問を浮かべる、それは魂だけになってしまったなら直接その人に伝えればいいだけの話。こんな回りくどい事をしなくとも、直接話せばいいだけ。それなのに、何故皓に言うのか……。
「そんな事、何故俺に……」
だが、その答えはとてもシンプルだった。
「この魔術は、生前に一度でも会った人には見えないし聞こえない。触ることすら……だから、見ず知らずの貴方にお願いしている」
「でも、何で俺?」
「それは……死んだ後、少しだけあの人の記憶を覗いたの……その時あの人と居たのが、貴方……此処とは違う世界で、一緒に……」
その言葉を聞き、すぐにそれが雪咲の事だと理解する。つまり、雪咲はこの少女を助けるために戦っているということ。それを考えた瞬間、座っていた皓は即座に立ち上がる。
「分かった、必ずこの事を彼に伝えるよ!」
その言葉だけを言い残し、皓は冬望と眞弓を叩き起こし馬車に乗り込む。最初は色々文句を言っていた2人だが、雪咲の事だと言った瞬間何も言わなくなった。ただ眞弓が何故か泣いた後のような痕跡があったのと、雪咲の名を聞くだけで悲しそうな表情になるのが少しだけ気がかりだった。だが今はそんな事は放っておき、急遽リオーネを飛び出してハルカスへ向かう。
次回は、眞弓編を書きたいと思います。
今日書いた閑話は、後々繋がっていきますので……!