チートを貰ったが、異世界では……。   作:月詠 秋水

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グレンとの戦いを終え、国王ツァイから提案を受けた雪咲。その提案は英雄パーティーに入り、共に魔王を打ち倒してほしいとのことだった。

しかし雪咲には、きちんと考えがあった。それを曲げることは決してせず、自分の思いの旨を伝えることに……。

果たして雪咲の答えとは、そして2人が胸に秘めていた想いとは……?!


第5話 冬望と眞弓の想い……

雪咲とグレンが戦ってから早数日が過ぎ去ろうとしていたある日、雪咲は城の中庭に独り座っていた。

 

「……」

 

空は青く澄み渡り、風は優しく全身を包み込んでくれているかのように静かに吹く。あの日から城の兵士達の雪咲を見る目が一変した、原因は恐らくグレンと繰り広げたあの戦いのせいだ。ステータス公開した時数値が低いと侮っていた奴が、いざ実際に戦いになれば化け物じみた強さを発揮する。幾ら英雄召喚の巻き添えでも、これは明らかにおかしいと怪しまれるほどに。

 

そして皓や眞弓や冬望は、今も城の何処かで魔物に備えての訓練をしている。流石の英雄でも、いきなりの実践では死にかねないだろうとの国王の達しでそうなった。それもそうだ、そういうのとは無縁の世界から来たやつを、何の訓練もさせずに魔王討伐に向かわせるのはあまりにも酷というものだ。

 

「後……2日か」

 

あの時闘技場でツァイに出した答えは、かなり大反対をくらった。だが事実上、そうでもしないと示しがつかないというのも確かだ。雪咲は確かに3人と共に居たいという気持ちもあった、だがその気持のせいで足を引っ張り、栄誉に傷を付けてしまっては面目が立たないというもの。

 

雪咲がツァイの提案に出した答えは

 

”俺は行かない”

 

ただその一言だけだ。周りにいた兵士達は

 

”その強さがあって戦いを放棄するか、臆病者!”

 

 

”友を見捨てるつもりか、薄情者!”

 

と毒を吐く。ツァイも雪咲の答えに、少し表情を曇らせていた。

 

「……理由を聞いても?」

 

「簡単なことさ」

 

”まず一つとして、俺はただの英雄召喚の巻き込まれただけの人……いわば、被害者だ。立ち位置としては、そこらの村人と何ら変わりがない。幾ら王国で口封じをしようとも、その噂は遅かれ早かれほぼ全ての国に伝わるだろう。そうなれば、皓達の立場や威厳が失われていく可能性がある。

 

二つ目、あの力はまだ制御しきれていない所だ。グレンとの戦いでも見た通り、全く手のつけられないじゃじゃ馬だ。こんな調子で魔王と戦ったら、確実に俺は邪魔になる。被害を出さずに済んだことが、大損害になってしまうこともあり得る。

 

三つ目、俺は元の世界に帰らない。……いや、正確に言えば帰ることが出来ない。理由は訳あって話すことは出来ないが、ずっとこっちの世界に居ることになる。だが皓達は魔王を倒すことができれば、元の世界に帰ることが出来る筈だろ?ならば、俺はいち早くでも元の世界に送り届けてやれる準備をしたいんだ。”

 

淡々と理由を連ねると、さっきまで雪咲の事を罵ってた兵士達が一斉に黙り込む。いや、この理屈に返せる言葉が見当たらないからだ。流石のツァイも、これ以上は何も言っては来なかった。

 

その代わりと言っては何だが、2つだけお願いをした。

 

1つ:皓・眞弓・冬望の魔力をきちんと測定し、然るべき訓練をさせることである。3人は他種族争いとは無関係の世界で生まれてきた、故に彼等はこの世界では無知同然なのだ。なのに即魔王退治に行かせるのは、雪咲は絶対に許さない。

 

2つ:この世界の事についてもっと教えて欲しいとのこと。雪咲も3人と同じように無知である。だからこそ知識が欲しい、そうすれば役に立ってみせると言った。

 

その願いを口にした時、ツァイはまるで鳩が豆鉄砲を食らったような顔をしていた。それも無理はない、提案を蹴った上にこんな都合のいい願いなど聞いてくれるはずが……ー

 

「うむ……分かった、その願いを聞こう」

 

ーな……い……。

ツァイが否定すると思い、譲歩した願いを考えていた雪咲。しかしその読みが外れ、少し間の抜けた表情になる。

 

「しかし、お主はどうする……?」

 

「まぁ、3人が旅立った後にでもお話しますよ」

 

そう、皓達が魔王討伐に出かけるまで後2日しかない。それまでに魔物と戦えるくらいになっているのか、正直な所心配だった。

 

そして旅立ちの前日の夜、雪咲は見送るために早く寝ることにしていた。部屋を真っ暗にし、ベッドに潜り込み目を閉じた。

 

そろそろ眠りにつけそうだと思った矢先、部屋に2人忍び込んできた気配を感知した。ベッドから飛び起きて迎え撃つのも億劫に思った雪咲は、向こうが何か仕掛けてくるまで様子を見ることにした。

 

足音が直ぐ側まで近づき、掛け布団に手を触れた瞬間……忍び込んできた2人は、あろうことか雪咲のベッドに潜り込んできたのだ。

 

な、何が目的なんだ……こいつら……

 

うっすらと目を開け、布団の中を覗き込んでみると……眞弓と冬望が、雪咲を左右から挟み込むように抱きしめながら添い寝してきた。

 

……?!

 

予想外すぎる展開に、思わず小さく声を漏らす。その小さな声を2人が聞き逃すはずもなく……。

 

「ゆ、雪咲くん……?!」

 

「あんた……起きてたの?!」

 

とても動揺しながら飛び起きたて顔を近づけてきた。完全に目を覚まし、ゆっくりと雪咲は起き上がる。

 

「何で2人がこの部屋に……?」

 

その質問に、2人はたははと照れ笑いするだけで答える気配がない。

 

「全く……朝早いってのに、まだ寝ないのか?」

 

頭をボリボリと掻きながら訪ねてみる。

 

「……」

 

眞弓は、その問に答えなかった。だが一つ、少し前まで明るかった表情は陰り、胸の前でぎゅっと握りしめた手は僅かながら震えていた。そしてそれは、冬望も同じだった。

 

「……怖いのか」

 

静かに口にすると、2人はゆっくりと頷く。無理もないだろう、2人は17……ましてや女子だ、魔王退治なんて荷が重すぎる。

 

雪咲は2人の肩にそっと手を触れ、微力な魔力を流し込んだ。

 

「……!」

 

「……暖かい」

 

さっきまでの震えは収まり、陰っていた表情は明るさを少しだけ取り戻した。

 

「……あのね、ここに来たのは怖いからだけじゃないの」

 

「……は?」

 

眞弓の言葉に、間の抜けた声が口から溢れる。

 

「明日行くでしょ……?だから……もう……会えないんじゃないかって思ったら……私……っ!」

 

力の限り抱きしめてくる眞弓、雪咲の服を握りしめる手は多少なりと震えている。だがこの震えはさっきまでの”恐怖を抱いている震え”ではな無かった。その震えの理由は、すぐに分かった。

 

「私……私……ずっと、雪咲くんが……!」

 

そう言いかけた瞬間、言い終える前に眞弓の唇を人差し指で紡いだ。眞弓の顔を月明かりが照らすと、泣き腫らしたような顔だった。

 

「その言葉の続きは……魔王退治が終わった後にな、今は受け取れない」

 

「な、何で……?」

 

「それに俺が”今”答えてしまったら、きっと眞弓自信は満たされると思う。そう、”今”だけはな……だが、後になってきっと後悔する時が来るかもしれないだろう?だからそれは、胸に秘めときなよ。それにさ……」

 

雪咲がちらっと冬望の方に視線を送ると、”自分のほうが……!”と言いたげな顔をしていた。それに気付いた眞弓は、少し顔を赤らめる。

 

「ご、ごめんね……冬望ちゃん。私変な事を……」

 

そう言いかけた瞬間、冬望は首を横に振る。

 

「ううん……いいの、本当は気付いてたから……眞弓の気持ちに」

 

その言葉に、眞弓は目を丸くする。

 

「そう……気付いてた、それなのに私は……眞弓と同じ気持ちになってしまった。だから……」

 

どうすればいいのか分からない……。

 

言わなくても、その先の言葉は分かってしまった。雪咲はゆっくりと息を吐き、2人の頭に優しく手を乗せ、撫でる。

 

「2人の気持ちは分かった……けど、さっきも言ったように今は答えれない。だから、お互いにきちんと魔王討伐が終わるまで頭の片隅で考えておいてくれ。それでももし気持ちが変わらないというなら……」

 

そこで言葉を区切り、優しく微笑む。その瞬間、2人は憑き物でも落ちたかのようにベッドへへたり込む。

 

「……分かったわよ、その代わり……その時になって、逃げないでよね……?」

 

冬望の刺すような視線が刺さる、それくらい本気ということかと腹をくくる。

 

「分かった……絶対に逃げないさ」

 

冬望に目を逸らさずに答えると、柔らかく微笑み頷いた。

 

数分後、2人は雪咲のベッドですっかり眠てしまった。




次の話は、明日投稿いたします。

果たして、この後どうなってしまうのか?!
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