夏休み、それは世間一般的には嬉しい事この上ないのだろうが世間一般から外れてしまった私にとっては嫌でしかない。
何故、嫌かと言うと単純にやる事がないからだ。遊びに行くような友達はいないし、勉強もどうせやらないし、お金も一年の時バイトして貯めたから心配ないし、これといった趣味も無い。よって、全くやる事がない。
それに学校が無いので奉仕部のみんなに会えないのも辛い。
そんな訳で私は生産性の無価値な夏休みを送っていた。朝起きてご飯食べて寝て本読んでご飯食べて寝るのサイクルが永遠に続いている。
しかし、そんな私にも僥倖が訪れた。まぁ、僥倖というより普通に必然なんだけどそう言った方がロマンチックだ。
その僥倖というのは今日、遂に私が夏休み初めての外出に行く事だ。誰かと休日に出かけるのなんて久しぶりだから楽しみ過ぎてやばい。昨日の夜はそわそわして少ししか眠れなかった。
そして現在、いつもなら12時に起きるところを6時に起きて準備をしていたが問題が発生した。どんな服を着ていけばいいか分からない。昔ならそれなりに流行の物とか知っていたけど今は殆どしらない。でも、不幸中の幸いに中学校から身長が伸びてないから昔の服でも入るんですけどね。何これ、不幸しかない。
ということで、適当に昔の服から見繕う。これから会う人の事を考えると向こうは清楚系でくるだろうから清楚系で行ったら私のダサさが目立ってしまうので此処はアクティブなカジュアル系でいいか。
私が選んだのは白のビックティーにショートパンツと黒のソックスと黒のスニーカー。そして、ボブながらなんとか出来たポニーテールプラスキャップ。あとは、リュックと腕時計とネックレスとリングピアス。メイクは薄めで良いよね。よし、完成。名付けて『見た目だけは活発系に見えるコーデ』。
姿鏡を見てみると、
「あれ、何このかわいい女の子〜!って私じゃん!やばっ、私可愛い過ぎない〜」
多分これは引き篭もりあるあるだが人と話す機会が少なくてその反動で独り言が多くなる。そして、テンションも変なタイミングで上がり中々の情緒不安定ぶりを発揮する。親居なくて良かった。居たら死んじゃうレベルだよ。
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待ち合わせ場所に到着した。早く過ぎたようで待ち人は未だ来てない。遅刻はしないタイプだろうから時間ピッタリにくるのだろうか。
こういう場合のため本を持ってきていて良かった。最近のマイブームはミステリーだ。特に読者への挑戦がついるのが多い。犯人を考えるために戻って読み返したりして、自分なりに出した答えが合っていると達成感あるし、間違っていてもそれが無理な展開では無くちゃんと伏線が回収されているのを見ると凄く興奮する。
暫く読んでいると、
「あら、待たせてしまったかしら」
その声は透き通っていて大して大きくないが喧騒に掻き消されること無く確かに私の耳に届いた。
その声の主は、雪ノ下雪乃は日焼け対策なのか単に肌を晒すのが嫌なのか判断出来ないがカーディガンが羽織いスカートの下にレギンスを履いていて、肌の露出が少なかった。残念。
この真夏に暑そうだが党の本人は涼しげな様子だ。本当に雪みたいな娘だ。
久しぶりに雪乃が見れて凄く嬉しい。雪乃を見ていると何故か私のサディストの部分が顔を出す。
「待った待った!ちょー待ったよー。暑いなぁー。疲れたなぁー」
私が大袈裟にわざとらしく言うと、
「それはあなたが予定よりも早く来ていたからよ。予定通りに来た私が責められる筋合いは無いわ──
「暑い中結構待ったなぁー」
「はぁ……。何が望み?」
「え⁈いいの?じゃあ、私が良いって言うまで手繋いであるいてくれる?」
「嫌」
バッサリ、即答。慈悲が無い。でも、諦めない。
「さっき何でも言う事聞くって言ったのに……」
「言ってないのだけど」
くっ、守備が堅いな。会ってない間に好感度が下がったのか?最終手段を使うしかないか。恥ずかしいからやりたく無いけど、仕方ない。
「……だ、だめ?」
上目遣いプラス涙目。これが雪乃に効くことは実践済みだ。
「…………少しなら」
雪乃は視線を逸らしながらそう呟いた。やっぱ、チョロいな。
「やったぁ!言質は取ったからね。じゃあ、私、左利きだから左手出してー」
私がそう言うと雪乃は恐る恐る左手を差し出してきた。その手を私はしっかりと受け取った。雪乃の手は白くて柔らかくてすべすべで正しく白魚のような手だった。
「ちょっと、指を絡める必要はないでしょ」
どさくさに紛れて恋人繋ぎにしたがバレてしまった。
「えー、いいじゃん別に。あ、言うの忘れてたけど雪乃、服似合っててかわいいね」
デートの時、女の子の服装を褒めるのはラブコメの基本だよね。
「そう、ありがとう。あなたも可愛らしいわ」
雪乃にとっては唯のお返しの言葉だったのだろうが私は嬉しくてたまらなかった。
私はその事を悟られないように道化ぶる。
「え⁈かわいい⁈どこが?どこが?かわいい、私?」
「えぇ、見た目だけはね」
「ひどい」
私が凹んでいると、雪乃が歩き始めた。手を繋いでいるから自然と引っ張られる。
少し、調子に乗って踏み込み過ぎたかもしれない。嫌われてないかな?
でも、私は知っている。受動的であっては結局のところ何も得ることなんて出来ない。特に雪乃のようなタイプはそうだ。いつかどこがに行ってしまう気がする。だから、無理矢理にでも手を取っていたい。何も失わずにいるために。
──過去の過ちを繰り返さないためにも。
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徒歩数分で私達はアウトレットモールに辿り着いた。今日の目的地は本屋だ。雪乃は猫が好きなようで、今日は猫の写真集を見にきた。
雪乃が猫が好きと知ったとき散々揶揄ってガチギレされたから今日は自制せざる得ない。
もう少しで本屋だが前から気になっていたことを聞いてみる。
「そんなに猫好きなら飼えばいいんじゃ?」
「…私のマンションペット禁止なの」
雪乃から哀愁が漂う。可哀想だけと可愛い。
「それはしょうがないね」
話していると本屋に着いた。雪乃は猫の写真集の場所は迷いの無い足取りで目的地に向かう。
そこにはペット系の本がたくさん置いてあった。すると、雪乃は一冊取り読み始めた。普段は見せないであろう優しい表情をしている。心なしかニャーニャー言ってる気がするが流石に気のせいだと思いたい。
暫く、写真集を見てニヤニヤする雪乃を見てニヤニヤする私の構図が出来ていだが突然、予想外の人物によって均衡は破られた。
雪乃も気づいたのか其方に視線を向ける。視線を受けその人物も此方に気づいたのか振り返る。その表情には驚きがあった。
「…………」
「…………」
完全に目が合ったのにスルーを決める雪乃。
やっぱり、雪乃にはグイグイ責めないと関係が切れてしまいそうだ。それに彼も。
「ストップ!一応部活仲間なんだから挨拶ぐらいしようよ、雪乃。 それに比企谷くんも」
そのまま、離れて行きそうな二人を引き止める。
「青葉さん知らない人に声を掛けるのは辞めなさい」
「いや、知り合いだから」
「あなたなんて知らないわ、引き篭もり君」
「誰がリアルヒッキーだよ」
私もここ数日、引き篭もってたから此処は何も言えない。
「お前ら二人か?由比ヶ浜は?」
結衣が居ないことが気になったのか比企谷君が聞いてきた。
「結衣は三浦さん達と予定あるから無理だって」
「そうか、じゃあ」
「ええ、では」
そう言ってまた、立ち去ろうする二人。止めようかと思ったが三人になったころであれなので私も別れの言葉だけ言って雪乃の隣まで行った。
「よかったの?」
二つの意味を込めたが多分一つにしか答えてくれないだろう。
「えぇ、ここの写真集は何回か見た事あるから」
何回か見た事あるなら何で今日きたの?どんだけ好きなんだよ。
「雪乃がいいなら良いけど。次どこいく?」
「……ネコカフェ」
おいおい、また猫見るの。本当、どんだけ好きなんだよ。まぁ、雪乃が行きたい所ならどこでも良いんだけど。
この後、滅茶苦茶モフモフした。