かよ子さんの弟は悪の組織のようなヒーローになりたい! 作:ぽんぽん痛い
あれだけネガティブな情報を撒いたのに来てしまったのね…。
ならば文句はもう受付けないです。感想も別に受付けてないので普通に時間潰せるといいですね…。
神奈川県川崎市某所のマンションの一室。
少し湿り気を残した栗色の髪をタオルで撫で付けながらパジャマ姿でリビングへ歩いてきた女性がふと思い出したように口を開いた。
「あ…そう言えばさ、アンタ明日駅にゆー君迎えに行ってくれる?」
「…は?ハァ!?ちょ、ちょっと待てよ、おま、お前の弟来んの…?聞いてねぇんだけど!!」
リビングでごろ寝を決めていた太陽のエンブレムがある真っ赤なマスクを常時被った男が飛び起きて言葉を返す。よれよれのTシャツにはすめしと平仮名で書かれている。ださい。
このださいTシャツの上に半纏を羽織った男こそこの神奈川県を守るヒーローこと、サンレッドだった。そしてこの女性はサンレッドの恋人であり、この男を養っている聖母のような人、内田かよ子(29)色々とこのままでいいのかと焦りを抱く保険外交員である。
「あれ、言ってなかったっけ?あの子今年雄英受けるんだって、それで試験受けるから暫くこっちに来るのよ」
「おいかよ子!俺全然その話初耳なんですけど!?は?あの糞ガキここに住むの!?」
「ちょっと、人の弟を糞ガキ呼ばわりしないでよ!アンタがゆー君と折り合い悪いのは知ってるわよ…安心しなさいよここには来ないから。それがね、私もご迷惑になるからって一度は断ったんだけど、ヴァンプさんとこに一時的にお世話になることになったのよね」
「何で悪の組織にお世話になんだよ…雄英っつったらヒーローの卵だろうが…そこら辺おかしいと思わねぇのかよ…アイツらも何でヒーロー志望のガキの世話買って出てんだよ!!馬鹿か!」
かよ子は綺麗な顔を般若のように変貌させ、レッドに詰め寄るかのように顔を突き合わせる。
「アンタがあの子と折り合い悪いのは少しは責任感じてるわよ!!でもね、態々お世話を買って出てくれたヴァンプさんを馬鹿にするのは筋違いじゃないの!?そういうとこよ、アンタのそういうとこがゆー君に嫌われてるの自覚してる!?」
「…ぐっ。べ、別に馬鹿にしてはねーだろ!?ただ、アイツら悪の組織だぞ!?普通に考えてヒーローの手助けするのは可笑しくねぇかって話じゃねーか!!」
かよ子はこめかみを抑えて溜息を吐き、レッドに背を向けた。
その姿に焦燥感と罪悪感が綯い交ぜになった感情を抱いたクズは恐る恐るその背中に声を掛ける。
「そ、その…だな。べ、別にお前の弟がどうのとかアイツらが気に入らねぇとかそゆんじゃねぇよ…。あー、なんつーか、あ!そう俺は仮にもヒーローじゃん!?何で俺に相談無かったのかなー?とかちょっとそういうなんつーの?し、嫉妬心みたいな?あれだよ!…あー…わ、悪かったよ…」
以前悪の組織の天井に住み着いた謎生物に女心を説かれ、クズはクズなりに成長を見せていた。
『男はね例え自分が悪くなくても愛する女と喧嘩したなら先に折れるのが当たり前なのよ!ただでさえアンタ、かよ子さんに養ってもらってる分際で口答えできる立場じゃないでしょ!?でもね、ただ謝ればいいなんて思わないこと!ちゃんと彼女が怒ってる理由を理解してあげなきゃ何の意味もないのよ?分かる?そういうところをちゃんとしないとアンタ、ヒモ以前に人間として最底辺のクズになるのよ?分かってる!?』
天井さんの有り難いお説教の成果か、最近ではこうして自分の悪かった点を考えながらも彼女に対して誠意のある謝罪が出来る程度にはクズは成長していた。
レッドの謝罪に短く息を吐いたかよ子は眉根を下げた笑顔で振り返り「全くアンタはしょうがないわね」と機嫌を直した様子で言葉を続けてくる。
「確かに私もごめん。最近仕事忙しくてアンタに話すのも忘れちゃってたし。色々黙って決めちゃったようなものだものね。…そのアンタがどうしても嫌なら仕事休んであの子とヴァンプさんとこに挨拶に行くけど…」
「あ!?いや、全然嫌とかじゃねーって!!俺が行ってくるから心配すんなって!な!?(くっそーあの天井すげぇな…何でこんなにすぐ機嫌良くなるんだよ…)」
「本当?…あの子と喧嘩しないでよね?」
「お、おう任せとけって!ちゃんとアイツらにも挨拶しておくからよ!」
それからレッドはかよ子に「あの子と何か美味しいものでも食べて」といってを
☆☆
武蔵溝ノ口駅前、僕は大きめのスポーツバッグを肩に掛け直して辺りを見回した。
ここへ来たのは初めてではないけれど、やはり実家と比べるとかなり都会のこの辺ではお上りさんに見えていないかと不安になる。少し身だしなみを気にするようにガラスに写った自分の姿をチェックしておく。服装は至って普通で現在の中学の制服を着ており、紺色のブレザータイプに深緑のネクタイをきっちりと締めている。
試験を受けるにあたって印象が悪くならないようにショートカットに切られた黒髪は野暮ったくならない程度には整髪剤で整えられている。幼い頃から姉であるかよ姉にそっくりと言われている女顔だが、自慢の姉である人と似ていることに不満を持ったことはない。ただ男の趣味だけは未だに理解できないが。
自分の身長は中3にしては高い方で173cm、ただ『個性』が当たり前の世の中ではこの程度の身長は特に特筆すべき点でもないと思う。
『個性』とは先天性の超常能力で現在人口の8割が何かしらの『個性』を発現している。ちなみに僕は『突然変異』に分類されていて、両親のどちらの家系のものとも一致しなかった。
初めは無個性と診断を受けたのだが、それから異常に力が発達していることが分かり、『発動型』の増強系に分類されたのだが、それから暫くして常時『個性』が発動していることが判明し、詳しい検査が行われたが、解明されず、取り敢えず命名されたのが『限界突破』という変な名前だった。
初めに無個性と診断を受けたように、僕の『個性』は普通に過ごすと本当に一般人とあまり変わらないのだが、体を鍛える学習をする、といった努力を重ねれば重ねるほどに成長しまたその限界が無く、際限なく強くなり続けるのだそうだ。努力すればするほどにそれは裏切られず己の力となるという、僕の性格に合う理想的な『個性』でもあった。
僕の『個性』を泥臭えと一笑に付したクズと違い、ヴァンプさんは「とっても素敵な『個性』だね~。頑張りやさんな悠一君にぴったり!」と褒めてくれる。
ヴァンプさんとは1年ほど前からの付き合いで前にクズとかよ姉のことで大喧嘩をしたことが切っ掛けで知り合い、それから仲良くさせてもらっている。
今回の雄英への試験で実家から出て来る事になった件も諸手を挙げて「それじゃウチに暫くいらっしゃいよー」と言ってくれたのだ。本当にあの人の良さには頭が上がらない。
考え事をしていた僕に頭のオカシイ赤いマスクを被った人が声を掛けてきた。
凡そ人を迎えに来るような服装と思えない、よれよれのTシャツに適当な字面で緑黄色メタボリックと書かれており、センスを疑うといったレベルを最早超えている。その上には歌舞伎柄の分厚い半纏を羽織っている。隣を歩きたくないまである。パンツはジーンズだがもうそこが普通でも取り返しは付いていない。
「おい、悠一…その、迎えに来た」
「はい、どうも。お久しぶりです。貴方に名前を呼び捨てられる謂われはないですけど、公共の場で騒ぎ立てるようなことでもないので我慢しますね」
「…チッ。しかたねーだろ、内田って呼ぶのも何か変じゃねーかよ…!」
「いえ、別にそう呼んでもらっても一向に構わないというか、寧ろそちらのほうがいいまであります」
「てんめぇ…相変わらずクソ生意気なガキだなオイィ…関節二三個増やしてやろうかアァ!?」
相も変わらずヤカラのように凄んで顔を寄せてくる赤いマスクズに辟易としながら僕は笑顔で対応する。
「ええ、出来ればやって欲しいですね。骨の二三本で貴方とかよ姉が塀という壁で物理的に別れてくれるなら安いものです」
「…糞ガキ…冗談に決まってんだろ!!はぁ、ヴァンプんとこ行く前に何か食うか?あっちであんま世話掛けるわけいかねーだろ?」
「そうですね、貴方と一緒という点を除けば賛成なので従っておきます」
「ほんと口の減らねぇ…」
駅前周辺のファミレスで適当にお昼を済ませ、始発から列車に揺られたこともあり少し体の怠さを抱えながらもレッドさんの後ろをついて歩くこと暫く、漸く見えてきた懐かしい少し古めかしい木造二階建ての一軒家に顔がほころんでしまう。
玄関のすりガラスの引き戸をガラガラと開け放ち「邪魔するぞー」と偉そうに入るレッドさんに続くと、玄関先で待っていたヴァンプさん達がクラッカーを鳴らしながら歓迎してくれた。
「ようこそ悠一君。あら~少し見ない間に格好よくなっちゃって、少し背も伸びたねー」
「お久しぶりです!この度はご迷惑おかけします」
「テメェは親戚のおばちゃんかっつの!」
レッドさんのツッコミを適当にスルーしつつヴァンプさんは僕の言葉に丁寧に返してくれる。
「あらあらいいのよー、実際部屋は余ってるし、悠一君なら大歓迎!ほらほらあがってあがって」
「ゆー君久し振りー!元気してたの!?」
「オマエ…チュキ♡」
「本当久し振りだねー悠一君!」
『次の信号…200m右デス』
玄関を上がると直ぐ様体に纏わり付くように抱きついてくる4匹のぬいぐるみ型怪人であるアニマルソルジャーの面々。相変わらずの愛くるしさに頬が緩みながらも挨拶を返す。
「お久しぶりです。ウサコッツさんヘルウルフ君デビルねこさんにPちゃん。皆元気そうで何よりです」
ちなみにウサコッツさんは白いうさぎ型でヘルウルフ君は真っ青な狼型。デビルねこさんはオレンジ色の猫型、Pちゃんは緑色の鳥型だが、Pちゃんだけはオーバーテクノロジーで液体金属に変形したり宇宙へ行ったりマッハで空を飛んだり深海6000mまで行けたりする謎が多い子だ。
「ほらほら、お客さんに纏わり付いちゃだめでしょ~もう。ふふふ、皆嬉しいのは分かるけど居間に案内してからにしなさい」
「「は~い」」『Get Ready』「オマエ、チュキ♡」
「あ、レッドさんもどうぞあがって下さい」
「お、おう…(何か悠一の奴めちゃくちゃ歓迎されてんじゃねぇか…)」
居間に着くと、ちゃぶ台の前にいたタイザさんが僕にお茶とお茶請けを用意してくれて、しきりに「かぶきあげ、かぶきあげ!うまうま、ひさしぶり!かぶきあげ!」と謎の歌舞伎揚げ推しと共についでのように挨拶をくれる。
「お久しぶりですータイザさん、メダリオさん、カーメンマンさん元気でした?」
「おー!来たかぁ悠一久し振り!!元気も元気よ!つかこないだ送ったカップ麺どうだったよぉ?川崎限定だったんだけどよ、マジやべくね!?クオリティ半端ねーっつか」
「オメーまた悠一にくだらねーもん送ったのかよ…おぉうオレも元気だったぞぉ、まぁ体はミイラだけどよぉーアハハ」
「あーあはは、独特でしたけど、割りと美味しかったですよ。両親には不評でしたけど…」
「カップメン!カップメン!お茶どぞ!かぶきあげ!うまうま!!」
悪の組織フロシャイムの面々が内田かよ子の弟、悠一に対する好感度が高いのはレッドとの大喧嘩に起因するのだが、それが分からないレッドはしきりに首を傾げるのだった。
――――このお話は神奈川県川崎市で起こる善と悪の壮絶な戦いの物語…だけではないのである。