かよ子さんの弟は悪の組織のようなヒーローになりたい!   作:ぽんぽん痛い

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ノコノコト…マタ…キタノカ…フフ…フ…。


貴方が救ったのは世界の平和です

 

 突然煙と瓦礫を蹴散らしながら現れた覆面を着けたいかにもな強盗に羽交い締めにされ、何らかの『個性』か、身体中を蜘蛛の糸のようなものが這い回る。口も何やら粘着質な糸で覆われて声を上げることすら出来ない状態。あれ?何か意味不明に突然ピンチです僕。

 

 『Emergency―ビーッビーッ。Emergency―ビーッビーッ』

 

 「ちっ!丁度いい!コイツを人質に連れていきゃヒーローがきても交渉にもなんだろ」

 「はっは、そりゃいい。この女、顔もいいしな?へへへ」

 

 いや男ですけど。そ、それよりもあれ!?P…Pちゃん!?何その口から出しかけてる何か物騒なマークが書かれてるミサイルっぽいの何!?そ、それって…。

 羽交い締めにされた時に地面に落とされたのか、こちらに向かって嘴をゆっくりと開けていくPちゃんの姿にぞわりと言い様のない恐怖が這い寄る。(SAN値チェック)

 何だか背筋が凍るような感覚の後、何故か世界戦争が勃発してしまう未来が薄らぼんやりと見えてしまう。

 

 「ん―!んんーーーー!!(Pちゃんダメだよ!!NO!核・兵・器!!)」

 

 ダメだ…腕に抱いているヘルウルフ君はお昼ではなんの戦闘力もないし、それどころか満月の日しか真の力を発揮できないとかどれだけ限定的なんだろう…。

 最悪の状況。どうやらこの蜘蛛の糸は毒性を持っているらしく、体が麻痺したように力を思うように入れることが出来ないのだ。

 僕の『限界突破』はあらゆる毒に常人よりも早く、強い「免疫」を作ることが出来る。いわゆる、体内の抗体による努力ということだろう。ただ、それは毒が効かないというものじゃなく、毒を受けてその毒を克服するというプロセスが必要になってしまう。

 

 本当に、泥臭い『個性』だ。全くもって、アイツの言う通り…。

 

 畜生、誰か――――そう思った時に浮かんだ赤いマスクのヒーローに僕は歯噛みする。

 

 

 「そこの人!!目を閉じてぇーーーー!!!!」

 

 凛とした声音、まるで戦場の戦乙女のような芯を持った響き。

 僕はただその声に従う。

 

 ―――――瞬間、眩い光と耳を劈く音が辺りを包んだ。

 

 

 ♡♡

 

 私の叫びを彼女はきちんと理解し、従う。こんな状況でパニックになっても仕方無いというのに…きっと彼女は聡明な人なのでしょうね。

 私は視界をやられた二人のヴィランに向かい握り締めた鉄パイプを彼女を羽交い締めにしている方を目掛けて振り下ろします。

 ガツンという音と手を伝う痺れ、奥歯を強く噛み締め、自分よりも長躯の男の顎を目掛けて握り締めたソレを振り上げます。HIT!人をこのようなもので殴りつけるなんて初めてです。ですが、今はその恐怖にも似た感情に蓋をしましょう。怖くとも、不安で足が止まりそうでも、歯を食いしばり笑顔で「大丈夫」と呵々と笑うのがヒーローなのですから――――。

 

 ですが、このヴィラン達が私の声にきちんと意味を見出し、目を閉じられた場合は一瞬しか得られない隙きに超高電圧のスタンガンを生成、彼女には本当に悪いのですがそれを押し当てるしかありませんでした。この方達が愚かで本当に助かりましたわ。

 

 「がっ!?畜生!!!くそっ痛えなァ!?くそくそ!!目がッ!!」

 「ぐぅッ、何が…ッ!?ヒーローなのか!?畜生!!」

 

 くっ、私の力では気絶させるには至りませんのね…ッ。彼らが視界を取り戻すまでにそんなに時間は無い、と焦りを抱いたその時、私は彼女の瞳と目が合います。何故か、彼女は人質になっている恐怖ではなく、何か別の途轍もない意志を宿した色で私へとその瞳を向けていました。

 

 ――――お願い、解き放って、と。

 

 私は元々彼女を救出するのを優先するつもりでした。一も二もなく手の甲を突き破り日本刀の刀身を生成。躊躇はあった、例えヴィランであっても腕を切断などという凶行に出てもいいのかと、迷いが心を揺らしました。ただ、私の背を押したのは彼女の澄み切った強い決意を宿す瞳。

 

 彼女を拘束した腕を目掛けてただその刃を振り下ろします。

 ゾブリ――と身の毛もよだつ感触が私の手に人を傷つけるという行為の代償を突きつけました。

 結果論でしかありませんが、腕を切断するには至らず、ヴィランは痛みから彼女の拘束を解き斬りつけた傷口を手で押さえました。すると、彼女を覆っていた『個性』と思わしき糸はスゥと消え去り、彼女はどうやったのかも分かりませんが地面に倒れ伏すこともなく、一瞬で視界から消えていました。

 

 「Pちゃん!!もういいよ!?大丈夫だから!!攻撃停止!お願い!!!」

 

 後ろから彼女の必死な声が聞こえ、思わず振り返ると彼女は鳥のぬいぐるみの嘴を押さえながら腕に掻き抱いていました。私はもう何が何だか意味が分かりませんでしたが、車の急ブレーキの音で我に返ると、彼らが涙目で薄目を開けながら乗り込む姿がありました。

 

 「畜生!くそガキ!覚えてろよ…ッ!!早く出せ!」

 「馬鹿野郎、ガキ相手に何梃子摺ってやがった!!」

 「うるせぇ!!」

 

 どうやらもう一人仲間がいたらしく、そのまま呆然とした私達を置き去りにヴィラン達は車を発進させて逃走していきました。彼らを捕縛するなどとそこまでの戦果を望んでいたわけでも無く、ただ彼女を助けるという気概だけで立っていた私は彼女の無事な姿を見て、張り詰めていた糸が切れたようでペタンと尻もちをつくように座り込んでしまいます。

 最高の結果などと嘯いてはいましたが、突然の初陣という覚悟も何もあったものではなかったこの状況では頑張れたのでは無いでしょうか。

 

 本当に…良かったですわ…。

 

 

 ☆☆

 

 『―――只今の気温4℃、湿度65%、風速――』

 「あは、あはは…うん、本当に…危なかった…」

 

 核を引っ込めたPちゃんを抱きしめながら僕は涙目で世界平和が守られたことに安堵した。

 コラテラル・ダメージなんてレベルじゃない被害で東京が地図から消滅し、世界が核の炎で疑心暗鬼を生み、すわ戦争でおじゃるな!?というとんでもない負の連鎖を生み出す所だった。もうPちゃんだけで世界を混沌に陥れることが出来るのでは?と考えても何ら不思議もない。

 

 大きな安堵の息を吐き、顔を上げると僕を助けてくれた、というか世界を救ってくれた救世主(ヒーロー)が可愛らしく呆けたようなぽわぽわした瞳でこちらを見つめていた。

 先程の戦闘で乱れた黒髪を冷たい風がふわりと靡かせる、控えめに言ってもそのヒーローの姿は綺麗で可憐と言うに相応しいものだった。

 

 僕は彼女に歩み寄りその手を両手で包むようにしてあまりの安堵に思ったままの事を口に出した。

 

 「本当に…本当にありがとう…ッ。貴方は(世界を救った)救世主(ほんもののヒーロー)ですっ!!」

 「…え…?あ、え!?そ、そんな大袈裟ですわよ!?」

 「大袈裟なんてとんでもないですよ!?本当に(世界を救った)ヒーローですよ!?出来ることなら何でもお礼がしたいんですが――――」

 

 そこまで口に出した所でパトカーのサイレンの音にどうやらヒーロー達の声も響いてきていた。さすがに堂々とフロシャイムの面々と一緒に事情聴取なんて受けたらヤバイなんてこと火を見るより明らかである。

 赤い顔を伏せて恥ずかしがっている彼女に心でごめんなさいと謝罪しつつも振り返ること無くその場を後にしたのだった。

 

 「で、でしたら…私と、その…友人に…あ、れ?もし!?い、いませんわ…いつの間に…?」

 

 

 その後、無事に合流したカーメンマンさん達と普通にスカイツリー見学をして、何事もなかったかのように観光して帰るくらいには僕のメンタルは異常だった。

 

 

 ♡♡

 

 私はあの後すぐに駆けつけたヒーロー達に介抱され、事情聴取に協力することになりました。

 彼女のことは伏せておこうかと思いましたが、私には彼女がいなくなった理由が見当もつかないこともあって正直に話すことにしました。被害者であることもあっていなくなった彼女に対しては特に何もないらしいですが、事情は聞きたかったと仰られていました。

 

 ヒーロー達に、「君は勇気ある行動をした。だけどあまり無茶をしないように」と窘められましたが、彼女に貰った「貴方は本物のヒーローです」という言葉のお陰で私の心はずっと誇らしい感情に包まれたままでした。

 

 「…また、会えるでしょうか…?その時は―――」

 

 そうですわね、その時は友人になってもらえるかしら?

 

 私は事情聴取を終えて家路につきます。

 心なしか足取りは最初に彼女と別れた時よりも軽かったのでした。

 

 

 

 

 ◆

 

 神奈川県川崎市―――某所、河川敷。

 銀行強盗を犯したヴィラン達は車を止めて、笑い声を上げていた。

 

 「ひゃははは。いやぁ、ガキにしてやられた時はどうしようかと思ったがよ、無事に逃げ切っちまったじゃねぇかよ!!あっはっは」

 「いやぁ楽勝じゃね?マジ強盗ラクショーってか?しかもよーここはいいぞぉ?なんたって悪の組織なんてもんが普通にあるっていうからな!ソイツらに罪なすりつけてよ!俺達はほとぼりが冷めるのを待ってればいいっつーな?うははは」

 「悪の組織なんざのさばってるここのヒーローはどうせハナクソみてぇなもんだろーしな!」

 「「言えてラァー!ギャハハハ」」

 

 大声で馬鹿笑いを上げる三人の声ごと掻き消す破壊音。何事か、そう思ったヴィラン達の目の前には車のボンネットに突き刺さる何者かの腕。それと同時に両前輪さえもパンクしたであろうガクンというおかしな衝撃。ゆっくりと彼らの視界に入ってくる真っ赤なマスク―――――。

 

 「どうもー!ハナクソで~す!!」

 

 そこから始まったのは戦闘ではない。ただの一方的な圧倒的暴力行為。

 CR江戸の花嫁2で紙幣を全て磨ったクズのストレス発散のためだけにボコボコにされるヴィラン。

 

 「いやぁお前ら運がいいなぁ!?フロシャイム以外の奴らなんてあんま相手にもしてねーんだけどよぉ?いやー今日はそういう気分だからよー全力で相手してやんよぉ!?オラァ!!ゴルァ!!何寝てんだゴルァ!!!!立てオラァ!!!!」

 

 もう一度言おう、それは凡そ戦闘とは言わない。

 鉄パイプで殴られたほうが痛くないとフロシャイム内で公言されるチンピラパンチに心を確実に折ってくる関節技、(バトルスーツを取りに戻るのが面倒だから)『個性』なぞ一欠片も使わずに意味不明な程の謎の力のみでヴィラン達を痛めつける姿は最早ヒーローと呼ぶのも烏滸がましい。

 

 「た、たずげでぇ…」

 「アハハハ!!何て?何て?え?聞こえなーい!アハハハウハハハハハハハハハ!!!」

 

 この後、ボロ雑巾のように放置されたヴィラン達を発見したフロシャイムの怪人が警察に通報、後日感謝状を送られることになるのは別の話である…。

 

 

 ――――このお話は神奈川県川崎市で起こる善と悪の壮絶な戦いの物語…だけではないのである。

 

 

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