かよ子さんの弟は悪の組織のようなヒーローになりたい!   作:ぽんぽん痛い

4 / 4
ま、また来たの…?べ、別に嬉しくなんてないんだからねっ!


入学試験・前編

 

 神奈川県川崎市某所――フロシャイムアジトの居間でのんびりとちゃぶ台の前に座りアニマルソルジャー達に囲まれながらテレビを鑑賞する少年。内田悠一である。

 彼は雄英高校の筆記試験を終え、実技試験を明日に控えた受験生ではあるが、特に気負いもなく漂ってくるヴァンプの作る夕食の香りにほっこりと鼻を鳴らす。醤油ベースの甘辛いような香りに揚げ物特有の食欲を刺激するものが相まって空きっ腹には少々辛いがそれを満たす時間が楽しみでもある。

 

 ヘルウルフ君のもふもふとした毛並みを撫でくり回しながらも特に集中することもないニュースに視線だけを向けていると、低くも柔らかい声音で夕食の時間を告げるヴァンプが居間へと料理を運びながら顔を出した。

 

 「は~い皆~夕飯出来たよ~。今日はねーチキンカツの親子カツ丼!悠一君の試験がいい結果になりますように~って縁起担ぎなのよ~ふふふ」

 「わーい!カツ丼、カツ丼!」

 「う…僕揚げ物は…」

 

 無邪気に喜ぶウサコッツとは真逆に眉を顰めるデビルネコ。カロリー制限を医者に言い渡されているデビルネコは高カロリーな食べ物には難色を示すのだ。

 

 「大丈夫大丈夫、ちゃんとササミを使った親子丼も用意してあるからね~」

 「あ、ありがとうヴァンプ様!」

 

 ヴァンプは何時も通りに気遣いのレベルも将軍級なのであった。

 

 

 ちゃぶ台を囲むのは夕飯を目当てにやって来たメダリオとタイザにアニマルソルジャーの面々にヴァンプ、そして悠一である。

 大皿のポテトサラダを取り皿に移しながら、美味しそうに小さなお椀の親子カツ丼を貪るように食べるアニマルソルジャー達を微笑ましく見る悠一に筆記試験の手応えを聞くメダリオ。

 

 「んで、どうだったんよ?筆記の方は大丈夫だったのか?」

 「えーと、はい多分。普通に出来たと思いますけど」

 

 実際悠一は成績に難はない。寧ろ秀才というレベルまでに努力を重ねて到達している。

 悠一の普通に出来たとは、試験の空欄は全て埋めたということで、しかも分からない問題がなかったということに他ならない。偏に努力の結果だが、本人は正直息をするくらいに当たり前になっている行為なのでそこに謙遜も慢心もない。

 

 「カーっ!この秀才は!全くホント真面目だな悠一はー…」

 『本当にそうね。でも悠一君?明日の実技試験は大丈夫なの?』

 「うぉ!?びっくりした…やめろよ急に出てくるの…天井…」

 

 いつの間にか天井裏から緑色の触手のようなものの先に赤い瞳が幾つも付いた謎の生物が顔を出していた。見れば狂気度が上がりそうな牙が沢山生えた口を開いてどこぞのアイドルのような声を出す天井は今日も自由奔放だった。

 

 『いい?実技試験はきっとポイントとかを競うものかもしれないわ。でもね、そればかりに気を取られちゃダメよ?ヒーローになるためには他者を気遣うことも大事なんだから、他の人の手助けを忘れちゃダメ!いいわね?特に、試験中にピンチになった子とかを助けるとかね!』

 

 「え?ヒーローになるための試験を受けに来たのにピンチになるような雑魚なんているんでしょうか?そんな雑魚はいっそそのまま脱落したほうがその人のためなんじゃないでしょうか?」

 

 「「『「…………」』」」

 

 ヒーローの卵の身も蓋も無い物言いに口を噤む悪の組織(フロシャイム)の面々に天井。

 だが、彼は本気でそう思っているし、寧ろ敬愛する人しかいない場なので言葉を選んでいるつもりだと自負している節すらあった。善性が極めて高い悪の組織から見ると彼という存在の精神は狂気的に歪で、人として失ってはいけないものを失っているのではないかとさえ思われている。

 

 『…うーん。悠一君の本質的なとこは清々しいくらいに変わらないのねぇ…』

 「悠一よー、お前ほんとそういうとこだぞ…こえーわ…何がこえーって本気で思ってるとこが一番こえーわ…お前何でヒーロー目指してんのかわかんねーもん俺」

 

 仕方無いなぁという風な態度で呟く天井に続けてメダリオがぶるりと体を震わせて口を挟んだ。

 

 「カツドン、うまうま、カツドン!アハハ」

 

 そうして暫くの間、タイザの空気を読まない声と箸と食器の音だけが居間に響き渡るのだった…。

 

 

 ◆

 

 さて、少し内田悠一という少年について語ろう。

 『限界突破』などというついぞ解明に至らなかった『突然変異』の『個性』を持ってしまった少年は無邪気にヒーローに憧れた。無個性であることに嘆き、個性を持っていたことに希望を見出し、努力を重ねた。

 ただ、子供の努力など所詮は大した成果など齎したりはしない。『個性』ではあるものの、彼の持つ『限界突破』とは異常なほどに求められる努力の質が桁違いだったのだ。それこそ、文字通り血反吐を吐き、死にかける、または死の淵まで自らを追い詰めなければならない程に。

 

 然りとてたかが子供にそれが出来るかと問われれば否である。そんな事を自ら進んでやれるほど人は壊れていない。少しでも楽な方を選び取ってしまう。艱難辛苦を享受するなど余程の環境でなければ不可能だ。

 悠一はいつしか自分の力が普通より強い、言うなれば普通の人間の枠を超えないものということに焦りを覚え始めた。努力が足りない。こんなに頑張っているのに、努力が足りないということに絶望するほどに…。

 

 それはただの偶然だった。自分の限界に辟易し悩んでいた時に出会ったある二人のヒーロー。その人外としか言えない強さに少年は地面に頭を擦り付けて師事を乞うた。そのヒーローこそレッドでさえも恐れる頭のおかしいイカレタ兄弟ヒーロー兄弟戦士アバシリンのアバゴールド、アバシルバーの二人だった。

 二人は地元である北海道の全ての怪人、ヴィランですらも全滅させて暇を持て余し、各地の怪人やヴィランを旅行気分で殺戮して回っている最中だったのだ。

 そして、二人にしては面白半分、暇潰し半分でヘラヘラと少年の願いを聞き届けてしまった。そこから始まったのは修行という名の地獄。質の悪い人外達の「君ならできるよ(笑)」的な凡そ子供に、いや人間にやっていいとは到底思えない修練を課した。否、強制的に行った。

 

 そうして、まず最初に精神が限界を迎えた。そう、()()()()()()のだ。

 『限界突破』はしっかりとその限界を突破させた。だから少年は廃人になることはなかった。壊れたくても己が『個性』に依って壊れられない。その狂気は如何程か、痛みも苦しみも少年にはどうでもいいものになった。倫理観は薄れ、命に対しても《常識》だから大切だと理解はしても奪うことにすら忌避感を感じることはない。大事な人を大切にする思いは強くとも、ソレ以外に対する感情は極めて冷酷とも言える程に希薄なものとなっていった。

 

 例えば、友情と100万円どっちを取るかという葛藤、普通の人間の迷いを伴う感情の振り幅が愛する恋人と側溝に落ちている吸い殻程度くらいには大きい。大事か、ゴミかである。

 勿論悠一は普通に一般的な人間の常識的なものを逸脱することはない。ただそれは、出来ないのではなく、やらない、であり、やろうと思えばそこに人として当たり前にある躊躇は存在しない。

 心は壊れなかった、だが人としては致命的に壊れてしまっていた。これはレッドとの大喧嘩の際にレッドを本気にさせる程の狂気と殺意で恐怖させたことからいっても些かも大言ではないだろう。

 

 ちなみに大喧嘩の切っ掛けは、大切な姉であるかよ子がレッドの愚痴を弟に喋ってしまったというどうしようもない些細な事だった。”大事な姉を悲しませるレッド、じゃあ殺そう”が平気で成立してしまうのだ。

 それを重く見た極めて善性の強い悪の組織は、悠一のメンタルケアを買って出た。ヴァンプとオーバーテクノロジーのPちゃん、謎の生物の天井に依る献身的な治療に少年はかなりマシになったのだが、その本質は未だ人外的(ぶっ壊れ)なままである。

 

 そんな彼がヒーローを目指すのは幼き頃の憧憬か、ただの惰性か。ただ一つだけ確実に言えることがあるとすれば、彼の中にある家族やフロシャイムの面々に天井(たいせつなもの)を守りたいという確固たる意思は紛うこと無い本物ということだけだろう。

 

 

 

 ◆

 

 さて、迎えた翌日。カーメンマンの車に送られ、悠一は実技試験を控えた雄英高校に足を踏み入れた。

 不安と緊張にガチガチの者、気合を漲らせた者、何故か殺意を振り撒く者。様々な様相を呈する同年代の少年少女を横目に彼はにこやかな苦笑混じりの顔で説明会場を目指すのだった。

 

 

 

 「受験生のリスナー!今日は俺のライブへとようこそ!Everybody!Say!Hey!!」

 

 現役プロヒーローによるファンキーでロックなマイクパフォーマンスを混じえたオリエンテーションを始める中、説明会場で悠一と隣り合わせた天然パーマな髪質の少年がキラキラした瞳で食い入るように映し出された映像に興奮していた。

 

 少年はボソボソと説明役のプロヒーロー、プレゼントマイクについて非常に詳しく呟いている。一体誰に語っているのだろうかと悠一は小首を傾げるが、何より彼の詳しい説明調は聞いていて楽しかったので声量を抑えてお礼と少しばかりの周りに対する配慮を込めて窘める。

 

 「とっても詳しいんですね、よく知らなかった僕にも分かりやすかったです。ありがとう!…でも周りに迷惑かもだから私語は控えたほうがいいかも知れませんね?ふふ」

 「え、あ…!?そ、そそそその、あ、あの…ごごごごめんなさい…(う、うわぁ。やっちゃった…しかもこんな可愛い女の子に独り言聞かれてたのか…へ、凹む…)」

 

 顔を赤くして俯く少年、緑谷出久は優しく微笑む男の子にドキドキしたのだった。しかして本当に凹むのはきっと彼が男だと理解した時かも知れない。少年に幸あれ。

 

 出久が意識を説明に向けながら覗くような視線でチラリと悠一を一瞥すると、長い睫毛に綺麗なブラウンの瞳が会場のスクリーンを真剣に見つめていた。見惚れるような整ったその顔付きには視線を釘付けにする魅力がある。

 だが、その真剣な表情とは裏腹に悠一はプレゼントマイクの金色の鶏冠のような髪型に、あれはセットにどれくらいの時間が掛かっているのか、というくだらないことを真面目に考えているのだった。

 

 「質問よろしいでしょうか!」

 

 体格の良い体付きに動きにキレがあるメガネを掛けた生徒が真っ直ぐに手を上げた。

 丁度悠一の手前の席の男子生徒がプレゼントマイクの許可を受け、スポットライトに照らされながら立ち上がった。何故スポットライトで照らす必要性があるのかは不明だ。

 

 「プリントには四種の敵が記載されています!誤載であれば、日本最高峰たる雄英に於いて恥ずべき痴態!我々受験者は、規範となるヒーローのご指導を求め!この場に座しているのです!ついでにそこの縮れ毛の君!先程からボソボソと…隣の女子生徒にもちょっかいを掛けるその姿勢!物見遊山のつもりなら即刻、ここから去り給え!」

 「…ごめんなさい。僕が彼のお話を聞いていたんです。迷惑を掛けるつもりはありませんでした。ですけど、メガネの君はとても失礼な人ですね!思わず閉口してしまいましたよ!?全く…」

 

 出久へと強い口調で注意を口に出すメガネの生徒、飯田天哉に出久が何か言う前に悠一が口を挟んだ。それは、別に出久を庇ったわけでも何でも無く、自分に対しての女子という完全な決めつけに少しだけ不愉快だったのだ。勿論彼の言葉に天哉は何故失礼なのかが分からずに固まってしまった。

 

 「…怒られちゃいましたね!でも試験前に落ち込まないように気を取り直しましょうね!」

 「………ぁ、は、はははい!が、ガンバリ、マショウ!!」

 

 出久にそっと囁き声で励ました悠一にハートをぶち抜かれた表情で言葉を返す。

 本当に出久少年に幸あれ!である。

 

 「OKOK!受験番号7111君、Niceお便りサンキューな」

 

 完全に虚をつかれた表情で固まっていた天哉だったが、プレゼントマイクの進行によって居住まいを正しながら正面に向き直った。

 

 そこからは恙無くといったところで特に問題もなく説明会は終わりを告げた。

 生徒達は模擬市街地演習地へと向かうバスへと乗り込む。

 

 さて、試験内容だが、模擬市街地内を徘徊する仮想ヴィラン4種の中1~3Pを振り分けられたものとお邪魔虫という0Pのものがおり、10分間の中でそれらを撃破してポイントを稼ぐという極めて簡単なゲームのようなものだった。まぁ、仮想ヴィランの強さによっては簡単とは一概にいえないのだがそれは説明されてはいない。

 

 奇しくも天井の言葉通りの展開になっていることもあり、悠一は自分の主張は抑え尊敬すらしている天井のアドバイスに従うことにしている。大事なものが関わっていないのであれば、我を通す気などさらさらない。差し当たっては最初にポイントを適度に稼ぎ、後半はピンチな人を適宜手助けすればいいと指針を決定したのだった。

 

 

 「はいスタート…」

 

 試験会場内へと辿り着いた生徒達に何の脈絡もなく告げられる声に悠一の姿は掻き消えた。

 狼狽える生徒達の尻を叩くプレゼントマイクの二の句は彼には必要のないものだ。

 

 「どうした!?実戦にカウントなんざねぇんだよ!!走れ走れェ!賽は投げられてんぞォ!?」

 

 一気に加速し模擬市街地の外れまで駆けた悠一はぱっと見て5,6体の仮想ヴィランに久し振りに力一杯殴っても大丈夫なモノという認識をしており、楽しさを抑えきれない表情で口元が弧を描いた。試験会場内に響き渡る轟音と地面を小さく揺らす振動に中央付近で乱戦状態の生徒達は、何が起こったのか理解できずに大砲でもぶっ放したのかと驚愕する者もいた。

 

 試験会場をモニターしている試験官達はその原因である悠一を目を剥いて見つめていた。

 当然だろう。彼は軽くジャンプして緑色のロボット、仮想ヴィランを上から拳を振り下ろしたのだが、その結果が異常過ぎたのだ。ロボットは原型すら留めずプレス機に掛けられたかのようにぺちゃんこになった挙げ句、その叩きつけられた地面は隕石でも落下したかのように直径15m近いクレーターを作ったのだ。まさに平和の象徴、オールマイトのようなパワーだったのだから。

 

 「うー…手痛い。その辺の瓦礫は使っていいよね?何も言ってなかったし」

 

 手をぷらぷらと振りながら、そんな独り言を呟いた悠一は根本から折れた電柱を抱えてモグラ叩きのように仮想ヴィランを叩いていく。ロボットアームに取り付けられた銃器を一発たりとも撃つことを許されずに次から次へと流れ作業にも似た破壊行為が為されていく。さながら流れてくるクッキー生地を麺棒で叩いて平らに均すようなものだと言わんばかりの作業感を醸し出す姿だ。

 

 悠一の姿にマジかよコイツ…的な表情で驚愕する試験官一同。

 その時試験官達の胸中に浮かぶ言葉は完全に一致していただろう。

 頭おかしいだろコイツ。それは当然であり正当であり、正鵠を射る表現だろう。何故も何もない、悠一の本質とは常にぶっ壊れている(頭がおかしい)のだから。

 

 恐らくこの生徒に0Pヴィランは何の抑止力にもならないことも理解出来、この試験で見るべきものを著しく阻害しかねない彼の姿に試験官は頭を抱えるほかない。

 そんな苦悩など知る由も無い悠一はいい運動した、みたいな表情でボロボロになった電柱を投げ捨て、とてもいい笑顔で額を腕で擦る仕草をしたのだった。

 

  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. よみあげ
  11. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。

評価する
※参考:評価数の上限
評価する前に 評価する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。