ゲームセンター。店の中に設置された大型モニターには今このゲームセンターで行われている様々な戦いの様子が中継で映しだされていた。全長15cmほどの大きさをした人型ロボット、神姫。人間と同じように感情と表情を持ち小さな女の子と言っても差し支えのないそのロボットが1vs1で向かい合い、互いに武器を持ちしのぎを削り合う。いま人々を熱狂の渦に巻き込んでいるゲーム、神姫バトルだ。
その中でも注目を集めているバトルがあった。モニターにはいま対戦している人のバトルランクが表示されているがそこに書いてあるのはどちらもランク1という情報。本来ならギャラリーが注目することの決してない初心者同士の戦い。しかし、その中でもこの対戦カードは異彩を放っていた。
一人は金色の髪に白い装甲の神姫。素直な性格でどんな人でも扱いやすいアーンヴァル型の神姫。こちらは初心者らしくおぼつかない動きで必死に対戦相手に食らいついている。
「きゃっ!うぅ…」
『プルミエ!後ろから来る!!』
「え!?」
一方の対戦相手は同じ白い装甲だが髪の色は黒、やや褐色の肌と、今はまだあまり出回っていないタイプの神姫だ。初心者とはとても思えない熾烈な攻撃で対戦相手を一方的に攻め立てていた。
その神姫は本来扱いが難しく良好な関係を築くには苦労するが一度信頼関係を結べれば心強い仲間になると言われている神姫…。悪魔型と呼ばれる神姫のリペイントモデル…。
「もらったぁぁぁぁ!!」
ストラーフmk.2ラヴィーナ。
彼女の持つ銀色の剣が、熾烈な攻撃で体制を崩したアーンヴァルに容赦なく襲いかかる。鋭い弧を描く斬撃がアーンヴァルに命中。ライフゲージを大きく削り取る。
「きゃぁぁぁぁ!」
アーンヴァルの悲鳴が上がる。そして、バトルが終わった。モニターに勝利したストラーフ型のアップの画像が映しだされる。
それと同時にフィールドでは戦闘をしていたストラーフ型神姫とアーンヴァル型の神姫がそれぞれ武装を解除し、マスターの元へ戻っていた。
「やったぜカグラ!!」
「あぁ、コンディションはバッチリだ!だがユウキ…このままだと…」
楽しそうに語るマスター"ユウキ"に何かを言おうとする相棒神姫、"カグラ"。しかし、そこで対戦相手だったアーンヴァル型の神姫とそのマスター、柴田勝がやってきた。
「ありがとうお兄ちゃん。初めてって言ってたのにすごく強いんだね?」
「あ、いや、ゲームセンターでバトルするのは初めてってだけで実は神姫バトル自体は何度も友達とやってるんだ。」
やってきた少年にユウキは自分のことを正直に応える。その言葉に「どうりで」と頷く。
「初めてとはとても思えない動きでしたもんね。そちらのストラーフ型もとっても強かったです。」
「それはありがとう。ところでユウキ、そろそろ…」
勝のアーンヴァル型の言葉にカグラは嬉しそうに言うもののあまり深く話をせずマスターであるユウキに声をかける。
カグラが何か言おうとしたその時、もう一人、ユウキと同年代くらいの少年がやってきた。
「ようユウキ!かっこいいストラーフ型が戦ってるからもしかしてと思ったが、やっぱりお前だったか!ついにお前もゲーセンデビューを果たしたんだな!」
やってきたのは少し癖のある髪型ながら優しそうな雰囲気の少年。木戸川ジンペイ。ジンペイに気づくとユウキはすぐに振り返った。
「ジンペイ!あぁ、頑張って小遣いを貯めて、ようやくライドギアを買ったんだ!もう堪らなくなって、すぐにゲーセンに駆けつけてきたよ。」
ユウキは嬉しそうに腕を出し、その腕についた神姫バトル専用ライドギアを見せた。神姫ライドシステムを使うための専用機械、ライドギア。腕に取り付けることで神姫フィールド内で神姫ライドバトルができる専用端末だ。今までユウキはこれを持っていなかったためジンペイに借りて神姫バトルをしていたのだが、今日ようやくためたお小遣いで自分のライドギアを購入し、そのままゲームセンターにやってきたというわけだ。
そんなウキウキ気分のユウキの姿を見てジンペイの方に乗っているハウリン型の神姫、"タマ"も笑いながら話しかける。
「そっか、カグラもついにゲーセンデビューか。ま!ゲーセンでの神姫バトルは私のほうが先輩になるわけだな!」
そして、その言葉にジンペイも同調し、ユウキの背中を叩きながら楽しそうに笑う。
「そうそう、この俺が先輩として相談に乗ってやるからドロ舟に乗ったつもりでいろよな!!」
「おいおい、マスター!それを言うなら黒船に乗ったつもりだろ?ドロ舟だと沈んじゃうって!」
「おっと、そうだったな!こりゃ参った。ハッハッハッ!!」
楽しそうに笑うジンペイとタマ。その楽しそうな雰囲気に思わずユウキも笑ってしまう。だが、その楽しい雰囲気はユウキの肩に乗るカグラの一声によって壊された。
「いい加減にしろユウキ!!」
「うわぁっ!?なんだよカグラ、耳元で大声出すなって…」
「時計を見ろ!このままだとどう考えても遅刻だぞ!」
「あぁ!!」
時計を見たユウキはみるみる青ざめていく。
「やばい!完全に遅刻だぁ!!」
そして、鞄を肩にかけて慌ててゲームセンターの出口へと走り出した。
その様子を見てジンペイも大きな声で走るユウキに尋ねる。
「おいおい!いきなりどうしたんだよユウキ!!」
「悪いジンペイ!実はこれから隣町の柏葉 剣って奴とバトルの約束をしてるんだー!!また今度ゆっくり話そうぜー!!」
そう言い残してユウキはゲームセンターを後にした。
「カグラ!どうして言ってくれなかったんだよ!!」
「何度も呼びかけてるのにユウキが無視したんだろ!!」
ーーーー
隣町の小さなゲームセンター。そこに置かれた神姫バトル用のフィールドの前で柏葉剣とその学校の友達はユウキを待っていた。約束の時間を過ぎても一向に現われないユウキに取り巻きの人達は苛立ちをつのらせる。
「剣さん、あいつ本当に来るんですか?」
「剣さんに怖気づいて逃げたんじゃないですか?」
それに対し、待たされている当の本人である柏葉剣は呆れるように笑っているものの腹を立ててはいなかった。
「まぁ、そういいなよ。時間にルーズなのは昔からなんだけど、あいつは挑まれた勝負から逃げるようなやつじゃない。今頃慌てて向かってると思うぜ。」
肩をすくめて笑う、剣。しかし、そんな彼らの前に一人の男が現れた。ユウキが来たのかと思い全員が扉の方を見る。しかし、そこに現れたのは何かが入った大きな袋を抱えた柄の悪い男だった。
「ほう、この街には神姫使いはいないのかと思ったが…なんだこんなところに集まって嫌がったのか…」
剣たちが集まっているのを見て楽しそうに笑う男。
「お前も神姫使いか!?」
「あぁ、そうさ!」
「神姫使い同士が出会ったんだ。なら、やることは一つだよな?」
その様子を見た剣は男が神姫使いだということを確認すると自分のゼルノグラード型の神姫を肩に乗せる。
それを見て男も「へぇ」と笑った。
そう、神姫使いが互いの神姫を見せ合う。それは他でもないバトルのサインだ。
「柏葉剣だ。お前にバトルを申し込む!」
「津軽冬至だ。いいぜ、そのバトル、受けてやっても…ただし、俺とバトルするには一つ条件がある。」
「条件?…」
冬至と名乗ったその男はあまりにも残酷な条件を剣に要求した………。
ーーーー
「はぁ、はぁ…あと少し!」
ゲームセンターを出たユウキは隣町の小さなゲームセンターまで全力で走る。時間的には完全に遅刻なのでせめて少しでも待たせないようにと必死に走った。
ユウキの胸ポケットで待機する神姫、カグラもまだ待っていてくれているだろうか?と不安に思いながらユウキの様子を見守る。
そうしながらゲームセンターの扉の前に立ち、その場で足踏みしながら自動扉が開くのを待つ。扉が開いてから急いで中に駆け込んだ。
「いやぁ!ごめんお待たせ!!さぁ、バトルしようぜ!!」
スタジアムの前に立ったユウキは謝ってから楽しそうに顔を上げた。少しは反省しろよと思いつつもカグラはポケットから顔を出す。しかし、前に立つ剣とその仲間たちの様子を見たカグラはすぐに違和感に気づいた。
遅刻してやってきたユウキにたいした反応を示さず、皆心ここにあらずという感じで呆然としているのである。
「ユウキ、何か様子がおかしいぞ?」
「え、…どうしたんだよみんな?遅刻したことは謝るからさ…」
カグラに言われ、その異変に気づいたユウキ。自分のせいで皆を怒らせてしまったのだろうか?と考え、申し訳なさそうにする。しかし、ついで剣からでた返答は思いもよらないものだった。
「すまない、ユウキ。お前とのバトル、できなくなっちまった…」
「なんだって!?」
「なんだ、まだ仲間がいたのか?」
そこで背後からかかる男の声。ユウキとカグラが振り返ると袋を持った大柄な男、津軽冬至とその神姫がいた。
「何だお前は!?皆に何をした!!」
カグラは乱暴に言葉を投げかける。それに対して男はおもむろに答えた。
「俺は津軽冬至。ジャイアントキラーの津軽冬至さ。こいつらからは敗者としてのペナルティを貰っただけさ。なにせ、俺とのバトルに負けたんだからな!!」
そう言うと冬至は自分の持っていた袋を目の前に投げた。
すると、その衝撃で袋の中身が顕になる。その中身に衝撃を受けるユウキとカグラ。なぜならその袋の中には神姫のパーツがこれでもかと詰め込まれていたからだ。
ユウキは再び振り返り、剣の神姫を確認する。すると、剣の神姫は武装が全て無くなっており、素体の状態になっていた。
「お前!皆の神姫から武装を奪ったのか!!」
冬至の非道な行いに怒りをぶつけるユウキ。すると、冬至はさも楽しそうに笑った。
「はっはっは!当然だろ?こいつらは俺様に負けたんだ。負けたやつは罰ゲームを受けなきゃなぁ…なんならお前もバトルをするか?もちろん負けたらお前の武装ももらうがな!!」
「なんて非道な男だ!!ユウキやるぞ!!」
「あぁ、もちろんだ!だが俺が勝ったらお前がみんなから奪ったパーツも全部返してもらうぞ!」
いきり立ってカグラをポケットから取り出しバトルフィールドに行こうとするユウキ。しかし、そのユウキを周りにいた剣とその仲間たちが静止した。
「だめだユウキ!あいつは滅茶苦茶な強さだ!今のままじゃ勝ち目はない!!」
「離せ剣!そんなのやってみなくちゃ分からないだろ!!」
その様子を見て鼻で笑う津軽冬至
「ふん、お仲間のおかげで命拾いしたようだな」
「待て!俺はまだバトルしないとは!!」
「なら、こうしようじゃないか!」
津軽冬至は懐から地図が書かれたカードを取り出しとそれをユウキの足元に投げた。
「もし、お前にやる気があるのなら明日の16時にその場所に来い!約束通り、武装をかけてバトルをしてやろう。ただし、約束の時間に来なければ逃げたものとみなしパーツがこいつらのもとに戻ることはない!」
そのカードを拾い上げたユウキ。
「じゃあな!楽しみにしてるぜ!はっはっは!はーっはっはっは!!」
そう言い残して津軽冬至は立ち去っていった。
「面白え!明日必ずお前を倒す!首を洗って待っていやがれ!津軽冬至!!」
ーーー
「なるほどな、それで、うちに明日のバトルで使えそうな武装を探しに来たってわけか。」
ユウキとカグラが来たのは神姫の武装を売っているなかでもジャンク品という癖の強い武装を取り揃えたジャンクショップ。最初のゲームセンターで出会った大木戸ジンペイの実家が経営する店である。事情を聞いたタマの言葉にカグラは強く頷く。
「あんな非道な男に負けるわけには行かないんだ。私達の力を合わせて必ず打ち倒してやる!」
意気込むカグラとユウキ、一方、パソコンに向き合っていたジンペイからは厳しい言葉が飛ぶ。
「いや、難しいかもしれないぞ…」
ジンペイは二人にパソコンの画面に映し出された動画を見せる。そこに映し出されていたのは柏葉剣のゼルノグラード型の神姫と津軽冬至のフブキ型神姫の戦いだ。ゲーセンを出る前に剣から貰っていものだ。
ゼルノグラードはその銃を相手に向けるもフブキ型の動きが規格外に素早いため狙いを定められず一方的に倒されていた。
「なんて速さだ…剣が勝てないのもなっとくだぜ」
その映像を見て唸るユウキ。
「こいつに対抗するには今の二倍の手数と反応が必要だぞ。うちの武装でまかないきれるかどうか…」
するとカグラはジャンクボックスから二本の細身剣を持ってきた。
「二刀流にしてみるのはどうだ?これなら手数は補えるぞ!」
そう言うとその場で二本の剣を匠に操ってみせる。どうやら、二刀流は問題なくこなせそうだ。
「あとは反応だよな」
するとその時ユウキはあることを思い出した。
「そうだジンペイ!お前の店に確か!!」