翌日の夕方。津軽冬至が指定した場所である廃工場。もう誰も寄り付かない暗い工場はあちこちが錆びつき、小割りた壁からは日の光が僅かに差し込んでいる。その真ん中に乱雑に置かれた神姫バトル用のフィールドの前に津軽冬至は立っていた。その周囲にいるのは彼に武装を取られた神姫のマスター、柏葉剣とその仲間たち。彼らは皆、ここに来るはずの人物、川上ユウキを待っていた。
時刻は16時4分、約束の時間は少し過ぎている。
「なんだ、遅いじゃないか…」
「結局しっぽを巻いて逃げたんじゃないのか?」
薄ら笑いを浮かべる津軽冬至と彼のフブキ型神姫。周りにいる柏葉剣の仲間たちも徐々に不安になっていく。
カチッ…時計野はりが動き、時刻は16時5分となった。津軽冬至はため息をつくと奪った武装が入った袋を手にとって歩き始めた。
「どうやら、あいつは逃げたみたいだな。約束通り、こいつはもらっていくぜ」
しかしその瞬間。その場に声が響いた。
「まてまてまてまてぇーーーっ!!」
その声に俯いていた人々も全員が工場の出入り口を見る。すると、そこには息を切らし汗を流しながらも立つ、川上ユウキとところどころ塗装が剥がれボロボロになりながらも彼の方の上に立つ神姫カグラの姿があった。
「悪いみんな待たせたな!」
「ユウキ!!」
謝るユウキと彼の登場に驚く柏葉剣。その様子を見た津軽冬至はやはり偉そうに笑う。
「おとなしく逃げておけば見逃してやったものを…」
「一度受けたバトルは断らないのが神姫使いだぜ!さぁ、バトルだ!!俺が勝ったら約束通り皆の武装は返してもらう!!」
「いいだろう!さぁ、バトルだ!!」
二人の神姫がバトルフィールドに立つ。津軽冬至の神姫は忍者タイプのフブキ型神姫。軽めの片手剣を持ち軽量化された武装を身に纏っている。対するは川上ユウキの悪魔型のストラーフMK2ラヴィーナのカグラ。両手に青い刀身の剣を持ち、首にはマフラーのようなものを巻いている。
「「ライドギア!起動!!」」
津軽冬至と川上ユウキが右腕につけたライドギアを起動させる。それにより、二人のマスターの意識が神姫と共鳴。バトルの準備が完了する。
「「レディ………ライド!…オン!!」」
そして、二人の神姫が同時に動き出した。
先に仕掛けたのはカグラだ。右手の剣を振りかざし、フブキ型神姫に切りかかる。
「遅いな!あくびが出ちゃうわ!」
しかし、フブキ型神姫はすぐにカグラの視界から消える。柏葉剣のゼルノグラード型神姫を打ち破った高速移動だ。
「っ!!…ビデオで見るのと実際に体感するのとは全然違うな!あいつはどこに……」
目の前の神姫が消えたことに驚き動きに焦りが出てしまうカグラ。そんなカグラにライドで意識を共有しているマスターユウキの声が響く。
(落ち着くんだカグラ…ジンペイにもらった武装の力を信じるんだ!)
(ユウキ…あぁ、分かった!)
カグラは動かず静かに目を閉じる。その様子を訝しげに見るフブキ型神姫。
(なんだ?なんであんなに落ち着いているの?)
(諦めたんだろう?心配するな俺達のスピードについてこられるわけがねぇ!!)
その様子を甘く見た津軽冬至、フブキと共にカグラに背後から攻撃を加える。しかし、完全に死角からの攻撃にも関わらずカグラは…
ガキィィン!!
「な、なにぃっ!?」
反応し完全にフブキ型神姫の剣を受け止めた。受け止めた剣を払い、横一閃に剣を振るカグラ。慌てて後ろに下がるフブキ型神姫だがかわしきれずに浅く切りつけられてしまう。
「くそっ!」
再びカグラの視界の外に逃れるフブキ型神姫。
(どういうことだ!完全に死角から入ったのになんで反応できるんだ?)
(まぐれだ!まぐれに決まっている!!もう一度行けば!!)
しかし、今度はフブキ型神姫が動き出す前に今度はカグラが切りかかった!
「な!なんだと!?」
鍔迫り合いになり、必死に受け止めるフブキ型神姫。視界の外でも素早い動きでも完全に食らいついているカグラ。その秘密にいち早く気づいたのは柏葉剣だった。
「あのマフラーだ!!」
見るとカグラのつけていたマフラーは相手のフブキ型神姫に合わせて発光したり動いたりしている。
「あのマフラーが相手の動きを察知するセンサーの役目を果たしているんだ!」
その事実に気づき目を見開くフブキ型神姫。カグラはニヤリと笑う。
「初めての二刀流にセンサーを使ったバトル使いこなすのに苦労したんだ。何せ第六感を正確に使いこなさなきゃいけないようなものだから………なっ!!」
フブキ型神姫を弾き返すカグラ。
思えば時間に遅れてきた二人は既にボロボロになっていた。どうやら、センサーマフラーを使った特訓をしていたようだ。そしてその特訓の成果はこのバトルで存分に発揮されている。
「一旦引くぞ!」
「今だ!レールアクション!!」
慌てて後退する。フブキ型神姫、しかし、カグラは一気に距離を詰め、神姫バトルにおける必殺コマンド、レールアクションを放った。
「ダブルナイフ・コンバット!!」
二本の剣による強烈なに連撃の前にフブキ型神姫は吹き飛ばされる。
「きゃぁぁぁ!!」
そのまま吹き飛ばされて立ち上がれなくなった。
「やった!」
「俺達の勝ちだ!!」
こうして、バトルは幕を閉じた。感極まった柏葉剣たちがユウキに駆け寄ってくる。
「やったな!ユウキ!!」
勝利の余韻に全員が浸っていた。すると、自分の神姫を回収した津軽冬至は武装の入った鞄を手に取る。すると、慌てて工場の出口へと走り出す。
「なっ!あいつ逃げるつもりか!!」
ユウキもカグラを手に取り慌てて追いかける。
しかし、その時だった。
バァン!バァン!
工場に銃声が響き渡る。津軽冬至の足元に撃ち込まれたようだ。それに驚いた津軽冬至は尻餅をつき、鞄を手放してしまう。それを拾い上げるユウキ。何があったのかを確認するため出口の方を見るカグラ。するとそこには…
夕焼けを背に後ろ結びの長い髪をなびかせる紫の瞳の長身女性とその肩の上にバランスを一切崩すことなく立ち、津軽冬至に銃を向ける黒いアーンヴァル型の神姫がいた。見ればその神姫はアーンヴァルMK2テンペスタと呼ばれるリペイントモデルでカグラと同期の神姫のようだ。
「ち、チトセさん……」
立ち上がることもできず大男であるはずの津軽冬至がガクガクと震えながらその女性の名を口にした。
「つまらん真似をしたようだな…」
チトセと呼ばれた女性はゆっくりと歩いてくると背後にいるユウキたちを一瞥、そして…。
「こんな、雑魚どもを相手に……」
こうこぼした。
「なにっ!?」
その言葉に怒りを見せるカグラ。
「お前はもうジャイアントキラーではない。二度と私の前にその顔を見せるな」
「待て!!」
そのまま立ち去ろうとするチトセにユウキは食い下がる。
「雑魚だと言われたまま引き下がれるか!お前も神姫使いだな!?俺達とバトルしろ!!」
そう言ってカグラをバトルフィールドに置くユウキ。怒りを顕にするユウキに対してチトセはあくまで表情を崩さない。
「やれやれ、弱い犬ほどよく吠えるものだな…リリス」
そして、太もものスカートとハイソックスの間の部分に巻いたライドギアを起動させた。
「身の程を分からせてやれ。」
「舐めやがって!!ライドギア!起動!!」
「「ライドオン!!」」
再び始まるバトル。カグラはチトセのアーンヴァルMK2テンペスタ、リリスに切りかかる。
一気に距離を詰め接近戦になる。カグラは二刀流なのに対してリリスは2丁拳銃。おまけにカグラには反応を高めるセンサーマフラーを装備している。クロスレンジの戦闘では誰が見てもカグラが有利だ。
「!!、くそっ!!」
「ふん…」
にも関わらずカグラが次々と繰り出す攻撃は全く当たらない。全てリリスが回避しているのだ。しかもどの攻撃も紙一重のところで回避しており、まるでカグラの動きをすべて見切った上で動いているかのようだ。
「だめだ!すべ目見切られてる!」
「こうなったら一気に決めるしかない!カグラ!レールアクションだ!!」
バックステップで一旦距離を取り、再び必殺技を叩き込むカグラ。
「ダブルナイフコンバット!!」
「その勢いを待っていた…」
しかし、その動きさえもリリスは笑いを浮かべて回避する。相手の動きを完全回避するコマンド神姫ターン。いきよいよく突っ込んでしまったカグラはリリスに完全に背中を取られてしまう。
カグラにの背中に押し当てられるリリスの銃口、こうなってしまえばセンサーマフラーでの反応を持ってしても回避できない。
「まずい!バックアタックだ!!」
バァンバァン!!
柏葉剣の叫びも虚しく、リリスの弾丸が容赦なくカグラに叩き込まれた。
「うわぁぁぁぁ!」
一気にHPを削られ地面に叩きつけられるカグラ。さらにリリスは倒れたカグラが手放してしまった二本の剣にその銃口を向けると
バァン!!
容赦なく銃撃を叩き込み剣を粉々に砕いてしまった。
「これが私と貴様の力の差だ。少しは分かったか?」
リリスの言葉にあわせてバトル終了。結果はカグラの惨敗だ。
「カグラ!!」
慌てて倒れたカグラを拾い上げるユウキ。
「すまないユウキ。あいつの強さは…半端じゃない。」
リリスは自分でチトセの肩に飛び乗る。そしてチトセはリリスが肩に乗ったのを確認すると何も言わずに立ち去ろうとする。
ユウキはすぐにチトセを呼び止める。
「何者なんだ!お前は…。」
「小早川チトセ…ジャイアントキラーのリーダー、小早川チトセだ。」
それだけ言い残すとチトセは立ち去っていった。敗北したユウキに振り返ることなく……