ではでは、どうぞ。
今、私の悲願が叶う時だ。
それにしても不思議。なんで私は昔あんな風に取り乱してたんだろう。
あれ?何かがズレている気がするけど...まあ、いいか!
その瞬間は遂にやってきた。
視界が急にノイズ混じりになる。視界が現実を直視しない。
けれど司令官と誓った。任された。
だから私は彼女たちを、私を救ったひとたちを殺す。
視界の彼方に人影が見える。それは私の愛しい人。私の想い人。
今すぐにでも抱きしめたい。その体と昔みたいに交わりたい。
だけど。
...邪魔者から殺さなきゃね?
斯くして三者の想いをは混じり、白金の雨となる。
何者にも染まらない白金は、今、ぶつかる。
「響。手錠はずしてくれる?」
「無理だよ。私と司令官は一心同体。運命共同体だよ。」
「艤装が使い辛いけど...まあ、いいか。」
私は左手の改造艤装を突き出す。響も右手の主砲をかつての仲間にむける。
私の艤装は大規模な改修が加えられた。かなり無理矢理で本来なら起動不可能な所を力技で動かしている状態。
それも連戦でガタがきている。おそらくこれが最後。この戦闘で粉々になる。
艤装に執着はない。所詮は使い捨て。私と同じ使い捨てのパーツに過ぎない。
けれども。これだけは今回絶対に外せなかった、
何故なら、これが瑞鳳を殺したのだから。彼女を殺すにはこれしかない。だからこそ艦載機にも拘った。持てるツテも全て使い切って用意した。
だからさ。
ちゃんと
「全艦微速前進。殺せないなら、せめて盾になってよ。その為のダメコンでしょ。」
だが、それでいい。所詮は道具。場合によっては手放さなきゃならない。
だから私は躊躇なく彼女たちを身代わりにした。
「ふふっ。相変わらずみたいだね。扶桑。昔より暗くなった?」
「いいえ。今は死ぬことを恐れなくていいから気が楽よ。提督さんが何故ここにいるかは分からないけど...もしよければ一緒にどう?」
扶桑は夢心地のように
それは私に向けた言葉でなく、自己完結した独り言。私がどんな答えを返しても殺しただろう。そして同じことを呟くだろう。
一緒に来ようと。
「悪いけど、司令官はこの後私とデートの約束なんだ。」
発砲。そして閃光。遅れて轟音。
「痛いっ!イタ...イ?イヤ!イタイノハ...シニタクナイ!イヤ!イヤ!」
「うるさいよ。」
再び発砲。二度頭を貫かれ、白目を剥いてよろける。慌てて体勢を整えようとするが巨大な主砲が邪魔をして盛大に水飛沫を立てて倒れこんだ。
「扶桑さん...
倒れた仲間をじっとみつめるのは赤城。
けれどその瞳は扶桑を見ていない。今を見ていない。
かつての日常を幻視しているだけで瞳が実像を結んでいない。
「あら?新しい種類の敵ね。変わった艤装...空母かしら?とにかく提督さんに知らせて...」
...私を見ても誰だか分からない。その精神はすでに壊れ切ったレコーダー。在りし日の姿を延々と演じるだけの舞台装置だ。
さて、さっさと次に行こう。
もちろん普通なら通用しない。だが、これは妖精謹製の特殊弾頭。艦娘の装甲を貫くことに飲み特化したものだ。いわば対艦娘徹甲弾。
心臓と頭を撃ち抜く。何も言わずに死体に戻った赤城を通り過ぎて由良と霧島の前に立つ。
______まあ、一瞬だけど。
轟音
特製の手榴弾を至近距離で食らえば艦娘とてただでは済まない。
あっさりと沈んだ仲間たちを目の前に瑞鳳はどんな顔をするだろう。
恐怖?絶望?それとも...
「やっぱり、提督は強いね。」
笑顔。これ以上ない笑顔。信頼しきった表情。私を敵としてみていない瞳。
何故。何故だ何故だ何故だ!?
どうして私をそんな目で見る!?
私はあなたの苦しむ顔が見たいのに!どうして!
「セット。第一から第3。全機発艦ッ!」
左腕の盾にカセットをセットする。これは龍驤の式神から着想を得たものだ。カセットを足に大量に仕込んでそれを読み込み爆撃を連続して行う。
さらに背中からアサルトライフルを取り出す。
一気に加速して離れつつ弾頭装填。
瑞鳳は相変わらずニコニコして私を見ている。そんな彼女の左手を狙って撃つ。
200メートルが私の絶対半径。このライフルなら十分貫通する。
______はずだった。
海面を割って一条の光が瑞鳳に突き進み___消えた。
最初は弾かれたのかと思った。しかし、装甲空母はおろか戦艦棲姫改も貫く威力を目指して作られたこの弾頭。軽空母ごときに防げるはずがない。
「.........」
「提督?どうしたの。こっちにおいでよ。」
黒緑の艤装を装着した瑞鳳に手招きされ呆然とする。
私の艤装が、効かない。その事実に愕然とする。
隣では響がじっと瑞鳳を見据えている。その銃口は瑞鳳の心臓に向けられているが、引き金をじっと持ち続けている。
「ねぇ、瑞鳳。私の正体、知りたい?」
せめてもの時間稼ぎ。この問いかけに瑞鳳なら必ず食いつく筈。
「知ってるよ。空母エンタープライズ。昔の私を沈めたんだよね。」
もはや呆然とするほかなかった。
私の正体は最高機密。資料も手がかりも何もない。残していない。
「提督のことならなんでも知ってるよ。例えば、素体になった人間の記憶があることも。妖精が嫌いで憎いこともその艤装が妖精に作らせた特注なことも私を怖がっていたことも私を殺したかったことも。」
全部知ってたよ。 そう、瑞鳳は微笑んだ。
「だから知ってるよ。提督が響と一緒にいるのが嫌なことも嫌っていることも憎んでいることも脅されて無理やり手錠で繋がれてることも私しか見てないことも私以外どうでもいいことも。」
嗚呼。まったくもってその通りだ。
瑞鳳以外どうでもいい。私には瑞鳳以外居ないんだから。
「ね。だから、私と一緒に行こう?」
「うん…」
ジャリンッ
鎖が引っ張られる。響はその場で立ち尽くしている。私を縛って離さない。
「行かせないよ。行かせるもんか。」
二人の距離はあまりに短い。けれど、その間は無限に広い。
「バイバイ、響。」
__________この手錠には簡単な抜け道がある。
そう、腕を切断すればいい。
発砲。
グヂュリと音を立てて右手を強引に引き剥がす。肉と神経が千切れて激痛が走る。が、歯を食いしばって骨ごとへし折る。
「響。これを鎮守府に持って帰って。私はここで居なくなるから。」
血みどろの右手を手渡す。その薬指にはかつての指輪が嵌められている。
きっと、響ならその意味を理解してくれる筈だ。
「瑞鳳。ねぇ。右手がなくなっちゃったから、少し支えてくれない?」
「うん。大丈夫?あっちならこれぐらいすぐ直してもらえるけど、しばらくは我慢してね。」
「大丈夫だよ。このぐらい。________________一瞬で終わるから。」
首元にかけていたネックレスの飾りを外す。
「ねえ、昔の指輪は無くなっちゃったけど、新しい指輪を作ったんだ。」
「提督...?」
瑞鳳が目を輝かせる。私もつい笑みが溢れる。
瑞鳳がこちらに駆け寄ってきてギュッと私を抱きしめる。
「うん。だから、ここで指輪を渡そうと思って。」
ついに、ついに、私の願いが叶う。
「提督...私...」
そして、最後のピースを嵌めよう。
「大好きだよ。
そして、止まっていた時間は動き出す。