数話に分けて終わらせるのを無理やり一話の押し込んだので当然といえば当然ですが。
ではでは、どうぞ。
思えば、あの日もこんな天気だった。
空は雲一つない快晴。けれど空は血を流したかのように真っ赤に染まっていた。
彼女は危険海域の空に似ているといって私の身を心配していた。本当は彼女自身も怖かっただろうに。
その日は出撃を止めるべきだと思ったが、彼女は大丈夫と言って出撃した。
その時に渡されたお守りがこの天山だ。
艦娘ではない私には無用の長物。使うことのできない武器などガラクタに等しい。けれど彼女はきっとそれが私の身を守るからと言って手渡した。
そして今。
確かに体には傷一つついてない、五体満足。風一つひかない健康体。
けれど、心には癒えない傷が残った。
きっとこの傷は一生背負っていくのだろう。この十字架は一生背負っていく義務がある。
彼女を思い出すたび、頭が痛み、心が軋み、感情が歪む。
こうして今目の前にあるのがこんな滑稽なラブコメだ。
響はわたしの暴言を聞いても、ただうなずくだけだった。
こうして、私と響の偽りの関係が始まった。
ああ。全くもって愉快に素敵な醜態だ。
私は自分だけでなく周りの想いすらも踏みにじっている。
こんな腐れ切った私でいても、響は私を愛してくれるのだろうか。
「うん。私は司令官のすべてを愛するよ。
それがたとえ歪んだ思いでも、
それがたとえ過去への固執であっても、
それがたとえ、私以外の人への想いであっても。
そのすべてを受け入れて愛すると誓う。
だから。
司令官。
いくらでも私を好きなようにしてくれてかまわない。
それで君の想いが満たされるなら。
私はこの命だって捨て去ろう。」
「.........」
「ん?どうしたんだい。司令官?」
「ううん。何でもない。」
響の想いに私はこれから嘘をつく。そして永遠に、この関係が破綻するまで。
私は残酷な仮面を被る。それがどれほど外道な行いであったとしても。
それが、響きを救うための唯一の方法だから。
「ねえ、響。瑞鳳は最期にあなたになんて言ってたの?」
「.........」
「瑞鳳は、ほかのみんなは、あなたを庇って沈んだ。」
「彼女たちは、最期になんて言ってたの?」
..................
部屋に長い沈黙が落ちる。
「...。赤城さんは、私の援護のために艦載機を放ったところを、戦艦に沈められた。」
「彼女は、最期に、『大丈夫』と言って沈んだ。」
「由良さんは、扶桑さんと一緒に、私をかばって魚雷にあたって沈んだ。」
「扶桑さんは、『不幸は私が引き受けるから』と言って沈んだ。
由良さんは、『私たちを無駄にしないで。』と言って沈んだ。」
「霧島さんは、最期まで戦艦群の注意を引いてくれた。」
「彼女は、『ここは私に任せて』と言って沈んだ。」
「.........瑞鳳さんは、最期まで私をかばってくれた。最後まで囮になってくれた。」
「彼女は、私を逃がすともと来た方向へ引き返していった。それが、私を逃がす最善の策だったんだと、今では思っている。」
「私はなぜ皆がそこまでするのかが理解できなかった。」
「だってそうだろう?私一人のために5人も犠牲になっている。皆は比較的軽傷で、私を置いて撤退しようと思えば撤退できるはずだった。」
「私は今でもその理由を探している。なぜあの時に皆が私を守ってくれたのか。私は何をして生きていけばいいのか。」
「だから、私はせめて自分の思った通りに行動した。」
「司令官を助けるのもその中に含まれる。だから私はあなたを支える。それがきっと瑞鳳さんたちの想いだと信じているから。」
嗚呼。響はどこまでもまっすぐだ。私みたいにすべてに悲観していない。まっすぐ未来を見つめている。
自分の中で答えを見つけている。それに比べたら私なんて。
「じゃあ、私はどうやって罪を償ったらいいの?
彼女たちを死地へと送ったのは私。
その罪はどうやって償ったらいいの?」
そう。きっと私だって分かっていた。
瑞鳳が誰かを恨むはずがないって。
あんないい娘が誰かを憎んで最期の言葉を呪うなんてありえないって。
だけど。
私は怖かった。
そうやって瑞鳳のことに決着をつけるのが。
私の中で瑞鳳を死んだことにしてしまうことが怖かった。
彼女のことを忘れるのが怖かった。
彼女の死を受け入れることが、何よりも痛かった。
だから、私はありもしない十字架を創って自らに課した。
瑞鳳のことを忘れないように。
瑞鳳がいつまでも生きているようにしたかったから。
だけど、今その十字架のせいで響を傷付けている。
そんなの、間違っている。
だから____________________
「ねえ、響。私を裁いてよ。それがたとえどんな重い刑であっても受け入れるから。私を、裁いてよ...」
私は響に首を垂れる。
まるで斬首される咎人のように。
それまでの罪を懺悔するかのように。
「わかったよ。司令官。」
こうして判決は下る。道化を演じて舞台の外を騒がした狂人を裁く時だ。
道化は舞台の上だからこそ成り立つものだ。
舞台を一歩出てしまえばそれはただの狂人。
どう偽ってみても涙は隠せない。
だからそれをメイクと偽って自分をごまかす。
周りから見たらどれほど滑稽なことか。
だが、道化はそれに気づかない。
あくまで自分は正常なんだと。
滑稽に演じているだけの正常な人間なんだと思い続ける。
だがそれも今日で終わり。
狂人は牢に入れられ判決をただ待つのみ。
さあ審判の時だ。
私に、今まで犯した罪の償いを。
罰を、与えてくれ。
それで、私は満足する。
ただ、一言「死ね」というだけでいい。
私は、その一言が欲しかっただけなんだ。
そして、響が口を開く。
「司令官。君は、残された時間を、せめて本心で過ごすべきだ。
偽りでも、義務でもない、本当の笑顔で過ごすべきだ。
それがきっと、瑞鳳さんのためになる。
彼女は君の笑顔が大好きだった。
いつまでも笑って過ごしてほしいと、いつも言っていた。
その結果自分が命を落としたとしても悔いはないと言っていた。
だから。
せめて笑ってほしい。
心の底から、笑顔でいること。
それが、私から司令官に与える一番の罰だ。」
「そんなので、許されるの...?」
「うん。彼女は、いつも君の笑顔を願っていた。」
その言葉に、私は、思わず涙を漏らす。
あの日のお守りだって、きっとわたしを笑わせるための冗談だったんだろう。
それだけじゃない。
私にいつも作ってくれた卵焼きだって、私の喜ぶ顔が見たかったから。
それに気づいてあげられなかった私が、只々悔しかった。
もっと早く気づいてあげられていたら。
もっと笑顔で接していてあげたら。
瑞鳳も笑ってくれたのかな?
「ふふっ。」
もう、瑞鳳の笑顔は見ることができない。
瑞鳳も、私の笑顔を見ることはできない。
だけど、それでもいい。
瑞鳳が望むことをすると誓ったんだ。
私は、ここにいない彼女に届けるために声をあげて笑う。
「はははははははっ!」
なんだ。簡単なことじゃないか。
私って、笑えたんだ。
こんなに、笑顔になれたんだ。
ねえ、瑞鳳。
私、今、幸せだよ。
この想い、届いてる?
「ありがとね。響。」
「私は、私が正しいと思うことをしただけだよ。」
「そっか。それで、響は今、幸せ?」
「うん。私も、司令官が笑ってくれたら幸せだよ。」
「なら、よかった。ほら、響も笑って?」
「こ、こうかい?」
「ちょっとー。全然笑えてないじゃん!ほら、こうやって。」
響の口元をニッと持ち上げて笑みを創る。
それは、作り物だけど、ぜんぜん不自然じゃなくて。
「はい、じゃあ、写真撮ろう?」
「ちょ、ちょっと待ってくれ...」
「駄目ー。だって今取らないと、本当に笑ってないでしょ?」
「それなら大丈夫だよ。」
「どうして?」
「だってさ...」
響は私を振り返る。
その顔には、作り物でもない、少しだけぎこちない、笑顔があって。
「私は、司令官と一緒にいられるだけで幸せだから。」
「うん!」
この瞬間、私たちは本当に笑っていたんだと思う。
だって、この時の写真は今でも色あせることなく私の胸の中で輝いているんだから。
「提督!大変です!」
しかし、そのつかの間の幻想はしかしある凶報によってはかなく消え去る。
「レイテ島沖周辺で、瑞鳳さんと思われる艦艇が確認されました!」
「本当!?」
「はい。ただ...」
報告に来た大淀は少しだけ言いにくそうに口ごもる。
「瑞鳳さんが、わが艦隊に攻撃してきたとの報告があります。」
「また、装備は黒く、敵深海棲艦と協力して戦闘を行っていたとのことです。」
「その際に、『提督を出して』と何度も繰り返していたそうで...て、提督!?しっかりしてください! 提督!?」
再び、私の心は黒く深い海にとらわれる。今度は、確かな存在感と、想いを伴って。
そこにもはや希望は亡く。只々残酷なだけのお話が続いていく。
それが、私に課せられた宿命なのだから。
これから戦闘が増えます。
二人のデートも書きたいけど、どうなることやら。
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