私は夢を見ていた。
それが、ありもしない幻影だと思っていた。
瑞鳳が私に怨嗟の声を向ける。
そんなことはあり得ないと持っていた。あの子はそんなこと言わないって信じていた。
けれど、そんな都合のいい幻想はたやすく破られる。
瑞鳳はきっと許してくれるだなんていったい何を根拠に決めつけた?
私の笑顔が見たい?そんなの過去の話だ。
かつての瑞鳳は死んだ。
殺したのは誰だ?_____私だ。
甘い幻想にひかれた愚か者は誰だ?______私だ。
決意を捨てたのは誰だ?______私だ。
いま、罪を償うべきは誰だ?_____私だ。
彼女の求めるものは誰だ?
____________________私だ。
ならば行かなければならない。
私は、彼女に嘘をついた。
誓いを破った。見殺しにした。そして_______
嗚呼。懐かしい光景だ。
私と瑞鳳が対峙する。私は彼女を殺すために。彼女は国を救うために。
そして、彼女が火の海の中で沈んでゆく。私は笑顔でその光景を見続けた。
いつまでも、いつまでも。
ねえ、瑞鳳?
今回も、ちゃんと
私の意識は深海から引き上げられる。
...懐かしい夢を見た。懐かしくて、愛しくて、痛々しい思い出。
「お目覚めかい?司令官。」
「うん。ごめんね。急に倒れちゃって。」
「自覚があるくらいなら大丈夫そうだね。いま、明石さんを呼んでくる。応急処置をしてくれたのも彼女だから。」
「うん。ついでに、大淀も呼んできて。これからのことで話があるから。」
すると、響は珍しく怒ったような表情をした。
「司令官は自分を心配しなさすぎる。少しは休むんだ。」
そんな響の表情を少しだけ愛しく思いながら笑顔で首を振る。
「ううん。この一件は絶対に私の手で決着をつけたいの。ほかの提督に先を越されるなんて、許せない。」
「.........」
「大丈夫。無茶はしない。約束する。これでも私、提督の育成機関では座学実技ともに主席だったんだよ?
これぐらいへっちゃらへっちゃら。」
「わかった。だけど私も一緒にいる。それが条件だ。」
「もちろん。だって、響は私の秘書艦で彼女でしょ?」
私のわかりやすい言葉に響は顔を真っ赤にする。そのまま顔を隠すようにして部屋を出て行った。ちょろい。
「提督。お体のほうは...?」
「ありがと。大淀。私のほうは大丈夫。それより、詳細の情報を。」
「はい。瑞鳳さんらしき艦娘が確認されたのはレイテ沖です。その後入ってきた目撃情報から察するに我が鎮守府に接近中です。」
「そう。じゃあ、ここ最近の鎮守府周辺海域の敵艦出撃の記録をちょうだい。」
「え?それがどうかされたのですか?」
「うん。私の考えが正しければ近々製油所地帯沿岸に敵艦が結集してるはずだから。」
「持ってきたよ。...うん。確かにその通りだね。今までに見なかったような精鋭艦が頻繁に目撃されている。」
「そう。だったら彼らの目的はここで間違いないね。これは明らかに陽動だよ。ついでと言わんばかりに輸送船を襲っているけど、これは瑞鳳の本来の目的じゃないね。」
「え、えっと...すみません。私には何を話しているのか全然なんですけれど...」
大淀が恐縮そうに手をあげる。私はそれに笑顔で答える。
「今は両陣営ともに総力戦に入ってるのは知ってるよね?なら、一部がそれを利用しようとするのもあり得ない話じゃない。どこも一枚岩でできてるわけじゃないから。今回は瑞鳳がそれだったんだよ。
製油所地帯はこの大規模海戦でも重要な役割を担うところ。そこに不意打ちで侵攻するのがあっちの総意。で、瑞鳳はそれに乗じて手薄になった鎮守府を狙うのが目的。だから作戦海域は鎮守府沿岸になると思う。しばらくは対潜哨戒も中止して準主力艦を製油所地帯沿岸に常時展開。ただし、こっちからはしかけなくていい。常に空母を3隻以上配備して。それと、やむを得ないけど大規模作戦海域へのうちからの出撃は中止。総員を本作戦に回して。」
「り、了解です!それと、同時に空母棲姫も目撃されたとありますがそちらは。」
「無視。」
「えっ!?で、ですが、それだと鎮守府に被害が...。」
「出ないよ。だってあっちの目的はあくまで製油所地帯。こっちを狙ったらあっちが不利なのぐらい承知してるでしょ。来るとしたら、瑞鳳と一緒に沈んだメンバーかな。」
「...やはり、司令官はその可能性もお考えで?」
「ないとは言い切れない。なら、対策して損はないと思うよ。」
私の言葉に、響が補足する。
「だからしばらくは彼女たちの姉妹の出撃は控えたほうがいい。そのようにしても構わないかい?」
「もちろん。そっちのほうが戦果に影響が少ないしね。」
「あ、あの!」
突然大淀が声を張り上げる。
「どうしたの?何か質問?」
大淀はつらそうに口ごもった。その目には不安がありありと浮かんでいる。
「司令官は、瑞鳳さんを、皆さんをどうされるつもりですか?」
それははっきりとわかる不信の目だった。
それはそうだろう。昔の結婚までした相手を殺せるなんて言えるはずがない。
けれど、彼女は同時にささやかなすがるような目つきもしていた。
きっと彼女だって本当は仲間を殺したくないはずだ。
私は決断を告げる。決まり切っていた言葉を。彼女を救うための方法を。
「もちろん、殺すよ?それ以外に何があるの?」
「っっっ!...了解、しました。」
明らかに失望した様子の大淀を無視してさらに指示を出す。
「本作戦期間中は私の持つ全権限を響に与えます。本作戦においては、私と響が最高権限を持ちます。私が死んだ場合には響の指示に従って動くように。」
「.........了解しました」
「了解、司令官。任された。」
「今後一切の任務は資材確保のためにのみ受注。また、遠征は継続。総力戦体制を発令します。」
私は、瑞鳳のためならいかなる犠牲を問わない。
それが艦娘たちの命であっても。
それが私の命であっても。
_____それが、瑞鳳の命であっても。彼女を救うためなら、私は彼女を殺す。
「これより、本作戦を『RF作戦』と称し、これを発動します。」
「瑞鳳たちを、殺して。」
「__________暁の水平線に、勝利を刻め。」
もはやそこに希望は亡く。歪んだ
これは、只々残酷なだけのお話。
ブックマークとお気に入りお願いします