「先生ーここ教えてくださーい」
「えーっと、あぁこれか。この文章はたしかに難しい。国語教師としてはぜひとも全文読んでほしい古文の文章だな。まぁそれ言い出したらきりないけど。それで、どうわからないんだ?」
「ここの文が根拠でこの感情って解説には書いてあったんですけど、こっちにはこうやって書いてあるじゃないですか。この答えは根拠として弱いんじゃないかなーって」
「あーそれ俺も高校生んとき思った。解説が論点ずれてるって感じることはよくあるんだよな。そういうところで疑問を持てるのはきちんと考えてやってるってことだからきちんと伸びるぞ。それで、これはだなーー」
教師なんて向いてるんじゃないか。ということを言われたことがあったわけだが、わりとあっていたようだ。国語教師というところであの人と被っているからおもしろい縁だ。まぁ国語以外できないけどな、俺。
「ーーということだ。どうだ?納得できたか?」
「はい、ありがとうございます。またお願いしますね?」
「まぁ俺はいいんだが、古典担当の先生に聞く方がいいんじゃないか?」
「比企谷先生以上にわかりやすい先生なんていませんもの」
「ま、ならいつでも来いよ」
「はーい。それじゃ、失礼します」
こうやってだれかに頼られるのも悪くない。まぁ頼られない教師とか致命的だが。って言うと質問されない人がだめみたいだな。言葉って難しい。だからこそおもしろいわけだが。
………いつの間にか俺は国語の道に流されてしまったようだ。
まぁとりあえず、自己紹介でも。
俺の名前は比企谷八幡。職業は高校教師。まぁ中高免許を持ってるからいつ中学教師になるかはわからんが。たぶんならんけど。担当教科は国語。大学卒業後すぐに教師として採用してもらい、今は2年目。そして、いる高校は総武高校、俺の出身校だ。高校から電車で1時間のところに住んでいる。それで、担当している部活動がーー
「失礼します。比企谷先生、部室の鍵を返しにきました」
「はいよ。んで前田部長、まだ世界を変えるというあの作文を書き直す気は生まれないのか?」
「変えるもなにも、それしかやることはありませんから。私はそれをやります。世界を、変えてみせます」
彼女の名前は前田由那。高校2年生。外見を言えばかわいいというよりもきれいだとか美しいだとか、そういう言葉が似合う。まぁあれだ。雪ノ下の初期状態そっくりだ。初期状態ってすげぇ表現だな。しかし、成績は2番。1番は他にいる。しかも普通科の方に。
ちなみに、まぁ答えが出てるようなもんだが言っておく。俺の担当している部活動は奉仕部だ。なんで残ってんのかが本当に謎。いや、理由は聞いたんだが、まぁ謎だよな。まぁとりあえずあったからこいつを放り込んでおいた。学校にプライベートスペースができるのはいいことだと教えたらあっさり入った。実際に雪ノ下みたいに成長するかは知らんが、まぁやれるだけのことはやってやろうという感じだ。
「明日、楽しみにしとけよ」
「はぁ、明日、ですか」
「あぁ、明日だ」
「まぁなにをするかは知りませんが、先生がそうおっしゃるなら楽しみにしておきます」
「んじゃ、お疲れ様」
「はい、失礼します」
そういって前田は職員室から消える。
明日、というのは別になにかイベントがあるわけではない。ないのだが、とりあえず楽しみではある。まぁ予想はしてるとは思うが、別の作文で問題のあるやつがいる。まぁあれだ、こっちは、高校生活を振り返って、だ。ちなみに前田のは将来における自分の立ち回りとかいうやつだったはず。正直覚えてない、あいつの作文のインパクトが強すぎて。それは国際教養科に出された作文として適切だった。国際化していく現代において、国際教養科がなにを目的としているかは明白だろう。それを考えずあいつはこれを書いた。なんで書いたんだよこんなもの。たしかに世界を変えるとか国際的なことではあるのかもしれんが、少なくともこういうことではないと俺は思う。そもそもそんな簡単に人の考えとかが変わるんなら紛争も戦争も起こらん。
「ったく」
「比企谷先生、いかがされました?」
「やめろなんだその口は気持ち悪い」
「ちょっ、なんてこと言うんですかせんぱいはー」
「あーそっちの方がしっくりくるわ」
「え、なんですかそれフレンドリーに接してほしいとかそういうことですかごめんなさい私にとってはいつでもせんぱいは近しい存在ですし近くなりたい存在ですけど私の言葉遣いどうこうではなくせんぱいから近づいてきてくださいいつでも待っていますぜひともお願いしますごめんなさい」
「相変わらずよく噛まずに言えるな。ふられんのも慣れたし」
「ぶー。それで、前田さんはどんな感じなんですか?」
「あー完全に初期雪ノ下だな。まじで硬い」
「胸がですか?」
「ねぇ一色さん。あなたなに言ってんの?俺教師だよ?そんな目で見たら間違いなく犯罪だよ?」
いやほんとなに言ってんのこいつ。言葉流したのは許して、恥ずかしい。
たしかに外見は本当に雪ノ下そっくりではある。高校の最後の方とかにあいつ、少し大きくなったこと自慢してたけど、態度で。しかしそれ以上に由比ヶ浜の方が成長していたことを知ったときはそれこそ窓から身を投じようとしてるようなあれだった。まじであのときの雪ノ下はやばかった。
まぁ話を戻して。とりあえずあれだよ。さすがに高校生に今さら欲情とかしない。ってこっちじゃない、戻す方を間違えた。もう少し戻さないといかん。目の前にいるこいつを紹介せにゃならんのだ。
彼女の名前は一色いろは。俺の一つ下。高校では後輩だった。大学は違ったが、それでも交流はしていた。というかこき使われていた。こいつほんとに遠慮がなかった。専門科目は社会。まぁなんかあれだよな。イメージにない。一色にはどの科目もイメージないわけだけど、社会に関しては本当にイメージがわかん。人類の辿ってきた軌跡が楽しいという、なんかそれっぽいこと言われて悔しかったのを覚えている。担当してるのは生徒会。まぁこっちはぴったり当てはまる。
「そういえば一色、お前なんで教師になったんだ?」
「そういうせんぱいはどうしてなんですか?」
俺か。いろいろと理由はあったが、一番は、してもらったことをだれかにしたい、なんだろうな。例えば、平塚先生に俺はたまたま出会えた。だからこそ変われた。それは苦労が伴わないものではなかったが、それでも、いいことだった。
もちろん雪ノ下や由比ヶ浜、戸塚や材木座に川なんとかさん、それにこいつがいなかったらそうはならなかったわけだが、すべてのきっかけはあの人だ。あの人に連れられたことから始まったことだ。だから、いろんな人にそういう機会を与えたい。変わるか変わらないかは本人次第だ。変わらないのを選ぶならそれでいいと思ってる。前田にしてもそうだ。だが、それは、それしかないからではなく、それがいいという理由でなければいけないと、俺は思う。
ま、そんな恥ずかしいこと言えんがな。
「楽そうだったからに決まってんだろ」
「ふふっ、そういう嘘はいけませんよ、せ・ん・ぱ・い?」
「いや嘘じゃねぇよ」
うん、嘘ではない。それも理由の一つに入っている、という可能性がある。うん、だから嘘じゃない。
「お、お前はどうなんだよ」
「私は、いえ、私もせんぱいと同じですよ」
「………つったく、お前は」
全部筒抜けか、まったく。
「えへへ」
「じゃ、そろそろ帰るわ。お前はどうする?」
「あ、私も帰りますよ」
「送ってくから早くしろよ」
「はーい」
こいつの家の最寄り駅は俺と同じ。だから基本的に送れと命令されるわけだが、まぁ、たまには俺から誘うのもいいだろう。
「せんぱいから誘ってくれるなんて、珍しいこともあるんですね」
「たまには、な。というかいつもいつも送らせるのをやめろとりあえず」
「それはいやですよー」
「いやなんでだよ」
ほんとになんでなんだよ、あの辺別に暗いわけじゃないから襲われたりもせんだろうに。ナンパとかに巻き込まれる可能性はあるが、こいつなら適当にやり過ごせるだろうし。だから理由がわからん。
そんな疑問への返答として、彼女はいたずらめいた表情でこう告げた。
「せんぱいと一緒にいたいからに決まってるじゃないですか」
ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー
そして翌日の授業後。
俺はとある生徒を呼び出した。いやもうあれだよな。展開読めてるよな。
「青春というのは悪だ。青春というもののために人間は誰しも嘘をつき、法を犯す。青春のためには他人と協調をする。そのために嘘は最低限必要となり、同時に最大の武器となる。嘘をつくことは悪いことだと小さいころに教えられた。それにも関わらず嘘をつく。つまり誰もが教えに逆らう。これは教育システムの欠陥である。それは社会を貶める結果へと繋がる。教育環境の良さというのは昔から社会の発展度合いに直結している。ゆえにこの場合における嘘はそれそのものが罪である。また、法を犯すというのは、俗に言う若気の至りである。これについてはもはや語る必要すらない。いじめ、信号無視、盗み、などなど、若気の至りですべて済ませ、正当化する。いじめなんてただの暴行罪に脅迫罪に窃盗罪に強盗罪だ。重犯罪のオンパレードもいいとこだ。しかし、若気の至りという免罪符によりしてもよくなる。まったくもってばかげている。だからだれしもが悪だ。青春をだれしもが必ずどんな形であれ享受している。だからだれしもが悪だ。青春になどだれも逆らわない。だからだれしもが悪だ」
俺は長々と目の前にいる人間の書いた作文を読んだ。彼はなにかを考えている。なにを考えているかは知らんが、うまい言い訳を考えているわけでもあるまい。俺はなに考えてたっけか。なんで呼び出されたのかを考えてたかな?
まぁそれはさておき、こいつを問い詰めなければならん。
「俺がお前を呼び出して、なおかつこれを読んだ、ということでそれらの理由はわかるか?」
「いえまったく。きちんと高校生活全般を振り返ってますし、書いてあることが間違ってるとは思いません。たしかに文章は国語教師の比企谷先生から見たら特に稚拙だとは思いますけど、それを言い出したらほとんどが呼び出されてしまいますし」
うわーこいつ、うわー。
なんだろう。なんだろう。こいつ。うわー。
っべーわ。まじっべーわ。
………戸部、あいつは(どうでも)いいやつだったよ。
「成績1位で、そこまで考えられていて、なんでもっと根本的というか表面的というか、そういうものが見えんのだお前は」
「お言葉ですが、成績やら模試やら入試やらと頭の構造はなにも関係ありません。ただのデータを集合させただけのもので賢さなんてわからないでしょう」
「はぁ、まぁ、とりあえず、一応、言っておく。こういうときに高校生活を振り返るのは自分のことだ」
「それならそう言っておいてもらわないと。それは俺は悪くないじゃないですか」
うん、俺もそう思った。
けどさ、これ企画してプリント作ったの俺じゃないもん。仕方ないじゃん。
というかなんか、このプリント俺見たことあるんだけど。いやまぁもちろん授業で配ったからそのときに見たわけだが、それよりも前、具体的に言えば俺が高2のとき。つまり、まったくそのまんまなんだけど。こういうところでさぼるのはよくないと思うな、うん。まぁ後輩ごときがそんなこと言えんけどな。
「それから、どうしてこういう捻くれた考えに至るんだ。お前、周りの友達たちと楽しそうにしてるだろ」
そう、こいつはぼっちじゃない。なんなら普通にクラスの中心してる。いわゆる葉山ポジ。なのに思考は俺みたい。ちなみに外見はまじで葉山。目が腐ってないもの。それがどうして中身俺みたいになってんだよ。
「それはそれ、これはこれですよ先生。人付き合いは嘘が伴います。だからこそこういうときにきちんとしたことを書かないといけません。自分が悪をしているというのはわかってますけど、悪をしないというのは難しいんですよね。だからこそ、自らを戒める必要があるんです」
こいつ、ほんと賢い。自分は賢くはないと思っているようだが、俺からすれば十分に賢い。なのになぜだろう、彼がここまで卑屈になってしまうのは。頭は回っているのに、どこか自信なさげな。
「ついてこい。その悪をしないやつに会わせてやる」
連れて行く動機はいろいろと考えていたが、思いもよらない形で手に入った。とりあえず力を使わずに済んだのはよかった。まぁ大した力持ってないけどな。
俺は席を立ち職員室を後にする。よくわからないという顔をしていたが、ちゃんと後ろについてくる。うんうん、素直なのはいいことだ。
そうして歩いて数分、奉仕部の部室へやってきた。
ドアをノックし、中から返事をもらう。これができないと結婚できないらしいからな。うん、これは実体験じゃなくて噂だぞ。決して事実に基づいた話ではないからな、勘違いするなよ。いいな?いいな?あの人ほんとどうするだろう………。
「失礼する。昨日言っていた楽しいことを持ってきた」
「誰ですか、その人は」
「ん、あぁそうだな。紹介しないといけないな、忘れてた。こいつは2年の中畑だ。中畑恵介だ。この部活への入部者だ」
忘れてたというのは紹介のことも含んでいるのは内緒な。
中畑恵介。2年で所属は普通科。そのくせ成績は前田を抑えての1位。クラスの中心で、クラスをまとめているイケメン。そのくせ思考は捻くれている。まじでなんなんだよこいつ。あれか?葉山が仮面被らない版か?わりとしっくりくるぞその例え。
「いや待ってください。いくつか質問があります」
「こいつをしばらくこの部活に置いておく。仲良くしてやれ」
「発言権なしですか。オーケー、了解しました」
「お断りします。誰とも仲良くなる気なんて私にはありません」
「んじゃ、頼んだぞ前田。しっかりやれよ、中畑」
ちゃっちゃと部室を出る俺、超クール。
あとごめんな中畑。発言権ないってきついよな。でも仕方ないんだ、あの場はごり押すしかなかったんだ。そのうち教えてやるよ、本当に発言権がないという状況を。
とりあえず、俺と雪ノ下の初会合はいいとは言えないような感じだった。さてと、
「どうなるかね、あいつらは」
こんな感じでやっていきます。八幡の一人称かな?今のところ他のキャラの目線に立って書く予定はないですけど、まぁ気分が変わったらそのうち書くことになります。
出てきた名前はそのときに頭に浮かんだ苗字と名前をくっつけてるだけなので現実にいる人とはなにも関係ありません。同じ人がいたらごめんよ。
それと、いろはすの社会、作文とかは原作とはなにも関係ありません。なんか設定とかあっても流してください。
週一になると思います。ちなみに見切り発車ですので途中で路頭に迷うかもしれませんが、終わり方とか、この場面は入れる、というのは一応いくつか決めてるのでそれに沿ってひとまずやっていきます。
これから、よろしくお願いします!