「ねぇ比企谷君」
「私たちね、ヒッキーのことが好き。もちろん恋愛感情を持って」
「だからですねせんぱい、落としに行きますから覚悟しててくださいね?」
大学4年の始まりに、俺は彼女たちにそう告げられた。
今まで彼女たちと付き合ってきて、意識を一切してこなかった、なんてわけがない。それなりにアピールをされてきていた、気はする。しかし、こうもはっきり伝えるというのは、なんなんだろうか。
「だから比企谷君も、好きなように生きていってちょうだい。私たちの誰かを選ぶ必要はないわ。あなたが本当にいたい人を見つけてほしいの。そのために、今日ははっきり言いにきたのよ」
誰かと付き合うということは、それそのものが人に対して優劣をつけるということだ。だから、俺は今まで避けてきたんだと思う、そういうことを、そういう状況を、そういう感情を。
けれど、彼女たちに、こうも堂々とした態度で、見透かされた上で、こう言われたのだから、俺も腹を括ろう。今まで考えてこなかった分、これからじっくり考えるとしよう。
「あ、でも小町ちゃんとは結婚できないよヒッキー」
あれ、なんで読まれた………?
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「いつぶりかなーこうやってみんなで会うのって」
「まぁ久々ではあるな、この4人で集まるのは」
「ほんとね、誰かさんがなかなか来られないから」
「ほんとですよねー」
ええ、ええ、わかってますとも。すべて俺のせいです。いやでもな、言い訳はあるんですよ。やっぱり仕事が溜まり続けるんですよ。というわけで3人ともその目をやめてくださいお願いします。こそばゆいし。
ということで土曜日。
俺たちは集まってご飯を食べている。いろんな人と一緒にいることが多くなった俺だが、このメンバーでいるときが一番落ち着く。
「まさか比企谷君と一色さんが同じところで働くだなんてね」
「私もびっくりでしたよーほんと。それで初めて会ったときにこんなことがありましてねー」
うん、それについては謝ったやんけ。なんでそうずるずると引きずるんですか一色さん。根に持つタイプなのは知ってましたけどやめてください。
ほら、お二方がカンカンじゃないですか。血祭りでも始めるんですか?対象は俺ですよね?わかってますよ、ははは。
「ヒッキー………」
「比企谷君………」
み、見るなーそんな目で。だめだ、食われる。
「私も抱いてほしいなーヒッキー」
「私のことも抱きなさい比企谷君」
えーそっちー………。
そっちなのかー。まさかそっちなのかー。いやもうなに言ってんのこいつらまで。
「ねぇヒッキー、だめ、かな?」
そうやって涙目で上目遣いとかやめてくださいというかひっつかないでくださいお願いします当たってます当たってます雪ノ下や一色にはないものが。いやもうほんと気持ち良、ゲフンゲフン。
あとなんだか冷えるな、そろそろ夏に差し掛かるのにな。おっかしいなー。
「とりあえず離れろ由比ヶ浜。酒に酔うの早すぎるだろ。これ飲んで落ち着け」
「はーい」
そう言って手近にあった水を彼女に渡す。
由比ヶ浜結衣。社会人2年目。大学は違うところに行った。まぁそもそもみんなで同じとこ行こうとか言わなかったんだよな。こいつなら言うと思っていたんだが、そこは驚いたな。まぁそのあととてつもなく恥ずかしいこと言ってたけど。んで今は、なんか、お金関連のなんかの仕事をやってるらしい。会計士?いやもうその手の道は興味なくてまったく情報を仕入れてないからわかんないんだよな。まぁとりあえず、そういう系のをやっている。まぁそういうの得意だもんなこいつ。お金扱うときだけ由比ヶ浜じゃないもんな。ほんと誰なんだよああいうときのこいつは。ずっとあのままでいてくれよ、なんでアホの子に戻っちゃうのさ。
「それで、比企谷君はきちんと仕事をやれているのかしら?」
その言い方だと俺が社会不適合者みたいじゃないかまったく、心外だな。きちんと適合してるっつうの。飲みに誘われたら仕事があると断り、仕事を押し付けられたら受け取り、毎日休まずに仕事をする。まったく、完全なる適合者じゃないか。なぁみんな、そう思うだろ?ろ?
まぁいいや。雪ノ下雪乃。我らが奉仕部の部長様。現在大学院に進んで研究をしてるそうだ。正直ややこしいこと言われても理解できないから聞いてないのだが、まぁ楽しくやっているようだ。ちなみに高3のときから姉妹で仲良くやっているようだ。その光景は、普通に姉妹だった。それがなんとも喜ばしかった。陽乃さんめっちゃご機嫌だったしな。陽乃さんともけっこうな交流をまだ持っている。切れるもんでもないからな、あの人とは。そして、一応言っておこう。雪ノ下は決局特別大きくはならなかったよ。本人は、まだよまだ終わってないわ、とか言ってたね、涙目で。
あれ、もう春も終わりなのに寒いな。クーラー効きすぎじゃない?
「せんぱいって、生徒にも先生にも人気あるんですよーなんとなんと。すごくないですか?」
「へー、ヒッキーが人気者かー」
「想像、つかないわね」
失礼なやつめ。俺が人気者であるという想像だろ?そのくらい、よゆ、う?あれ、できないや。
まぁとりあえず人気者というのは違うだろうな、俺だもん。やることやってるだけやし。
「それについては否定しておくが、まぁそれなりにはやってるよ。あ、そうだ。おもしろい生徒がいたから奉仕部に放り込んでおいたぞ?」
「平塚先生と同じことやってるの?」
「まぁそんな感じだよな。あいつらほんとおもしろくてなーー」
集まったのが久々だからか、やたらと口が進む。俺たちの話をしているわけじゃないのに。でも、俺たちの話をしてなくても、俺たちにはあのときの光景が思い出されている。雪ノ下との出会い、由比ヶ浜との出遭い(遭うで間違ってないぞ、あれはまさに遭うだ。そして今もまったく改善されていない。というかひどくなったかもしれん。知識をつけてしまったせいで)、一色との出会い。大学に行ってばらばらになってからはなんか、毎日がやたらと寂しかったっけな。
そんな感じに思い出話を交えながら、現在のことを話し合って、俺たちは時間を過ごしていった。その時間はとても早く、過去にとどまることを許されていないかのようだった。もう俺たちはあのころと違ってきちんと前を見ている。過去に執着なんてしていない。もう俺も、止まってはいないし、いけない。
だから、たまには昔を思い出すのもいいだろう。時間は進む。今も、昔も。
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「私は由比ヶ浜さんを送っていくわ。あなたは一色さんをお願いね」
「あぁ、頼んだぞ」
「ええ、あなたこそ」
「それじゃ、また会おうな」
「それは2人きりで、ということかしら?」
変なこと言うなっつうの。こいつも酔ってんな。あーくそ、顔が熱い胸が熱い。飲みすぎたな。
「ふふっ、その顔を見れただけで充分だわ。2人きりででも、みんなででも、また会いましょうね。それと、待ってるわよ私たちは。あなたがよくなるまで」
よくなるまで。だから今はよくない。あれを受け入れても、やはり進むのは怖い。だからいつになるかはわからない。わからないのに、待ってくれると言ってくれる。そのことが、どうしようもなく嬉しく、そして情けなく思う。
「あぁ、ありがとな。一色にも言われた」
「ええ、でしょうね。それでは、また。さようなら」
「じゃあ、またな」
また。
こんな言葉をなんの疑問もなく、抵抗もなく、違和感もなく、俺たちは言えている。そのことが、さらに俺の体温を上げる。
酔いつぶれた2名、由比ヶ浜と一色を俺たちは分担して送ることにした。酒弱いんだからそんなに飲むなっての、まったく。
背中から聞こえてくるのは呼吸。一色の寝息だ。それがどこかこそばくて、おもしろくて、心地よい。いや待てこうやって言うと俺が一色に興奮してるみたいに聞こえるぞ。そういうわけじゃない、勘違いするなよみんな。
「襲ってはくれないんですかーせんぱーい」
「なんだ、起きたのか一色」
「はい、今さっき」
「じゃあもう下ろすぞ?」
「このまま家までお願いしますよー。ふらふらして歩けないですよ今の私ー」
「そのうちなんか奢らせるからな」
「2人っきりで食事をしようだなんてせんぱいも度胸がついてきましたねー」
「そんなこと言ってねぇよまったく」
適当な飲み物を奢ってもらうとしよう。食事を奢らせるのはなしだ。冗談抜きで襲われかねん。
「私、みんなに会えてよかったです。奉仕部にいれて、幸せです」
「そうか」
人格の矯正を目的として作られただけなのに、いさせられただけなのに、それ以上の価値がついてしまうとは。平塚先生には、同じ教師として、同じ大人として、そして1人の人として、尊敬するしかない。
俺も、あんな教師になれるのだろうか。あいつらに、尊敬してもらえるような教師になれるだろうか。彼女たちに、胸を張れる大人になれるだろうか。
「せんぱいなら、大丈夫ですよ〜」
また寝やがったよこいつ。まぁでも、寝言に励まされるのも悪くはない。
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「春の訪れをーー」
一色の送辞。あいつもなんやかんだできちんと仕事ができるようになって、生徒からも教師からも、信頼も集めている。最初のいやいやが嘘のように。
とはいえ、こういう式での言葉というのはきらいだ。仕方のないことではあるが、やっぱり嘘をついたり表面飾ったりと、俺は好きにはなれない。一色の、そういう姿は、見たくない。本物が欲しくなったと言った、願った彼女の、そういう嘘を、俺は見たくない。そう思い俺は目を伏せる。
マイクで拡大される音は俺の耳には雑音としか入ってこない。のだが、急に雑音が大きくなった。そこら辺からざわざわと音がしている。なにがあったのかと思って目を上げてみると、送辞文をたたんでもなお動かない一色がいた。
「これを読むだけじゃ、一番お世話になったせんぱいに笑われてしまいます。だからみなさん、しばらく私のわがままにお付き合いください」
生徒のざわざわは収まったが、今度は逆に教師の方でざわざわが起きている。おいおい一色、そんなことして大丈夫なのかよ。俺らなら仮に今なにか起こしても問題ないんだろうが、お前はあと一年あるだろ。
「あの部屋に紅茶の香りがしなくなって半年ほど経ちました。私は本当にあの部屋が、そしてそこにいるせんぱいたちが好きだったようです。雪の溶けた綺麗な笑顔、明るい太陽のような笑顔、捻くれて引きつった笑顔。どれも、私の記憶から離れることがありません。寂しさが、溢れてきます。縮まらない一年が、こんなにも辛いものだなんて、思いも、しません、でした。でも、せんぱい、私は必ず追いついてみせますよ!せんぱいの元へ、追いついてみせます!だから、だから、せんぱい、は、前を、歩いて、いって、ください、ね。せんぱい方、ほんとうに、ありが、とう、ござ、い、ま、した」
後半は、もう泣いていた、一色が。俺は泣いてない。びーびー泣いてる由比ヶ浜とかいうやつとは違う。違うが、まぁ、心にはきました。泣いてないけどな。前が見にくくなってるだけで泣いてないからな。
………変なことすんなっつうの、あのばか。
どこからともなく発せられる拍手の音が体育館を埋めていた。そんななか、続いて卒業生の答辞。読むのは葉山。もう知らん、どうでもいい。
「在校生にあんなかっこいい姿を見せられたら、俺がこれを読むわけにもいきませんね」
おいおいおい。いいのか葉山。お前そんなやつじゃなかっただろ、一体どうしたんだ。その答辞の紙って床に落としていいもんじゃないんじゃないの?
「俺は、こいつには絶対に負けたくないという相手がいる。そういう相手が、高校生活の中で見つかった。俺とは違う考えを持っていて、俺にはできないことを平然とするやつが。でも、俺はそいつに結局勝てなかった。だから、いつかは負かす。そんな、目標を見つけた。やることを、やりたいことを、見つけた」
おい、こっちを見るな。あぁもうなんなんだよあいつ。目そらせねぇじゃねぇかよ。
そしてどこぞの海老名さん、赤いですよ。
「それから、サッカー部ではーー」
卒業式。ただの慣習として行うものだと思っていたが、そうじゃない人もいるということがわかった。
卒業式なのだ。
俺たちは旅立つ。だから、やり残したことは片付けなければいけない。片付け方は人それぞれだが、あの2人は、本物を願った彼女と期待よりも自分を優先させるようになった彼は、どうやらこの場でそれをしたようだ。俺が、いや俺たちがする場所は、きっとあの場所だろう。
今日で、卒業だ。
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「筆者の言いたいことは、こういう接続詞からも読み取ることができる。特に時間の限られたときには有効だ。これを追うだけでも答えにいけるときだってあるくらいだ。だから授業のうちからきちんと接続詞に印をつける練習をしておけ。日常やってることが、入試には力になる」
教師というのは難しい。そりゃ、難しくない職業なんてないんだろうけど、教師には教師の独特の難しさがある。国語教師としては問題の解き方ではなく文章の理解の仕方や入り方、さらには作品の素晴らしさとかを教えたいが、そういうわけにもいかないのが難しい。問題を解くことに意識をして、作品そのものに目がいかないというのは正直辛い。難しいなほんと。こういう悩みは国語教師特有のものだよな、きっと。
「今日は職員会議があって授業後は質問に答えられないから質問のある人は昼放課に来てくれ。以上終わり」
教師というものにもいろいろな人がいる。
俺としては、質問にはぜひとも来てほしいからこうやって自分の空いている時間を伝えるんだが、そうする人はなかなかいないらしい。まぁそりゃ好き好んで自分の仕事の時間を削る必要もないからな。
けどまぁ、俺には俺のやり方があるからな。そのせいで土日にまで仕事を持ち越さないといけない状況が生まれるわけだが。
実際、それを言ったら彼女たちには呆れられた。そしてみんな、口を揃えて、俺らしい、と続けるのだ。まぁ仕方ないな。
ただ問題なのが、
「せんぱーい。この仕事お願いしますねー」
仕事を増やしてくるやつがその中にいることだ。
「はぁ、なんでこんな目に」
こんな目にあってしまうのは俺が一色に甘いからであり、こんな目になってしまったのは性格の問題だろう。
ため息をついて、俺は筆を走らせる。
しばらくは八幡メインで奉仕部はほぼ放置です、たぶん。まぁあれです。こういうのを入れたかったんだぜ。っていうの持ってきます。
奉仕部はそのあとになってきます。
とりあえずガハマさんが書きにくいことがわかりました。ゆきのんやいろはすはすらすら書けるんですけどね。なかなかできないものです。
あと、八幡が誰かと結ばれるとかそういうのは今のところ考えてないです。たぶん結ぶけど。
次もよろしくお願いします。