中畑を奉仕部に入れてから一週間経った。
ときどき様子を見に行ったが、特別なにか会話をしているわけではなかった。さすがの中畑も、前田の雰囲気に当てられて話しかけられなかったってことなんかね。コミュニケーションおばけなんだけどな、あいつ。
そして、座っている場所だが、俺と雪ノ下の座っていた場所と同じだった。廊下側端に中畑、窓側端に前田。この2人のやってることは、まぁ俺が見ていた限りではというだけだが、本を読んでるか勉強である。学年1位2位なだけあって勉強は欠かさないようだ。あと、2人とも他の部活には入っていないから毎日いる。一応調べておいた。そして、俺が連れて行かなくても行くあたりきちんとしている。ほんと、平塚先生ごめんなさい。
と、あの2人のことばかり気にしているわけにはいかないこの時期。一学期中間テスト、それを終えれば職場体験。今回の2年の現代文のテストを作ることになっているし、クラスを持つがために職場体験関連の処理がある。これらの同時進行はきつい。
まったく、なんでもっと早くテスト作成担当者を決めてくれないのかね、上の連中は。そんなことは当然言えないが、もっと早くに決めてくれてもいいだろうに。テスト範囲が決まってないだのなんだのと考えているんだろうが、慎重に作りたい俺としてはきつい。やはり定期テストでも真剣に受けてほしいから訂正なんてないように作りたいし、より実践的に作りたい。もちろん定期テストの目的からそれない程度に。
くっ、これが社会か。傲慢な上司に無理矢理付き合わされる部下。うーん、これが社会か(2回目)。
定期テストまで2週間。別にやらなくてもいいんだが、俺は作ったテストを他の国語教師にもやってもらいたいから今週にはテスト作成を終わらせなければいけない。これは土日も学校だな。
「ははは………」
渇いた笑いが思わず溢れるのだった。
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金曜。労働においておそらく最も楽しい日だろう、職によっては。土日が休みの職場なら金曜の夜は遊び放題だ。きっと同僚たちと飲み会をしているのだろう。そして今週の俺はそれができない。きついっす。まぁしてるのは飲み会ではなくゲームだけど。
奉仕部も一応部活動である以上、テスト1週間前からテスト終了までの、つまるところのテスト期間中は休みである。だからそのことを知らせなければならないということを思い出した。特別棟遠いんだよなぁ、まぁ行くけど。あいつら気になるし。
ノックをしてから入る。みんなもノックはちゃんとしような!
「ちょっといいかお前たち」
いつもの位置にいる2人にそう声をかける。テストまで2週間を切ってる状態であるからか、今日は2人とも勉強をしていた。おそらく2人で教えあったりなんてことはないだろうことはなんとなく雰囲気でわかった。進展しねぇなこいつら。人のこと言えんけどさ。
「なんですか先生」
「なんですか先生」
………仲良いですね、お2人さん。
「テスト期間はこの奉仕部も休みになるから来るなよ、ってこと伝えにきた」
片方は、まぁそうだろうな、という顔をした。たぶんそういう顔だと思う。雪ノ下ってほんとに表情わかりにくかったからなーあってるか正直自信ない。頑張れ前田。んで、もう片方は、へぇって感じ。
「この部ってちゃんと部活だったんですね」
すまんな、ほんと。たぶん、たぶんなんだけど、前田がきちんと説明してないんだろうな。そのうち困り人を連れてくるということくらいは言っておいたし、この部の目的もなんとなく伝えておいた。はずだ、前田には。前田、そのくらいは言っておいてやれよ………。
「きちんとした活動はテスト終了後からだ。テストがんばれよ。んじゃ」
言うことだけ言ってとっとと消える。いわゆる、あとは若い人たちで、というやつだ。こいつら会話とかしなさそうだけど。少なくとも俺が職員室に戻るときに部室から声は聞こえなかった。
それと、さっきさらっと言ったが、実際に困り人はいる。自分のクラスの生徒に相談された。ちなみに、木炭を生成するような依頼ではなく、クラスのいざこざだとか。葉山の依頼みたいなやつだな。よかったなあいつら。木炭は食べていいものじゃないからな。
まじで食べたくないよぉ、助けて。未だに食わされる俺を、誰か助けて!
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「あーこいつまたやってるし」
ちゃんと問題文読んで最後気をつけろって言ってんのになーまったく。これで相当点落としてんだもんなもったいない。
「おーこっちは成長したな」
前回失敗したところがきちんと治っている。こういうのを見ると嬉しいものだな、やっぱり。まぁ別に俺の功績じゃなくて本人の努力した結果だけどな。
さっきからなにをしているかというと、先日あった中間テストの採点をしている。運良く現代文も古典も最終日にはなかったから余裕をもって採点できている。ほんと、最終日の採点とかきつい。最悪その翌日に返却だからな、まじで死ぬ。
「終わったー」
やり遂げたときの、この、開放感。もうね、やばいよね。勢いよくさっきまで持っていた赤ペンを飛ばす。もちろん机には教科書とか置いてあるからそこで止まるため周りに迷惑はかからない。
「F組の古典どうでした?比企谷先生」
「こんな感じですね。平均点と最高点です」
「相変わらず比企谷先生の教えるクラスは点高いですね」
「生徒がたまたま優秀なだけですよ」
俺に話しかけてきたのは竹本愛里先生、俺と同じで国語教師をしている。ここには新任で来て3年目となる、つまりは俺の1つ上の先輩だ。F組の担任。クラスの生徒からはあまりよくは思われてないらしい。というのも、本人に自覚はないらしいのだが、みんなの前に立ったときの声が強いんだよなこの人、俺も聞いたことあるけど、けっこうなものだった。ただ、それは本人曰く、緊張でそうなってしまうらしい。2人で会話するときは普通にできてるのにな。
彼女が来たのは俺の採点した古典の結果を取りに来たからだ。彼女が今回の古典を作ったため古典の集計を行うこととなる。
ようは俺も現代文でやることになるわけだ。国語教師全員集まっての定例会とかもあるから別に知り合いではあるからいいんだけどさ全員と。ただ、職員室に席ない人のところに行くのがだるい。
「私のクラスの分の現代文渡しときましょうか?」
「いや、あとでまとめて取りに行くのでそのときにお願いします」
「わかりました。それでですね、ええと、その、比企谷先生」
「どうしました?」
「え、えーっと、その、あー、いえ、なんでもありません。すみません」
なんか言いにくいことでもあったんかね。もぞもぞしてて言いづらそう。さすがの俺でも社会に出た以上、最低限のマナーというか気遣いというか、そういうのはできるようにしたぞよ。いや、マナーも気遣いもぼっちのときからできてたんだけど、この場合のマナーや気遣いというのは、相手のしたいことを察してそれを促す、というものな。ぼっちのときは相手のしたいことを察してそれを封じる、というものだったからな。
「まぁなんかあったらLINEしてください」
「あっ、はい。ありがとうございます!」
ほらな。彼女は喜んで自分の机に帰っていった。
顔を少し赤くするくらいには緊張する内容だったんだろうな、きっと。向こうむく前に見えた顔が赤かったから。まぁたぶんクラスのことなんだろうな、また。たびたびそういう相談受けてるし。いろいろとアドバイスみたいなことはしているんだが、やっぱり効果は薄い。難しいよなほんと。
それにしても、いやー、人の気持ちを察してあげるとか、俺マジ社会人の鑑。大丈夫、労働内容的にまだ社畜じゃない。大丈夫だ、問題ない。これならまだまだ働ける、俺は今社畜じゃないね(錯覚)。
というふうに脳内でいろいろなやりとり(独り言)をしていたら、急に冷えた視線を感じた。それは背後から浴びせられているものだ。これはあれだ、もうだめだわ。俺の命もここまでだわ。一体誰なのだろうか、こんな暗殺人を雇ったのは。この殺気、間違いなくそれだ。そして、なぜか俺の周りに人いないし、きっと誰にも発見されずに時間がすぎるんだろうなぁ。さぁ、一思いにやってくれ!
「せんぱーい、あの人と仲良さげですねー」
視線の正体はなんと!一色のジト目でした!
………なんだこのノリ。
「そりゃ、同じ国語教師なんだから仲良いに越したことないだろ。お前だっていろんな人と仲良くなっただろ?」
「そういうこと言ってるわけじゃないんですけどねー」
そんな拗ねなくてもいいじゃないですか一色さん。別にただ仲が良いというだけですよ?そういうやましいことは一切ありませんよ?ほんとだよ?
「そんなんじゃねぇよ、だからその目をやめろ」
この一色いろはという女。その見た目やら愛想の良さやらで教師からも生徒からも人気がある。女子にはほどほど、男子からはとても。高校生のときとは違って女子から人気がないというわけではないのは先輩として嬉しい限りだ。
教師が大人ということで、俺が一色と話してても変な視線を受けることはないが、なんだろうな。周りの目が痛い。そしてそれが気にならないくらいに、こいつの目が痛い。
「あの2人にも報告ですねっ」
にこっ、と笑顔の一色さん。とても怖いです。いやほんとまじで怖い。
そしてその爆弾はいけない、落とさせてはいけない。
「いや待て待ってくださいお願いします一色さん。まだ早まるな。話せばわかる」
「せーんぱい」
「は、はい。なんでございましょうか一色様」
「私今日このあと夜ご飯外で食べようとか思ってたんですけど〜、お金持ってなかったんですよね〜」
前者はともかく確実に後者はダウト。お金持ってないとかありえない、こいつが。ダウト当てたらカード押し付けれるんだよね?今のこの状況押し付けれるんだよね?誰に押し付けるんだろう。これの発端はーっと、俺やん………。
「よし、じゃあ一色、今日どこか行かないか?もちろん俺のおごりで」
「ありがとうございますせんぱい!やっぱりせんぱいって良い人ですね!」
くっそこいつ………。
いつか痛い目に合わせてやる。もちろんその前に俺が痛い目見るから実行されることはないんだけどね!
「じゃあ少し待ってろ、片付けるから」
「はーい」
そそくさと片付けを始める。テストの採点をしていたからといっても、別に汚いわけではないからそんなに時間はかからない。
運がいいのか悪いのか、俺の現在の手持ち金はそれなりにある。しかし、一色の意図するような場所に連れて行くのも癪だな。オサレ(笑)なところにでも行きたいんだろうが、どこというのは契約範囲外だ。だから店は指定させてもらうぜ!
「なぁ一色」
「なんですか?私ラーメンでもいいですよ?」
こいつ………。
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「いやーご馳走さまでした。ありがとうございますねせんぱーい」
「はいはいそりゃどうも」
自分で奢らせたくせになにを言ってるんだくっそ。しかし一応でも感謝の言葉を言えるのはいいことだ。そういうことすら言えない人もいるからな実際。
「せんぱい」
「どうした?デザートか?」
「あっ、いいんですか?それじゃあご馳走になりますねっ」
やらかした………。
しかしこのタイミングだとこれだと思ったんだがな、こいつの言いたいこと。
「まっ、それはいいとして。まだ答えは出せそうにありませんか?この間お二方にも会って、それでも出てきませんでしたか?」
真剣な声音で彼女は問うてくる。俺が大学生で受け取った宿題はできたのかどうかと。また、きちんと答えを出そうとしているのかと。
「………いや、それは、すまん」
「仕方ないですね、せんぱいは。でも、ちゃんと出すんですよね?そうやって、小町ちゃんと約束してましたもんね」
「わかってんならわざわざ聞くなっつうの、このばか後輩」
「てへっ」
告白を受け、その返事を未だに俺はしていない。できていない。その人たちを待たせている。
「今週末、小町に会いに行くけど一緒に行くか?」
そう聞くと、彼女は少し考えてから答えた。なにかに納得したような表情を浮かべて。
「いえいえ、兄妹水入らずで話してきてくださいよ。そのデートのお誘いはまた別の日にお願いしますね」
「別にデートに誘ったわけじゃねぇっての」
なんとなく小町に会いたくなった。というだけの理由で会いに行くと怒られそうだな、小町に。
掃除とかは親父たちが定期的にやってるって言ってたからきれいだとは思うが、まぁそれも兼ねてだな。
「小町ちゃんによろしくです。今度はみんなで行くって言っておいてください」
「わかった」
奉仕部の活動は来週からだし、今週は別段忙しくない。相談したいことができて、それの報告がメインの理由。会いたいというのももちろん理由の一つ。なんとなく、突発的に相談、というか報告をしたくなってしまった。
もう変わることのない、お前に、な。
今回は文字数が少ないですね。ここから先を書くと長くなるんで切りました。
ここからけっこうな行数、高校のシステムの補足です。
学校の科目で国語は現代文と古典に分かれていて、テストも別々です。また、それを作る先生も別々です。1つのテストを一人で作ります。そして、テスト結果をテスト作成者は作らなければいけません。平均点やら最高点やら最低点やら分散やら、です。テストの採点はその科目を教えてる人がします。例えばこの話だと、F組では現代文は竹本先生が教えているからF組の現代文の採点は竹本先生が、F組の古典は比企谷先生が教えているからF組の古典の採点は比企谷先生が行う、といった感じに。高校によって制度が違うと思ったので書いておきます。ちなみにこのシステムは自分のいた高校でのものです。
ふぅ。とりあえず今までは2、3話書き溜めをして投稿してたんですけど、学校が始まるからどうなるかが不安です。もしかしたらどこかで1、2週消えるかもしれませんが、最後まで物語は書くつもりなので、よろしくお願いします。
過去に描いた話は勉強に時間が吸われてできなくなっちゃいましたので、この話はきちんと終わらせられるように頑張ります。
ではでは、また来週会いましょう!
さよなら!