「くわぁ………」
短い、短い、夢。
俺にとって、とても大事な、夢。
一瞬のことのように、過ぎてしまった、夢。
俺から離れていった、夢。
そんな、夢から覚めた。目を開けて、そこにあるのは見慣れた天井、ではなく陽乃さんの寝顔だった。
すべてを魅了するような目は、つぶっていても変わることなく美しい。長く整ったまつ毛は、その美しい目をより引き立てている。重力に従い流れている髪は、どれほどの手入れをしているのか一つとして外れているものはなくすべてが揃っている。ほんのり朱を帯びた頰は、整った顔をほんの少し幼くさせる。呼吸をするために少し開いた口と、そこにあるきれいな桜色の唇は、その呼吸とともにすべてを吸い寄せるようにーー
「ひぁえっ⁉︎」
なあああんで、なあああああああんで、陽乃さんがいるんですかね⁉︎ね⁉︎しかも真正面向いて寝ている。なんで?まじでなんで?なんなのん?驚きすぎて変な声出てるしさ。
「ふわぁ。あぁ、比企谷君じゃん。起きたんだね」
俺の叫び声(奇声)がおそらく原因となり、陽乃さんが起きた。
眠そうに目をこすり、その姿は幼い女の子のようだ。
いや、今はそんなことはどうでもいい。陽乃さんのかわいさとかどうでもいい、放っておく。それよりも、
「なんで一緒に寝てたんですか?」
えーっとー、と前置きをして、続ける。
「比企谷君が勝手に寝ちゃったから、かな?」
無理矢理寝かせた本人にそんなこと言われましても。
「俺が早く起きて襲ってたらどうするんですか?」
「えー、別に好きな人にならなにされてもいいよ?まぁ比企谷君はそんなことしないだろうけどさ。だから好きなんだけどねっ」
「………そうですか」
彼女には、去年の夏に告白された。雪ノ下たちの話をしたら、その勢いでされた。んで、いろいろと覚悟ができたら返事をしてほしいと、彼女たちと同じように言われた。ちなみにそのことはみんな知っている。
そして、目をそらした俺へ、彼女は指をのばし、目元を拭った。
「それよりも、さ。ちゃんと小町ちゃんと話せたんだね」
優しい、包むような笑顔で、言った。
「はい。ちゃんと、話して、きました」
夢の中で、小町と会って、いろいろと話してきた。
もう話せないから。もう会えないから。夢の中だけど、それでもきっちりと、話してきた。
できる限り、いろいろと話した。けれど、俺はやはり一人では無理だ。今まで小町と散々助け合って生きてきたのだ。最後は借りを作ってしまう形ではあったが。だから、妹離れはできそうにないし、する気もない。これからも心配かけまくってやる。お前に言った通りな。だから兄離れもさせない。
それで、それでさ。お前が困ったら、また助けてやるよ。な、小町。
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「この間言ったことは覚えてるか?ここがそれと似てるよな。っていうことは?」
「あ!そういうことですか!こういうことですね?」
「よしよし、できてるぞ」
「ありがとうございます!またお願いしますね!」
「おう、いつでも来いよ」
授業後の質問タイムだ。いやー、やっぱり本人にやる気があると教える気になるな。もちろん、やる気を出させるのも教師の役目だが。
それにしても、俺の言ったことをきちんと覚えていてくれてるってのはいいもんだな。心ルンルンである。
鎌田の依頼の一件が終わり、それから時間は流れた。あれから、前田と中畑の間で、少し変化があった。あいつら2人のときに、けっこうな会話が行われているのだ。まぁ俺がただ今までその場面を見てなかったっていうだけかもしれないし、あの件からではなく職場体験のあとかもしれないが。
そして期末テスト。今回俺はテスト作成者ではなかったから特にやることもなく過ぎていった。
そうして訪れる夏休み。学校の喧騒は去り、静かな日が多くなった。そして、俺がそれを知っているということは、俺はその期間学校に行っているわけだ。暑くて倒れるとまずいから夏休みってあるんだよね?なんで教師に夏休みがないの?なんなの?ちなみにお盆休みはお盆休みだから夏休みではない。
さてさて、そんな夏休みだが、今年は今年で奉仕部の活動である。あれからもちょくちょく依頼人はいて、それを流してはいるが、どうなったかとかは知らない。まぁでも、依頼人はけっこうすっきりした感じの顔だったし、おおよそは解決しているのだろう。
そんな奉仕部、夏休みの活動は、千葉村である。サポートスタッフとして、あ、知ってるから説明しなくていい?ならしなくていいや。
しかし、俺は自動車の免許を持っていない。ということで持っている一色に頼んだ。一日一色に付き合うということで同意を得た。くっ、代償は大きいぜ………。
そういうことで、事前に聞いておいたメールアドレスにメールをし、2人とも行くということで問題ないとのこと。ただ、他にも誘っていいかと聞かれた。もちろんOKしたが、一体誰を連れて来るというのか。ちなみにそれ言ったのは中畑な。前田にそんな人はいないはず。
集合場所は学校だ。俺は一色と一緒に行くことにした。まぁ家近いしな。ということで今は学校に向かっているところだ。
「それにしても、なんでサポートスタッフなんて引き受けたんですか?」
「いや、引き受けたんじゃなくて押し付けられた、な。下っ端に拒否権はないんだよ。生徒と協力して、なんて文面もあったし、貼りだしたりしないといけないからめんどい作業でな。だから上に押し付けられた」
なんか、会議室に呼び出されて以来、俺の口が悪くなった気がする、上の連中に対してのときだけ。うぅむ、いろいろとまずい気がする。
「ほへぇ、大変なんですね」
「いや、別に大したことはやらねぇよ」
ほんと、大したことはやらない。押し付けられた云々言ったが、別に今回に始まったことじゃない。去年もした。一色が知らないだけだ。まぁ俺が言ってないんだからそんなこと知るよしもないだろうけど。
「せんぱいが高校生のときはやったんですか?」
「あぁ、戸塚が行ったからな」
より正確に言うのであれば、平戸塚が来ることを予見いていたからだが。べ、別に小町や平塚先生にはめられたからってわけじゃないんだからね!
「そういうことですか」
なにか、納得のいった顔をして一色は言った。一体なにに対してそういうことなのだろうか。まぁ気になったから聞くけどな。今さら一色に遠慮はしない。むしろ一色にしてほしいレベルだ。
「どういうことだ?」
「私が生徒会長になってすぐあとにあったクリスマスパーティのとき、やけに1人の女の子にべったりしてたなーって。その子とはそこで知り合ったんですね」
クリスマスパーティ、カタカナ、ロジカルシンキングで論理的に………。やばい、思い出してはいけないものを思い出してしまった。
って違う違う。そっちはどうでもいい。今はもう関わりないし、知らん知らん。
1人の女の子、鶴見留美のことだろう。独りだった女の子、今はもう独りではなく、ただただ普通の1人の女の子。それが、今の鶴見留美だ。とはいっても、もともと大人びた雰囲気できれいだった彼女は、普通とは言い難いほどに美人になっていた。
なんで知ってんのかってのは、まぁそのうち話すとしよう。
「せんぱいのことですから、そのときもなにかを解決したんですよね?いつものように」
「いや、それは違う」
「え?問題が起きないとせんぱいは誰とも話せないような人ですよ?コミュ障レベルMaxのせんぱいですよ?まさか普通に話しかけたわけでもないでしょうし、一体………」
俺への評価に、全米が泣いた。もちろん全米は馬鹿笑いしてな。そして俺も泣けてきた。もちろん、評価が酷すぎて………。
「あぁ、せんぱいはロリコンでしたね」
「いや待てそれも違う。シスコンであってもロリコンじゃない」
「どっちでもアウトですよせんぱい………」
うじゃうじゃ言ってる一色はもう置いておこう。
「お前の俺に対する発言はあとで制裁を下すから置いておくとして。そのときに俺がしたのは解決じゃなくて、ただの解消だ」
そう、ただの解消だ。解決なんて、そのときの俺はしていない。そういうことをするようになったのは、あれからだからな。
「その2つの違いが私にはわかりませんけどね。問題がなくなったらそれでいいんじゃないですか?」
「それでよくなかったから、クリスマスパーティのときにああいうことをしたんだ」
「なるほどです」
間違えて、間違えて、そして正しい答えを見つけていく。俺が本当の意味で、自分の過去に後悔をし、改めた、初めてのことだ。真夏の暑さから、真冬の寒さに変わって、ようやく終わったサポートスタッフの活動だ。
ところで、と一色は話を変える。
「せんぱい、あとで制裁を下すとか言ってましたけど、今せんぱいの乗ってる車のハンドルを誰が握っているか知ってます?」
いたずらめいた声音で、一色は俺に聞いてきた。実質の死の宣告である。
「え、お前なに心中するの?まじでやめてくださいお願いします。まだ小町と会う気はないんです」
「せんぱいは地獄に行くんで小町ちゃんとは会えませんよ?」
「お前………」
そこは兄妹感動の再会を思い浮かべてろよ。なんで俺が地獄に行って会えなくなるんだよ。ねぇ神さま?違うよね?
「それに、私心中とかする気なかったですし。助手席だけ当てて、せんぱいだけを………」
「まじですみませんでした一色さま」
助手席が一番死亡率高い理由ってこれじゃないよな?大丈夫だよな?
………ん?する気、なかった?
「せんぱいは私の心の中で生き続けるんです!って言おうとしてたんですけど、たしかに心中もいいですね。来世では結ばれましょうね?」
怖い怖い怖い、一色が怖い。とりあえず一色の顔が見れないほどに怖い。
だが、そんなことをしてもらっては困る。困るのだ。
「んなことするなよ。お前に死んでほしくないし」
「ふふっ。そうやって自分のことよりも先に私のことを言うなんて、うっかり抱きしめてしまいそうですよ。好きすぎて」
「そんなことやったら冗談抜きで死ぬぞ、2人とも」
あと好きとかもさらっと言わないでください。全然耐性ついてないからどうしていいかわからないんです。それと一色さん、今はまだ朝だから夕陽は仕事しないんですよ。
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体が浮かぶように軽い。ふわふわと、宙をさまよっている。宇宙空間っていうのは、こういうものなんだろうかと思えるような、漂い。
んで、ここどこ?
「およ?お兄ちゃんじゃん」
後ろから声がかかる。
お兄ちゃんと、そう俺を呼ぶのは1人しかいない。
………あぁ、そういえば陽乃さんに気絶させられたんだった。まぁ俺の望んだことではあるが。まさかこうなるとは。
「どしたの?こんなところで」
「まぁ、いろいろあってな」
「いろいろ、ね」
「あぁ、いろいろ、だ」
懐かしいやり取りに感動を覚える。心が躍る。全身が震える。
ってか、なんで小町いんの?俺どうしちゃったの?あれ、もしかして陽乃さん力加減間違えちゃって、俺死んじゃったのん?
「なぁ小町、俺って死んだの?」
「死んでないと思うよ?たぶんお兄ちゃんの夢の中でしょ。小町は知らないけどさ」
夢なのにやたらとリアルに返しがくるな。幽霊って夢に干渉できたりすんのかね。まぁそれならそれで、いいたいことを言っておこう。
「俺、お前いないと生きていけないわ」
「え、なにそれ。いきなりなんなの。シスコンこじらせすぎ………」
なんかドン引きされた。あのさぁ、夢の中なんだからせめてその反応はやめていただけませんかね、小町さん。
「でも、そっちの方がお兄ちゃんらしいよね、やっぱり。小町は心配でゆっくり眠れないけどさ」
やれやれ、といった具合に呆れ顔を披露する小町。すげぇかわいい。やはり天使か。
「ふっ、俺は一生お前にめんどうみてもらうつもりだぞ」
「うへぇ、この人やだなー。それじゃ、お兄ちゃんが離れないなら、小町も離れないとこうかな」
「おう、そうしとけ。兄離れもさせねぇよ」
そう、俺は妹離れしないし、小町は小町で兄離れなんてさせない。互いを補ってのこの兄妹だ。
というか、
「お前、少し背伸びたか?」
「半年で伸びたんじゃない?」
死んでも霊ってのは成長するらしい。成長、するらしい。
「お兄ちゃんはだめだめですなぁまったく」
………そうだよ、俺はだめだめだよ。お前がいなきゃなにもできないほどに。
「最後くらい、笑った顔見せてよさ。お兄ちゃん」
………そんなこと言うなよ。最後なんて言うなよ。そんなん言われて、涙は が止まるわけないだろ。
でもまぁ仕方ない。かわいい妹のためだ。せめて笑ってやろう。涙は止まらなくても、笑うことはできる。
「ありがと、お兄ちゃん」
小町編、終了であります。
長かったですね。けっこうな量を描いたと思います。
個人的にはいい感じに進められたかなと思っています。今のところの予定では、小町の登場はあと1回ですね。まぁ増えるかもしれませんが。
奉仕部の方では、ついに訪れた夏休み。そして千葉村。どうせなにか起こるんだし、そのときに彼らは一体どんなことをするのか。
そしてどのくらいの量になるのか。今のところどうするかの予定はほとんどないです。
そして、なして八幡たちはまだ千葉村にいないん?
という感じで、今日は終わりましょうか。
ではでは、また来週会いましょう。
となるところなんですけど、描き貯めができなくなってきました。
大学やら資格やらで全然こっちに手が回らなくなってしまいました。
ということで、勝手ながら、週一投稿から二週に一つ。とさせていただきます。まぁそもそも勝手に描いてる作品だから勝手なのは今更なわけですけど。
ということで、楽しみにしてくれている人にはさらに待たせる形となります。今後とも、この作品やら作者やらを、よろしくお願いします。
感想とかは今まで通りすぐに返すと思いますけれど。
ということで、今度は再来週に会いましょう。さよなら!