――1――
猪……のような動物が此方に向かって歩いてくるのを木に登って上から眺める。
能力で一撃でアレを昏倒させることが出来る程度に力を上げる。
「…………今だっ!」
獲物が真下に来たところで飛び降りて、脳天に拳を落とす。
声を上げる暇もなく昏倒した獲物が確実に意識がないことを確認して持ってきていた縄で縛り上げ、また能力を使い軽々と持ち上げた。
今日は大物が獲れた、と俺は気分も良く歩き出した。
○
この世界――多分確実にリリカルな世界――に来てしまってから十日あまり経ち、俺は今、ル・ルシエの里で厄介になっていた。
勿論、ただで人一人を養うほど里も豊かではないため、宿を借りる代わりとしてこうして狩った獲物を提供しているのだ。
狩り自体は能力の確認の副産物であるため苦にはならない。
一番最初の獲物は能力を上げすぎて、この世界に来たばかりの頃に出会った狼のような生物のように肉片が飛び散ってしまったうえに、俺が殴った所を中心に五メートルほどのクレータが地面に出来てしまった。
それから怖いというのもあるし、そんな機会がないというのもあって、能力でどこまで力を上げられるかというのは確認できていない。
まぁ、それは追々分かっていくと思うので置いておいて……今、一番重要なのは、
「またここにいたのか」
里の外れで肩に小さい白い竜を乗せて膝を抱えて座り、里の様子を伺っているキャロのことだ。
あの日――俺がこの世界へやってきた日――キャロは白い竜、フリードリヒを召喚した。キャロが必死に止めようとしたこともあり、幸い村に被害はあまりでなかったのだが、あれほどの力を持つ竜を召喚したことによってキャロは里人から避けられるようになってしまったのだった。
「……ショウヘーさん」
キャロは泣きそうな表情でこちらに視線を向けた。
あ、ちなみにショウヘーとは俺の事である。
浅月(あさづき) 翔兵(しょうへい)、それが俺の名前。
「こんなところで何してるんだ?」
「わたしがいると……みんなが傷つくから」
顔を俯かせるキャロ。
「傷つく……ね」
言いながらキャロの肩に乗っている竜を見る。
白い飛竜、フリードリヒ。
今となっては、あの巨大な竜も見る影もなく可愛らしくなっている。
「わたしはまだフリードを上手く制御できないですから」
キャロがフリードと言った瞬間、肩で「キュクルー」と鳴く姿からはとても暴れるとかいった雰囲気は感じられない。
けど、確か原作ではこれが原因で里を追い出されるんだよな。
「ま、すぐにどうこう出来る問題じゃなさそうだな」
「……はい」
「それよりさ、今日は大物捕まえたんだ。一緒に食おうぜ」
キャロの手をとり立ち上がらせる。
ここ数日毎日の事なのでキャロも抵抗することなく着いてくる。
今日は焼肉にしようか、それとも鍋にしようか。
あれは見た目どおり猪肉近い味なのだろうか? だとしたらやっぱり鍋か。
とりあえず里の長に渡した獲物も捌かれてることだろうから肉を貰いにいかないとな。
「では……やはり」
「…………うむ」
村長宅前に着くと、中から数人で話し合う声が聞こえてきた。
「キャロには……村を出て行ってもらうしかないじゃろう」
やけにハッキリとその言葉が聞こえてきた。
「…………」
立ち止まったキャロえの様子を見てみると、目に涙を溜め、繋いでいる手は微かに震えていた。
「あの力は危険ですからな。当然でしょう」
「そうです。あんな力は争いと災いしかもたらしません」
中からは安堵、安心したような言葉。
それを聞いたキャロは俺の手を振りほどき走り去ってしまった。
「…………くそ」
誰に言うでもなく呟いて拳を握り締める。
キャロをここにつれてきてしまったことに俺は後悔した。
フリードが暴走してキャロが追放される……俺はそれを知っていたのに何もしてこなかった。それを今更後悔したところでどうなるわけでもない。
だったら、これからのことを考えよう。
その方がずっと建設的だ。
まず、キャロは追放される。それは原作から見ても確実だ。
ただ、その後どうなるか……フェイトに保護されるまでの間はあまり原作で触れられていない。
追放から管理局に保護されるまでにも少しの間があったはずだ。その間、キャロは一人と一匹で旅をしていたような描写が漫画版であった記憶もある。
だったら――俺は覚悟を決め、長の家に入っていった。
○
「よう、キャロ」
里から少し離れた場所にキャロはいた。
泣いていたのだろう、目は赤くなっていた。
「わたし……どうすればいいんでしょうか」
「どうすれば……って?」
「里を出て……どこに行けばいいんでしょうか」
「里に残るってことは考えないのか?」
「わたしがいると……みんなを巻き込んでしまいますから」
「それでいいのか?」
「……はい。わたしも、わたしの所為でみんなを危ない目にあわせたくないです」
キャロは里を出ることを自分で納得してしまっているようだ。
「じゃあさ……どこに行けばキャロの力は危険じゃなくなるんだ?」
「…………っ」
俺がそう言うとキャロはビクッと肩を震わせて俯いてしまった。
うわ~……俺ひどすぎる。なんつーことを言うんだよ。
「だからさ……ちゃんと制御できるようにならないとどこにも行けないんじゃないかな」
「じゃ、じゃあ、どうしたらいいって言うんですか!?」
珍しく声を荒げるキャロ。
「うん。だから……上手にフリードを使いこなせるようになろう。そしたら、どこへだって行ける」
「…………無理、です」
「出来るよ。俺はそれを信じてる」
というか、原作では使いこなせるようになったって知ってる。
だから頑張ればもっと早く出来ると思う。
「俺と一緒に来ないか?」
俺はキャロに手を差し出す。
「実を言うと、俺も自分の能力(ちから)を使いこなせてないんだ。だから一緒に頑張ろう」
俺の差し出した手を見つめて黙ってしまうキャロ。
暫くそうして……
「ショウヘーさんは……わたしの力が怖くないんですか?」
そう訊いてきた。
「怖くないよ」
「な……なんでですか?」
「だって……キャロは絶対に上手く使えるようになるから」
「…………ふぇ」
笑いかけると、キャロは泣きそうな表情になった。
「それにフリードが暴走しても、俺がぶん殴って大人しくさせてやるよ」
俺の能力ならそれが出来るから。
「どっちが先に上手く使えるようになるか競争な!」
もう一度、力強く手を差し出す。
キャロは泣きながらその手を握り返した。
○
「これからどこに行くんですか?」
泣きやんだキャロがそう尋ねてくる。
「とりあえず……力の制御が出来るようにならなきゃ街になんか行けないと思うからな、え~っと」
言いながらポケットからある物を取り出す。
「人の居ない無人世界の方が特訓には良いと思って、長から貰ってきた」
取り出したのはいくつかの世界への転移魔法がセットされているストレージデバイス。
実はあの後、キャロのこれからについて――俺が一緒に連れて行く、と――長の家に乗り込んで話し合った。
その結果、これ以外にもいくつかのアイテムと食料を受け取ったのだ。
「あと長から伝言、『里の為とは言え、お前には申し訳ないと思っている。恨んでくれて構わない。ワシに出来るせめてもの事といえば旅立つお前にいくつかの贈り物をするぐらいしか出来ない。キャロ、お前は黒き火竜の加護を受けている……だから、いつかきっとお前は稀代の召喚術士になるだろう』ってさ」
伝言なのに長いっつーの!
ここに来るまでずっと頭の中で繰り返し呟いてなきゃ忘れるわ!
「っつーことで、行こうぜ、キャロ! いつかと言わずすぐになってやれよ。稀代の召喚術士とやらにさ!」
「…………はいっ!」
キャロは涙を拭って元気に返事をした。
うん、原作ではフェイトと出会った当初のキャロは笑わなかったわしいが……そんな風には俺がさせない。子供は笑ってるのが一番だ。
「ところで、キャロさんや」
「なんですか?」
「転移魔法っての使ってもらっていいかい?」
長から貰ったストレージデバイスをキャロに渡す。
「えぇっ!? わ、わたし転移魔法なんて使ったことないです!」
「長が言うにはリンカーコアがあってある程度魔力があれば誰でも使えるぐらいには簡単に出来るようにしてあるらしい」
だがしかし。
だが、しかし!
「だけども俺ってリンカーコアがあるのかどうかすら分からないんだよね。よしんばあったとしても魔法なんて使ったことないのです」
「えぇ――――っ!? だ、だっていつも凄い力で」
「……あれは魔法じゃないんだ」
「レ、レアスキルですか!?」
「ん、まぁそんなとこかな」
「で、でもわたし……もし失敗しちゃったら」
「大丈夫大丈夫! それでも俺がするより成功する確率高いって!」
「そ、そんなぁ~……」
最後までかっこつけたかったけど無理でした。
――2――
「キャローっ、そろそろ戻るぞー!」
もうすぐ日も落ちるので訓練は終わりにしようと思って、少し離れた場所で大きくなったフリードに言うことを聞かせているキャロに声をかける。
「はいっ!」
振り向いたキャロは額に浮かんだ汗を腕で拭って元気に返事を返してきた。
「フリード、戻って!」
そうキャロが命令するとフリードは素直に従い元の小さい姿に戻った。
「キュクルーッ!」
一鳴きして、キャロの肩にとまる。
そしてとててと走ってくるキャロ。
俺のところまで辿りついたキャロと二人、並んで歩く。少しすると中々に立派なログハウスが見えてきた。
立派とか自画自賛だが、俺が作った。
○
ちなみに、ル・ルシエの里を出てから一年程月日が経っている。
幸いキャロが使った転移魔法は成功し、俺たちはこの無人世界へやってきた。
ここには大型の生物(A'sでヴィータが戦ってたようなのとか)も多く、俺やフリードの訓練の相手には事欠かない。
キャロのフリード制御も大分上達し、最初の頃は暴走させてばかりだったものの最近では感情が高ぶってしまわない限り、ほぼ完璧に制御できている。
力の使い方に関してはもう言うことはないほど順調だ。
だが――
「キャロ、俺が料理作るから火熾して」
「だが断る」
凄くいい笑顔で言われた。
「なぜに? 俺、料理するから火頼む。な?」
用意した包丁と訓練の時に狩った獲物を見せながら頼む。
「断固拒否」
「だからなんでだよ!?」
「疲れてるんですよ!」
キレられた。
「い、いやいやいや! 俺だって疲れてるからね!?」
「成人男性のショウヘーさんと子供の私を同じだと思わないでください!」
「そんなこと思ってないけど……お前滅茶苦茶元気じゃん! 働けよ!」
「嫌です!」
「嫌ってお前……何でだよ!?」
「働きたくないでござ――いたいっ!」
キャロの言葉を遮って頭を軽く叩く。
昨日教えたネタじゃねーか。
「何するんですか。コブになって頭が大きくなったらどうするんですか!」
「いいじゃねーか。身長伸びて。このチビがっ!」
「なっ!? 侮辱されました! 謝罪と賠償を要求します! 具体的には食後のスイーツを毎日ください!」
帽子越しに頭をさすりながら涙目で睨んでくる。
ほんと、力に関しては問題ないのに……なんでこんな性格になってしまったのか。
まぁ、子守唄と絵本の変わりにネタ話を毎日した俺の責任だけど。
原作知ってるだけに、あのキャロがここまで図太くなるなんて思わなかった。
「はいはい。成人男性も真っ青な高カロリーなスイーツを毎食後出してやるよ。ただし残すなよ?」
「なん……だと……」
戦慄の表情で震えるキャロ。
「なんという鬼畜。スイーツは食べたい、でも食べたら確実に太るメニューとは……なんて鬼畜! そんな究極の選択を迫るなんて!」
「火を熾せば今日の今日の食後は普通のスイーツを出してやろう」
「わーい! ショウヘーさんだい好きー!」
なんという変わり身。
はぁ……ほんと、どうしてこんな娘になっちゃったんだろう。
○
キャロは寝るときも帽子を取らない。
原作ではそんなことなかったと思うんだけど、ここのキャロはそうだ。
今も帽子は着けたまま涎を垂らして寝ている。
ちょっと前、興味本位で寝ているキャロの帽子を取ろうとしたことがあった。
取るぞ、と帽子に手をかけた瞬間、キャロは目を開き俺から距離をとった。帽子を押さえ「スケベ! 変態! ロリコン! ショウヘーさんのエッチスケッチワンタッチ――――ッ!!」という死語を叫び飛び出していった。
あ、ちなみに「ワンタッチ」の部分が「乾電池」の地方もあるらしいよ! これ豆知識な!
まぁ、そんな訳で帽子には一方ならぬ何かがあるらしい。
が、風呂のときは外すし、暑かったりしても外すので別にそんなに拘りないんじゃないかとも思う。
え? なんで風呂で外すなんて知ってるのかって?
そりゃ勿論、一緒に入っているからに決まっとろうが。
でもこれだけは言っておきたい。ストライクゾーンは広いと自負している俺だが、まだ欲情してないぞ。
生意気だし。
初めて一緒に入ったとき、純粋な笑顔で俺のゴールデンお玉さんを握りつぶそうとした愚行は忘れていない。
奴は天然のクラッシャーだ。
それは置いておいて、ずっと言っているがキャロの力の制御に関してはかなり良くなった。最近では召喚魔法も覚え、原作同様鎖とか召喚する。
が、使い方がおかしい。
前にあまりの空腹で見境なく喰った亀の甲羅(三メートルぐらいの大きさ)を召喚した鎖で縛って(勿論、亀甲縛りである。亀の甲羅だけに)振り回す。
後方からフリードにブラストフレアを撃たせ、ブースト魔法で強化した自分が亀甲縛りの亀の甲羅を武器に突っ込むという超前衛的な戦い方。
しかも「うりゃあぁぁぁぁ!」とか叫びやがる。
やっぱり育て方を間違えた気がする。
――3――
そんな感じでキャロの現状に関しては分かってもらえたと思う。
続いて、俺の『あらゆる"力"を操る程度の能力』についても色々と分かったことがある。
最初に言っておく。
この力は非常にチートだった。
まず、最初から使っているように純粋に"力"を上げることが出来る。巨大生物を軽く数百メートル吹っ飛ばすなんて朝飯前だ。
次に狩りをしていた時に気付いたのだが視力や聴力も無意識に上げていたらしい。
それに気付いた俺は早速"力"とつくものならなんでも出来るのかと試してみた。
結果から言ってしまうと……出来た。
今までの"力"は本当に殴る力だけを上げていたようだが、理解して使ってみればそれ以外にも操作できた。
まず試したのは脚力。
ジャンプしたら軽く数十メートル飛んだ。
着地までの落下がかなり怖かったのは内緒だ。
次に体力。
一日中走っても息一つ乱さなかった。
それから、戦闘中に動体視力を上げてみた。
相手の攻撃がスロー再生のようにハッキリ見えるようになった。
とまぁ、こんな感じで身体能力全般を上げられる。
勿論、身体能力で全ての能力を上げることも腕力など一部だけ上げることも出来るが、それが分かってからは身体能力全てを上げるようにしている。
動けるようになると楽だし。
しかも一度操作すると、もう一度能力を使って下げない限り、そのままの身体能力がデフォになる。
とりあえず、この世界の生物じゃ俺に傷一つ負わせられないぐらいの身体能力に設定してある。
それから能力で色々出来ると分かって試しているときにちょっとした怪我を負ってしまった時のことなのだが、回復力を上げてみると一瞬で怪我が治った。
他にも生命力、気力、精神力とか良く分からないものから魔力、霊力、妖力、神力と言った俺のいた世界ではなかったはずの"力"。さらに重力、引力、斥力なんてものも操作できた。
魔力とかは一つずつ上げてみると微妙な違いがあるので違う力だと言うのは分かった。ただ神力だけは段違いだった。
魔力や霊力を一〇〇使って起こす様な現象を神力ならたった一の使用量で起こすことができた。
つっても、全部無限に上げれる俺には関係ないけどな。
そして、この力がチートたる所以。
今まで試したことを踏まえ「出来るんじゃね?」とか軽く考えてやってみたら出来てしまったもの。
それは――――
あらゆる"能力"ですら自在に操ることが出来たのだ!
しかも東方や色んな作品の能力だけではなく『自分で考えた能力』ですら操れてしまったのだ。
フランドールの『ありとあらゆるものを破壊する程度の能力』で近くの岩を壊そうと思ったら、手のひらに目みたいなものが浮かんできた。きゅっとしたらドカーンってなった。
あと、境界も操ってみた。
空中に指でピーっと線を引いたらそこからぱっくり割れてあの目とかだらけの空間が見えたのには感動したが、ちょっと怖かった。
あそこに入る勇気は俺にはまだない。
しかもこの能力、俺以外の相手にも使えるのだった。
日々傷だらけになるキャロに後々傷が残らないように回復力を高めてやれば一晩寝れば大抵治るし、気付かれないように毎日少しずつキャロの魔力を増やしていってるのは秘密だ。
StSの原作開始までにSランクぐらいまで増やしてしまいたい。出来ればもっと増やしてキャロ無双とか見てみたい。
亀の甲羅振り回しながらナンバーズフルボッコとか見てみたい。
んでバインドの変わりに亀甲縛りで拘束とか超見てぇ……。
あと、全然関係ないけどフェイトさんの真ソニックフォームは是非生で見たい。それに、なのはさんが戦ってるときに下から除いてみたい。
この二つは絶対に達成させてみせる。
○
「霊○――――んっ!」
人差し指を突き出して叫ぶ。
結構離れた位置にいる巨大生物に向かって十メートル級の霊力の塊が飛んでいく。
接触、爆発。
砂煙が晴れるとピクリとも動かない巨大生物が居た。
「なんですか、その理不尽な威力。溜めも全く無いじゃないですか! フリードのブラストフレアの何倍の威力ですか! あの程度の威力しかないのにブラストフレアーとか叫んじゃった私が恥ずかしいじゃないですか!」
キャロが何故かキレていた。
「いや、知らんがな……」