――1――
「困ってる人を助ける……って、どうしたんですか、急に良い人ぶって」
これからについて、数日悩んだ末に出した結論を告げると、疑問を感じた表情をするキャロ。
突然だから意味が分からないのだろう。
それはいい……だが、最近のキャロはナチュラルに冷たいのだがどういうことだろうか。
「良い人ぶるってお前……俺超良い人じゃん」
「凄まじい妄想ですね」
「妄想じゃねーし! 事実だし!」
「まぁ、どうでもいいですけど」
お前、俺に興味なくね?
すっごいぞんざいなんですけど。
「それでどういう風の吹き回しですか」
お前、それじゃ俺が心から困ってる人を助けたいって思ってない奴みたいじゃないか。
ま、確かに打算的計画だけど。
困ってる人を助ける。
それを続けてればいつかは管理局の耳にも入るはずだ。
管理局的には自分達以外がそんなことをしてりゃ気に喰わないって思うかもしれない。
けど、それは管理局でも一部で、なのは達はきっと人助けしてる俺達の話ならちゃんと聞いてくれるはずだ。
主人公組は、そのぐらいお人よしが集まってるからな。
それによってこの前のように初めから怪しまれているような状態にはならないはずだ。
もっと友好的に接してくれる……と思ってる。
そんな感じにキャロに説明して、
「つまり、これから管理局……というかあの人らに関わっていくにはこれはとても重要なことなのです!」
という言葉で締めくくった。
「色んなところに行けるんならそれはそれでいいですね」
方向性は違うみたいだけどキャロも別に嫌そうにしてないみたいだ。
今、キャロに話した以外にも理由はある。
困ってる人を助ける……それは、きっと力を使わなきゃいけないことだってあるはずだ。
今でこそこんな性格のキャロだが、なんだかんだ言って原作と同じように優しいところは残ってる。
そんなキャロが昔、自分の力が上手く制御できなくて人を傷つけたことを忘れているはずがない。
だから、その力で人を助けられるってことを教えて上げられるし、原作までに実戦を経験しておくことは悪いことじゃない。
俺だってキャロとの訓練以外で人を相手にしたことなんてないし、今の内に経験しておきたい。
自分らのためにもなって、人に感謝されて(あわよくば謝礼なんかも貰えるかもしれない)、これからなのは達に関わっていくにもプラスになる。
いいことだらけじゃないか。
こんな素晴らしいことを思いついた俺は自分を褒めてやりたいね。
○
と、言うわけでやってきました別世界。
スキマを開いた先、そこは小高い丘の上で、結構遠くまで見渡すことが出来た。
文明レベルは恐らくそんなに高くない。
ビルとか、そういう建物は見えないからだ。
ここが、この世界に於けるとんでもない秘境とかでもない限り、恐らくル・ルシエの里のあったアルザス地方と同じぐらいの文明レベルだと思う。
「ここに困っている人がいるんですか?」
スキマから出たキャロが荷物を地面に置き、周りを見渡しながら訊いてきた。
「そのはずだ」
多分、きっと。
スキマを開くときに『困っている人のいる世界へ行きたい』と思って開いたらここに繋がった。
スキマは結構便利だ。
前だって『地球に行きたい』と思ったら海鳴に繋がったのだ。
何で海鳴だったのか。
それはきっと、ここがリリカル世界だと思ってた俺が『地球=海鳴』だと心のどこかで思っていたからだろう。
だから多分、今回も同じで、きっとここには困っている人がいるはずだ。
「ざっと見た限り……さっきの世界と違って大型の生物は見当たらないな」
キャロと同じように周りを見てみて、最初に思ったこと。
「これなら、この世界は人が住んでる可能性は高い」
人を脅かす生物が少ないのだから当然だ。
前の世界は多分、魔導師でもランクが低けりゃ戦えないし、そんな所で人が安心して住めるわけがない。
次元世界へ転送できる魔法があるこの世界。
地球のように管理局の管理外ならまだしも、管理世界であるならそこに住むメリットが殆どない。
「じゃあ、まずは人里を探すんですか?」
「だな」
「メンドクサイですね」
「おま、新しい門出にイキナリそれはないだろ」
「門出だろうがなんだろうがメンドクサイ物はメンドクサイんですよ。あ、私ここで待ってるんで探してきてください」
何、このガキ。
超やる気ないんですけど。
「ふざけるなよ……てか、スキマで人の居るところに直接行きゃいいだろ」
「あ、そうでした。それホントに便利ですよね!」
ホントそうね。
「ふふふ、羨ましかろう?」
「羨ましいです。本当に足として良い人材ですよね」
「そうだろ、そうだろ…………あれ? それ褒めてる?」
「褒めてますよ」
「……そうか」
「移動手段として」
「なに? その歳で男を足呼ばわり……だと……?」
「そういうのいいですから、さっさとスキマ開いてください」
「あ、はい。分かりました」
キャロに顎で使われる俺だった。
――2――
困っている人を助けよう作戦。
あれからまた一年程月日が流れていた。
原作開始まであと一年程。
○
「お二人とも、本当にありがとうございました」
村人数人に頭を下げられ、村を出る。
今回は違法魔導師による誘拐事件から村の子供数人を救出した。
俺もキャロもこの一年で対人戦闘にも慣れ、難なくこの事件を解決できた。
この一年で俺達の事も大分知れ渡り、管理局の耳にも入った。
スカリエッティや最高評議会関連の施設はスルーしていたので指名手配とかにされることはなかった。
やってたら多分、あいつらはなりふり構わず俺達を捕まえようとするはずだ。
こんだけ知れ渡ったらそろそろいいかな?
「キャロ、地球に行くぞ」
きっとなのは達も俺らの情報を耳にしてるはずだ。
なのは達が知らなくてもリンディは確実に知ってると思う。
「またあそこのケーキとシュークリーム食べたいです!」
思い出したのか涎を垂らさんばかりの勢いで目を輝かせるキャロ。
「いいけど、前みたいに適当なこと言うなよ?」
「適当なこと?」
首を傾げるキャロ。
「俺が怪しい奴だとかロリコンだとかみたいなこと言ったろ」
「全部本当の事じゃないですか」
「違うわ!」
「だって最近、お風呂で私のこと見る視線がねっとりしてきました」
「…………嘘だ」
「気付いて……ないんですか?」
いや、そんなことないはずだ!
「大体、一年前から大して体型変わってないじゃないか」
「……カチーン」
怒ったことを口で表現すんなや。
「フリード、ゴー」
「キュクルー!」
「いてっ」
キャロの声でフリードが俺に体当たりした。
「つーか、そんな風に思ってるくせに、それでも俺と風呂に入ることをやめないとかお前、どんだけ俺の事好きなんだよ」
せめてもうちょっと成長してくれると嬉しいんだが。
「はい? 勘違いも甚だしいですね」
まるで蔑むかのような冷たい視線。
「いやいや、いくら子供だって嫌いな奴と二人で風呂なんて入らないだろ」
「嫌いじゃない=好き、ってどんだけ単純思考なんですか。私はショウヘーさんが他の子供に手を出す前に、せめてお風呂で私の髪を洗うことによって発散させてあげているだけです」
随分饒舌じゃないか。
「ただ単に一人で髪を洗えないという」
「う、うるさいです」
照れんなや。
ちょっと可愛いと思ってしまったじゃないか。
「ま、とにかく地球で変なこというなよ」
「スイーツ」
「諭吉一枚までなら食って良し」
「任せてください。ショウヘーさんの素晴らしさを伝えてあげましょう」
現金なキャロだった。
○
「ということで、再び海鳴に俺はやってきたぞー!」
「きゃっ!?」
海鳴へスキマを繋ぎ、出たと同時に叫ぶと、すぐ傍で小さい悲鳴が上がった。
そちらに視線をやると、
「あ、あああんた――なんでまたアタシの前に突然出てくるのよーっ!」
飲んでいた紅茶を床に落とし、立ち上がって此方を指差すアリサと、紅茶を両手で持ったまま固まっているすずかがいたのだった。
「なぜ居るし」
「ここはアタシの家よ!」
「なん……だと……」
なんでアリサん家に繋がったんだ?
「……ケーキ」
優雅にティータイムを楽しんでいたのだろう。
テーブルにはアリサとすずか、二人の分のケーキが用意されていた。
「アリサ……だっけ」
「イキナリ名前で呼ぶとか……まぁ、いいわ。何よ?」
「ウチの腹ペコ姫がケーキを所望なのだが?」
「知らないわよ! いきなり人の家に来て何言ってんの!?」
相変わらずアリサはナイスツンデレだぜ。
ツンしかないけどな!
「キャロちゃんケーキ食べたいの?」
「はい」
俺とアリサはスルーしてキャロ話しかけるすずか。
「はぁ……仕方ないわね。ちゃんと話聞かせてもらうから」
そう言ってアリサは俺とキャロの分のケーキと紅茶を使用人に用意させた。
○
「で、なんでまたアタシ達の前に現れたわけ?」
新しく入れた紅茶を一口飲んでアリサはそう話を切り出してきた。
「聞かれても分からんがな」
何で毎回アリサのとこに繋がるんだ?
「はっ!? もしや俺とアリサは運命的な何かで結ばれてるのか!?」
「運命(笑)」
殺すぞ、キャロ。
「バカじゃないの?」
アリサも冷たい視線です。
「ま、冗談は置いておいて……なんでだろう。もしかしたら俺は無意識的にアリサを意識してるのかもしれない」
「な、何言ってんのよ!? バカじゃないの!?」
顔を真っ赤にするアリサ。
なんかさっきとは『バカじゃないの!?』のニュアンスが違う。
「アリサちゃん……可愛い」
何か照れるアリサを恍惚の表情で見るすずかさんが怖いんですが。
「ったく、バカなこと言ってんじゃないわよ」
「そう言いながら紅茶のお代わりを入れてくれるとかアリサさん素敵すぎる」
「う、うるさいわね!」
何かアリサの態度が前と変わりすぎてて怖い。
「何かアリサの態度が前と違いすぎてて怖いんだが」
あ、声に出てた。
何かアリサがビックリした表情で俺を見てた。
「そういえば……なんでだろう、前に会った時と違って全然嫌な感じが沸かないんだけど」
アリサがぶつぶつ呟く。
「これは……まさかホントに惚れられたか!?」
「妄想乙」
キャロ、お前なんてコケちまえ。
なんて……理由は分かってるんだけどね。
あれは困っている人を助けはじめて間もない頃だった。
管理局でもない俺らが力になると言っても中々信じてもらえないことが多かった。
何か企んでるんじゃないかとか、実は犯人の一味なんじゃなんかとか。
それでも強引に首を突っ込んで解決したりしたけど、でも出来ればやっぱり最初から友好的にしてくれるとスムーズに行くし変に疑われるよりよっぽど良い。
しかも、一番の問題はどれだけ事件を解決しようとも俺に惚れてくれるような娘が一人も現れなかったことだ。
助けた中には美人も結構居たのに、だ。
そこで俺は……解決法を模索した。
そして思いついたのだ。画期的な解決法を。
それは能力で"魅力"を上げることだった。
魅力を上げればオリ主特有のニコポができるんじゃないか、と思った。
だが、これは俺の想像を絶したね。
魅力を最大まで上げた俺はカリスマ性が溢れてしまって会う人会う人皆に拝まれたのだ。
そこで若干下げてみた。
拝まれることはなくなった。
しかし、今度は揉みくちゃにされたのだ。
それが若くて美人なら大歓迎なのだが……男も女も老若男女問わず揉みくちゃにされたのだった。
本気で恐怖したね。
若くて美人に抱きつかれたと思ったら次の瞬間にはガチムチのおっさんにガッシリとホールドされたりしたのだ。
これはいつも一緒にいて、俺の能力で色んな能力(抵抗力も含まれる)が上がっているキャロにも効果があったのだ。
抱きつかれるわ、風呂に入れば息子を触られるわ。
まだキャロは欲情の対象外である俺もこれにはさすがに間違いを犯しそうになったね。
我慢した俺を褒めてもらいたい。
そんなことがあって、反省した俺は『初対面でも好意的に見られる程度』まで魅力を下げたのだった。
これで地球組対策もバッチリね!
――3――
と、まぁそんな訳で俺は他人から好意的に見られるようになった訳だ。
「つーかさ、俺って初対面の時そんなに怪しかったのか?」
あの時のアリサの突っかかり方は凄まじかったからな。
「え? ……そうね。怪しかったわ」
即答だった。
「なんて言うか……全身から怪しいと言うか胡散臭いオーラが漂ってたわ」
えー、心外なんですけど。
俺は確認の為にすずかの方を見たのだが、気まずそうに頷かれた。
「マ、マジかよ……」
「マジよ。普段だったらさすがにアタシもあそこまで言わないわよ」
俺はそんなに怪しかったのか?
あれ?
もしかして……魅力を操作するまで色んな人たちに疑われたりしたのってその所為なのか?
モテなかったのも、もしかしてそれが原因か?
そういえば……元の世界にいた時も親しい友人なんていなかったな。
まぁ、そのおかげで二次元の素晴らしさに気付けたわけなんだけどさ。
そういえば……思い当たる節がないわけでも……ない?
「何唸ってんのよ?」
急に考え込んだ俺に、心配するような気配を纏ったアリサが話しかけてきた。
「ちょっと待って! 今なんか凄い大事っぽいこと考えてるから」
アリサの方に手のひらを向けて待って欲しいことをアピール。
そういえば……昔から疑われる事が多かった気がする。
小学生では誰かが花瓶を割れば疑われたし、誰かの物が隠されたりした時も疑われた。
何かと疑われることが多かった……。
初対面の人と話が弾むなんてことはまずなかった。
苛められる事とかはなかったけど、そういうこともあって俺は他人とあまり関わらないようになった。
そういえば……この世界に来てから人と話すのに抵抗がない?
キャロだって自然に自分が保護しようとか思い至ったりしたし、超絶美人な、それこそ元の世界では近寄りがたい高嶺の花的存在の原作キャラ達にも何の躊躇いもなく話しかけることが出来ている。
現実と創作物と知っているキャラという差はあるが、ここは間違いなく今の俺の現実だ。大した差はないだろう。
なら、なぜ……本当は人と関わりたいと思ってて無意識にそういう能力をつかってる、とかか?
「ねぇ、貴方の保護者大丈夫?」
「何か凄い勢いで百面相してるね」
「どうせ大したこと考えてないので放っておいていいです。それよりケーキのお代わりはないですか?」
お前もちょっとは心配しやがれ。
創作物ではあるけれど『とある魔術の禁書目録』の主人公上条当馬は不幸体質と言うか不幸属性だった。
そうすると俺は……本来、怪しい属性なんかをもっていたりしたのだろうか?
良く考えるとそうでも思わないと、あれほどの疑われようは理解できないな。
怪しい属性……なにそれ嫌すぎる。
ふと思ったけど……なんかおかしい。
今までは何故か全く考えなかったけど、今こうして向こうの世界の事を考えても全くと言っていいほど帰りたいとかいう気持ちが浮かんでこない。
両親に会いたい……とも。
家族仲は悪くなかったはずだ。良くもなかったけど。
旅行は家族みんなで行くし宿の予約も取ってあるって言われたから着いていったけど、そういえばそういう状況でもない限りご飯とか皆揃うときぐらいしか会話もしなかったな。
学校以外は部屋にいたし。
帰りたいと思わないのは俺の能力ならいつでも帰れると思ってるからか、それともこっちでの生活が充実しすぎてるからなのか。
ん~……謎が謎を呼ぶぜ。
「まぁ、いーか。考えてもよくわからん」
今が楽しけりゃいいじゃん。
大体俺ってば能力があるから死なないし歳だって自由自在。
慣れ親しんだからこのままだけどやろうと思えば外見だって変えられる。
不幸ではないが楽しいこともあんまりない現実と超充実してるこの世界、キミならどちらを選ぶ?
当然こっちだな。
「あっちじゃこんな美人達と話せることなんてまずないし」
「び、美人って……」
「アリサちゃんはともかく私は……」
「ふふん、良く分かってるじゃないですか」
お前はよく言って美幼女だ。
口にクリームつけて不適に笑ってんじゃないよ。
とにかく、ここは元々は創作の世界である。
美少女、美女率がパナいのである。
男として断然こっちが良いのである。
俺はカワイイ女の子とイチャラブしたいのである。
「だからアリサ、俺とイチャイチャしようぜ」
「するかぁ!」
何故だし。
○
「で、結局何を考え込んでたのよ?」
暫くして全員落ち着いたところで話を戻す。
「うん。何か凄く大事なことを考えてたはずなのに実はそうでもなかったぜって結論に至った」
「意味が分からないんだけど……」
「俺にも良く分かってない。けど今が幸せならいいよね?」
「良く分からないけど、幸せならいいんじゃないの?」
「そんな感じに落ち着いた」
やっぱり意味が……と悩むアリサを尻目に紅茶を口に含む。
うむ、美味い。
「アリサはあれだね。ナンダカンダ叫んだって結局は少し話した程度の俺の事でも真剣に悩むぐらい良い人だよね」
「な、何を――」
「すずかさんもそう思うよね?」
「うん。アリサちゃんは優しいよ」
「うがーっ! てか何ですずかは『さん』付けなのよ!」
「それは……なんかアリサはアリサですずかさんはすずかさんって感じだから」
「どういうことよっ!?」
「それだけアリサちゃんが親しみやすいってことだよね。あ、それと私も別に呼び捨てでいいですよ?」
おぅふ……笑顔が眩しいぜ。
「それはともかく、ツンデレと親しみやすいってのは同居するのか?」
「アタシはツンデレじゃない!」
「いや、ツンデレだろ。どう見ても」
「ごめん、アリサちゃん。ツンデレだと思うよ?」
「ツンデレ乙」
イェーイと三人でハイタッチ。
「ここには敵しかいない!」
アリサにすずかともかなり打ち解けることが出来ましたな!
よかったよかった。
次は魔導師組とくんずほぐれつ――ゲフンゲフンッ!
魔導師組とも打ち解けたいものですな。