〜もしエス〜 もし女子剣道部のマネージャーがインフィニット・ストラトスを起動したら 作:通りすがる傭兵
今回はかーなーり短めです。ご了承ください。
それではどうぞ!
遠く、昔の話だ。
といってもほんの十年と少し前の話。
だけどその一言だけで、俺は救われたんだ。
俺は昔から剣道をやってきて、いつも練習している道場の持ち主の子供もまた、俺に少し遅れる形で剣道を始めたんだ。と言っても、ほんの半年くらいの差だ。
俺と彼女は示し合わせたように剣道にのめり込み、当然のように互いに切磋琢磨した。同じ年頃なんて、それこそ2人だけだったからな。
だが、いくら愛があるとはいえ、才能という大きな壁には勝てなかった。停滞する自分とは裏腹に、メキメキと実力をつけてゆく彼女。
俺は初めてその時、人を憎らしい、羨ましい、嫉ましい、そう思ったんだろう。
初めて俺は、他人に悪意を向けたのだ。
『おい、そこもっとしめたほうがいいんじゃないのか』
休憩中にもかかわらず、竹刀を振るう勤勉な彼女に向けて俺はそう言った。
つまらない難癖だった。
その言葉を言ってすぐに、俺は自分の過ちに気がついた。
自分はなんて事言ってしまったんだろうって、後悔した。
だが、彼女は満面の笑みでこう返したんだ。
『そうか、ありがとう!◾️◾️は優しいな』
幼心に悪意を解さなかっただけかもしれない。
いまではもう、その彼女は忘れているのかもしれない。
だが、それでも俺は、
『……うん、どういたしまして!』
その言葉に、救われたんだ。
それからというものの、俺は彼女を見続け、彼女は竹刀を振るい、俺は彼女に助言をし続けた。彼女は気に入らなければ無視したし、逆に彼女が俺にアドバイスをすることもあった。意見の違いから喧嘩したことだってないわけじゃない。
だが、不思議なことに彼女は俺を嫌いになることはなかったし、俺はあれ以来彼女に悪感情を抱くことはなかったのだ。むしろますます関係は濃いものになって行ったと思う。
どちらが言い出したか、こんなことまで言うようになった。
ふたりならどこまでもいけるよ、と。
しかし俺と彼女の関係は半年も続かなかった。
訳あって俺はこの街を離れることになってしまったのだ。
最後に挨拶回りを、と訪れた道場。
もう会えない、そう思うと俺は意地でもここに残りたかったが、そんなわがままが許されないのも理解していた。
だからそう言ったのだろうか。
俺は、こんな事を彼女に言った。
『あのな、あのな......おれ、すっごくおしえかたうまくなる!
だから、おまえはつよくなれ。そしたら、またあえる。
だから、いっしょに、せかいたいかいにいこう!』
『......うん!』
剣道の世界大会なんて無いんだが、俺はそんな事を言ったんだ。素晴らしく非現実的な目標だったのに、俺は彼女にはそれができると信じていたんだ。
俺は彼女に恥ずかしい姿を見せ無いように、追いつけるようにこの十数年間を生きてきた。剣道を学ぶためになんでもやった。
この十数年間で、世界は大きく変わった。
その波に飲まれて彼女は剣道を捨てたかもわからない。
あれから彼女が連絡をよこさないのは、そういうわけかも知れない。
それでも、俺は剣道を学び続けた。
例え環境がどれほど変わろうと、世界でたった2人の操縦者なんてレッテルを貼られても、例え女子校に放り込まれることが決まっても、俺は1日たりとも休まなかった。
◇◇◇
いつの話かなんて、もう忘れてしまった。
それでも私はその鮮烈な思い出をずっと覚えている。たわいのない、幼子の頃の約束。
私はその約束のために、今を生きている。
私は剣術家の家に生まれた。当然のように私は物心ついた時から、剣を振るっていた。それは剣術家の家に生まれたから、という義務感だけであって、そこまで真剣にはしていなかった。
ある日、うちの道場に男の子がやってきた。父が開いている剣道クラブに私と同じくらいの子がやってきたのだ。
初心者だったそいつはメキメキと腕を上げ、半年で私に追いついた。理由は忘れたが、私は焦った。
そして父にこう言ったのだったか。
『わたしもくらぶにはいる!まけたくない!』
半年遅れて、私はあいつと同じ舞台に立った。
もっと年上の人も沢山いたし、上手い人は当然いた。だが私は同年代のそいつを好敵手に見定めたのだった。
最初は全く勝てなかった、あいつの方が遥かに上手かった。
だが、それもある時終わりが訪れた。
いつからか勝負に勝つ回数が増え、あいつの事を強いと思わなくなった。今思えばあいつの成長はそれで打ち止めだったんだろう。
あいつを追い越した私は、次の好敵手を定めた。当然だ、弱い奴に興味はない。強くなりたかったのだから。
ある日の事、私は休憩中に手持ち無沙汰になり、竹刀の素振りをしていた。
すると、最近話していなかったあいつは、
『おい、そこもっとしめたほうがいいんじゃないのか』
そう言った。その言葉に従ってみると、竹刀の振りが段違いに良くなるのが分かった。
これなら負けない、そう思った時、ふと言葉が口をついて出た。
『そうか、ありがとう!◾️◾️は優しいな』
私はあいつに礼を言った。
自分でも信じられない、弱い奴に礼を言うなんて、昔の自分からすれば狂っていたとしか思えない。
『…...うん、どういたしまして!』
あいつは困惑する私に、笑ってそう返した。
それから私は、弱いはずのあいつと向き合う事になった。
最初はあいつが気まぐれにアドバイスをし、私はそれに従うだけだった、当然従わない事だってあったし、気に入らない意見を言われれば喧嘩だってした。だけどあいつのアドバイスは魔法のようで、それに従うたびにメキメキと自分が強くなるのが分かった。
私は最初はあいつを便利なものとしてしか認識していなかったが、いつしか自分から助言を求めに行くようになった。
どちらが言い出したか、こんなことまで言うようになった。
ふたりならどこまでもいけるよ、と。
私は今でも、そう思っている。
だが、その関係は長くは持たなかった。
あいつがこの街から引っ越す事になったのだ。
いざ別れの挨拶を、と思うと涙が溢れて止まらなかった。
そんな私に、あいつはこう言ったのだ。
『あのな、あのな......おれ、すっごくおしえかたうまくなる!
だから、おまえはつよくなれ。そしたら、またあえる。
だから、いっしょに、せかいたいかいにいこう!』
『......うん!』
何故か全国大会をすっ飛ばしてあいつはそんな事を言ったんだ。素晴らしく非現実的な目標だったのに、私はあいつにはそれが叶えられると信じていた。
私はあいつにふさわしい選手になろうと、十数年間を生きてきた。私は強くなるために、1日も欠かさず剣を振るい続けた。
この十数年間で、世界は大きく変わった。
その波に飲まれてあいつは夢を絶ってしまったかもしれない。男には厳しい世界になってしまったからな。
私はとある事情で全国を転々とし、手紙一つ寄越すこともできなかった。あいつは落胆したかもしれない。
それでも、私は強くあろうと剣道を学び続けた。
例え環境がどれほど変わろうと、天災の妹なんてレッテルを貼られても、名前が変わろうと、私は諦めなかった。
あいつとは絶対に縁がない学校に行く事を強制されようと、私は諦めない。
◇◇◇
きっと彼女/あいつは、俺/私と同じく剣道を学び続けているに違いない。そんな確証なんて無いが、確信を持って言える。彼女/あいつは剣道を捨てるはずがない。
きっとどこかで俺/私と同じように、高みを目指して今日も何処かで剣を振るっている/何処かで剣道を学び続けている。