〜もしエス〜 もし女子剣道部のマネージャーがインフィニット・ストラトスを起動したら 作:通りすがる傭兵
オルコットvs一夏を期待していた皆さん。
残念ながら、そんなものは存在しない、というか疲れた。
4月も始まり、学校でも新しくスタートを切りました、というわけでゴタゴタしてあんまり時間取れなくなるかもです......
では、第9話ご覧ください、どぞ!
『勝者、織斑一夏!』
「やったやった、一夏が勝ったぞ!」
「......ふぃー」
ぴょんぴょんと我が身の事のように飛び跳ねる箒を尻目に、俺は深くため息をついた。
「たしかに一撃当てれるくらいにはするとはいったものの、勝っちまうなんてな」
液晶画面に表示されるのは、緊張の糸が切れてふらついたオルコットを抱きかかえる紳士な一夏。
その試合は、素晴らしいものだった。
大太刀を背負う
対するは、長銃を操る
高度な読み合い、一瞬の攻防、手に汗握る展開に最後の大逆転劇。
オルコットの隠し球で一夏がやられると思いきや、最後の最後で一夏のIS
雪片の名を冠したその一撃はオルコットの胴を見事に薙いで、そのSEを削りきった。
「本当に......良くやる」
一夏が攻撃を当てたのは、
最後の一撃と、スタート直後。
「言った通り、キッチリ一撃当てるなんて思いもしなかったぜ」
秘策はあるとは言ったが、それをまあ見事に2回も再現してくれるとは思いもしなかった。
「さあて、オルコットさん含めて反省会と参りましょうか。切磋琢磨してもらう予定なんだし、彼女にゃあ強くなって貰わんと」
「貴様、この後織斑と試合があるのを忘れては居ないだろうな」
「..................ソンナコトナイデスヨ?」
15分後。
「なんでまた面倒なことを」
「めっちゃ嫌な顔してんな」
「こんなもの時間の無駄でしかないっての」
消化試合、もとい俺対一夏の第三試合。
正直目的は達成したわけだし、やる気なんてハナっからない。
とはいえ即白旗あげるなんてのも論外。無駄とはいえども、リターンはキッチリとある。
一夏がISでどのような剣を使うのかはやはり相対してみないと分からないしな。
『試合、始めてください!』
「......なあ、一ついいか?」
「なんだ一夏」
「前々から思ってたんだが、お前強くないだろ」
「そうだな、もう竹刀なんか何年も握ってないな。それが?」
「正直、納得いかねえんだよ」
試合は始まっている。だが攻撃を仕掛けてこないのは自分なりに割り切っておきたいから、しかし何が納得いかないんだ?
「コーチやってくれたのは感謝はしてる。
それこそ秘策考えてくれたおかげで一本取れたんだからな。
でも、弱い奴に指図されるってのはなんか、納得いかねえ」
「ほう......」
申し訳ないと言わんばかりに顔をそらされると腹が立ってきた。そりゃ俺は弱いぜ、運動センス皆無だし口先だけの弱虫なんだの罵られたって事もある。
だけど試合会場で、その上試合の時に言っちまうのは精神が甘ったれ過ぎやしないか織斑一夏。
「確かに俺は弱いぜ?
だけどな、そいつは生身での話だ。
俺は運動神経皆無だが、理想的な動きってのは頭で再現できる、しなきゃコーチなんぞ務まらん。
でも、ISってのは思い通りに動かせるんだろ?
それこそ
「えっ」
試合は始まってんだから容赦なんてものはハナっから考えちゃいない。
俺は右拳を軽く握り、思い切り半身を捻って力を振り絞り、
「っしゃあ!」
短く息を吐きながら一夏の顔面下部、要するに顎を思い切り殴りつけた。
「って、なんで殴りかかってくるんだよ!」
一発で倒すくらい全力で殴った割には脳が揺れてる様子はない、ISの操縦者保護ってのはやはり強力らしい。
「今は試合中だ無駄口たたくな」
「このっ!」
距離を詰めてタックルをしようとしたが、そこまで一夏はバカじゃなかった。白式の翼のようなブースターに任せてひらりと躱し、その手に獲物を呼び出す。
現れたるは必殺剣『零落白夜』。今はまだ白い光で編まれたような刀身は閉じていて見えはしないものの、必殺というだけで随分圧迫感と言うべきか凄みと呼ぶべき物を感じる。
「だが......ちょいとそれに甘え過ぎてる、な」
「はああああああっ!」
先ほどの試合で懲りているのか、はたまた舐め腐っているのか。
刀身を閉じたまま胴を狙っての突き技を繰り出す白式。
その剣先を
反撃されるとは思っていなかったか、攻撃をもろに貰い慌てて距離を取る一夏を俺は追わない。
ちなみにクッソどうでもいいが、俺の刀は反りがなく真っ直ぐだ。鎌倉以前の古刀なんかに見られる直刀だな。こっちの方が俺は好きなので無理言って用意してもらったのだ。
「どうした?」
「このっ!」
決して一夏も弱いわけじゃないが、一夏は剣術を知らなさすぎる。
そして扱いなれない長モノ......野太刀のような大物は、剣道で使う竹刀や木刀とは訳が違う。
まず一つは刀身の大きさ、それだけ刀の重量は増す。
それは野太刀のような長い太刀ではアドバンテージになる。遠心力と重さを乗せた一撃は強力だ。が逆に言えばその隙を突くようにすれば弱い。
例えば鍔迫り合いに持ち込んでから、その剣を突然消してみる。
「のわわっ!?」
そうすれば今までかけていた力足す剣の重さでバランスを崩すので、隙ができる。
後は蹴るなり殴るなり自由、腹の下に足を突っ込んで天高く蹴り上げた。
そして二つ目、刀身の長さ。
それだけリーチががあるとも言えるが、懐に潜り込まれれば長さを持て余す。
ブースターをフル起動。白式に劣るとは言えどもそれなりの速度を持ったアンサングはすぐさま白式に肉薄。気がついた一夏が零落白夜を発動させようとするが、一手遅かったな。
振りかぶった刀の少し下、二の腕部分を思い切り掴んで、一夏に背中を向けるように背負う。そして伸びた腕を絞るように、
「思い切り、引っ張る!」
とまあ、これがかの有名な背負い投げだ。そのまま首元を掴んで固め技の姿勢にはいるが、やっても効果はないだろう。
まさかISで柔道やるなんて思いはしなかったけど、やはりあまりうまくいかない。
柔道は叩きつける地面がなくちゃ成立しないから空中でやってもノーダメージなんだもの。
基本的に武術だのは当然地面ありきが前提だ。むしろ江戸時代に空中で武道をする流派があれば是非教えてもらいたいものだ。
俺に一夏のような空中戦のセンスは無い。ああもうクルクルと自由に回ったり飛んだりするのはまだできない。
だが、地面の上ともなれば俺の独壇場。溜め込んできた知識をフルに生かした戦いを展開できる。
「というわけで一夏、受け身頑張って」
何か言おうとしたらしい一夏だが、次の瞬間には衝撃波と土煙に覆われることとなった。
もちろんいっしょに心中してもいいことはないので地面ギリギリで白式を蹴っ飛ばし、少し離れた場所に着地している。
「というわけで織斑、マネージャーに一撃も当てられずボコられる気分はどう?
ねえねえどんな気持ちー、ねえねえ答えてよー、聞こえにゃす?!」
「聞こえてるわ!」
土煙の中から飛んできたら誰だってびっくりするわ、ていうか変な声出ちゃったし恥ずかしい......じゃなくて。
「散々バカにしてくれたなこんの野郎、俺だって怒るんだからな!」
ちょっと言い過ぎた感じかなコレは。
モチベーションを上げるには怒るのが一番てっとり早いんだけど、
怒りで剣の早さも技量も上がるとかちょっと聞いてないんですけどというか零落白夜って掠るだけでも3割強持ってくとか理不尽じゃないっすかねインチキ装備も大概にしやがれ!
「まあ俺も人のこと言えないんですけどね」
どうにかこうにか鍔迫り合いに持ち込み、突き飛ばして距離をとる。その隙に俺は二つ目の装備をコール、そこに刀を収める。
「......居合、か?」
「そのとーり、そしてこいつの唯一無二の切り札でもある」
左足を前に踏み出し、右足は後ろに少し浮かせて。
腰は低く、だが低過ぎない程度に。
左手は鞘に、右手は柄に。
「イメージは、
企業の人に言われていた言葉を反芻する。
銃のパーツで例えるなんてアメリカらしいが、不思議としっくりときた。
「おっしゃあ、来やがれ!」
一夏は待ちの姿勢をとった。
俺の一撃をいなして返す刃で勝つつもりらしいが......やはり、一夏は甘い。
居合はコンマ1秒の世界とも言われる。
達人の域まで達した者の居合は、人の目では捉えられない。
しかも、それを人ならざる力を持ったISが同じ事をするとどうだ。
それも
右足を思い切り踏み込んで、撃鉄を落とす。
一夏が防御しようと刀を構えるのが見える。
カチリ、とどこかで機械音がした。
そして、決着の刻が訪れる。
『勝者、河南成政!』
「人を見かけで判断しないこと。
これでいい教訓になったんじゃない?」
◇◇◇
痛む身体に鞭打ちひーこら言いながらピットに戻ると、箒が腕を組んで待っていた。その顔は若干不満げだ、多分一夏の立ち回りに納得がいかなかったんだろう。
「存外動けるではないか成政、剣道また始めたらどうだ」
「今回はなんとかなっただけ、あつつ」
消えろ、と念じればシュインと光になってアンサングが消え、代わりに金属板にチェーンを通した無骨なペンダントが現れる。何度見ても質量保存の法則を無視しているのだが、実際どうなっているのやら。
待機状態は担当さんに言われるままに首から下げるペンダントをイメージしてみたけど、案外ジャラジャラしてうるさい、別のにできないのかな。
「やはり3年も離れていれば、鈍りもするか」
「一夏のこと? むしろ3年離れていてあんだけしか鈍ってない事を褒めるべきじゃない」
「褒めるとあいつはのぼせ上がるからダメだ」
「ひゃー、鬼コーチだねぇ箒は」
「成政が褒めればいい、これで飴と鞭だ」
「素直に褒められないだけのくせに」
「そそそそんなことは決してない!」
みるみるうちに顔が朱色に変わっていく箒、褒めることだけでもこんなに恥ずかしい事なんだろうか。『よくやった』なり『おつかれ』なり、たった一言簡単な事でも良いのに。
「じゃ、今日の夜は試合の反省会かな。色々問題点も言いたいこともあるし、8時に俺の部屋って伝えといてくれる?」
「わかった」
軽やかにかけていく箒の背中を見送ってから、椅子に座って深くため息を吐いた。
「これで全員一勝一敗な訳だけど、クラス代表どうなるんだろ」
答えは神様か織斑先生が知っている。