〜もしエス〜 もし女子剣道部のマネージャーがインフィニット・ストラトスを起動したら 作:通りすがる傭兵
これでやっとこさ一巻の半分が終わりました。長いんだかテンポは悪いんだか。
それではどぞ!
試合から時は巡って午後の6時。
勤勉な学生達は部屋で予習復習をし始め、部活に真剣な生徒は練習終わりで一息ついているだろう頃。
俺はそのどちらでもなく、
「反省会の時間だごらぁ!」
「うら〜」
「???」
「なんだあ!?」
「ああ、来たか」
一夏のいる1025室に殴り込みをかけていた。
「というわけで、クラス代表決定戦に参加した皆様方に集まってもらった次第です。
今回の目標は改めて自分を見直しうんぬんかんぬん、てか俺がやりたいのでやります」
「シャワー浴びようと思っていましたのに」
「そう嫌な顔しないでよせしり〜ん」
「なんだか気が抜けますわね」
「成政」
「まっかされりー」
拡張空間より取り出したるは、会議室なんかに置いてあるであろうなにかと便利なホワイトボード。用務員の人に突撃して廃棄予定だったものをもらい受けてきたのだ。
「その前に感想、という形で。一夏、どうだった?」
「どうって......何が」
「ISを動かした感想。こういう初体験というか初心てものは大事にしないと駄目なのだ」
「って言われてもな。特にねえぞ」
「かっこいいとか〜、すっご〜い! わ〜い! た〜のし〜! とかで良いんだよおりむー」
「お、おう」
「Don’t think.feel」
「めっちゃネイティブだな!」
ひとしきりボケて緊張がほぐれたところで、話すように促してみると渋々と言った体だが口を開いてくれた。
「なんつうかなー、そのー。やっぱりすごかった。
生身で空飛ぶとか、でっかい刀振るとか、そんなこと空想の中だけかと思ってたからな、興奮した。
あとは、そうだな......すげえ力を持っちまったな、なんて他人事のように思った」
実感なさげに、というのは少し危うい気もするが、触りとしては十分だろうて。
箒に部屋の電気を落としてもらい、みんなにはホワイトボードの前に立ってもらう。
その一歩後ろに立って、アンサングのハイパーセンサーを起動、ある機能を使用すると。
『ーーーれでは、織斑一夏vsセシリア・オルコット』
「なんだなんだ!?」
「試合動画、のようですわね」
「お〜、映画みたい〜」
「プロジェクターなどこの部屋には」
不思議そうに辺りを見渡すのを見、計画通りすぎると思わず笑みがこぼれる。
ふふふ、それは違うのだよ箒君。
「これが俺のIS『アンサング』の第三世代たる所以! ハイパーセンサーが得た情報を蓄積し、ISの高性能だが意外と使い道のない領域を解析特化させてそこいらのスパコンも凌駕する処理速度を誇った優れもの。
その名も、『博覧強記』!以上、カンペより」
「「「カンペかよ(ですの)!」」」
「簡単に説明するとすごく便利なカメラとPCが一体化した優れもの。後ちょっとの未来予測」
「一気にチープになってしまったな」
「でもコイントス百発百中だし、じゃんけん負けないんだよこれ、凄いよね! 凄いって言えよ!」
「みみっちいですわね」
「......試合の最初のターニングポイントについて語りましょうかね!」
ぴ、と脳内でリモコン操作をするイメージで念じると動画が止まる。そこでは一夏がセシリアの懐に潜り込み、一撃斬りつけたシーン。
「俺が1回目の攻撃を当てた所だな」
「あの時は一夏さんに見事にしてやられました」
「普通に近寄って攻撃しただけに見えるけど〜、どこがターニングなの?」
「私もだ、よく分からなかったな」
「じゃあ答え合わせ、の前に予想タイム。一夏とオルコットさんはちょーっと静かにしていてね」
答えを知っているであろう両名には口止めをして、二人にはじっくりと考えてもらう。自発的に予想したり、色々間違えたりするのも成長の糧になる。それにただ答え合わせをするんじゃ面白みもないからね。
「ヒント。この戦略は初手、このシーンじゃないと使えなかった」
「初手である必要性、だと」
「そう、必ず初手じゃないといけないよ。他じゃ無理」
「むむむ〜」
2人は眉間にしわを寄せて必死に考えている様子。あー、俺も記憶消してそこ混ざりたいなあ、答えのなさそうでありそうな難問に挑戦して脳汁ドバドバ出して興奮したいなあ。
「ダメだ、さっぱり分からん」
「む〜りぃ〜」
「早いな君ら!ISもろくに触ってないんだし、妥当と言えるけど。
じゃ、一夏答え合わせ」
「俺が言われたこと言えばいいのか?」
「そうそう」
「えっと、俺が言われたのは......
真っ直ぐ行ってから左に飛べ、とだけ」
「「???」」
いい感じに混乱してる様子。
でも答えだけじゃ分からないだろうし、途中式もしっかりとつけてものはネタバラシと。
「簡単にいうとですね」
「私の癖を利用されたのですわ」
「セリフ取られたー!」
のけものにしていた意趣返しか淡々と語り始めたオルコット。仕草はさすが貴族の血筋のなせる技か、こんな部屋の片隅でも大舞台に立つ女優のように堂々とした立ち振る舞い。
「人はとっさの行動というものはほとんど無意識、それを意識して制御するのはとても難しい事なのです」
「君ら歩く時最初に出る足とか意識しないよね。そういう事」
「それがどうつながってくるんだ?」
「少し考えれば分かります、ゆっくり考えてください一夏さん」
「んーーーーーー?」
「......???」
「あ〜、わかったかも〜」
一夏と箒がまだ唸っている中、意外にも一番鈍そうな布仏さんが手を挙げた。行動がスローモーなだけであって他はそれ程でも無いんだろうか。
「えっとね〜、先回りしたんでしょ〜」
「正解、というわけで答え合わせ。
オルコットさんはとっさの行動時、オルコットさんから見て右に動くクセがあった。だから一夏が左に動けが必然的に距離を詰められる訳。
最初以外使えないのは、それ以外のタイミングじゃ距離を詰めきれないと思ったから。スタート位置なら距離も決まっているし、一夏の反射神経はかなり良いしね」
「へー」
「何故それをしたお前が理解していないのだ」
「だってそうしろとか言われてないし、俺は訳もわからず従っただけだしな」
「胸を張って言う事でもねーだろ理解しろ」
「将来が末恐ろしいですわね、悪い意味で」
「だから一夏は阿保なのだ」
「みんな辛辣だなオイ!」
この後もオルコットも交えた試合反省会は続き、一夏の欠点という欠点をボコボコに叩いて非難して、時々鈍い阿呆を罵倒して申し訳程度に褒めた後、騒がしいとカッ飛んできた織斑先生に鉄拳制裁されましたとさ、ちゃんちゃん。
「もうすぐ消灯時間だ、部屋に戻れよ」
「「「おおおおおおお......」」」
「は〜い」
部屋の中には死体が3つ。言わずともわかるだろうが布仏さん以外である。
あの時代錯誤な暴力教師、辞めさせた方が学園のためな気がするのだが。鉄拳制裁が許されるのは昭和の時代であって今やったらPTAなり外野が騒がしくなりそうだし。
でも言っていることはど正論でもある、今日はやることもやったし解散でいいだろう。
「じゃ、今日はお疲れ様でした。おやすー」
「ご、御機嫌ようですわ......」
「むにゃむにゃ〜」
「おう、おやすみな」
「また明日」
寝落ちした布仏さんを担いで部屋を後にする。オルコットさんとは特に会話もなく、隣なので直ぐ部屋の前についてしまった。
「じゃ、オルコットさんもまた明日」
「......お待ちください」
「はい、待ちますけど?」
呼び止められる心当たりは全くない。でもこんなところで呼び止めるなら特に長い話でもないだろうし、人を担ぐのはそこそこ辛いんで早くしては欲しいんだけど。
「いえ、なんでもありませんでした。
それでは、良い夢を」
「あらそう、そっちもねー」
そのまま布仏さんをベットに放り込み、軽くシャワーを浴びてから俺も寝た。
「そういや、なんでオルコットさんは俺呼び止めたんだか」
答えはいくら考えても出るわけもなく、なんでもないということはどうでもいい細事だったんだろうと決めつけ、記憶のゴミ箱に放り込んで意識を手放してしまった。
「ここがあいつのいる場所ね」
草木も眠る丑三つ時、IS学園の正門前の暗がりに立つのは幽霊でも悪魔でも魑魅魍魎の類でもなく......ただの華の女子高生である。
「さあ、待ってなさいよ一夏! 例えどんな壁があっても私がぶち破ってあん時の返事をきっちりかっきり聞かせて」
意気揚々と歩き出した少女を阻む鉄の壁。
現在午前2時、IS学園は24時間営業ではないホワイトな学園なので守衛は家に帰り、正門は閉ざされている。
「邪魔くさいわね......」
少女は愚痴りながらISを部分展開、その拳で尽くを粉砕してやろうと振りかぶって、
「いやダメだろ」
「あたしでもやんねーよそれは」
「IS学園てバカの集まりなのかしら」
「????!?!?!!」
突然響く男女の声、振り返っても誰もいない。
「ま、まさか幽霊なんている訳ないわよね! あんなもの迷信よ迷信」
「ところがどっこい、幽霊は存在するんですよ」
突如 暗がりに浮かび上がる青年の顔。
見下げても首から下は見えず......
「......」
「あ、気絶した」
「M、撮れたか?」
『撮れ高ばっちし』
「撤収するわよ〜」
翌日、朝早く校門前を掃除しようとした用務員が、ツインテールの小柄な少女を倒れているのを見つけたとか。
to be continued ......?