〜もしエス〜 もし女子剣道部のマネージャーがインフィニット・ストラトスを起動したら 作:通りすがる傭兵
「幽霊に間違われるとか、俺ってそんなひどい顔してた?」
「いや本当に顔がソックリだったのよ!」
「そうは言ってもブっ倒れるのは失礼でないかい?」
「本当に怖かったのよ信じなさいよ!」
「幽霊とかほんとおっちょこちょいだなあ鈴は」
「一夏は黙ってなさいよ!」
「なんでさ」
またお前かと言いたげな顔をした保健室の先生に断りを入れ、件の気絶した生徒を運び込んで暫く。数分で目を覚ましてくれたので、今は男子2人とで会話を楽しんでいる最中だ。
見覚えはないから九割がた転校生だろうし、仲良くなればうっかり情報を漏らしてくれるかもしれないからね。
「本当に心当たりないのね」
「家族はじいちゃんばあちゃんより前は死んでない」
「だったら他人の空似かしら......でも本当に似てたのよねぇ」
ぶっちゃけると心当たりがあるのだが、その内正体が分かるであろう事なので黙っておこう、その方が面白いって言うだろうし。
「とりあえず、あんたには自己紹介がまだだったわね」
少女はひょいとベットから飛び降りると、自分の名を名乗った。
「私の名前は
呼びにくいだろうし、
ちなみに、中国の代表候補生」
「ああ、よろしく。俺は河南成政だ」
「成政ね、よろしく」
すぐに手を差し伸べて握手を求めてくるあたりだいぶ社交的なお人らしい。
「のわっ」
いや、手を引っ張ってくるあたり積極的なのか? 安っぽそうな洋画ならキスの一つや二つしてくれそうなもんだけど、
「あんた、一夏の事どれだけ知ってる?」
「......戦闘面なら8割、それ以外は4割」
「上等、あとで会いましょ」
この話ぶりを見る限り、一夏の恋愛がらみかねえ。あいつ浮ついた話しかないとか、呆れを通り越して尊敬したくなるよ。
「何話してるんだよ」
「麻婆豆腐の話」
「......」
「なんで距離取るのよ」
「いや、なんでもないんだよ。なんでも......」
◇◇◇
時は巡って放課後。帰り支度を整えていると、1組の教室にひょっこりとツインテールが顔を出した。
「や、成政いる?」
「河南君お客さんだよー」
「はいはーい、って鈴じゃないの」
「例の件よ。ここはまずいし、屋上に行きましょ」
言われるままについていき、あっという間に屋上の2人きり。後ろ手に屋上の扉を閉じたところで、今まで閉じていた口を開いた。
「1ヶ月の付き合いでも、大体わかるでしょ」
「まあ言わんとすることは分かった」
「そう、私は一夏のことが好き、もちろんIoveの意味でね」
「だーよーなー!」
これ以上厄介ごとを増やしてくれるなと叫ぶと、やっぱりかと鈴が溜息をつく。
「まああいつの
「あら、知り合い?」
「ええそうよ。中学2年までは日本にいた」
「セカンド幼馴染到来......!」
「なによそれ」
「いや、知り合いが一夏の幼馴染なもんで。篠ノ之箒って名前なんだけど面識ある?」
「いや、ないわね。誰よそれ」
呆気からんと言い放つ鈴。嘘はついていないようだし、本当に知らないようだ。
篠ノ之といえば大抵
「で、本題に入るわよ。
あんた、一夏と私が付き合うのを手伝いなさい」
「俺に対する報酬は?」
「あんたを中国でスカウトする」
まるで話が見えてこない。スカウトなんてそれこそ選手、一夏なり何なりが受けるものじゃないのか。
と、考えてる事が顔にでも現れていたか、呆れた様子で鈴が言う。
「自分の置かれてる状況がまるで理解できてないようね。
一夏はあの織斑千冬の弟ってネームバリューがある。日本は手放さないだろうし、まず千冬さんが許しはしない。
それに模擬戦とはいえ他国の代表候補生に勝った、なら日本の代表候補生になる日もそう遠くはない。だったらもうスカウトなんて無理。
けどあんたは違う。後ろ盾も、功績もない。 しかも専用機は民間企業が作ったもの。
日本にはもう一夏がいるし、2人もいらない。日本政府だって手放してもおかしくないはずよ。そうなったらモルモット一直線じゃない」
「言われてみればそうか」
「でしょ、だからあんたをスカウトに来たわけ。うちの教官はあんたを高く評価してる、指導者としてね。
下心がないわけじゃないけど、得体の知れない事はしないと約束する。
どう、良い条件でしょ?」
要するに、未来の安全な就職先が決まる、そう言いたいらしい。ずいぶん政治的な話ではあったが、思い当たる節がないわけでもない。身の安全を確保すると言う点でこれ以上の話はないかもしれない。
それに中国といえば日本に負けず劣らず武道が盛んな国、あちらに行くのも悪くはない。
「だが断る」
「そう言うと思ったわ、今すぐ教官に連絡して......うん?」
「お断りするよ」
「ええええええええ! 受けるでしょそこは!」
「だってやることあるし、それに鈴を一夏と付き合わせるわけにはいかないんで」
「まさか、あんたって」
「一夏に恋愛感情なんて持ち合わせるか、俺はいたってノーマルだ!」
ああもうまた話が逸れる。話がそれるのは俺の悪いくせなんだぞ、いい加減直せよ!
「ともかく、俺は君の手伝いは出来ない」
「......理由は聞いても?」
それ次第では容赦しない、と目で言っているのがビリビリと伝わってくる。殺気って目で感じられるのね、超怖い。
だけど、それでも退くわけには行かない。
「俺の好きな人が、一夏のことを好きなんだ。だから、それを応援したい」
だから君の願いは聞いてやれない、そう頭を下げ、パンチの一発や二発は仕方ないと歯を食いしばる。
鈴は見ず知らずの自分の身を案じてこの話を持ちかけてくれたのだろう。たとえ政略でも嘘でも、あの誠意は本物だ。それを裏切ったんだ、覚悟はしている。
......そのはずだったんだが。
「なるほどね、だったら話は早い。
要するに私が一夏と付き合い始めればあんたをスカウト出来るってわけね!」
なーんだ簡単じゃないのー、とまるでドッキリのネタバラシの後にように背中をバシバシと叩いて大笑いされては、こっちの気も抜けてしまうってもんだ。
「好きな人を幸せにする、いいじゃない!
だったらそれを全力で頑張りなさい、その努力を、私は正面から粉砕してあげる!」
宣戦布告。
一夏は私が奪ってみせると、そう宣言した。
「上等、必ず箒ちゃんを惚れさせてやるよ」
「決まりね」
「......ふふふふふ」
「......ははははは」
多分、鈴とはいい友達になれるんじゃないだろうか。そんなことを思いながら、俺たちは拳を重ね合わせた。
「それはそれとして八極拳分かる? 昔教えてもらったにはいいけど、結構錆びついてて」
「良いわよ、組手の相手が居なくて退屈しそうなところだったし」
「いや、俺運動音痴で」
「そんなもんどーでもいいでしょ、やればなんとかなるわよ!」
「俺はマネージャーであって選手ではないのにー!」
この後武道場で鈴にボッコボコにされた。
居合わせた剣道部の皆さん、今日練習勝手に休んでごめんなさい、こういう訳なんです......
「......無断欠勤の罰があたったみたいね」
そう言う部長の生暖かい目が、とても辛かった。
今日箒ちゃんが休みで助かったよ......とはいえ、気分が悪いって言ってたらしいし後で見舞いにでも行ってやろうかな。
⁇「ぶえっくしょい!」
⁇「風邪ですか?」
⁇「いやあ、大方弟が噂でもしてるんでしょ」
⁇「えー、弟さんいるの?」
⁇「どんな人どんな人ー?」
⁇「良いじゃないのそんな事は。
それより本題でしょ、しかしP君も思い切った真似したねえ。よりにもよってこの姉妹を引っこ抜いてくるなんて」
⁇「いえ、笑顔が素敵だったのでつい」
⁇「アイドルかー、楽しそうだね!」
⁇「うん、きっと2人なら、どこまででもいけるよ!」