〜もしエス〜 もし女子剣道部のマネージャーがインフィニット・ストラトスを起動したら 作:通りすがる傭兵
正直描写不足ーとかなにか足りないーとかあるんですけど、どう直しても蛇足になる。
実力不足ですかね、コレ。
あとそろそろサブタイが考えられなくなって来た......
人は焦った時普通じゃ考えられない事をする。怒っている時も同じく。
だから焦らず冷静に、という言葉をかけるのだが、大抵そういう事は聞いて納得した試しがない。
つまりなにが言いたいかというと、
「おおっとここで乱入者のエントリィ! アリーナの遮断シールドをかち割り、何者かが飛び込んできたぁ!」
『先輩! なに普通に実況してんですか、マズイですって!』
「火事と喧嘩は江戸の華ってもんよ!」
『ここは江戸じゃなくて東京ですしいいから落ち着いてください、当て身!』
「あふん!」
観客席も慌ただしいが、こっちもこっちで大変だったというわけである。何故か普通に実況しだした先輩の頭を軽く叩いて正気に戻し、安全確認のため回線を開いてアリーナの2人に繋く。
『あーあー、テステス。こちら放送席、今どういう状況?』
『こっちが聞きたいわよ!』
『元気そうで何より』
『他のみんなは無事か?!』
『連絡は取れていないが、観客席には被害はなさそうに見える。先生たちの誘導も始まるだろうし多分大丈夫』
『で、このよくわかんないの何』
『多分IS。あんだけのエネルギー砲撃てるとすりゃあそれしかないだろ』
『なら倒せばいいんだな』
『バカだろお前さっさと逃げろよ!』
『でも今対処できるのは私らだけよ。先生たちを待ってたら、客席にさっきのが叩き込まれる可能性だってあるんだから』
『確かに一理ある、けども』
『俺の零落白夜なら一撃で倒せる! 先生たちを待ってたらみんなが危ないだろ!』
『しかしだな......!』
白式の必殺性を押し付けてくる一夏だが、その理論には穴がある。
当たれば一撃必殺の零落白夜。
それを一撃で当てる必要があるのだ。
(このタイミングでなら、一夏狙いっつうことは確実! 無策で挑むはずはないだろ!)
その対策案は分からない、だが一夏がそれを超えることが出来るとは思えない。今すぐにでも考え直せと叫ぼうとして、
『許可する』
『織斑先生!?』
『千冬姉!?』
『下手人に完全にしてやられた。アリーナを完全に封鎖され、職員の突入が出来ない。
現状動けるのは織斑と凰、貴様らだけだ。
倒せとは言わん。だが、職員突入までの時間を稼げ』
戦闘は避けられない。
俺は思考回路を切り替え、いつものように会場を
なんとかするしかないだろう。
『一夏、鈴。出来る限り援護する、回線は開いといてくれ』
『任せた!』
『下手なこと言うんじゃないわよ!』
砂塵の中から現れる、鈍い金属色のIS。
ずんぐりとした体躯に、異常に長い手足。全身を装甲で覆われ、操縦者の表情を伺い知ることはできない。
顔部分に搭載されたいくつものセンサーが不気味に光を放つ。
『来るぞ、構えろ!』
無造作に向けられた手の平、そこから吐き出される閃光が戦いの火蓋を切られた。
◇◇◇
あの謎のISの正体。最初の様子見と今までの敵の動きを見て分かった事がある。
『だああクソ!』
『ああバカ突っ込むんじゃないわよ!』
今もそうだ。一夏の突撃を全身に取り付けたブースターを吹かして力任せに避けている。
近接戦闘の捌き方も、手足を振り回し至近距離でも御構い無しにレーザーをばら撒く。
人間らしくない、ますますそんな印象を持った。
まるで理詰めで動くなにか、CPUだかNPCのような、無機質な感覚。
アイツは恐らく無人機、外部操作で動くロボットだ。
だが、そう断じていいのか?
鈴の衝撃砲を防いだシールド、あれは間違いなくISのもの。そしてISは必ず操縦者を必要とする。
中に人がいて、零落白夜でアレをなます切りにしてしまったならば。
想像したくもない。
99%中に人がいないとして、残り1%を引いてしまったならば。
アイツの将来はどうなる。
例え世間が許したとして、自分自身が許せるか?
「ゴーサインを出す俺が、俺を許せるか?」
否、俺は自分を許さない。
自分のことだ、自分が一番理解している。
「俺がアイツを倒すべきなんじゃないのか?」
貧乏くじを引くんだったら、俺が引くべきだ。無駄なものを、アイツらに背負わす訳にはいかない。
「すいません先輩......俺、行きます」
放送席外殻はアリーナの防護シールドを遥かに超える強度を持っている。
流れ弾くらいなら耐えてくれる筈だ。
そう祈って、俺は放送席を飛び出した。
向かう先はピット、アリーナの出入り口。
「......成政?」
◇◇◇
人ひとりおらず、非常事態のせいか薄暗いピットの出撃ゲートは、固く閉じていた。
解析してみれば、分厚い合金とIS技術を転用したエネルギーシールドに覆われているらしい。
だが俺はそれをぶった斬る必要があるのだ。
こんな些細な障害に立ち止まっていて、より高い壁を越える皆を支えられる道理があるだろうか。
「来い、
4月から改良を重ね、名無しから『雷切』にグレードアップされたこの一振りの太刀。
そしてアンサングのもう一つ、いや、真の第三世代たる所以。
「......
織斑先生、そして一夏。
「ちょっとばかし、借りさせてもらう!」
◇◇◇
「これじゃジリ貧ね」
「これ以上食らったら零落白夜も出せなくなる」
『何か手が欲しいところだな......』
「そうそう」
『なら、俺がなんとかする』
「そりゃ助か、って成政?!」
『俺も参戦させてもらう』
後ろから声をかけると、とてつもなくビックリしていた。全方位見えるハイパーセンサーがあるのにこうなんだから、よっぽど疲れてるみたいだな。
早めの決着が望ましい、か。
『鈴は衝撃砲で援護を担当、一夏が攻撃だ』
「でも、それでダメだったんだろ? 何も変わんねえじゃねえか」
『何がダメだったかを
一回冷静にならんと勝てんぞ』
「あんたねえ、それ私らにいう事?」
『君らがフィーリングで動いてるのくらい理解してる、その上で言ってるんだ』
目線は敵から離さないまま睨みつける。相手はこちらが動かないからか、様子を伺うようにこちらを見ているばかりで動きはない。
こちらの動きに反応して動くようだな。
なら、作戦を伝える時間もあるってもんか。
『一つ作戦がある。言いたくはないがこれが失敗したら本当にお手上げだ、頼むぞ』
「オッケー、なんでもするぜ」
「伸るか反るかは運次第って事ね」
『じゃ、作戦を説明する』
万が一を取って作戦は文字で伝える。
ISならここからでも声を聞けるからな、ないとは思うが念には念を、というヤツだ。
この作戦はタネが割れれば回避するのも容易い上、失敗は許されない。
『......わかったか?』
「なるほど、お前らしいな」
「ねちっこいというか、卑怯というか」
『勝つためならなんでも使う、この際に限って文句は言うな』
「褒めてんの」
『......そりゃどうも』
作戦はシンプル、突撃。
しかしタイミングをどうしたら掴めるものか、なるべく避けないで貰いたいてか避けんな。
『あべしっ!?』
「モロにもらったけど大丈夫か!」
『正直かなり痛......ん?』
場内に響くハウリングノイズ、思わず気を取られて立ち止まる。
先輩が目でも覚ましたのかと一瞬冷や汗をかいたが、事態はそれ以上に不味いものだった。
《成政っ、一夏っ!
男なら、そんな敵に勝てんでどうする!》
『あんのバカ何しやがる!』
放送室で叫ぶ箒、その声は震えていた。
新しい敵かと反応する敵IS、あのビームを放つ腕が上がる。
『囮役なんか頼んでも無いってのに、鈴!』
「行くわよ一夏、
「任せろおおおおおおおお!」
まず白式を衝撃砲でぶっ飛ばす。
エネルギーを使えるだけ零落白夜起動に回す以上、奥の手の瞬時加速は使えない。
そのための衝撃砲、エネルギーがないなら外から持ってくればいい。
衝撃砲を叩き込み、そのエネルギーをブースターで取り込んで無理やり発動させればいい。
......多分一夏の心の準備がまだだっただろうけど些細なことだろう、成功したんだし。
「だあああああああああああああ!」
敵ISはそれをブースターを吹かして躱す。
だが、それを織り込んでるんだよ間抜け!
『チェストぉ!』
白刃一閃。
音速を越える抜刀術が、胴体を袈裟斬りに切り裂いた。
一夏の零落白夜が一番警戒される。だったらそれを見越して本命じゃなく囮として使えばいい。先に突っ込んだ一夏ではなく、甲龍のバカ
レーザーブレイド対策はしてあったろうが俺の雷切は実体剣、その穴をすり抜ける。
かくして作戦は大成功、敵はめでたく真っ二つだ。にしても、中に人がいなくてよかった。
『よっしゃ、これでしま......』
《成政っ、後ろだ!》
最後の足掻きか、真っ二つになった敵ISの腕部、レーザー発射口にエネルギーが集まっている。向いているのはこちらではなく、
『......!』
見上げるまでもなかった。
俺は雷切を投げ捨て腕部の向く先......箒のいる放送席を守るように射線上に飛び出した。
目の眩むような光の奔流を目の当たりにして、俺の意識はそこで途切れた。
《成政ああああああああ!》
◇◇◇
「知らない天井......とでも言うべき?」
正直なところ、保健室
人生でまじまじと天井を見上げた事がないからか、俺はそう見当違いな感想を持った。
あたりを見渡そうとして、首が回らないことに気がついた。触ってみるとどうやらギプスか何かで固定されているらしい。
よっこらせと身体を起こして、体ごとひねってあたりを見渡す。
左腕には点滴、右腕は包帯にギプス。胴には包帯が巻かれているらしくザラザラとした感触が返ってくる。
下半身は重りでも載ってるかのように重い。
最悪障害でも残ったかなと目を向けて、
「......すぅ」
「ま、そうだわな」
膝の上でスヤスヤと寝息を立てる箒の頭を撫でる。言いたいことは山のようにあるが、それを含めても心配させてしまった代償としては十分な対価だろう。
「目が覚めたか?」
横を見れば、いつも通りスーツ姿の先生が。
そういや担任だったなこの人。
口を開き今回のことの
「全く一夏といいお前といい、私の知る男は無茶ばかりをする」
「一夏になにかあったんですか!」
「精々が軽い打撲だ、お前に比べれば何ともない」
「そりゃ良かった」
「......早く戻って来い、お前がいないとクラスの雰囲気が暗い。それと、篠ノ之もな」
最後に思わせぶりな台詞を吐き、ついでのように箒の方を見てから帰った。
また静寂が訪れる。やる事もないので、身近で遊べそうな箒をつつくことにした。
「しかし、かわいいなぁ......」
ツンツンと頬を突くと、嫌がってかムニムニと口元を動かしてもどかしそうに顔を動かす。
このまま、永遠と時が過ぎたら良いのに......
「ようナリいとしの兄ちゃんが見舞いに来てやったぜ!」
「帰れこの(放送禁止)!」
「な、にゃんだ!? 成政っ!?」
「......にゃん(笑)」
「なななな、なな! 忘れろぉ!」
顔を真っ赤にしてふり抜かれた拳が俺の顎を的確に捉える。脳を揺らす一撃は俺を意識をまた断つのには十分過ぎる程で。
殴られた......怪我人なのに。
「解せぬ......パタリ」
「な、成政ーっ! 誰か誰か救急車を!」
「いやここ病院なんだけどナー」
異変に気がついた看護師さんがすっ飛んで来るまで、この馬鹿騒ぎは続いたとか。
その後のお医者さんの話曰く、俺は右腕と肋骨一本を骨折、首に打撲、胴体と顔の一部に火傷。
計、全治三週間の重傷。
「絶対なんて言葉、信用するもんじゃ無いね」
ISと言えどもダメージを0にすることはできずめでたく俺は病院ナウという事だろう。
全く、絶対という言葉を信頼して飛び込んだってのにこのザマとは、開発者に文句の一つでも言いたくなる。絶対だってつけるくらいなら、もっと頑丈にしてくれと。
お陰で『アンサング・ヒーロー』もこの度ボロボロになり、生まれ故郷アメリカの開発会社に里帰りすることになった。そのついでに改修もして『アンサング・ヒーローver1.5』になるとか。
まあ、改修といってもソフト面のものが主になるとか。外見はあんまり変わらないらしいが、やっぱり遠距離装備もいるな、と雷切と別に何かしら追加されることが決まった。
要望は伝えてあるので、使い辛いのは流石に来ないだろうて。
「成政、あーん」
「ああいや、俺左手使え」
「あ ー ん !」
「......あーん」
「ふふふふふ......」
目下の悩みと言えば、箒が部活をさぼくって毎日病院に通う事だろうか。
やめろと言いたいんだけど目が怖いのよ、ほんと。
面会時間も過ぎ、渋々帰る箒の後ろ姿に手を振っていると、カレンダーが目に入った。
「そういやそろそろタッグマッチトーナメントだっけ」
今日からあと数日で6月に入る。ジメジメとした梅雨は嫌いだけど、イベントがあるので待ち遠しい月だ。その行われるのは6月の中旬、今から数えてひいふうみいの。
「......足りない」
さあっと顔が青くなる。
このままでは場の臨場感を味わえない無機質な液晶越しの観戦、そしてその前の練習には関われず指をくわえて見ているばかり......!
「こんなもん認められるかーっ!」
こうなったら気合いでなんとかするしかない。病は気から、つまりやる気さえあれば怪我なんぞ治せるんだーっ!
「ぬおおおおおおおおおおおお、根性ーっ!」
「るせえ! 静かにできんのか!」
「はひぃ! すみません!」
「ちっ」
同室のおじさんに怒鳴られた。
あの人病院着で隠れてわかりづらいけど、刺青らしきものが見えたんだよね、今さっき。
(......大声を出さずに気合を出す方法を考えよう)
もしうっかり逆鱗に触れーの長ドス登場からのコンボで人生終了、なんてなったら目も当てられない。
こんなつまらないところで死ぬとかシャレにならないよ。
せめて死ぬなら、海の見える場所がいいし。
「でも俺泳げないんだよなぁ」
水泳の練習でもしといたほうがいいのかしらん。