〜もしエス〜 もし女子剣道部のマネージャーがインフィニット・ストラトスを起動したら   作:通りすがる傭兵

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W転校生を前にちょっとした小休止。
少し話題になった、あのバカ4人組のお話です。
サブタイは思いつかないので以下略

2018/05/25 追記

これ続きません


番外編1話

 

河南兼政のいちばん長い日 1

 

 

「そろそろ2年かぁ」

「ああん? 何がだよ」

「アレじゃない、アーレ」

「ああ、アレか!」

 

突然盛り上がり出した3人に対して首をかしげるM。内容を探ろうとはするがアレだのコレだの固有名詞が出てこないのでどうにもならない。

 

『一体なんだ』

「そりゃあー」

 

無駄に間を置く兼政。そして彼はキメ顔でこう言った。

 

「ひ・み・つ」

『キモい』

「あっだあ?!」

「やりぃ!」

 

Mは手に持っていたタブレットでそのうざったい顔面を思い切り殴りつけた。

いつものように騒ぎ立てる4人を乗せた車の向かう先は、まだ誰も知らない。

 

「......ふふふ、楽しみね」

 

ただ1人、ハンドルを握るスコールD(ディレクター)を除いて。

 

 

 

 

 

◇◇◇

 

 

 

 

『誰だとりあえずメシだって言ったやつ!

俺か? 俺だな!』

『『『ハハハハハハハハハハ!』』』

『くたばれクソ社長』

『ちょオータム今運転中だから殴るな!』

 

今より2年前、ドイツ某所。

 

黒い森(シュバルツバルト)と畏敬の念を持ってそう呼ばれる森林地帯、その漆黒の中に1人の少女が身を潜めていた。

服は局部を隠すだけの服とも呼べないなにかの成れの果て。その一部は乱雑に裂かれ包帯がわりに巻かれていた。

体はいたるところから血を流し青あざまみれ。一瞥するだけで満身創痍、今にも倒れてしまいそうで、しかし確かな信念をもってして歩を進めていた。

「わたし、はっ、まだ、死にたく......」

 

死にたくない。

生物の本能とも呼ぶ野生的な感情。

彼女の無機質で無価値で無意味な記憶にとって、頼れるものは全て本能だけだった。

歯を食いしばり傷だらけになっても前にと。

しかし人間には限界がある。

それはナノマシンを注入され、強化人間となった彼女にもだ。

 

目の前の景色が急速に捻れ曲がる。

急速に地面が傾く。

 

「......った、し、は......」

 

彼女はそれでも、手を伸ばした。

 

「......しは......」

 

力が抜けるように倒れ伏した。

それでも彼女は手を伸ばし続けた。

話は変わるが、勝利の女神というものは、最後まで諦めなかったものに手を貸してくれるといわれている。

 

「おいなんで止まるんだ?」

「オータム、今何時?」

「あん? 11時だが......」

「はい、皆さんもう、限界です。ぶっちゃけ俺が持たん。

というわけで、今日は、

 

こ こ を キ ャ ン プ 地 と す る !

 

いいな」

「まじかよお前ww道端だぞ!」

「今日は、このドイツの道端でキャンプするってんだ!」

「アハハハハ、でも私ららしいわねぇ」

「笑い事でもねーだろ! こんなんでねれるかアホD(ディレクター)!」

「社長がそういうんだもの」

「しゃちょおおおおおおおおおおおおお!」

「......ねね、御二方。

 

面白いもん見つけちゃった♪」

 

もっとも彼女に差し伸べられた手の持ち主は悪運の神だか死神だか、はたまた疫病神か。

答えは神のみぞ知る。

 

 

 

『ただ敵を倒すことを考えろ』

 

引き金を引いた。

桃色がかったナニカが一面にブチまけられる。

ナイフを握る手を振り下ろした。

赤い鮮血が頬を濡らす。

 

『お前はそれしかできない無能だ』

 

命令通りに行動する。

今まではそれで良かったのだ。

 

だが、今はそうは思わない、思えない。

 

「私は、なぜ生まれて来たのだ」

 

鏡を見る。

きりりと尖った目尻、整った顔立ち、藍色がかった黒髪。

......まがい物だ、全て虚構でしかない。

私は偽物であれと望まれた。

 

そんなことあってたまるか。

 

「私は......私だ!」

『貴様は所詮模造品だ』

「そんなはず無い、私は私だ!」

『ならば貴様は何者だ』

 

声は問いかける。

 

『答えてみろ、ただの木偶人形風情が』

「違う、違う違う違う違う違う!」

 

「私は、私だ!」

「あいたぁ!?」

 

二日酔いのようにクラクラする頭を抱えて、少女は辺りを見渡した。

少々酷い、世間でいう徹夜明けのげっそりとした顔の男が頭を抑えてのたうちまわっている。

 

「ぐぅあああああああああいってえええええ!!!」

「起きたみたいね」

「目ェ覚めたかちっこいの! ったく、死体があるかと思ったぜ」

「オータムが一番助けようとしてたくせに〜」

「な、それは言わねえ約束だろスコール!」

 

あたりを見渡せば狭苦しい場所だということがわかった。窓を見れば景色が高速で流れている。それを見、少女は自分が車中にあると理解した。

 

「お前は......誰だ?」

「俺だ」

「......」

 

答えとも呼べないような返事を返した男に変わり、運転席の金髪の女性が手を差し伸べた。

 

「ただのしがないテレビ局員とタレント、て所かしら」

「人を喜ばせるお仕事さちっこいの。当の本人にとっては苦行でしかないがな!」

 

金髪の言葉に被せるよう、ボサボサのロングヘアをなびかせる助手席に座っている女が笑った。

まるで意味がわからないと混乱する少女を置いたまま話は進む。

 

「そいつが大抵の企画立てるんだけどさぁ、それがもう酷いのなんの。

こいつはなぁ......っと、名乗ってなかったな。あたしはオータム、んでこいつはスコール。後ろの男はカネマサ。お前は?」

 

顔が曇る。異変を感じたかスコールが訳を聞けば少女はただ一言。

 

「ない」

「あんなとこ裸同然で歩いてるマゾだからM(エム)でいいんじゃないかしら」

「良いなそれ採用」

「面白れーなソレ! ったくらしいぜ!」

「エム......M......いいな! 私はMだ!」

 

後日、少女改めMは語る。

 

『多分みんな徹夜でおかしくなっていたんじゃないか、私含めて』

 

言葉の意味を知った時、Mはスコールに助走付き右ストレートを叩き込んだことを追記しておく。

 

 

 


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