〜もしエス〜 もし女子剣道部のマネージャーがインフィニット・ストラトスを起動したら 作:通りすがる傭兵
放課後。
「なーんで私を誘ってくれなかったんだ河南ぃーーーー!!!」
「吐いちゃう吐くから揺すらないでローラーンー!」
昼休みの事を聞きつけたか、自分が呼ばれないことに腹を立てて押しかけて来たロラン。
箒が部活に行っているから席を外してて助かったんだけど周りの目がなんか痛い。
誰だ今浮気とか痴話喧嘩って言ったの、そもそも付き合ってすらいないんだっちゅうの!
「私が誘っても素っ気ないから、箒と食事できる数少ないチャンスであったのにぃ!」
「知るかそんなもん日頃の行いを顧みてみろ!」
「私は至って清廉潔白さ」
相変わらずのナルシストぶりである。
とはいえ俺がゴネようと正論言おうとどうにもならないのは確か、
「そこまで言うなら埋め合わせはするよ。俺にできる事なら何でもする、それでいい?」
「それでいこう!」
日曜の予定は空けておいてね、と告げてひとまずのところは帰っていった。
なんだろう、上手いこと手のひらで踊らされた気がするようなそうでもないような。
まあいいや、日曜になればわかること、どうせそこまでの事でもないだろうしね。こっちも頼みたいことあったわけだし好都合だ。
今日はオフの日、1週間ぶりに自分の部屋に帰ってくるんだから掃除しとかないとな、1人部屋だからとはいえ妥協はしない。
というわけで帰ってまいりました懐かしの1026号室、俺の部屋。今は布仏もいないし、勝手知ったる俺の庭とノックもしないで開け放つと、
「......まあ予想はしてたけど」
明らかに空気が澱んでいる、ドアと窓開けて部屋の空気を入れ替えないと。あと軽く掃除機をかけて洗濯物もやっといて、と考え事をしていてふと気付く。気持ち部屋が広いのだ。
いや、広く感じるようになっただけだろう。それもそのはず、相部屋だった布仏はもういない、荷物なんかは引き払われた後だ。
1人暮らしには慣れていたとはいえ、人がいないと寂しくなるね。
以上、現実逃避終わり。
今まで意識的に気にしていなかったやばそうなブツ......ただのダンボール箱に目を向ける。
外国語で長ったらしく文字が書き込まれている、字の形からしてヨーロッパ系だ。
こういうものは大抵兄貴と相場が決まっているのだ。俺が読めない事を見越して偽装もそこそこにヤベーものを送りつけてくる。
だが今は違う。世界最高の頭脳を俺はつき従えているのだ、やっておしまいアンサング!
何も起きない。
「そういや修理中だった......」
こうなったら文明の機器スマホに頼れ、
「あんとき木っ端微塵に粉砕されたんだった!」
スマホは犠牲になったのだ、無人機の犠牲にな......
まさに踏んだり蹴ったりとはこの事か。おのれ兄貴、これを見越してのタイミングで寄越したな。
「......やるしかない」
開けないのも精神に悪い。俺は厄介ごとはパパッと済ませたいタイプなんだ、アドリブは心臓に悪いし、放置して大爆発なんて起きれば大惨事。何より世界のどっかで笑ってるだろう兄貴のドヤ顔が気に食わん。
そーっと近づき、まずハサミで梱包用であろうガムテープを切って蓋を開くようにする。
そのあと、なるべく距離を取り直してから腕を伸ばして、刃先でゆっくり、ゆっくりと......オケ、あいた。
だがすぐに覗き込まない、前々々々回あたりは中身がパイ投げトラップで開けた瞬間視界が真っ白になったからな、二度はない。
木刀、はなんか嫌なので竹刀を使って、そろそろと箱をつついたり中にちょっと突っ込んでみたり......今んところ動く様子なし、普通、のようだ。何をして普通とするかは分からん。
恐る恐る首を伸ばして中をあらためる。缶詰に銀パックに、これはアルミパウチ。この箱は弁当サイズにでかいが、菓子レベルの大きさもある。
......開けてみるか。
ヒラ皿を用意して、目に付いた手のひらサイズ、かつそれなりの重さの一品をチョイス。ハサミで切って、中身を皿の上に!
少々鈍い音を立て出てきたのは、茶色みを帯びた四角い物体。匂いは甘い。
端を少し削り、指で擦って手触りを確認、口の中に放り込んでみる。
瞬間、顎にパンチを食らった時のように甘みが押し寄せる。つばで流そうにも溶けてあちこちに張り付き始めて粘っこい!
このとりあえず甘くしとけば問題ないと言わんばかりのだだ甘い具合を感じて確認した。もはやこれ菓子やない、イタズラグッズや。
......味を見る限りチョコっぽいけど。
「インパクトはイマイチ。これはトラップの可能性アリか」
いつもなら兄貴の手紙が入ってるはずなんだがな、蓋の裏にでも張り付いてるもんだけど、あったあった。
なんの変哲も無いレターセットだ。ピンクなので無駄に腹がたつ上、読めない。
透かしやあぶり出しは試したが、書いてあるのはペンで書かれた摩訶不思議な文字のみということしかわからない。
「なんて書いてあるんだこれ」
「親愛なる我が隊長へ、だ」
「俺宛ではなさそうな手紙だね」
「当たり前だ、私の荷物なのだからな」
振り向けば自己紹介の時のようにクソ真面目な顔で持ち主が立っている。
癒し小動物の次は軍人かよ。
これから起きるであろう厄介ごとの数々を想像するとため息しか出ない。
「この段ボールの山はボーデヴィッヒさんの荷物?」
「そうだ」
「つまりこの部屋に住むと」
「そうだ」
なぜ一夏と同室じゃないんだ、シャルルと同室だったら間違いが起こる未来しか見えんぞ、一夏だし。
「ところでさ、コレ何?」
持ち主なら知っているであろう謎の物体の正体を聞いてみる。
「軍用チョコだ、栄養バランスに考慮されて作られている」
「クソまずいんだけど」
「味など不必要だ」
箱から取り出したらしい栄養補給バーのような茶色い棒切れを齧りながら、彼女はそう答えた。
いや、食事ってのはモチベーションを上げるには最適な代物なんだぜ。それを体現した衣食足りて礼節を知るて
「食堂行った? あそこのご飯はそりゃもう絶品で」
「時間の無駄だ、レーションで事足りる」
「部活動どこに所属するか決めた?」
「時間の無駄だ」
「一緒に勉強しよ」
「すでにこの程度履修済みだ」
「じゃあなんで来たのよ......」
思わずそう呟かずには居られない。それなりに青春をエンジョイしてる俺がいうけど、灰色の青春まっしぐらだぜそれ、もっとさあ若いんだからさあ。
顔を上げると、なぜかボーデヴィッヒさんが目の前に突っ立って居た。片目だけでも気迫が伝わってくる、超怖い。
「来た理由? 決まっている。教官を説得するためだ」
「それって織斑先生のこと?」
「その通りだ」
「じゃあ説得とは」
「この学校はぬるま湯が過ぎる。教官の能力を十分に生かせない」
吐き捨てるように告げた彼女は言葉を続けた。
「ISをファッションなどと勘違いし、闘争心をかけらも持ち合わせず、ごっこ遊びに浸るような弱者の巣窟だ、ココは。教官に相応しくない」
たしかに筋は通っている。軍という厳しい環境に身を置いていたであろう彼女にとっては、こんな環境は遊びレベルなんだろう。
確かにISの事を兵器と考える人は少ない、そして今はまだ仲良しこよしでみんなで頑張ろうと手を取り合っているような状況。
一発、キツイお説教を入れたいと思ってたところだけど、ちょうど適役がいるじゃない。
「確かにおっしゃる通り、でも、そう言い切るのは早計」
「私が間違っていると言うのか!」
「......だと思うってだけ」
ナイフ飛んでくるとか予想外にもほどがある、セキュリティガバガバすぎだろこの学校は。まあいいや。
「事実その通りなんだけど、客観的、相対的証拠は何一つ無いのよ。現状君の言うことは机上の空論、想像でしか無いわけ。
だったらどうするか、簡単だよ証拠を作ればいい。めでたく月末にはタッグマッチトーナメント、丁度いい舞台があるよ。
それに優勝すれば、多少は考えてくれるかもよ?」
以上長セリフ終わり。
一応筋は通ってるけど納得してくれるかどうか。
「......そんな遊び場では私の力は測れん」
「一夏をボコれるには絶好の機会だけど」
「そんなチャンスどこにでも転がっている。生身でも、ISでも」
興が削がれた、と部屋を出ようとドアに向かうボーデヴィッヒさん。
「私は、あの男を許しはしない......」
去り際の言葉だけが、どうにも悲しげに聞こえたのは気のせいだろうか。
「ということがあったんだけど、何か申し開きはあるかい?」
「......」
「なんの話?」
気になるので本人に聞いてみよう、と言うわけで一夏を呼びつけてみた、オマケにシャルル君もいるけど些細な事だろう。
他言無用と前置きして、一夏は切り出した。
「あれは2年前、第2回モンド・グロッソの大会当日の事だ。
千冬姉が突然棄権して、そのまま準優勝になった話は有名だろ?」
「うん、理由もわからなくて、その時新聞がすごい書き立ててたよね」
「その理由ってのが、俺なんだ。
俺が誘拐されたばかりに、千冬姉は......」
そこからの話は誰しもが考えて実行に移さないような、アニメじゃよく見る出来事。
選手の家族を人質に八百長試合を持ちかけて......なんてヘドが出るお話。
「暗い所に押し込められて、これからどうなるんだろうって震えてて......
でも、一緒にいた男の人が励ましてくれたんだ、『だいじょぶだいじょぶ、よくある事だから』って」
......うん?
「結局、その男の人の仲間の人が助けてくれたんだけど、千冬姉は最後まであの人たちをテロリストと勘違いしてたっけな。
すまん、話がそれた。
俺が弱いばかりに、千冬姉は二連覇を達成できなかった。
だから俺はーーー」
やばい、一夏の話が耳に入ってこない。
基本テロリストに誘拐されるなんて人生で一回あるか無いか、それを良くあると言えてかつテロリストに普通に喧嘩を売ってかつ馬鹿の集まり。
「その一緒に誘拐されたっていう男の人、すっげえ髪の毛ツンツンしてなかったか?」
「確かにウニみたいな頭してたけど、それが?」
「いや、別になんでも......」
......心当たりが1人しかいねえ!
◇◇◇
「というわけなんだけど。
『あれ一夏くんだったのか〜、どーりでなんか最近見たとは思ったけど、成る程ねー』
「そうですが疑問が解けて良かったですね全部お前のせいじゃんか」
『そーかそーか、
「話を聞け」
『そうと決まれば話は早い。そのうち遊びにいっから、チャオ!』
「おい! そうとはなんだそうとは!」
プチ、と電子音と立てて切れた電話。
半ばイラつきながら受話器を戻し、小銭を回収しておく。
今回はたまたま繋がったけど、次はいつ何がどうなるかは分からない。
一つ言えることがあるとすれば、
「ボーデヴィッヒと一夏の確執、一筋縄じゃいかないよね......」
昭和みたいに河原で殴り合わせれば解決しそうなもんだけど、もっと事情を知る必要がある。
それに、半ばとばっちりとはいえ真剣にボーデヴィッヒさんは勝負をしてくれる。
「折角だし、踏み台にさせてもらおうかな」
暗躍するのもまたマネージャーのお仕事にてござい。一夏ひいては箒、ついでにオルコットと鈴のため。
ボーデヴィッヒさんには悪いけど、ステップアップするための壁として利用させてもらおう。
成政(......まあ、出来るとは思わないけどネ!)