〜もしエス〜 もし女子剣道部のマネージャーがインフィニット・ストラトスを起動したら 作:通りすがる傭兵
朝起きて飯食って教室に行って、
「また何かやったな成政」
扉前に仁王立ちして、有無を言わさぬ口調で問いかける箒。
挨拶もなく、開口一番の言葉がそれなのはいかがなものかと。
「なんのことだか」
「動きが鈍い、腕の上げ下げがぎこちない。
となると関節技か?」
「だいぶ観察眼も鋭くなったねえ、嬉しいよ」
「なんでそうなったかは知らん、だが無茶しすぎだ少しは自重しろ」
「いい経験だったから結果オーライ」
「心配するこちらの身にもなってくれ、お前も大切な仲間なんだ」
「たはははは......あ、ボーデヴィッヒさん昨日は楽しかったよ」
「ふん、弱虫が」
「あはははは......」
あいも変わらず心配性を拗らせた箒と、そっけないボーデヴィッヒさん。箒はさておき、少しばかり俺はボーデヴィッヒさんが心配なのだ。これじゃ人のこと言えないかな。
カノジョ周りからも浮き気味だからいじめとかが心配である、主にいじめる方が受けそうなカウンターとか。
CQCは実際とても強い、これぞ経験者は語るというやつである、いてて。
「よーす、一夏にシャルル君、おはよう」
「お、おはよ」
「おはよう」
シャルル君は調子が悪いのか音量控えめ、そして一夏はいつもの元気な様子は何処へ行ったのかやけによそよそしい。あらかたシャルル君がシャルルちゃんという事実を知ってしまったとかでしょうて。
そんでもってあんまりな事実に正直な性格が
とりあえずなんでもないように、心配かけないようにいつも通り接しちゃいましょうか。
「はーい、皆さん揃ってますねー。ではホームルーム始めちゃいますよー」
もはや染み付くレベルで聴き慣れてしまった山田先生のホンワカ声がかかって、今日も1日が始まる。
今日の放課後は部活行って一夏とシャルル君(?)の用件を済ませてタッグマッチのデータ集めて、んー忙しい。
「まずは、タッグマッチとはなんぞやから始めましょうか」
「また独り言いってる......」
「けっこうしてるよね河南君」
「正直話しかけづらいからやめてほしいなーとか思ってたり」
「わかるー」
(まじか!?)
そして放課後まで特に何事も無く、1日が終わった。
......と、大雑把な一言で済ませられたらどんなに楽だったろうか。
「成政、頼みがある」
部活も終わってさっさと勉強に取り掛かろうとドアノブに手をかけた時、一夏が肩に手を置く。
「少し話したい事があるんだ」
「オッケー、なんだ?」
「......ここじゃ言えない」
「わかった、俺の部屋でいいかな」
「俺の部屋で頼む」
「あいよ」
......思ったけど、側から聞いてるとお誘いにしか聞こえない件について。
おいそこの女子、なぜペンを高速で動かす、なぜ顔を赤くする、そしてポツリと言ったいちなりとは一体なんだ!
「早くきてくれ、もう耐えられないんだ」
顔をうつむかせ、拳をギリギリと握りしめて真剣な声色で言う一夏。
......他意はないのは分かっている、純粋に汚れた心が変な方向に翻訳してるだけなんだ。
きっと抱えてる秘密の重さに耐えられないんだろうな、うん。そうだよな。
「......ヤるの?」
「水髪メガネの君、少し口を閉じて?」
「しっぽりと?」
「しない」
「......じゃあガッツリ」
「しない!」
君別のクラスだよね、4組だよね、もしかしてこの為だけに1組の教室に混ざってるのかい。さっき帰りのホームルームが終わったばかりのはずなんだけど。
「その行動力を別の部分に生かせよ!」
「やだ、コレ(BL)が無いと死んじゃう!」
「バカなの?」
「バカじゃないもん!」
これが日本代表候補生とか世も末だわ。
てか、その顔でもん、とか言うとめっちゃかわい、やめてください箒さん視線だけで凍死してしまする勘弁してくださいなんでもするので......日曜日以外は。
そういやあいつどんな格好でくるんだろう......ボーイッシュなイメージあるし男装とかかなあ。俺はジャージで行くけど。
「へぷしっ。
また誰かが私の噂をしているようだね。ふふふ......つくづく、罪な女だよ私は」
◇◇◇
「で、シャルル君がシャルルちゃんでどうしよう困ったなーってところまでは把握してるけど合ってる?」
一夏に案内され部屋で待っていたシャルルに促されるままに粗茶を貰って、切り出す。
面倒ごとは手っ取り早く済ませたい、他にやる事が山程あるんだ。
「間違ってたら訂正するけど」
「......うん、そうだよ」
しゃらりと音を立ててジャケットを脱ぎ捨てるシャルル。そこから覗くのは素肌ではなく、胸に巻かれた男子には不似合いなコルセット、予想通りだな。
「じゃ、一から十まで全部話してもらおうか、話はそれからだ」
手の中でペンを軽く回して、調子を見る。
今日は随分と長い夜になりそうだ。
「まずは、僕の生まれから話そうかーーー
僕が知ってる事は全部話した、コレで全部。
聞いてくれてありがとう、少しだけ楽になった」
今見えるのは自分以外は読めないような汚らしい文字が書き並べられたノート、そして諦念の意でも持っているのか空を見上げるシャルルに、悔しげに唇を噛む一夏。
このままでは話が進まない、ちょいと巻きで行こう。
「シャルル君、君はこれからどうしたい?」
「......なにも」
「なんにもかい?」
「何も僕は望まない。叶うはずのない夢なんて抱えてるだけ無駄だろうから」
「はぁー......」
彼女がなんでもソツなくこなすわけだ。
単純に器用なだけかと思ってたけど買い被りだったらしい。彼女は全部を極めようとしたわけではなく、とりあえず全部やっておこう......その結果があの器用貧乏。
はっきり言って二流の雑魚の考えそうな事。
そして俺は、二流が大嫌いだ。
「欠点がないから、そんな風に見えるだけ、実際は全てにおいて欠けている。それを半端な実力で覆い隠して一流になったつもり。
つまらないな」
「......何が言いたいの?」
「帰る、時間を無駄にした」
ポンポンと膝の埃を払い、2人に背を向ける。案の定ともいうべきか一夏が俺の肩を掴んで引き止めた。
「何も思わなかったのかよ、シャルルの話を聞いて、言った言葉が帰る? ふざけるなよ!」
「俺はふざけてなんかない」
「じゃあなんでそんな事言った!」
「......ある人物が屋上、そのフェンスの外側に立っている。その人物は、君が世界で一番大切な人物だ。
その人物は君にこう言った「死なせてくれ」。
そこで問題だ、死にたい奴の自殺を防ぐにはどうすれば良い?」
突然の問いかけ。
だが一夏はすぐに切り返した。
「殴ってでも連れ戻す!
それで、間違ってるって、おかしいって何度でも叫んでやるんだ!」
「一夏ならそうするだろうと思った。
じゃあ、次の日もそいつが屋上に立ってたらどうする」
「何回でも殴って、連れ戻す」
「また次の日も立ってたら?」
「ああ」
「また次の日も?」
「ああ!」
「また次の日も、その次の日も、そのまた次の日もか」
「ああ!!」
「それじゃ何も変わらない。
いずれ死ぬ、シャルルのように。
四六時中見張れるはずもない、そのうちその人は君が見ていないうちに勝手に死んでるだろうさ」
人はいつでも、好きな時に死ねる。
それでも人が生きるのはなぜか。
まだ15年だかしか生きていない俺だが、答えは持っている。
情熱が人を生かす、やりたいナニカを持つからこそ人は生きようと思えるのだ。
シャルルにはそれは欠けている。
だから死ぬ、そういったのだ。
「シャルルは何も望んで無い。
救われようという意思も、こうありたいという願いもない。あるのは諦めだけ、そんな奴に付き合うほど俺は暇じゃない。
“諦めは人を殺す”けだし名言だねぇコレは。
だって本当に何もしないでいると死ぬんだからさ。
だからなにをしても無駄、やっても意味はない。だから帰ると言ったわけ、おわかり?
いかに身の上が悲しかろうと酷かろうとそれは変わらん、はっきり言ってどうでもいい。
どうせ赤の他人だ、死んでもなんとも思わないだろうね」
「ふざけ......」
「ふざけているのは俺でもお前でもない、それは本人がよく分かってる筈じゃないのか」
「僕はふざけてなんかない!」
パシンと響く軽い音。
部屋に聞こえたそれと同じ鋭い痛みが、俺の左頬にあった。
「僕が考えたとこも悩んだこともしたことも全部、知らないくせによくそんなこと言えるよね。
僕のことなんか何にもわからないくせに。
何にも知らないくせに!」
一夏を押しのけ、胸ぐらを掴んで俺を壁に向かって叩きつけた。さっきのビンタとは比べ物にならない痛みで一瞬息が止まる。
「僕だって考えたさ! やってる事が間違ってるって、今自分を取り巻く環境はおかしいって全部、全部わかってたさ!
変えようとした壊そうともした!
けど、僕の力じゃ足りないんだよ。
父さんにも会社の人にも警察にも足蹴にされた、子供のいうこと証拠はない冗談も程々にって、それで知ったんだよ。
僕は無力だ、何も出来ないって。
1人じゃ結局何も変わらないんだって」
「1人のままじゃ永遠に解決するもんもしないだろ、じゃあな」
座り込んでしまったシャルルの手を払い、この場を後にした。
「人に嫌われる、てのは結構心にクるものがあるね。覚悟してたけどちょっと辛いや。
ま、想定の範囲内だけど」
階段の踊り場に貼られた掲示板。そこには、日付入りの一枚の書類が貼られていた。
「さてさてさーて、これからどうしようか」
タッグマッチトーナメントまで、あと2週間半。出来ることは全てやる。
覚悟は決めた、あとは実行するだけだ。
水色の髪の子「私の出番これだけ......?」