〜もしエス〜 もし女子剣道部のマネージャーがインフィニット・ストラトスを起動したら 作:通りすがる傭兵
オリジナルの話を書くのって難しーのねー。
ショッピングなんてまともにしたこともなかったからなんというか......苦し紛れにもほどがある気がするべ。
ロランの性格とかフルネームとかこれでいいんかねぇ......
今日はロランのデートもとい付き添いを頼まれた日。
言われた通り、レゾナンス中央広場にある噴水前で待ち合わせをしているところだ。一応15分前には着くようにしたので失礼はないはずだ。
(なーんでこっちを見る人が多いんだか)
しかし、今日はやけに視線を感じる。
いや有名人ということは理解している、世界でたった2人の男子操縦者な訳だし、随分と自分の顔をニュースだの新聞だのでは見た、しかしそこまで注目されるいわれも心当たりもないんだけどなぁ。
着信音、携帯を取って見るとロランから。
「もしもし?」
『やあ、ちゃんと集合場所にいるかい?』
「10分前行動は基本、ちゃんといるさ」
『さすが体育会系、私とは大違いだね。
かくいう私は今着いたところだ。だが人が多い、手を上げてくれないか?』
「はいはーい」
『......なるほど見つけた、ありがとう』
「こんくらいおやすいご用でして」
電話を切ると、1分も経たずにロランが人混みから顔を出した。
白に近い銀の髪と対照的に黒を基調とした服装で纏めている。服の名前はあまり知らないのであれだが、男勝りでありかつ女性らしさが同居しているギリギリの線をついている、と形容すべきだな。総評すれば、服装センスはそんじょそこらのモデルと遜色ないレベルだ、演劇で磨かれたのかな。
「おまたせ、待っ」
軽く手を上げて挨拶をしようとしたところで、何故か石像にように固まるロラン。思わず背後を確認するが、こちらに視線を向ける人はいない。つまり会いたくない人を見てしまった訳でも無いらしい、じゃあなんでだ?
首を傾げてると、半ば絞り出すような声で質問を投げかけてきた。
「君、その格好はなんだい?」
「なにってそりゃ、普通の格好でしょうて」
財布その他諸々を入れたウエストポーチ、上下は黒いジャージで固めて、風邪対策にウインドブレーカーを装備。下には通気性に優れたTシャツ、うん、普通だ。
いつでも練習に参加できる万能スタイル、休日にはいつもこの格好で生活している。
「ふふふ、ふふふふふふっ。
なるほどそういう事か、面白い、面白いじゃないか。つまりそういう事なのか、そうなんだろう?」
「そうそう、そういう事そういう事」
荷物持ちで汗をかくだろうからね、と付け加える前にロランにがっしりと腕を掴まれた。
「これはつまり勝負だな、箒。
乗った、私は挑まれた勝負は受ける主義でね!」
「ねえちょっと話が見えないんだけど、てかなんでがっしりと腕を掴んで男子服の方向に君の服を買いにきたんじゃないのかあだダダっ?!」
「私は負けないぞ、たとえファッションコーディネイトであろうと、恋であろうと!」
「ねえ話きいてえええええええ!」
◇◇◇
「......!」
「ひぅ!?」
「なんか篠ノ之さんの背中に般若が見えるんですけど!」
「まさかスタンド使い? 実在したなんて」
「かんちゃん、多分違うと思うよ〜」
◇◇◇
「疲れた......」
「いいカフェ、箒と来るつもりでもあったかい?」
「もう来た、んで兄貴とテロリストに巻き込まれた」
「それはそれは、私も同行したかったな。というか君、お兄さんがいたのか」
「まあな、今はどこにいるんだか」
脱力して、カフェの机に倒れこむ。ニスの少しすえた香りと冷たさが心地いい。そのついでに
こっちが買い物するなんて聞いてないぞ、着せ替え人形のように10も20も服着せるのがあんなにしんどいとは思わなかったし。
疲れ切ってしかばねになった俺とは反対にロランはホクホク顔、本人にとっては楽しい楽しい買い物になったようだ。荷物持ちはクソしんどかったけどな!
「折角の休みだというのに、あんな格好で来るとは思わなかったよ。危うく台無しになるところだったじゃないか」
「別にいいじゃないの、ただの荷物持ちなんだから」
「私が気に入らない」
「さいですか」
今の格好は先ほどのようなジャージ姿じゃなく、ロランが選んでくれたカッコいい服。
選んでくれた以上文句は言わないし言えるはずもないが、本当はもっと落ち着いた格好が良かった。
「で、今日引き受けてくれた理由はなんだい?」
「なにさ藪から棒に」
「少し気になっただけさ。普段の君なら絶対に引き受けなかったろう? 部活などなんだの理由をつけて」
「よくお分かりで。あんまし話してないはずなんだけど」
「役者に人間観察は必須技能さ」
むふー、とドヤ顔で腕を組むロラン。有り体に言って少しイラッとした。
「それで、お聞かせ願えるかな? ちょうど注文の品も届いたところだし」
ごゆっくりどうぞ〜、という店員さんの声を背中に聞きながら、ニコニコと笑うロラン。 その目は学校でいつも二枚めを気取るロランではない。
ここにいるのはオランダ代表候補生、ロランツィーネ・ローランディフィルネイ。
それ相応の覚悟を持って臨んでくれているというわけだ、ならばこちらも答えなければなるまいて。
いつもの3倍は姿勢を正して、しっかりと相手の目を見て、よし。
「理由というか頼み事があるんだ。
タッグマッチトーナメント、分かるだろう?」
「ああ、その事か。私はてっきり優勝すれば好きな人にデートの申し込みが出来る事かと」
「だからこそ今回はどんな手を使ってでも
「......そうかい」
「じゃあ話の本題に入ろう。といっても簡単なお願いなんだけどね」
カバンから取り出したるはタッグマッチトーナメントの登録用紙、もちろんまっさらで何も書いていない奴だ。
「トーナメント。
ロラン、君には箒と組んで欲しいんだ」
「理由は?」
「君と組むのが一番勝率が高い。
一概に言えるわけではないけどやはり代表候補生、とりわけ専用機持ちは強いからね。当然君らの中から選ばせてもらった。
まず箒ちゃんの戦闘スタイルは接近戦オンリー。タッグを組む相手は中〜遠距離武装を持つ人が望ましい。
ここで一夏が外れる。
次に相性、残り2週間と考えると勝手知ったる相手であるのが望ましい。
ここで鈴、シャルル、ボーデヴィッヒが外れる。
残るは君とオルコットさん、この二択だ。
でもオルコットさんは箒とは
「消去法で私、という訳か。
あまり嬉しいものではないね」
「勝つ為ならなんでもする、そう言ったさ。
でも受けてもらわなくてもいい、無理させるくらいなら組まない方が実力が......」
「いや、乗った」
さらさらと崩し字で名前を書き、紙をこちらへ押しやったロラン。
「折角箒とデート出来る口実が出来たんだ、チャンスは逃さないよ」
「そういやお前箒に惚れてたんだっけか、ミスったな」
「アトノマツリとか日本語ではいうんだっけ、はは」
「でも優勝すれば一夏と箒がデートすっから付け入る隙は無いはず!」
「私だって優勝するんだ。デート権を行使できるぞ、箒に」
「な、なんと......」
「君、意外と計画性が無いね」
一夏と箒をくっつける折角のチャンスなのにこんなところに落とし穴があるなんて。
このままじゃ俺の完璧な計画が......一夏と箒をくっ付けるための計画がぁ......
「そこまで完璧じゃなかったと思うけど」
「お前エスパーかよ」
「舞台役者ではあるね」
そういえば、とロランがフォークをくるくると回しながら訪ねてきた。
「なんで君が箒と組まないんだ?
君が組むのが一番理に適うだろうに」
「俺弱いもの」
「あまり自分を悲観的に見るものでも無いだろう?」
「客観的事実だよ。
実際専用機持ちじゃ勝率最下位だもの」
あれからちょいちょい模擬戦をしているのだが、順位をつけるとすると一位鈴、二位オルコット、同率三位に一夏と箒、そんで最下位が俺だ。
鈴は近〜中距離は真っ当に強いし間合いの取り方がうまい、オルコットのティアーズは近接型に圧倒的アドバンテージを誇る上、その腕は狙撃手の名に引けを取らない。一夏はまだまだ白式に振り回されがちだが慣れて実力を伸ばし始めてるし、箒は訓練機というハンデ持ちで一夏と同等、専用機があれば......いや、そんな隕石が当たるレベルの奇跡はないか。
結局のところ、全てにおいて劣る俺は最下位ロードをひた走っているところな訳である。
まあ勝てなくもないんだけど、訓練のたびに筋肉痛でぶっ倒れちゃ日常生活もままならんでしょ?
「俺はあくまでマネージャー、裏方なんだよ。選手じゃないんだから隣に立つ方がおかしいってば」
「......君はそれでいいのか、隣に私が立っていて、悔しくないのかい?
一緒にまず努力を分かち合うのが、私で本当にいいのかい?」
「箒がそれで幸せになれるんなら。というか君は箒と組める、俺は箒を優勝させる手助けができる。まさにwin-winの関係でしょ」
「......なるほど、意思は固いようだね」
ご馳走様、と席を立つロラン。
俺もすでに食べ終わってるから、従って席を立つ。
レジに向かおうとするロランを押し止めて財布を取り出そうとするが、逆にこちらが押し止められてしまった。
「これは今日の話のお礼さ、
いっぱしにウインクまでして見せられちゃ仕方ない、ここはロランのお財布に甘えよう。
「......って、流石代表候補生、財布も上等なもんだねぇ羨ましい」
「これは私のファンからさ。本当は贈り物は大切にしたいのだけれど使ってくれることこそ本望だ、って押し切られちゃって」
「本職は舞台役者だっけか?」
「国ではそれなりに名の知れた女優なんだよ、これでも。私の演じる舞台は毎回チケット売り切れなんだ。夏休みにでも公演に来るといい、箒のついでに歓迎しよう」
「あくまで箒のついでかよ」
「当たり前だろう? 私からすれば、君はシンデレラを虐める
「箒に悪い虫はつけられないからね」
「はは、でも私だって箒を思う気持ちは負けないよ?」
「上等だこんにゃろう。俺だって箒が幸せになるんならなんでもするわ!」
流石に自分でもちょっと言い過ぎだと思うけど、こんくらいの心構えは出来ている。
「......気持ちは同じ、ならば実力で」
「勝負というわけか」
どちらとも言うわけでもなくがっしりと手を組み合い、ギリギリと力を込めて相手の手を潰す勢いで握り締める。
「勝負だ、どっちがより箒に貢献できたか」
「いいだろう。そうだな......景品はどうするかな?」
「私は優勝特典権利の放棄、そちらは?」
「1ヶ月ロランの行動に口出ししない」
「乗った、臨海学校が楽しみだ」
「お前の悔しげな顔が眼に浮かぶぜ」
決戦まで残り2週間。
今のところは順調に事は進んでいる。このままいけば予測通りの展開になる、筈だった。
「ん? 布仏さんから電話とは珍しい。もしもし?」
「たいへんたいへんたいへーん! セッシーとリンリンがらうらうと戦って大怪我しちゃった、それでいま、すごく大変な事になってるの!」